未来共創ストーリー 〜チーム「モーニング・コーヒー」の物語〜
互いの想いに寄り添うチームで進む
不確実な今日におけるリーダーシップ・チームづくりとは
新型コロナウイルスの影響が続く今、多くの組織が想定外の事態に変化を迫られ、多くの人が新しい働き方・生活様式を模索されているように見受けられます。今後も不確実な状況が続く中で、自分たちで職場の未来を切り拓いていくためには、どんなリーダーシップやチームづくりの実践が大切になってくるのでしょうか。
緊急事態宣言発令直前の4月3日、日本社会が危機的な状況への対応に迫られる中、組織変革プロセス指標Ocapiを使って、これからの未来に向けて対話をしているチームがありました。
新型コロナウイルス感染拡大防止を受けた自粛要請の影響で、海外旅行を中心に予約キャンセルが相次ぎ、一時は臨時休業の対応もされていた、株式会社エイチ・アイ・エス法人営業本部第二販売部に所属する有志8人のチームです。
チーム「モーニング・コーヒー」について
このチームは、名前を「モーニング・コーヒー(MC)」と言います。第二販売部に所属する大塚さんが、約80名在籍する自部署の関係性を育みたいという想いを元に、同じ部署の仲間に呼びかけ、インフォーマル・チームとして自律的に生まれました。これまで約半年の間、定期的にミーティングを開き、毎回のミーティングで、振り返りと実現したい想い・アイデアの共有を重ね、チームで取り組みを進めてきました。
新型コロナウイルスの影響下にある現在、チーム「モーニング・コーヒー(MC)」の皆さんは、チームの状態を見える化するアンケート・ツールであるOcapiを活用して対話を行い、自分たちの現在を今一度見つめ直すことから、これからの未来へ踏み出そうとしています。
ここでは、チームメンバーの皆さんに、チームでの対話の様子を伺うことを通して、不安定な状況において自分たちで未来を切り拓き、新たな現実に適応していくための大切なポイントについて、考えてみたいと思います。(2020年5月19日、オンライン・インタビューにて)
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組織主導ではなく、メンバーの想いから進める取り組み
—まず最初に、皆さんはどんなチームで、どのようにして生まれたのでしょうか?
大塚さん:私たちは、第二販売部というところに所属していまして、その中に4つの店舗、第一営業所・第二営業所・第三営業所・第四営業所が入っています。昨年(2019年)11月、この第二販売部を1つのチームにしていこうという想いもあって、それぞれ別の営業所で働いているメンバーに、私から呼びかけてチームができました。
「モーニング・コーヒー」というチーム名は、最初に集まったミーティングから生まれました。最初のミーティングで、お互いのありたい姿について共有していたのですが、ありたい朝というテーマについては、「朝コーヒーをゆっくりと飲みたい」というメンバーが、ほとんどだったんですね。そこで、「ちゃんと早起きして、ゆっくりコーヒー飲んで会社に来るよう頑張ろう!」と盛り上がり、その想いをさらに高めるために、自分たちをチーム「モーニング・コーヒー」と名付けました。普段は、略して「チームMC」と呼んでいます。
—このチームをつくろうと思ったとき、大塚さんから他の皆さんにどのように呼びかけたのですか?
大塚さん:多分、めちゃくちゃふわっと声をかけました(笑)。私が最初に明確な目的を示しちゃうと、私の意見だけが反映されたチームになっちゃうかな、っていう気がしたんです。他のみんなは、「何するチームなのか」とか、「そもそも何で呼ばれたんだろう」って感じだったと思います(笑)。
高橋さん:正直私は、最初に大塚さんに招待いただいたときは、「このチームは何のチームだろう?」っていう感じで(笑)。ただ、ミーティングを重ねるごとにチームワークができて、1人ひとりの自主性もあったのでプラスに進んでいったのかなと思います。
―これまでのチームの取り組みは、どのように検討して、どのように進めてこられたのでしょうか?
峰さん:定期的にミーティングを重ねて意見を言い合って、最初は本当に小さな簡単なことからしていこうという感じで、取り組みを検討していきました。
大塚さん:最初に取り組んだこととしては、15時をブレイクタイムの時間として、各メンバーが、所属とは異なる営業所の仲間に、コーヒーとメッセージ付キットカットを配ってもてなしたり。朝礼前の時間に「ラジオ体操」の場をつくったりしました。
また、コロナウイルスで臨時休業する直前には「皇居ラン」を企画して、第二販売部の約80人のうち、30人以上の参加者が集まり、ランニングを通してお互いの交流を深める時間もつくりました。
峰さん:一人の力では進められなかったり、他の社員に共有していくことができないんですが、ここにいるメンバー全員がフォローし合って、それぞれみんなで他の社員に声をかけ合って、各営業所からクロスして協働しながら取り組んでいきました。
―チーム「モーニング・コーヒー」の皆さんが回答されたOcapiのレポートを見ると、変革の取り組みに対する捉え方の項目において「成果が出ている」という回答割合が高くなっています。どのように現在の成果を感じていらっしゃいますか?
大塚さん:第二販売部の空気が圧倒的に良くなったなって感じたんですね。1人ひとりが想いを込めて取り組んだことで、コーヒーを配っているとふいに空気が軽くなるというか、笑顔が生まれるような雰囲気もある。普段の朝礼って、雰囲気が結構固いんですよ。噛んじゃうくらい緊張感強めなんです(笑)。でも、ラジオ体操の後の雰囲気は全然違うんです。柔らかい雰囲気になる。「皇居ラン」のときには、普段あまり積極的に交流しないような人が参加してくれたり、そうしたイベントをきっかけに、話しかけてくれない人が話しかけてくれたり、「またやってほしい」って声が来たり。
峰さん:若い層の人もベテランの方も、話す機会が圧倒的に増えたので、視野が深まりました。同じ部署で働くみんなのことにもっと興味をもてたし、好きになれたっていう実感があって、ますます今の取り組みを広げていきたいなって思っています。
これまでもこれからも、チームで大切にしていること
― Ocapiを使って話し合いをされたタイミング(4月3日)では、新型コロナウイルスの影響で、すでに旅行の予約キャンセルなども相次いでいるタイミングだったかと思います。そうした状況で、皆さんは今後に向けて、どのようなことを話し合われたのでしょうか?
長谷川さん:そのときは、具体的な取り組みについては話し合えませんでした。でも、このチームを通して、お互いが部署を越えて困ったときに頼れる存在になったんですね。日常の仕事のときでも自分が困っていたら、「聞いてみよう、相談してみよう」って思える存在になっています。そうしたつながりが、この状況下においてとても大きいなと感じています。
中澤さん:新型コロナウイルスがいつ収束するかわからないですが、新卒を気持ちよく迎え入れるために、「リモート飲み会を新卒を交えてできたらいいね」っていうアイデアとか、これまで話したりしていました。
― 皆さんのお話からも感じるところですが、Ocapiのレポート項目の「行動の質」を見ても、「ボランティア・チーム」の回答点数が高くなっています。皆さんが現在、チームとしてありたい姿に向けて、一人ひとり主体的に取り組めているのは、何か大切にされてきたことがあるのでしょうか?
大西さん:MCのメンバーは、誰かの想いやアイデアに否定的なことを言う方がいないんです。取り組んでみたいことに関して、一見突拍子もない面白いことを言うメンバーもいます。そういうことに対しても、「それをやるにはどうしたらいいか?」ってまず考える。発言する誰かに対して「じゃあ、こうしたらいいんじゃないか?」って投げかけて、その想いを実現できるように考えている。否定から入らないので、チームの誰もが自発的に取り組めているんじゃないかなって思っています。
中澤さん:私も、同じことを言おうと思いました。
― 今後も不確実な状況が続いていくかと思われます。今あらためて、今後に向けて考えている取り組みや、大切にしようとしていることを、お聴かせください。
長谷川さん:今はまだ取り組めていることはないんですが、これまでやっていたことやオンライン飲み会を広げていったり。また、「こういう話をしていたよ」って、自分たちが小さい規模の情報共有する場所になれたらいいな、と思っています。
峰さん:これまでの取り組みの継続を希望しているスタッフは多いと思っています。一方で、これまで考えていたことも、どこまで実現できるのかわからない状況でもあります。「今の働き方で、第二販売部の中でできることって何か」、このチームで話していきたいですね。
中澤さん:このチームではこれまで、レクリエーションや社内イベントを中心に取り組んできました。現在は、旅行業自体が今後どうなるか先行き不安なところもあります。その中で、今日はちょうどリモート研修が始まっていて、そうした場においても、MCのメンバーから力になれることに取り組んで、職場の仲間に良い影響を与えられるといいな、と思っています。
大塚さん:普段は、どうしても組織や上司から指示されて、言われてやることが多くなってしまいます。これまでのチームMCの取り組みを通して、一人ひとりが考えたことを行っていくことで、組織の中で良くなっていくことがたくさんあるということを実感しました。その力強さをものすごく感じています、感動しちゃうくらい。
このチームの中では、みんなが主体的に動いてくれて、いろんな考えが出ます。スタッフのメンバーの考え方も熱い情熱を感じます。巻き込む力もすごいです。
会社としても、そういうチームのあり方を大切にしていければ、新しい取り組み、今までにない取り組みが生まれてくるんじゃないかなって、感じています。
―チーム「モーニング・コーヒー」の皆さん、貴重なお時間をありがとうございました。
インタビューを終えての所感:いま、未来を切り拓くリーダーシップとは
新型コロナウイルスの影響で先が見えない現在も、株式会社エイチ・アイ・エスのチーム「モーニング・コーヒー(MC)」の皆さんは、自分たちのチームで創り出してゆく未来のほうへ、視線が向いていました。
そうしたカルチャーは、「一人の想いに耳を傾け、その想いの実現に向けて互いに支え合う」という関わり合いから、育まれてきたのかもしれません。
6月1日〜5日に、初めてヴァーチャル・カンファレンスの形式を取って開催された世界最大の人材開発カンファレンスのATD (Association for Talent Development)。
今回、キーノート・スピーカーとして最初に登壇した、リーダーシップやチェンジマネジメントで著名なキース・フェラッツィ氏は、現在のディスラプションから新たな人・組織のニューノーマルへシフトするためのリーダーシップとして、「Co-Elevation Leadership」というコンセプトを共有しました。
その中心的な内容は、権威や肩書きで変化を導くのではなく、チームメンバーと共に成長し、共に高め合うことで、未来を共に創造していくリーダーシップのあり方です。
チーム「モーニング・コーヒー(MC)」の取り組みは現在も続いていますが、皆さんのお話やインタビューでのご様子から、互いの声に耳を傾け、共に高め合っていくチームの姿を感じました。
人・組織に関わる私たちは、今日の環境において、こうしたチームのあり方や関わり合いをどのように育んでいけるのでしょうか。そして、それをどのようにして、組織の新たな価値創造や働き方の進化へ繋げていけるでしょうか。
今後もさらなる実践と探求を続け、人・組織・社会のニューノーマルを、関わる皆さまと共に創っていきたいと考えています。
(執筆:株式会社ヒューマンバリュー 内山裕介、菊地美希)