セールス・パフォーマンス向上のための新しい取り組み(金融系サービス会社C社の取り組み)
金融系サービスC社では、従来の商品知識偏重型の営業スタイルから、お客様にフォーカスしたコンサルティングセールスへの転換を考えていた。自分たちの実現したい状態や大切にしたいフィロソフィーの探求を行うとともに、コンサルティングセールスを実践し客様に価値を提供する自分たちのミッションを明らかにした。各自が学び続ける学習する組織づくりを基盤とすることで、継続的な成果の創出を可能にした。さらには、セールスパーソンがチェンジエージェントとして、パートナー企業の営業改革にも関わるようになった。
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背景 / プロジェクトのはじまり
セールスの意識とあり方を抜本的に変えたい
金融系のサービス会社であるC社では、経営母体も新しくなり組織体制が抜本的に見直された。そして営業のあり方についても、従来の商品知識偏重型の営業スタイルから、お客様にフォーカスしたコンサルティングセールスを実現したいと考えていた。
しかし、C社ではいくら新しい営業のやり方を導入しても、そこにいる人の意識を変えないと、実効性のあるものにはならないと考えていた。自社の現実を見つめると、営業のやり方、組織の構造、採用の方法、営業教育の体系など、大きなテコ入れを必要とする課題が山積していた。
C社では、一緒に取り組んでもらうパートナーを探した。そこで、営業の教育システムづくりとトレーニングにとどまらず、組織のメンバーの意識を変えたり、現場での実践を通じて自ら学んでいく学習する組織の構築までを一貫して取り組んでいるヒューマンバリューに相談をしてみることにした。
実際に話をしてみると、目指したい姿についての両者の認識は一致していた。
プロジェクトの推進
マネジャー研修をきっかけに、皆で話し合う場をつくる
いまできるところからスタートすることにした。そこで、前から実施が決まっていた、セールスマネジャーの研修から変えていくことになった。
ヒューマンバリューとC社の営業トップ、教育スタッフとの事前打ち合わせにおいて、マネジャー研修では、単に営業管理のやり方やマネジメントの仕方を学ぶだけではなく、今後自分たちが目指すべき営業のあり方は何なのか、そのためにどういった組織文化をつくり、メンバーを育てていかなくてはならないのかについて検討を行う場としていくことになった。
当日の研修の場には、マネジャーだけではなく、営業部隊のトップ、教育や採用のスタッフ、営業ツール開発や営業管理のスタッフなど、関連するステークホルダーが一堂に集められた。そこで、3日間に渡って話し合いが行われた。
そこで明らかになったことは、セールスパーソン各自のフィロソフィー(想い、哲学)とセールススキル、セールスプロセスの整合性を取ることが大切であること。そして、仕組みや方法を変えるだけでは不十分で、そこにいる人の意識を変えるとともに、外から教えられるのではなく、自分たちで新しいやり方を学習したり、生み出していけるようになることがゴールであるという認識が合意された。
スタッフの皆さんには、単なるセールススキルや営業教育体系の構築だけでは、継続的な成果に結びつけることは難しいので、学習する組織づくりとのセットで教育やスキルを展開することが不可欠であるというヒューマンバリューの考え方に共感していただいた。
そこで、次の段階として、現場セールスの統括組織、教育研修組織とヒューマンバリューが協働し、営業の力や業績を継続的に高め続けるための新たな取り組みを始めることとなった。
教育トレーナーの役割を見直す
この取り組みを推進する核となるメンバーは誰なのかを考えると、その実行部隊はC社の教育トレーナーの人々が適当かと思われた。
C社では営業拠点毎に、セールスパーソンに対して、トレーナーがセールストレーニングを行うという仕組みになっていた。しかし実際には、これまでのC社のトレーナーの役割は、本社からの製品情報を伝えたり、研修以外のさまざまな業務のサポートに取り組んでいるというのが現実であった。
そこで、最初の取り組みとしては、トレーナーの意識及び役割を変えるとともに、新しい営業のスキルを身につけてもらうことから始めることにした。
いままでの枠組みを壊し、自ら新しい枠組みを獲得するために、徹底した自発的発見型のロールプレイングでアンラーニング(脱学習)を行う
しかし、いざ新しい営業の考え方やスキルを身につけようとしても、これまで身につけていた考え方やスキルが邪魔をするという側面がある。営業経験者であれば、誰しも、自分なりのやり方や営業に対する考え方をもっている。しかし、その枠組みから出ることができなければ、お客様との協働的なアプローチを通じて、納得してもらえる解決策を共に生み出すという新しい営業の考え方や方法を身につけることはできない。
そこで、まずこれまでのセールスの考え方や正しいと考えられている方法のアンラーニングから始めることになった。具体的には、ヒューマンバリューが他社の営業社員に対して実施し高い効果を上げてきた、徹底的な自発的発見型の実践ロールプレイングを行い、自らのやり方を振り返り、心から自分が納得できる考え方や自分らしい方法を自ら発見していく研修を実施した。
生み出された成果 / その後の展開
トレーナーは自らのミッション獲得し、伝道者になった
トレーナーを対象とした5日間の取り組みを通して、単なる知識やスキルの習得に終わらず、自らの想い・哲学をつかみ、それを営業場面で実践できる自信とそれをメンバーに伝えていく覚悟を獲得した。
この研修の後、トレーナーの意識が変わり、より良い営業のあり方を探求していこうとする姿勢で、トレーナー同士が学び合うようになった。また現場のセールスパーソンとの相互学習も進んだ。
学習する組織づくりが基盤となって高い業績を生み出す
その後、トレーナーも参加して、同業他社が行っていない新しい売り方を開発した。そしてそれを実現するためのセールスツールの開発を行った。
まず、新人から新しい売り方を身につけてもらい、実績を出すことで証明しようと考えていた。そのための営業教育プログラムの開発、テキスト・ビデオ作成、トレーナーマニュアルを作成し、トレーナーたちがチームを組んで、研修の実施・指導にあたった。
教育を受けた新人セールスパーソンたちの業績は、業界の常識を打ち破るものになった。こういった成果を生み出した基盤は、トレーナーたちの想いと彼らがつくり出した、皆で話し合い、学び合う、学習する組織の文化である。
ステークホルダーであるパートナー会社のセールス・パフォーマンス向上に貢献する機会が到来する
直販チャネルのセールス・パフォーマンス向上への取り組みから数年が経過し、業界全体として、直販以外の新たな販売チャネル開拓の機運が高まってきた。
ちょうどそのタイミングで商機と考えたある大手のセールス・パートナーから、C社へ販売提携の打診があった。
打診を受け、その大手パートナーのセールス・パフォーマンス向上に貢献するために、C社は同パートナー先に適合した自社のセールスパーソンを育成し、派遣することで合意した。
C社は、セールスパーソンをパートナー先へ派遣するにあたって、自社とは大きく異なる組織文化の中でどのように取り組めばよいか、正解の見えない難易度の高いテーマを前にいろいろと考えをめぐらせていた。そこで、以前、自社のセールス・パフォーマンス向上のプロセスを共に推進したヒューマンバリューに相談をもちかけ、お互いの想いや考えを共有する中で、意気投合し、再び手を組むことになった。
セールス・パーソンからチェンジ・エージェントへと進化する
この取り組みを展開するにあたって、まずは、セールス・パートナーの業界や同社の組織文化から業務遂行のプロセスにわたるまで詳細調査を行った。その調査結果を踏まえ、C社とヒューマンバリューは、何度も企画検討のミーティングを重ね、何を押さえることが成果をあげるためのレバレッジになるのか検討し続けた。
その結果、1つのレバレッジ仮説が見えた。それは、C社のセールスパーソンを派遣するという考え方ではなく、パートナーのセールス・パフォーマンスを向上させるチェンジ・エージェントとして育てるということだった。
その仮説に基づき、パートナー先の担当も巻き込みながら、パートナーへ派遣する数十名の経験豊富なセールスパーソンをチェンジ・エージェント化する実効性の高い推進プロセスとプログラムの設計を行った。
具体的な推進プロセスのイメージはこのような流れであった。
・C社のセールスパーソンがパートナー先に着任する前に自分の貢献のあり方を見つめる
・次にパートナー先にC社のセールスパーソンが着任してから、信頼関係を構築する
・そして、先方の組織や業界の文化にあったコンサルティングセールスをパートナー先の社員と
連携しながら展開する
・最後にパートナー先の社員が自らが自社のセールスパーソンを育成するためのスキルを提供する
この推進プロセスに基づいて、個別の育成プログラムとして、インタビュースキル、コンサルティングセールス、インストラクショナルスキルの3つのプログラムを独自開発し、パートナー先に派遣されるC社のセールスパーソンのチェンジ・エージェント化支援を行った。
この育成プロセスを通じて、派遣されるC社のセールスパーソンは、派遣前から高い目的意識と使命感をもつようになり、チームとしての一体感と結束も高まった。
そして、パートナー先のセールスパフォーマンスの向上につながる
C社のセールスパーソンがチェンジ・エージェントとして、パートナー先に派遣されてから1年後、成果が目に見えてあらわれるようになってきた。
実際には、派遣されたほとんどのメンバーが、パートナー先の組織の中心的な役割を担い、セールスパーソンとしての位置づけだけでなく、新たな組織マネジメントの風を吹き込んだ。結果として、パートナー先のセールスパフォーマンスの向上だけでなく、セールス組織のイノベーションにも大きく貢献した。