21世紀ミュージアム・サミット~100人で語る美術館の未来~(ワールドカフェ)
2010年2月27日(土)~28日(日)の2日間に渡って、「第4回21世紀ミュージアム・サミット~100人で語る美術館の未来~」が湘南国際村センターで開催されました。サミットには、美術館関係者、美術史学、認知心理学、文化経済・政策学など異なる分野の学者、動物園や水族館、科学博物館の専門家、行政機関や教育機関の担当者、メディアなど様々な分野から100人を超える人々が参加しました。
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背景
21世紀ミュージアム・サミットは、かながわ国際交流財団と日本経済新聞社、神奈川県が主催となり、世界の主要な美術館の館長と日本の美術館長らがともに美術館の在り方を話し合う場として2年に1度開催されています。第4回目をむかえる今回は、美術館コミュニティと、美術館を利用し、支えている人々がともに、美術館の社会的な価値と意味について深く考える場の実現を目指して、「100人で語る美術館の未来」というタイトルがつけられました。
そして、100人が美術館の未来についてオープンに語り合う方法として、「ワールド・カフェ」がよいのではないかという意見がサミットの企画委員会の中で出され、かながわ国際交流財団からヒューマンバリューに協力の依頼がありました。サミットのミッションや関わる人々の想いに共感した私たちヒューマンバリューは、ぜひワールド・カフェによる話し合いを通して美術館の未来を創造していくことに貢献できればと考え、サミットにおけるワールド・カフェの企画、場づくり、ファシリテーションのご支援をさせていただくこととなりました。
サミットの場づくり
これまで開催されてきたサミットは、どちらかというと基調講演者やパネリストたちの講演に重きが置かれていたようですが、今回は参加者自身が語り合い、主体的に参加していく場が重要になってきます。
そこで、オープンな話し合いができるカフェ的空間を創れるよう、運営スタッフのみなさんと弊社メンバーで知恵を出し合いながら場づくりを進めました。4~5名が座れる円卓と長方形のテーブルを用意し、赤と白のテーブルクロスをかけたり、参加者が自然に和めるよう各テーブルに花を用意したり、リラックスして参加できるように音楽を流したりしました。
また、予想以上に参加申し込みをされる方の数が多かったこともあり、限られたスペースの中で、できるだけ参加した人々がゆったりと座れるよう、テーブルや椅子の配置にも工夫を重ねました。サミット前日に1日かけて準備に取り組んだおかげで、写真のような温かな空間を生み出すことができました。サミットのオープニングの基調講演を務められた大阪大学総長の鷲田清一先生は、講演の開口一番に、「何だか全国各地から美術館関係者が集まった結婚式みたいですね」といった感想を述べて、参加した人々の笑いを誘っていました。鷲田先生がおっしゃったように、本当に結婚式のように、関わる人々みなが美術館の未来を祝福しているようでした。
サミットの様子
サミットは、基調講演、事例報告、パネルディスカッション、そしてワールド・カフェという構成で行われました。基調講演では、大阪大学総長の鷲田清一先生と青山学院大学教授の佐伯胖先生によって、哲学者と認知心理学者の立場から美術館の可能性が論じられました。また、事例報告のセッションでは、神奈川県立近代美術館(日本)、イザベラ・スチュワート・ガーデナー美術館(アメリカ)、ルーブル美術館(フランス)の報告が、学芸員からドキュメンタリー映像を交えながらなされました。
そして、2日間の中で、合計3回のワールド・カフェのセッションが開催されました。ワールド・カフェには、上述した基調講演者から、事例報告を行った国内外のゲスト、そしてパネリストも含めた全ての人が参加しました。
最初のカフェは初日の午前中に行われました。最初のテーマは「美術館はあなたにとってどんな場所ですか?」でした。カフェのスタートとして、まず自分たちにとって美術館はどんなところかを問い直すところから始めました。ファシリテーターから、ワールド・カフェの概要や進め方の紹介が終わった後、いよいよワールド・カフェ・セッションがスタートしました。既に雰囲気が出来ていたこともあり、スタートすると同時に、会場中のテーブルで一斉に豊かな会話が繰り広げられました。
みなが話し合っている様子は、笑顔にあふれ、あたかも初めて会った人ではなく長年来の友人と語り合うかのように会話が弾んでいました。テーブルに敷かれた模造紙にも、色彩豊かなメモや落書きがなされ、会話の創造性を高めていました。第1ラウンドから第2ラウンド、第3ラウンドとテーブルの移動を重ねましたが、参加者の方々も、次にどんな人と話せるのか楽しみに動かれているようでした。第3ラウンドが終了し、気づきや発見を全体でも共有しましたが、「たくさんのアイデアをもらって、たった1時間なのに大きな発見がありました」「こんなに美術に対して熱い想いを持っている人と前から接していたら、もっと美術館が好きになっていたと思います」といった意見が共有されました。終了後、3ラウンドに渡る会話で得られた気づきや発見、質問などを一人ひとりがポストイットに記入し、全体でも共有しました。
2回目のカフェは、2日目の午前中に行われました。テーマは、「人と作品がかかわりあう事の意味とは何でしょう?」でした。今回は、出来るだけ多くの人とつながりを創ってもらいたいという願いから、初日とはまた別のテーブルに座ってもらっていました。それにも関わらず、既にみなカフェの雰囲気に慣れ親しんでいるようで、すぐに活発な話し合いがスタートしました。第3ラウンド終了後の全体共有の場面では、「ワールド・カフェって初めて体験したけど、面白いですね。この会場にこんなにも想いのある人たちが100人も集まっていて、勇気をもらうとともに、美術館の未来に期待したくなりました」といった感想が共有され、会場の一体感が高まりました。
そして、3回目のカフェは、サミットの最後に行われました。今回のサミットのテーマは「100人で語る美術館の未来」です。その最後にふさわしいように、ワールド・カフェでは、「あなたが描く美術館の未来は?」というテーマについて100人全員で語り合い、みなの中に自分たちが実現したい未来の姿をありありと描きました。3ラウンド終了後には、一人ひとりが、2日間のサミットで得た気づきを踏まえて、どんな一歩を踏み出したいかを「私の一歩」としてポストイットに書き表しました。そして、私の一歩を言葉に出して周囲と共有し、サミットは終了しました。終了後も、別れを名残惜しむかのように、バスが出発する最後の時間まで会場に残って話されている方々がいたのが印象的でした。
取り組んでみての感想
このミュージアム・サミットのワールド・カフェの企画、場づくり、ファシリテーションを、弊社から3名のスタッフがメインで支援させていただきました。報告の最後に、その3名の取り組んでみての感想を記します。
<川口 大輔>
第4回21世紀ミュージアム・サミットでは、コンファレンスの場をカフェ的空間に変えるという大胆なチャレンジに取り組ませていただき、自分自身にとっても素晴らしい機会になりました。時間的な制約もある中で、スタッフのみなさまと、プログラムや会場設営の準備を楽しみながら、行えたことが印象に残っています。そして、何よりもワールド・カフェがスタートし、参加者の方が、本当ににこやかに話され、笑い声が絶えない空間が生まれていたことに、感銘を受けました。ここで生まれたネットワークや小さな変化が、明日の美術館を、そして日本の文化政策をよりよいものにしていくことを心から願っています。
<保坂光子>
「100人で語りあう」場を実現するために、活躍するフィールド・経験・想いも様々な沢山の方々とコラボレーションできたことは、私自身にとって楽しく学びに満ちた機会でした。どうすれば、ミュージアム・サミットに参加される皆さんがリラックスしてオープンに語りあい、相手の話に耳を傾けて想いを共有する場を作れるのか、とスタッフの皆さんと試行錯誤しながらも和気藹々と準備を進めてきた時間が今も心に残っています。ミュージアム・サミットに参加された皆さんと同じように、その場を支えていたスタッフの皆さんが、それぞれに美術館の未来に対して強い想いを持っていたことにも感銘を受けました。この場で生まれた想いや気づきや出会いが、大切に育まれながら未来につながっていくことを心から応援しています。
<市村絵里>
今回、第4回ミュージアム・サミットに関わらせていただくことになったのは、私たちヒューマンバリューのメンバーが、主催のかながわ国際交流財団で働く1人のスタッフの想いや情熱に共感したことがはじまりでした。ご一緒にプロセスを歩み、プログラムを検討する中では、試行錯誤を繰り返し、たくさんの揺らぎがありました。その揺らぎを乗り越え、今回の開催を実現できたことは、やはりそこに想いがあったからではないでしょうか。
当日の場では基調講演者、パネリスト、参加者の間では、互いにリスペクトを持ちつつ、次第に垣根のない対話の場が生まれていたことが印象的でした。そういった対話の場では、みなさんがまだまだ自分の想いを語りきれていないという様子で、こんなにたくさん想いを持った方々がいらっしゃるのだな、ということに衝撃を受けるほどでした。
ミュージアム・サミットのご支援を今振り返ってみると、「想いを持ち、互いに共感し、踏み込み、あきらめない」そんなことが未来を創っていくのではないかなと感じています。ミュージアム・サミットに関わられた皆様には、素晴らしい機会を頂きましたことに、深く御礼申し上げます。