みんなの想いが込められた総合計画の策定(松戸市総合計画)
松戸市では、市の後期基本計画策定のあり方を変革し、できるだけ多くの市民、職員が参画する「ホールシステム・アプローチ」型の計画づくりに取り組んだ。職員一人ひとりの想いを聴くリレー・インタビュー、市民と行政の垣根を越えて松戸の未来を探求する市民フォーラムなど、対話型組織開発の手法を活かした様々な場づくりを進めた。多くの人の未来への想いを込めた計画が生み出されるとともに、その後も関わった人々の主体的な取り組みの増加につながった。
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背景 / プロジェクトのはじまり
~みんなの想いが込められた計画を創りたい~
千葉県松戸市では、平成23年度から新しい後期基本計画が施行される。そこで平成20年度から、計画の策定プロセスの検討を行っていた。
過去に行ってきた計画策定の取り組みでは、計画策定に携わるのは一部の職員となっていたため、それ以外の職員は、なかなか自分事として捉えることはできないでいたのである。
また市民の側も、市政に関心の高い一部の人以外は、まちづくりに関心をもっていないというのが課題となっていた。
計画策定を進める事務局では、松戸の将来を描く後期基本計画の策定プロセスに、できるだけ多くの市民や職員に参加してもらって「みんなの想いが込められた計画を創っていきたい」という願いがあった。
市民や職員一人ひとりの想いを反映した将来ビジョンや計画づくりを実現する方法はないだろうかと考えた事務局は、多くの人々の参加を促すホールシステム・アプローチが使えるのではないかと考え、ヒューマンバリューに問い合わせをしたのがきっかけであった。
展開プロセスの検討
「イマジンまつど」のスタート
市民・職員参加による計画づくりを進めるためには、多くのステークホルダー(利害関係者)が参加した話し合いが不可欠となる。
そして、利害の異なる人々が集まって建設的な話し合いを行うためには、安全に話し合える環境や話し合いの手順などを準備する必要がある。
そこで、そうした場づくりと話し合いのプロセスづくりの知識的・運営的な支援を、ヒューマンバリューが行うことになった。
この取り組みには、松戸市の将来像をみんなで描いていくという想いを込めて、「イマジンまつど~私たちの明るい未来をつくる~」という名称がつけられた。
「イマジンまつど」の全体像
イマジンまつどを推進するにあたって、まず松戸市の事務局チームとヒューマンバリューのメンバーで、全体像をデザインした。
どんな人々にどのように参加してもらうのがよいのか、どのようなプロセスで行うのか、話し合いのアウトプットは何にするのか、既存の計画策定の動きとどのように整合性を取るのかといったことを念入りに検討した。
プロジェクトの推進
「あなたの想いを聴くインタビュー」で職員の想いを共有
イマジンまつどでは、職員一人ひとりが参加するところから始めて、それを庁内全体の取り組みへと広げ、そこから市民参加の取り組みへと発展させていくことにした。
最初はAIの手法を用いて「あなたの想いを聴くインタビュー」を行った。これは、職員から職員へとリレー形式でインタビューを行い、最終的には総勢1198名の方がインタビューに取り組み、一人ひとりがどんな松戸市を創っていきたいかの想いを庁内のサーバーに登録した。
多くの職員が参加してくれたことに事務局も驚いた。インタビューに参加した職員からは、「自分の想いが大切にされているんだ」「何だかいつもの計画策定の取り組みとは違うな」といった声を聴くことができ、スタートでみなの関心を高めることができた。
職員が一堂に会し、オープンに話し合う場が実現した「職員みんなの対話会」
次に行われた「職員みんなの対話会」では、総勢137名の職員が一堂に会し、自分たちが松戸の未来に向けてどんなことに取り組んでいきたいかを話し合った。
この話し合いではOSTという手法を活用した。職員からは17のテーマが自発的に出されて、終日かけてオープンな話し合いが行われた。
終了後には、参加者の職員から前向きなコメントをたくさんもらうことができた。職員のみなさんもこうした取り組みの価値を少しずつ実感し始め、ぜひこれを広げていきたいという気運が庁内の中に高まっていった。
多様なステークホルダーが共に未来を生み出した「松戸市の未来を考える市民フォーラム」
次の段階は、計画策定に市民が参加するプロセスである。
市民にも、「あなたの想いを聴くインタビュー」を行い、約300名の市民の声を直接聴いた。
その後に、松戸市に影響を与える多様なステークホルダーが一堂に会する 「松戸市の未来を考える市民フォーラム」を2日間の日程で2回にわたり開催した。
このフォーラムは、多様な市民が参加しやすいように、土日日程と平日日程を設けた。
話し合いの手法としては、「フューチャーサーチ」を活用して、松戸市事務局とヒューマンバリューが協働でカスタマイズを行った。場づくりや話し合いのプロセスを綿密に検討し、対立が起きづらく、理解が深まるようなデザインを行った。
このフォーラムには、133名の市民が参加した。事前の職員の働きかけの効果もあり、福祉関係者、学校関係者、社会教育関係者、防災・防犯関係者、まちづくり関係者、•環境・緑化団体関係者、会社経営者、自営業者、行政職員など、さまざまな人々に参加してもらうことができた。
市民と行政によるオープンな対話の実現
フォーラム当日は、松戸市の過去をタイムラインを使って振り返り、現在自分たちが直面している現状やトレンドをマインドマップで把握した上で、どんな松戸市を築いていきたいかをありありとした未来像として描いていった。
そのプロセスの中で、利害の異なるステークホルダーたちが、次第にお互いへの理解を深め、全員が大切にしていきたい共通の拠り所が明らかになっていった。2回のフォーラムとも、非常に生成的な話し合いの場になった。
この取り組みを行う前は、これだけ多様な人たちが参加する話し合いの場を本当に実現できるのか不安視する声もあった。一般的に市民参加の話し合いを行おうとすると、一方的な要求が行われたり、対立が深まったりといったケースがよくあるからである。
このフォーラムで話し合った内容を受けて、その後、基本計画の大綱ごとに分科会を形成し、計画策定に向けた提言を行う「まつど未来づくり会議」が開催された。
分科会においても、フォーラムで築いた関係性をもとに、建設的な対話が継続された。
「まつど未来づくり会議」の最終回では、全分科会から検討内容が発表され、後期基本計画策定へ向けての提言が行われた。
生み出された成果 / その後の展開
後期基本計画の完成
市民、職員からの提言を踏まえて、庁内で策定作業が行われ、議会の議決を経て、「みんなの想いが込められた計画」が実現した。
策定に関わった多くの人々にインタビューを行い、今回の取り組みを振り返ってみると、互いの立場を超えて、オープンに話し合うことで、価値を生み出せたことに意義を見出している人が多かった。
「市民と行政の協働のあり方を根本的に変えようとしたことに意義があった」
「立場の異なる人々が共通の想い・基盤でつながることができた」
「参加する、対話を行うということがどういうことかを体験的に多くの人々が学ぶことができた」
さらなる市民参加を目指して
計画の実行にあたっては、今後ますます市民と行政の職員が対話を行い、協働する場面が増えてくると考えられるので、さらなる市民参加を目指して、庁内全体で市民参加とはどうあるべきかを考えたり、仕組みづくりを検討するなどの取り組みが続いている。