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ワールドカフェ

テクノロジーの急激な進化に伴って、外部環境の変化は激しくなり、複雑性は増してきました。このような状況の中で組織がうまく難題を乗り越えるためには、個人の力や知恵ではなく、組織に所属する人々の集合的な知恵が、より求められるようになってきています。

職場での会話を思い浮かべてみると、話し合いの中から良いアイデアが浮かんだり、発見をしたりするのは、フォーマルな会議の中ではなく、たとえば、休憩室でお茶を飲んでいるときだったり、居酒屋でお酒を酌み交わしているときだったりするのではないかと思います。

そうした場所ではお互いにリラックスして、オープンに本音を語ることができ、初めて会う人とも気軽に話せるので、会話がはずみ、ネットワークが自然と広がります。「カフェ」は、そういったインフォーマルな話し合いが行われる場の象徴といえます。

ワールド・カフェでは、そのような「カフェ的会話」を職場での会議やミーティング、日常の会話の中に意図的にデザインし、会話のあり方を変える方法として、世界中で活用が進んでいます。
「知識や知恵は、機能的な会議室の中で生まれるのではなく、人々がオープンに会話を行い、自由にネットワークを築くことのできる『カフェ』のような空間でこそ創発される」という考え方に基づいた話し合いの手法です。

ワールド・カフェの提唱者

企業やNPOで戦略的ダイアログの推進やコミュニティの構築の支援を行っているアニータ・ブラウン(Juanita Brown)氏とデイビッド・アイザックス(David Isaacs)氏によって、1995年に開発・提唱されました。現在、ワールド・カフェの思想や方法論は世界中に普及し、ビジネスはもちろん、NPOや市民活動、政治、教育など、さまざまな分野で活用が進んでいます。

ワールド・カフェの特徴

ワールド・カフェは、組織やコミュニティの比較的多人数の集まりで、設定したテーマに関して、ダイナミックで協働的な話し合いの場をつくり出すのに効果的です。

それぞれのテーブルごとに、机上の模造紙に自由にメモを描きながら、20分から30分程度の話し合いを行います。これをメンバーを変えながら3回程度行うことで、そこで出たアイデアが他花受粉するようなイメージで、テーマに対するコンテクスト(文脈や背景)が短時間で深まり、参加者同士の一体感が高まるという効果があります。

どんな状況でも利用できて、掛けた時間の割には高い満足感を得られ、ファシリテーションや事前準備が極めて簡単だという良さがあります。その際、テーブルクロスや花、カラフルなマーカーなどを用意して、「カフェ」的なリラックスした空間を創り出すことで、より効果を高めることができます。

また、ワールド・カフェの方法は、他のホールシステムアプローチとも相性が良く、AI(アプリシエイティブ・インクワイアリー)やOST(オープン・スペース・テクノロジー)と組み合わせることで、相乗効果があります。たとえば、ある組織のの中で、AIやOSTで未来へのアクションを生成し、取り組み始めた後に、クォーターごとの振り返りにワールド・カフェを導入することで、継続的な会話を生み出す機会として活用することもあります。

ワールド・カフェを織り成す7つの原理

ワールド・カフェでは以下の7つの原理に基づいて、話し合いの場をデザインすることで、生成的なダイアログを生み出します。

1. コンテクストを設定する

ダイアログを可能にするための目的と広範な要件を明確にする

2. もてなしの空間を創造する

個人的な快適さと、お互いを尊重する気持を育むことができるもてなしの環境と、心理的な安心感を確保する

3. 大切な質問を探求する

協働を引き出すような強い力をもつ質問に対して、集合的に関心を高める

4. 全員の貢献を促す

参画と相互支援を促すことによって、「個」と「全体」の関係を活性化する

5. 多様な視点を他花受粉させて、つなげる

中核的な質問に対して共通の関心を高め、異なる視点のつながりをもつ多様性と密度を意図的に強めることにより、創発が現れる生体システムのダイナミズムを活用する

6. パターン、洞察、より深い質問に共に耳を傾ける

個々人の貢献を損なわずに思考の結束を育むことができるように、共通の関心事に焦点を当てる

7. 集合的発見を収穫し共有する

集合的知識と洞察を可視化することによって行動に移せるようにする

ワールド・カフェ活用の状況や場面

ワールド・カフェは、下記のような場面でよく活用されます。

 ・立場の異なるさまざまな人々を集めて、話し合いを行いたい
 ・組織の垣根や上下関係を超えたオープンな話し合いを行いたい
 ・会話を通して、発想が膨らみ、創造性が発揮されるような会話を実現したい
 ・誰か一部の人が話すのではなく、全員が貢献できるようなミーティングを行いたい
 ・全員のアイデアを統合して、新たな知識を生み出したい

ワールド・カフェのテーマ(例)

ワールド・カフェでは、組織やコミュニティの中で、さまざまな人が集い、あるテーマで話し合われます。多くの場面で活用可能ですが、たとえば以下のようなテーマで話し合われます。

 ・自組織のビジョン・ミッションを構築・意識を合わせ
 ・新規ビジネスや新製品に対するアイデア
 ・社会問題や組織・コミュニティの課題
 ・研究会などでの探求や知識共有

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