出版

書籍『Grow the Pie ー パーパスと利益の二項対立を超えて、持続可能な経済を実現する』 日本語版発刊に向けて

ヒューマンバリューでは、ロンドン・ビジネス・スクールでファイナンスの教授を務めるアレックス・エドマンズ氏の著書Grow the Pie: How Great Companies Deliver Both Purpose and Profit(仮題『Grow the Pie ー パーパスと利益の二項対立を超えて、持続可能な経済を実現する』)の日本語翻訳版を出版することにいたしました。
発刊は、来年2023年の7月29日を予定しています。

 

Grow the Pieについて

2020年に初版が発刊された本書は、同年にフィナンシャル・タイムズ紙のブック・オブ・ザ・イヤーに選出され、これからの企業経営を考える羅針盤として、世界中の経営者・投資家・ビジネスパーソン等から注目を集めています。

「企業は利益のために経営されるべきなのか? それともパーパスのために経営されるべきなのか?」

本書では、現代の企業が対峙するこの命題に対して、それらはトレードオフの関係ではなく両立するものであることを、様々な調査・分析に基づいたエビデンスや事例によって実証することを主題に置いています。

そして、パーパスと利益を両立させるビジネスアプローチとして、「パイコノミクス」という考え方を提唱し、社会、企業、労働者、消費者、投資家といった様々なステークホルダーが、パイ(価値)を奪い、搾取し合うのではなく、協働してパイ(価値)そのものを拡大していくことをいかに実現していくかについて考える視点を提供しています。

環境問題や格差などの社会課題が世界的にますます顕著になり、日本国内でも新しい資本主義が議論される中で、投資家から経営者、従業員や市民に至るまでの考え方の原則を提示する本書は、こうした議論の質の向上や社会全体の課題解決に資すると考え、翻訳・出版をすることとなりました。

 

ヒューマンバリューの想い(なぜ私たちが本書の日本語版を出版するのか)

ヒューマンバリューは30年以上にわたり、組織学習によって企業や社会の未来を創り出す「学習する組織」のアプローチをもとに、クライアントの皆さまと共に組織変革や人材開発に取り組み、支援を行ってきました。

私たちが変革の支援を行う中で、度々直面する高い壁は、「顧客や社会に対する中長期的な価値を生み出すことの大切さを理解しつつも、短期的な業績を上げることを優先せざるを得ない状況になってしまう」といった構造的な課題にあります。

そうした構造を変えようとしても、短期的な利益創出を重視した経営のあり方が、結果的に揺り戻しを起こしたり、現場のレベルにおいても「パーパスは綺麗事で、自分たちの業務には関係ない」「足元の利益がおぼつかないのに目的の話はできない」というように、社会価値と経済価値を二律背反するものとして捉えるマインドセットが強く、思い切った舵取りに踏み出せない現実もあります。

理念やパーパスは、単に掲げるだけでは意味がありません。ヒューマンバリューでは、人の価値、事業の価値、そして社会の価値創造をバラバラに扱うのではなく、いかに経営・事業・現場のそれぞれのレベルで統合していけるか(統合思考)が重要であると考え、上述した課題に向き合い、クライアントのご支援をする中でそのあり方を模索してきました。

そうした中で出会い、大きな示唆を与えてくれたのが、今回発刊するアレックス・エドマンズ氏の著書でした。

特に私たちが共感した視点として、たとえば同書では、目的志向のビジネスや従業員のエンゲージメントを大切にしている企業が、長期的に一貫してより成功していることを実証しながら、企業が難しいトレードオフの両立を目指し、厳しい決断を下し、多くの人が阻まれるハードルを乗り越えるための考え方やマップを提示しています。

また、投資家を新自由主義の代表格として排斥してしまうのではなく、投資家と対話を行い、自社が何を目指すのかをナラティブに語ることの大切さを解説しています。

加えて、世界をより良くすることに向けてビジネスを再構築する際に、私たち一人ひとりが市民として果たすことのできる役割についても言及しています。

本書は、これまでヒューマンバリューが発刊してきた組織・人材開発を主題とした書籍とは、少し趣の異なるものとなります。しかし、社会価値と経済価値、そして人的価値を統合的に考えることについて、ステークホルダーの垣根を越えて幅広く議論していくことが、今の日本の社会にとっても不可欠ではないかと考え、チャレンジすることにいたしました。

今回、翻訳・出版するのは、新型コロナウイルスの影響を受けて、2021年11月に新改訂版として出されたものになります。日本語での発刊は、今から約10カ月後と少し先になりますが、英語で書かれた原書はオンラインショップなどですぐにお求めいただけますので、ご関心のある方はぜひ手に取っていただき、日本語版発刊に先行して議論ができればと考えています。

また、今後ヒューマンバリューでは、出版に先駆けて、本書で取り上げているテーマに関連して、様々な発信を行っていくことを予定しています。

企業の経営者、事業のリーダー、CSR、人事・人材開発に携わる方々、投資家、アカデミア、コンサルタント、政府関係者など、多様なステークホルダーの皆さまとこれからの企業のあり方や経営ついて、対話と探求を広げていくきっかけとなればと思います。

私たちは人・組織・社会によりそいながらより良い社会を実現するための研究活動、人や企業文化の変革支援を行っています。