マネジメント研修を基軸とした学習する組織の構築(大手自動車会社F社の取り組み)
「学習する組織」を構築するためのアクションラーニングの組織イノベーション講座は、2005年に導入され、毎年プログラムを進化させながら現在も継続している。過去の受講者が、自分の周囲の人を送り込んできたり、過去に受講した人と新しい受講者がつながり合って部門の変革に取り組んだりといった動きも見られる。組織イノベーション講座は、多人数を擁するR&D部門の中で主体的に組織変革に携わっている人々のプラットフォームとなっている。
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背景 / プロジェクトのはじまり
「もぐら叩き」から脱却したい
F社のR&D部門を取り巻く環境は大きく変化してきていた。
R&D部門がビジネス全体に与える影響は大きくなり、顧客の製品に対する認識のあり方も変わった。
しかし、部門全体を見ると組織のメンバーの意識は内向きに働き、市場や顧客への感受性が高まらずにいた。
メンバーたちは、発生する出来事に対しては受け身になり、いつも同じような反応的な行動を取っていた。
その結果、マネジャーはますます忙しくなり、顧客に焦点を当てた長期的な組織の変革、イノベーションに向けてエネルギーを割けないという状況が起こっていたのだ。
そのような状況を改善したいと考えたR&D部門の人事担当者が、ヒューマンバリューに問い合わせをした。
展開プロセスの検討
実現したい状態のイメージから「組織イノベーション講座」が始まる
課題はたくさんあったが、まずは、実現したい状態を生み出すところから打ち合わせは始まった。
「課題が解決されたとき、そこに実現される組織はどんなものだろう」
そのイメージを共に描き、徐々に実現したい状態、ビジョンを明らかにしていった。
そこで描かれた状態は、
「新しい考え方や方法が次々と生み出され、根本的な解決策が推進されている」
「仕事の進め方や流れが常に見直され、変化やニーズに適応し続けている」
「市場や顧客への感受性が高まり、ニーズを先取りした開発が推進される」
といったものだった。打ち合わせの参加者には、そんな組織をつくりたいという想いが高まっていった。
組織の実現したい状態が描かれると、そこで働くマネジャーの姿も明らかになっていきた。
組織でありたい状態が実現されたとき、
「マネジャーは、新たな組織課題や挑戦機会の発見にエネルギーを割き、
顧客に焦点を当て、日々の成果実現と長期的な成果実現の双方を統合的に取り組んでいる」
というイメージが描かれた。
そのためには、「マネジャーがチームのメンバーと共に取り組むプロセス」を講座という形で支援すれば、組織はいきなり変わらないがきっとありたい状態が実現できる、そんな想いを共有し合えたとき、「組織イノベーション講座」の実施が決まった。
プロジェクトの推進
組織イノベーション講座の変遷
組織イノベーション講座はアクション・ラーニングの形式で行われる。オフサイトでの相互学習の場と、オンサイト(現場)での取り組みを通し、講座に参加したメンバーが支援し合い、1つの実践の共同体(コミュニティ・オブ・プラクティス)として自組織のイノベーションを行ってく。
組織イノベーション講座の内容は、参加者自らが後に続く人のためのことを考えて、毎年進化し続けている。最初2日だった講座が3日間になったり、宿泊になったり、フォローができたりといったことが、参加者の声に基づいて行われている。
過去の受講者が、共に取り組む仲間を増やすために自分の周囲の人を送り込んできたり、過去に受講した人と新しい受講者がつながり合って自組織の変革に取り組んだりといった動きも見られる。組織イノベーション講座は、多人数を擁するR&D部門の中で主体的に職場の活性化や変革に携わっている人々のプラットフォームの1つとなっている。
受講者の実践を通したネットワーク
講座の受講者が自組織に帰って自分ができる変革を行い続けた結果、その取り組みが部門全体や他部門にも影響を与え始め、広がり続けた。現在、大変多くのメンバーが主体的、自律的に組織変革を行う取り組みに関わっている。
また、組織イノベーション講座の受講者や、これまでのさまざまな取り組みにコアチームとして関わったメンバー、想いを共有した仲間たちが100人以上集まってインフォーマルなネットワークをつくり、社内での自主的な取り組みを影から支援している。
たとえば、ある組織で「自分の組織を変えたい」「こんな取り組みをしてみたい」という想いをもった人がそのネットワークにいる誰かに声掛けをすると、ネットワークのメンバーがその実現を支援するための情報を提供したり、一緒にチームを組んで協力をしてくれるようになる。そのような支援を受けた人が、またインフォーマルなネットワークに加わり・・・という良い循環が生まれている。
生み出された成果 / その後の展開
自己組織化したネットワークの形成
何か解決したい課題があったとき、組織を越えてそれに関わるステークホルダーが自主的に集い、協力・支援し合うようになった。そこから今までになかったような仕組みやコラボレーションのあり方を生み出すという動きがたくさん生まれている。
業務でのイノベーション
ある組織では、他部門との連携の中で業務効率を30パーセント向上させた。また、社内だけではなく、社外の幅広いステークホルダーと共に語り合う場をつくり、その中から車の未来を生み出していこうという場もつくられている。
変化に適応し続ける柔軟性と継続性
何かを実現して終わり、という取り組みではなくなっている。変化に適応するだけでなく、自分たちでより高い目標やありたい姿を生み出し、その実現に向けて柔軟に変化し続け、取り組み続ける継続性が育まれている。