なぜ今「フィードバック」なのか? そのポイントは何か? 〜Tamra Chandler 氏らのインタビューから考える〜
互いにパフォーマンス・マネジメント革新に関する豊富な経験と知見をもち、「Why We Fear Feedback & How to Fix It」の共著者であるTamra Chandler 氏とLaura Grealish 氏から、今注目を集める「フィードバック」の背景やポイントについてインタビューを行いました。インタビューの中では、セッションや書籍で伝えたかったメッセージなどをより詳しくお聞きしてきました。「なぜ今フィードバックなのか」「より良いフィードバックを行うためには何がポイントになるか」など、私たちからも率直な質問をぶつけることができましたので、以下にお伝えしたいと思います。
なぜフィードバックに注目したのか?
近年、パフォーマンス・マネジメントにおける「フィードバック」の重要性が高まっています。米国版ハーバード・ビジネス・レビューで特集が組まれたり、『GREAT BOSS(原題:Radical Candor)』をはじめとする書籍が発売されるなど、社会的にも注目を集めています。2019年5月に開催された世界最大の人材開発のカンファレンスであるATD ICE 2019 においても、フィードバックを扱ったセッションが多く出てきていました。
それらの数あるフィードバックのセッションの1つに、弊社が『時代遅れの人事評価制度を刷新する(原題:How Performance Management is Killing Performance and What to Do about It)』を出版した2018年から親交のあるTamra Chandlar さんのセッション「Why We Fear Feedback and How to Fix It(仮訳:なぜフィードバックを恐れるのか、その改善方法)」もありました。彼女は「How Performance Management〜」に続く著書として、同僚のLaura Grealish さんとともに「Why We Fear Feedback & How to Fix It」を出版し、セッションではその内容がダイジェストで紹介されていました。
まず、なぜTamra さんたちがフィードバックに注目したのか、というところからお話を伺っていきました。
パフォーマンス・マネジメントの後の書籍のテーマとして、なぜフィードバックを選んだのでしょうか?
「フィードバックは、パフォーマンス・マネジメントの取り組みをしていると必ずぶつかる壁で、どのクライアントさんも口をそろえて『私たちはフィードバックが得意じゃないんです』と言うんです。これをうまく機能させることができたら、ブレークスルーを起こせるのではと感じました。
パフォーマンス・マネジメントの取り組みとして、年1回のパフォーマンス・レビューやレイティングを取り除いただけで、その後は何もしないままになってしまっている組織も多くありますが、頻繁なカンバセーションやフィードバックがないとうまくいきません。
また、今回のフィードバックという言葉には、カンバセーション、コーチング、1 on 1といった意味もすべて含まれていると考えています。最も効果的なフィードバックは、コーチングの会話の中で行われると考えているからです。パフォーマンス・マネジメントの取り組みは、ディベロップメント、成長のために行われるべきです。したがって、過去のことについてフィードバックをするのではなく、未来について理解を深めたり、より良いパフォーマンスを発揮するためのフィードバックに注力すべきなのです」
なぜ今フィードバックに注目が高まっているのでしょうか?
「フィードバック自体は新しいトピックではないと思いますが、確かにフィードバックがバズワードになっています。これはニューロサイエンスでの新たな発見によって、より重要性が高まってきたということがいえるのではないでしょうか。フィードバックに関する間違った考えがこれまで広まっていたということが、最近明らかになってきたと思います。また、多くの企業がエビデンス・ベースの取り組み推進を心掛けるようになってきており、その流れとニューロサイエンスでの発見が、うまく組み合わさったのではないでしょうか」
フィードバックの場面にある3つの役割
ATDのセッションでは、フィードバックの場面では3つの役割があると言われていました。1つ目はSeekers、フィードバックを求める人、2つ目はReceivers、フィードバックを受ける人、3つ目はExtenders、自らまたは求められて、他者にフィードバックを与える人です。これまでのフィードバックの文脈では、「どのようにフィードバックを与えるか」という議論が一般的であったようにも思いますが、お二人は特にSeekers の役割が重要であると語っています。
皆がSeekers(フィードバックを求める人)になることが理想的だと思いますが、実際にはハードルがあるようにも感じます。どんなことがポイントになるでしょうか。
「フィードバック・ツールを用意するだけでは不十分で、サポートは必要だと思います。たとえば、ワークショップなどでフィードバックについて学ぶ機会を提供したり、安心・安全な場で練習する機会を用意するなどです。
また、フィードバックのための時間をあらかじめ確保しておくのも効果的だと思います。たとえば、あるゲーム会社では、Feedback Friday という取り組みを実践しています。金曜日の午後は一切仕事をしないで、社員全員がお互いにフィードバックを送り合う時間にしているのです。
具体的には、取り組みを実践する前に、まず組織内で目指しているバリューをあらためて確認したり、質問例を共有するワークショップを行います。そして、金曜の午後を使って、自分が安心感をもってフィードバックを受けられる人に、普段から頭の中で考えているような質問(たとえば、自分はうまくやれているだろうか?等)を投げかけます。その際、事前に『X月X日に〇〇についてフィードバックが欲しい』というカードを渡すなどして、Extender 側が事前準備をできるようにしておくことも、安心感を与え、効果的です。結果として、『フィードバックが許されている』場所や時間が用意されているだけで、こんなにも素晴らしいことが起きるということがわかりました。
また、フィードバックを求めたり、受け取りやすいカルチャーを組織内につくり出していくためには、個々人の行動が変わる必要があります。まずはリーダー自身が自らの行動を変えていくということが大切です。リーダーは、自分が答えをもっているわけではないこと、教えるのではなく、相手に興味をもって探求を促すような質問を投げかけることで、共に答えをつくり出していくという姿勢を見せることで、そうしたカルチャーが生み出されやすくなります。
組織レベルでフィードバック・カルチャーを育てるためには、ビジョンを共有していることも大切です。また、バリューや行動規範など、もう少し小さなレベルの共通言語をもっているとよいかもしれません。People Firm 社では、メンバー全員で、自分たちがどんなカルチャーをつくっていきたいか、話し合っていますし、それらをオフィスの壁に貼り出して、いつでも見えるようにしています」
セッションの中では、「信頼関係がないと、フィードバックはうまくいかない」と語られていましたが、信頼関係をつくるためには、どんなことが必要でしょうか?
「近道はないと思います。周囲のメンバーと頻繁につながりをもち、言ったことを実行に移す、本人がいないところで批判をしないなど、人として基本的なことを実践することから始まると思います。信頼があれば良いサイクルが回りますが、一度失ってしまうと元に戻すのは難しいです。そのような場合には、まず信頼を失ってしまった相手に『もしかしたら、自分は間違いを犯したかもしれない』と、率直に謝罪することです」
Tamra さんやLaura さんは、日本の文化・社会的文脈において、フィードバックがどのように捉えられているのか、興味をもたれていました。
「文化によっては、特に部下から上司に対してフィードバックを行うということについて、ハードルがあるかもしれません。そんなときは、まずはチームやプロジェクトの振り返りを行うことから始めるのが効果的だと思います。お互いに対する感謝や、ポジティブなフィードバックを繰り返し行うことで、お互いの関係性や信頼が築かれていき、少しずつ個人レベルのフィードバックもできるようになってくると思います」
お二人にインタビューをしての感想
ATDのセッションの中では、「フィードバック」という言葉にはリブランディングが必要だと語られていました。多くの人が、フィードバックと聞くとどこかしら構えたり、緊張してしまうことが多いのではないでしょうか。本来のフィードバックや、我々が交わし合う言葉自体には、人をインスパイアしたり、可能性を解放したりする力があるはずです。自らフィードバックを求めて成長するSeekers を増やし、ムーブメントを起こしていこうというメッセージで、セッションは締めくくられました。
また、今回のインタビューでは、Tamra さんやLaura さん自身がPeople Firm のCEO、メンバーとして感じられていることなども絡めて、フィードバックについてのお話を伺うことができ、非常に貴重な機会をいただくことができました。フィードバックにおいて、お二人が大切にしていること(たとえば、信頼関係を築く、自らがフィードバックを求めていく等)はシンプルな解に見えますが、そこに向かうために自分の周りから地道に取り組み、それを1つのムーブメントにしていくことを目指しているところに、とても人間味を感じました。マネジャー・メンバーという役割ではなく、組織を構成する人間同士が、どのようなカルチャーをつくり上げていきたいのか、どのように関わり合い、生み出す価値を高め合っていきたいのかということを探求し、コミットしていくことが大切なのではないかと感じました。