リーダーシップ研究の変遷を一言で説明するとしたら、それは、「リーダーシップは、先天的な天賦の資質であるという見方から、後天的な開発可能な能力である見方へのシフト」ということができます。それでは、具体的にどのような変遷を経て、そのような見方へとシフトしてきたのでしょうか。
リーダーシップの研究は、「特性理論」(〜1940年代)から始まりました。特性理論とは、リーダーシップについて生まれながらの資質や才能によるものであるという前提で研究されたものです。しかし実際は、有意とされるような共通の生まれながらの特性は見受けられなかったといわれています。
次に登場したのが、「行動理論」(1940年代〜60年代)です。行動理論とは、リーダーの行動のあり方に焦点を当てて研究されたものです。中でも、社会心理学者の三隅二不二氏が提示した「PM理論」はよく知られています。PM理論では、リーダーの行動を「パフォーマンス(Performace:課題遂行機能)」と「メンテナンス(Maintenance:集団維持機能)」に大別し、その2つの行動傾向の組み合わせによってリ―ダーの行動のあり方ついて説明しています。
その次に登場したのが、「条件適合理論」(1960年代〜70年代)です。条件適合理論とは、リーダーシップの発揮の仕方は、リーダーの行動だけでなく、リーダーの置かれた環境やメンバーの状況によって変わるものであるという前提で研究されたものです。代表的な理論としては、オハイオ州立大学のロバート・ハウス氏が提唱した「パス・ゴール理論」が挙げられます。この理論では、状況に応じてリーダーの取り得る行動を次の4つに分類しています。「指示型(メンバーに指示する)」「支援型(メンバーに必要に応じてアドバイスする)」「参加型(メンバーを意思決定に参加させる)」「達成志向型(メンバーに権限委譲する)」
そして、さらにその次に登場したのが、「コンセプト理論」(1970年代〜現在)です。コンセプト理論とは、条件適合理論の発展形であり、状況に応じて発揮されるリーダーシップのあり方について、より具体的な理論として様々に展開されているものです。よく知られているものとしては、たとえば、「サーバントリーダーシップ」「フォロワーシップ」などがあります。
急速なデジタルトランスフォーメーションの影響を受け、ビジネスを取り囲む環境の不確実さが一層高まるなど、ディスラプティブな(破壊的)時代に突入しています。こうした状況下、多くの企業が生き残りをかけ、新たな変革を起こそうと模索しています。
しかし、実際の企業の現場においては、将来への不安や恐れから、職場に閉塞感や無力感が増しているともいわれています。このような状況になると、人々は未来への可能性を信じることができず、古い考え方や価値観などの枠組みに固執し、未来に向けての変革に挑戦できなくなる恐れがあります。
そこで、求められるリーダーシップとは、個人の目的と組織の目的の統合を促し、その統合によって生み出された心から創り出したいビジョンの実現に向けて、曇りなき眼で現実を直視し、技術的に対応できる問題と適応を要する問題を見極めつつ、相互に協働・学習しながら、生成的な変革を推進していくことです。
こうしたリーダーシップは、もはや役職のあるリーダーだけのものではありません。組織を構成する一人ひとりのメンバーのものです。したがって、これからのリーダーの役割やあり方として大切なことは、メンバー一人ひとりがそのようなリーダーシップを発揮し、失敗を恐れずに挑戦できるような安心安全な組織の文脈を醸成することです。
上述したようなリーダーシップを高めるためには、どのようにすればよいのでしょうか? 以下のポイントを押さえ、省察的実践を通して体得していくことが大切です。
個人の中核となる価値観に基づき、個人が人生を通じて成し遂げたい目的を明らかにします。
自組織(企業)が顧客や市場から選ばれる源となっている経験価値を問い、その存在意味としての目的を明らかにします。
個人と組織の目的を統合した創り出したいビジョン(成果・結果)を描きます。
目の前にある現実を出来事レベルで見るのではなく、背景にある要素のパターンや要素間の影響関係を踏まえた構造を捉え、その構造の背景にあるメンタルモデルを探求し、レバレッジを見つけます。そのレバレッジを押さえたアクションの実践を通じて、現実を知覚する範囲の広さや度合いの深さを磨き、現実を変えて行く能力を高めます。
様々な異なる経験、考え、バックグラウンドをもった多様なメンバー同士で協働し、相互学習を通して、創発が生まれるような状況を育みます。