組織変革プラクティショナーズ・ストーリー 〜本田忠行さんの物語〜
日本を代表するメーカーで、組織改革の種を蒔く
「プロジェクトの進捗が芳しくない......」「開発が思うように進んでいない......」といった悩みは企業組織ではよくある話ではないでしょうか。そんなとき、実はネックになっているのは「組織の状態」です。「関係性の質を高めることが、なによりの解決方法」と話すのはメーカーの技術開発部門で10年以上に渡って組織開発に携わってきた本田忠行さん。ヒューマンバリューが主催するプラクティショナー養成コースや、学習する組織勉強会など多くの機会に参加いただき、共に学び合う仲間です。ご自身の取り組みの中では、そうしたコースで得られたさまざまな手法を用いたり、「組織変革プロセス指標Ocapi」を活用しながら、組織やプロジェクトを良い方向に向ける手伝いをしてきました。本田さんが行ってきた組織改革とその実践方法に迫ります。
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問題の根本には「組織の状態」にあった
——そもそも、組織変革に携わるようになったきっかけをお伺いできますか?
本田忠行さん(以下、本田):私はもともとエンジニアとして1994年に新卒で入社しました。ただ、事業の見直しなどがあり、別の技術を扱う部署へ異動しました。そのなかで、エンジニアをサポートする組織開発にここ10年ほど携わってきました。
技術組織において「開発が思うように進んでいない」というのはよくある悩みです。ただし、自分のなかで「こうすれば開発がうまくいくのに」と思っていても、結局は一人でできることは限られている。一人だけではなく、誰かの助けを借りなければプロジェクトを完遂することはできません。
うまくいかない開発やプロジェクトの話を聞いて、よくよく紐解いてみると大体、組織の関係性やコミュニケーションの問題にたどり着きます。私は「効率的なコミュニケーションを取る方法」などに興味があったので、ピーター・M.センゲの『学習する組織』の勉強会に参加したり、書籍を読んだりして知見を深め、自分のチームでも実践したら効果が出るようになりました。
そんな折に何人かの組織長から組織にまつわる似た悩みを打ち明けられるようになり……。組織開発のエッセンスを、技術開発組織のなかに組み込む形になりました。
「ハイポイントインタビュー」や「ストーリーテリング」でお互いを知る
——実際に組織変革に携わる際、どのようなアプローチを取るのでしょうか?
本田:まずはヒアリング。組織長に現在の組織の状態について聞きます。その上で「組織をどんな状態にもっていきたいか」を聞いて、関係性を改善できるアプローチに移っていきます。
疲弊している組織でよく行うのは「ハイポイントインタビュー」。こちらはアプリシエイティブ・インクワイアリーのプラクティショナーコースで学んだ手法です。まず、2人1組になり、「今までで最高の状態で働けて、成果を上げた仕事の話」をします。どんなプロジェクトに取り組み、そのときの上司はどんな人だったのか、そのときのチームはどんな状態だったのか、どんな結果が得られたのかを話します。それぞれ交代で行い、それを4〜6人のグループでシェアして……という流れを取ります。
ハイポイントインタビューがいいのは、その人個人の“こだわり”を知れることです。他人からみれば不可解に思える行動をとっていたとしても、本人は情熱を持って細部まで追求している仕事もあります。「なんでそんなことやっているのか、ずっと疑問だったけど……。なるほど。やっとお前のこだわりがわかったよ!!」とお互いに認識できれば、関係性は一歩改善します。
自社の場合、「匠の集団であること」にこだわりを持って誇りを抱いている方が多いですね。「世界初」や「世界最高」という技術力に対して並々ならぬこだわりを持っている。「大変だけれど、世界最高を目指したい」というこだわりを持った人が多いとみんながわかれば、組織は一つにまとまりやすくなります。
同じ組織にいるのに、普段仕事では関わらない方同士も多いでしょう。それに、タスクに追われて忙しいとお互いを知る機会も少なくなります。ハイポイントインタビューは、お互いのこだわりと強みを明らかにできるのです。
続いてよく行うのは「ストーリーテリング」です。技術部門で、新プロジェクトが始まると同じ社内でも知らない人同士でチームを組むことも多くなります。当然、中には、毛色が違う方や入社の経緯が異なる方も多いもの。そこで「自分はなぜこの会社にいるのか」「これまでどんな技術を扱ってきたのか」「今の自分を作っているものとは」「なぜ今回のプロジェクトに参加したのか」を、全員の前でストーリーで語ってもらうのです。
ストーリーテリングを行う場合、1人30分程度は時間を確保します。ですから、10人前後の小さなチームでも1日のオフサイトではできません。2週間に1回、時間を取り、半年単位で継続的に行うと効果的です。
自社で実施したときも、組織長が「これは最初に俺が話さないと、みんな心を割って話してくれないよな……」と率先してストーリーテリングを行ってくれて、その後に続く人も話しやすい流れができました。
小回りが効くサーベイを数カ月単位で回す
——関係性の改善を念頭に置いたとき、アンケートなどサーベイはどのように活用していますか?
本田: 私は、ヒューマンバリューが開発した「組織変革プロセス指標Ocapi」をよく使います。ダニエル・キムの「組織の成功循環モデル」では、「結果の質(成果や業績)を高めるには、関係・思考・行動の質を高めることが大切」と説明されています。Ocapiは組織の成功循環モデルに照らし合わせて、関係・思考・行動のなかで「ありがとう」「信頼」「ポジティブ思考」「主体的行動」など、イメージしやすい言葉が組織内で出ているかどうかを聞くサーベイです。
ハイポイントインタビューやストーリーテリングを実施する前に、まず組織の初期状態がどんなものかをOcapiで取っておきます。実施後に再度Ocapiを実施すると、関係・思考・行動のそれぞれのスコアは上がっており、メンバーからも「組織の雰囲気が良くなった」という声が聞こえてくるようになりました。
仕事をしていると、ともすれば、「べき論」にいきがちです。でも、「自分はどうなりたいのか。組織はどんな状態であったら理想か」という会話が普段のチーム内でできるようなれば、おのずと組織の状態は良い状況に保たれるのではないかと思っています。結果はすぐには出ませんし、組織の関係性向上の取り組みには終わりはありません。そのことを念頭に置いてみたら、少し楽になれるのではないでしょうか。