「パフォーマンス・マネジメント革新フォーラム2017」開催レポート
グロース・マインドセットを生み出す人事のあり方と実践
~フィックスト・マインドセットを生み出す人事評価から、
主体性・創造性を解き放つ人事の役割革新に 私たちはどう向き合い、一歩を踏み出すのか~
開催レポート
2017年2月15日、御茶ノ水ソラシティカンファレンスセンターにて、『パフォーマンス・マネジメント革新フォーラム2017』が開催されました。このフォーラムは昨年に引き続き、2回目の開催となります。
人・組織・社会にとって、より良い経営のあり方、パフォーマンス・マネジメントのあり方とはどういったものなのかを共に考え、生み出していこうという趣旨のもと開催されている本フォーラムですが、2回目の開催となる今年はより具体的な実践に結びつけようという意図をもって開催されました。
なお、本フォーラムは、『パフォーマンス・マネジメント革新研究会』の第2期メンバーの皆さまと十数回の会合を重ね、研究をしてきたことによって開催することができました。テーマに対してオープンに真摯な探求を続けてくださった研究会メンバーの皆さまに、この場を借りて、厚く御礼申し上げます。本当にありがとうございます。
<研究会メンバーの皆さま>
アデコ株式会社 土屋 恵子様
株式会社アイ・ラーニング 片岡 久様
エヌエヌ生命株式会社 中村 智子様、秋山 裕美様
エヌ・ティ・ティ都市開発株式会社 福村 剛様
ギャップジャパン株式会社 佐藤 陽子様、石毛 栄子様
株式会社Consulente HYAKUNEN 前山 匡右様、上野 佐保様
株式会社シェイク 吉田 実様
日産自動車株式会社 片山 健様、木村 直様
株式会社博報堂 小木曾 隆治様
パナソニック株式会社 中村 保仁様
三菱商事株式会社 渡邉 恭功様、永田 晃也様
株式会社リクルートホールディングス 菊地 玲様、松田 今日平様
当日は、社会の変化・人々の意識の変化に伴ってパフォーマンス・マネジメントにも大きな変革のうねりが起こっている中、その背景にはどういった構造があるのか、より良いパフォーマンス・マネジメントを生み出すにあたってのポイントは何か、どんなところから取り組んでいけば良いのかといったことを、全体的な情報提供や事例の共有、参加者同士の話し合いなど、様々な観点を通して探求する1日となりました。その様子をご紹介いたします。
パフォーマンス・マネジメントの革新に挑戦する背景と実践を通して見えてきたレバレッジ
フォーラムに集った参加者同士が共通の土台で探求が行えるよう、カンファレンスの前半は、いまパフォーマンス・マネジメントで起きていることの概観を掴めるような情報提供がヒューマンバリューより行われました。
冒頭のセッションでは、ヒューマンバリューの阿諏訪が、第2期パフォーマンス・マネジメント革新研究会で研究してきたことをふまえ、現在起きている変化を、「手続き・制度・ツール」、「戦略・カルチャー・マインドセット」、「人・組織と社会の哲学」という3つの層で整理して共有しました。
この中では、企業を中心にした論理で捉えるカンパニーセンタードではなく、人を中心に据えたピープルセンタードへのシフトがPMIの動きの根底にはあるのではないかという話がなされました。
その上で、各社が取り組みを行う際には、目に見えやすい変化である1層目の取り組みを真似するのではなく、その会社独自のフィロソフィーに合わせて、3層の整合性をとっていくことが重要であるという認識が共有されました。
また、整合性を整えていく際のヒントとして、パフォーマンス・マネジメントで行っていることを構造的に捉えたシステム図もいくつか示しつつ、実際に3層の整合性を図ろうと取り組んでいる日本企業の事例も紹介されました。
参加者からは「起きている変化が整理して理解することが出来た」「自分たちが何のために取り組んでいるのかが見えてきた」といった声も聞かれるなど、パフォーマンス・マネジメント革新の全体像をここで掴んだ方も多くいたように感じます。
パフォーマンス・マネジメントにかかわる海外の最新動向
その後は、2016年に米国で開催されたカンファレンスの内容を3つの切り口から紹介するセッションが行われました。
最初の「パフォーマンス・マネジメント革新実践企業事例」では、実際に取り組みを行っている多くの企業が参加していた『* HCI Performance Management Innovation Conference 2016』 、『* Performance Management Summit』の2つのカンファレンスから共通して見えてきたこととして“Agile”や“Employee Experience”といったキーワードが紹介され、それを具現化するためのカンバセーションを促す工夫や、テクノロジーの活用事例が発表されました。
タレント・アナリティクスを活用した取り組み事例では、『* SIOP Leading Edge Consortium 2016』の中で語られていた、企業内のデータの集め方と活用方法に関する最新事例が共有され、リアルタイムに変化を捉えていくことの重要性が語られていました。パフォーマンス・マネジメントの革新を進めていく先行指標となるデータの収集・活用方法について、より広い視野から考える事ができたのではないかと思います。
「パフォーマンス・マネジメントを脳科学から再考する」では、『* NeuroLeadership Summit 2016』の中で話し合われていた、フィードバックのあり方や、リーダーシップ開発のあり方をあらためて問い直すダイアログの様子が共有され、PMIに関連するテーマをニューロサイエンスの観点から捉えた際のポイントが紹介されました。フィードバックをする側ではなく、受ける側の視点に立って、自らフィードバックを求めるようなカルチャーをどう創るかという話には会場の多くの方が興味を示していました。また、これまで当たり前に行われてきたことを見つめ直し、正解のない問いに向き合おうとするこのSummitの姿勢には、会場からも多くの共感があったように思います。
日本における先行的な実践の共有
午後からは、すでに取り組みを行っている3つの企業による実践の共有が行われました。
ギャップジャパンの佐藤さんからは、スタンフォード大学のキャロル・ドウェック教授が提唱するグロース・マインドセットに基づいてデザインした新しいパフォーマンス・マネジメントである“GPS”を、どのように展開してきたのか、計画的ではない、生成的な変化の実態を共有いただきました。
一人ひとりの成長を支えるために新しいパフォーマンス・マネジメントに取り組んでいるんだということを丁寧に対話することを通して、変化が広がってきている様子は、まさにピープルセンタードの考えを体現しているように感じました。
GEジャパンの宇佐見さんからは、GEを取り巻く環境の変化、事業ポートフォリオの変化といったコンテクストとの繋がりの中で、なぜパフォーマンス・マネジメントの変革に取り組んでいるのかということを丁寧にお話いただきました。
「ノーレイティングなど具体的な取り組みが行き着いた先はギャップさんと同じでも、だいぶコンテクストが違う」という宇佐見さんのお話から、「人・組織の哲学」「戦略や実現したいカルチャー」「具体的な手続き・仕組み・制度」の整合性を図ることの重要性をあらためて認識することができました。
整合性をきっちりと図り、FastworksやGE Beliefsといった取り組みと連動しながら一貫して取り組んでいるというお話を聞くことで、変化の様子を立体的に捉えることが出来たのではないかと思います。
NTT都市開発の福村さんからは、社員と一緒に考えて新しく策定した企業理念にそった社風や文化に変えていくために、その具体的な取り組みとして人事評価制度を変更してきた取り組みの様子を共有いただきました。
米国の企業で多く行われているレイティングの廃止はしていないものの、社員が笑顔で働きがいをもって働けるようにするために、目標設定のプロセスを変え、よりグロース・マインドセットを育めるようにしていこうと工夫されている様子は、これから取り組みを始めようと検討している多くの企業の参考になったのではないかと感じます。
3社によるそれぞれの取り組み概要の共有の後は、より実践的・具体的なテーマに関して、それぞれの工夫や考え、経験を共有しながら探求を深めていくパネルダイアログがヒューマンバリューのメンバーも交えて行われました。
ノーレイティングにおける報酬決定プロセス」では、多くの方が気になる、報酬の扱い方、決め方といったことに関して、ギャップジャパンの佐藤さん、GEジャパンの宇佐見さんから実際に行っていることを共有頂きました。共通点はありながらも、それぞれのフィロソフィーに沿ったデザインをされていることがとても印象的で、会場にも正解を求めるのではなく、独自の取り組みを試行錯誤していこうという認識が広がっていたように思います。
「グロース・マインドセットを育むための実践・チャレンジ」では、グロース・マインドセットを具体的な文言にしたギャップジャパンの「パフォーマンス・スタンダード」が佐藤さんから紹介され、その後に実現したい状態・生み出したい価値というインパクトをベースにしたNTT都市開発の目標設定の様子が福村さんから共有されました。また、ヒューマンバリューの兼清からは、チームでグロース・マインドセットを高めるための自律的なプログラムの様子が紹介されました。GEの中ではグロース・マインドセットという言葉はそこまで使われていないそうですが、「10回の失敗があったのではない、10回の成功しないやり方を発見したのだ、と言って発明をしてきた創業者のエジソンは、まさにグロース・マインドセット。ただ、エジソンも、さすがに10年連続C評価(最低評価)が続いたら、モチベーションが切れてかもしれない。そこに今の取り組みの価値があるのではないか」という宇佐見さんのコメントもあり、単純なキーワードというレベルを超えて、人が主体的に生きるという文脈の中でのグロース・マインドセットの価値を実感することが出来ました。
「マネジャーの重要性とマネジメント力を高める取り組み」では、マネジャーに期待する新しい役割としての“People Leader”についてGEジャパンの宇佐見さんから紹介され、多くの方の関心を集めていました。また、メンバーが持つ目標をマネジャー同士が共有して、チームを超えたコラボレーションや組織全体でのメンバー育成を促進するためのNTT都市開発の取り組みや、ヒューマンバリューの阿諏訪によるマネジャーが持つパフォーマンス・マネジメントに関するナレッジの循環を促す取り組みの紹介が行われ、様々なアプローチがあることをあらためて確認することが出来たのではないかと思います。
1社ごとの取り組み共有だけでなく、多くの方が関心を寄せる個別のテーマに関して、実践企業同士がダイアログをすることを通して、パフォーマンス・マネジメントの革新を推進していく際のポイントや、働きかけのあり方をより手触り感のあるものとして探求できる時間となりました。
テーマ別探求セッション
フォーラムの最後は、登壇企業、研究会参加企業、フォーラムの参加者の皆さんが、
▶グロース・マインドセットをいかに育み、組織文化とするか?
▶ マネジャーの意識改革・役割の転換を図るには?
▶ パフォーマンス・マネジメント変革時代において、人事はどうあるべきか?
▶ パフォーマンス・マネジメントはどのような価値を生み出すのか?
という4つのテーマに分かれて共に探求する、テーマ別の探求セッションが行われました。
1日の中であった様々な刺激をもとに、それぞれの方がもつ多様な経験・背景を共有し合いながら探求が行われ、多くの方が気づきや具体的な実践に向けたヒント、変革に向けての勇気やエネルギーを得ていたように思います。
関心のあるテーマを選択するにあたっては、まず研究会メンバーの皆さんが、ここまでの研究をふまえて、それぞれの方がこの場で話したいテーマを共有してくださいました。
テーマに関する課題意識や、背景にあるご自身の想いといったこともお話くださり、会場全体に情熱やエネルギーが広がっていったように思います。
ここまで、フォーラムの様子をご紹介してきました。
昨年のフォーラムでは、「なにが起きているのかを理解しよう」というエネルギーが強かったように感じますが、今回のフォーラムでは、「いかに取り組んでいくか」という方向へと全体のエネルギーがシフトしている感覚がありました。
それだけ、この1年の間にも進化や変化があったのだと思いますが、オープンにご自身の想いや経験を話し合う参加者の皆さんの様子を見て、より良いパフォーマンス・マネジメントの実現」という答えのない問いに対して継続的に向き合っていくためにも、共に探求し、学び合うことを何よりも大事にしていけたらと強く思いました。
今回ご参加いただいた方だけでなく、今後もより多くの皆さんとご一緒に歩みを進めていけることを楽しみにしています。