評価制度の運用向上によるマネジメントの変革(通信関連企業B社の取り組み)

通信関連企業B社では、そつなく仕事をこなすという従来の仕事の仕方、マネジメントの仕方から、自ら主体的に価値を生み出す仕事の仕方、マネジメントのあり方への変革に向けて、ヒューマンバリューを協働パートナーとして人事評価制度の改革に着手することになった。

関連するキーワード

背景 / プロジェクトのはじまり

人事評価制度を変更するだけでなく、それにより仕事の仕方を変えたい

通信関連企業であるB社では、将来にわたる従業員構成やビジネス環境への対応等、それに伴うビジネスのあり方の変化への対応の必要性から、人事評価制度の見直しに着手していた。

人事制度の変革は環境や組織体制的にも不可欠なものであったが、一方でB社内には、変更のための変更ではなく、実効性のある制度変更にしたいというのが強い想いであった。具体的には、そつなく仕事をこなすという従来の仕事の仕方やマネジメントの仕方から、自ら主体的に価値を生み出す働き方、そのためのマネジメントの仕方への変革を目指していた。

自社にあった制度と運用方法をつくるために、協働的なアプローチをしたい

B社の人事評価制度を担当する人たちは、新しい人事制度を導入してもすぐに制度が機能し、マネジメントの仕方や働き方が変化するというものではないので、現場での定着を目指すことが大切だと考えた。
そのためには、一般的な制度設計にとどまらず、マネジメントや仕事の仕方について、自社に合わせた制度設計とその運用に向けて一緒に協働的プロセスを歩んでくれるパートナーが不可欠であると考えていた。

そこで以前に、B社の関連企業において、協働的な取り組みによって人事制度設計とその運用向上に取り組んだことのあるヒューマンバリューに関心をもった。B社における別のプロジェクトでの協働的な取り組み方をみて、自分たちが期待するものと考え、この後の制度の設計やその定着を推進するパートナーとして、協働的な営みをスタートすることとなった。

プロジェクトの推進

組織の文化を形成しているストーリーを把握し、制度の意味を明確にし、思想的な一貫性をもつようにする

B社の事務局とヒューマンバリューが最初に取り組んだのは、B社の人事制度についてのストーリーを明らかにすることだった。これは、今回の制度変革の実現に向けて、これまでの取り組みから今後の取り組みまで意味づけを明確にすることを意図するものであった。
人事部が行う1つの取り組みも、B社の数万人の社員には、さまざまな意味をもって捉えられていく。そこで、これまでの人事評価制度がB社にとってどういう意味をもっており、新たに変革する人事制度がどういう意味をもっているのか、それが今後のB社にどういう価値をもたらし、今後の仕事の仕方やマネジメントの仕方に対してどういった意味をもつのかを明らかにしておくことは重要なことなのだ。

事務局とヒューマンバリューのスタッフは、夜遅くまでの徹底的な話し合いを何日か行い、人事制度の哲学、目指すべき人材像、評価項目、目標管理制度、評価の意味づけ、業績向上に向けたマネジメントのあり方を明確にし、それらが思想的に一貫性をもち、統合して機能するように定義づけた。
取り組みの初期の段階でこの意味づけの話し合いを徹底して行うことで、B社の人制度改革に関係する人々とヒューマンバリューのメンバーとの間でコンテクスト(文脈)が共有された。これは、その後の詳細な制度設計と運用を行うにあたって、戻るべき基本原則となり、方向性がぶれるのを防ぐことができた。

制度の細部に至るまで意味を考える

共通の土台が明らかになったからといって、人事評価制度の詳細設計がスムーズに進行したわけではなかった。
B社はダイバシティに富んだ企業であり、現場の状況や組織の特性も異なり、人事制度を運用する管理者や社員の特性や役割、経歴も実にさまざまなのである。

そこで注意しなければならないことは、制度が一度施行されると、文言やフォーマットが一人歩きし、状況が特殊な現場では運用がうまくいかなくなることがあるということだ。

詳細設計の段階でも、評価基準を説明する1つの言葉や目標記述のフォーマットの欄の線の引き方に至るまで、どういった思想のもとに、どういったマネジメントや仕事の仕方を実現するためのものなのかの議論がなされた。

その具体的運用場面をイメージすると、フォーマット1つによって、管理者や社員の思考・行動のあり方に影響を与えることが明らかになってくる。現場のマネジメント、運用の仕方をより良いものに変えていくことができ、どの現場でも効果が上がることを確認していくことが必要だった。

マネジメントの質の向上に向けては、目標設定面談や評価面談の運用方法として、コーチングスキルやキャリア開発への指導・アドバイスを盛り込んだり、組織や個人の目標設定、共有のために社員参加のミーティングを行うなど、相互対話や参加をプロセスに入れ込んだ。

また日常のマネジメントのフォローとして、パフォーマンス・マネジメントのために先行指標を活用した仮説検証を行えるようにした。

運用で魂を込め、実効性を高める

B社での制度設計終了後も、現場での運用の質、実効性を高めるためのさまざまな取り組みがなされた。基本的な考え方は、目標設定や評価、面談、日常のマネジメント、フィードバック等、個別のプロセスの連関を意識し、マネジメントプロセスと一体化して運用するというものである。制度は入れ物であり、その運用を行うのは、管理者や社員であり、入れ物に魂を入れ実効性を高めていくには、運用が重要というのが共通の考え方となった。

生み出された成果 / その後の展開

評価者研修を通して、マネジメントの質の向上を図るとともに、組織の活性化につなげる

初期段階は、基本の理解・浸透を図る営みである。評価マニュアルの充実に始まり、考え方の浸透と現場での実践イメージ獲得を目的として、評価者研修が定期的に開催された。運用の充実を図るために、概要編、目標設定編、日常のマネジメント編、評価編等、回を重ねる毎にその質を高めていった。

次の段階では実践編を行った。現場の実践事例を収集し、それを再度現場のマネジャーに展開することで、1つのナレッジが現場でさらに深化するというナレッジの循環を引き起こすように配慮した。また、ポジティブ・アプローチを取り入れ、管理者もメンバーも人事評価制度に主体的に関わり、業績向上や人材の育成など、本来的な目的のためにいかに活用するのかを探求し続ける取り組みも行っていった。

こういった取り組みを通して、現場の管理者の意識に大きな変化が見られるようになった。新人事制度の運用を始めた当初には、B社の文化として管理者は正しくあるべき、常に正解を提示すべきという考えが根強くあった。しかし最近では、正解は現場での取り組みを通じて生み出すことが大切といった認識が生まれるようになった。

運用の質の向上に向けた取り組みはいまも継続しており、評価制度運用の現場のベストプラクティス事例の収集と、それを横に展開する営みなどが行われている。

私たちは人・組織・社会によりそいながらより良い社会を実現するための研究活動、人や企業文化の変革支援を行っています。

関連するレポート

変革を具現化するアプローチ ―人事評価制度を通じて、変革をどのように具現化するか(Chapter 3)

2025.01.28インサイトレポート

株式会社ヒューマンバリュー 阿諏訪 博一、内山 裕介 前章では、今日の人事評価制度をめぐる、変化の潮流を明らかにしました。ビジネス環境に対応するように、今日の人事評価制度のあり方は、パフォーマンス・マネジメントのツールへと変化しています。 本章では、実際に自社の人事評価制度改革に取り組むプロセスについて、大切になるポイントを解説します。  変化の潮流は参考になる一方、人事評価制度はOne

今日の人事評価制度のあり方とは ―人事評価制度を、パフォーマンス・マネジメントのツールへと刷新する(Chapter 2)

2025.01.28インサイトレポート

株式会社ヒューマンバリュー 阿諏訪 博一、内山 裕介 変化の激しいビジネス環境において、従来の人事評価制度が時代遅れとなる今日、多くの企業や自社の仕組みを再考しています。企業によって具体的な仕組みは様々ですが、先行して変革を進める企業の実践に、共通する変化の潮流はあります。 本章では、人事評価制度のあり方とともに、その先にあるマネジメント変革と人組織のパラダイムシフトについて、今日起きている潮

人事評価制度をめぐる、企業変革の課題 ―変革は、どのように行き詰まるのか(Chapter 1)

2025.01.28インサイトレポート

 株式会社ヒューマンバリュー 阿諏訪 博一、内山 裕介 今日、ビジネス環境の変化に対応するように、多くの企業が自社の人事評価制度のあり方やその仕組みについて、再考を進めています。本レポートでは、今日の人事評価制度の変化の潮流を考察し、実際に変革を具現化していくアプローチについて解説していきます。 まず本章では、その探究の出発点として、日本企業の人事評価制度改革をめぐって、どのような課題が起きて

コラム:ピープル・センタードの人事・経営に向き合う5つの「問い」

2022.10.28インサイトレポート

株式会社ヒューマンバリュー 取締役主任研究員 川口 大輔 「人」を中心に置いた経営へのシフトが加速しています。パーパス経営、人的資本経営、人的情報開示、ESG経営、エンゲージメント、ウェルビーイング、D&I、リスキリングなど様々なキーワードが飛び交う中、こうした動きを一過性のブームやトレンドではなく、本質的な取り組みや価値の創出につなげていくために、私たちは何を大切にしていく必要がある

【Co-creation Career】共創によるキャリア開発

2021.11.26インサイトレポート

【Co-creation Career】共創によるキャリア開発 〜 変化の時代の中で、キャリア開発のあり方を問い直す 〜 人生100年時代と言われる今日、キャリア開発は変化の局面を迎えています。働く一人ひとりの価値観や仕事観は多様化し、組織の人材マネジメントも変化が求めれています。社会的な変化の機運は高まる一方で、職場でのキャリア開発の現実に目を向ければ、閉塞感を感じる場面も少なくありません。本

<HCIバーチャル・カンファレンス2021:Create a Culture of Feedback and Performance参加報告> 〜「フィードバック」を軸としたパフォーマンス向上の取り組み〜

2021.10.01インサイトレポート

2021年 6月 30日に、HCIバーチャル・カンファレンス「Create a Culture of Feedback and Performance(フィードバックとパフォーマンスのカルチャーを築く)」が開催されました。

コラム:『会話からはじまるキャリア開発』あとがき

2021.08.27インサイトレポート

ヒューマンバリューでは、2020年8月に『会話からはじまるキャリア開発』を発刊しました。本コラムは、訳者として制作に関わった私(佐野)が、発刊後の様々な方との対話や探求、そして読書会の実施を通して気づいたこと、感じたことなどを言語化し、本書の「あとがき」として、共有してみたいと思います。

「変わり続けるチームづくりのポイントは?」 Ocapiユーザーリサーチからみえてきたもの

2021.06.01インサイトレポート

「今私たちが実現したい成長やキャリアのあり方とは?」 −未来共創オープンラボから見えてきたもの−

2021.02.06インサイトレポート

2020年12月に開催した、企業の垣根を超えて人と組織の未来について探求する「未来共創オープンラボ・ウィーク2020」で行ったセッションのひとつ、「今私たちが実現したい成長やキャリアのあり方とは?」で探求してきた内容を、より多くの方と共有し、今後さらに探求を深めるきっかけとしていきたいという思いから、インサイト・レポートを作成しました。

自律分散型の文化を育む上での阻害要因に向き合う

2020.10.07インサイトレポート

いま多くの組織がアジャイルな振る舞いを組織に取り入れ、自律分散型組織を育んでいくことを求めるようになっています。ヒューマンバリューでは、2018年より計画統制型の組織構造の中にアジャイルな振る舞いを取り入れていく、チームマネジメント手法「チームステアリング」を開発してきました。​今回は、計画統制型組織において自立分散型組織の振る舞いを導入しようとした際に起きがちな阻害要因と、阻害要因に向き合いなが

もっと見る