ATD(The Association for Talent Development)
ASTD2001概要
関連するキーワード
ASTDについて
ASTDは、1944年に設立された非営利団体で、世界中の企業や政府等の組織における職場学習と、従業員や経営者の機能性の向上を支援することをミッションとした、訓練・開発・パフォーマンスに関する、世界第一の会員制組織です。米国ヴァージニア州アレクサンドリアに本部を置き、現在100以上の国々に70,000人余りの会員(会員には20,000を越える企業や組織の代表が含まれる)をもっています。 ASTDは国際的な企業と産業の訓練資源に対して比類ないアクセスをもち、この団体の事業は、世界の最高水準にあると認められています。 ASTDは、トレーナーやトレーニング・マネジャーたちに専門的な開発材料やサービスを提供し、職場における学習促進を援助し、世界中の政府・企業等、各種組織に属する従業員や役員たちのコンピテンシー・パフォーマンス・充足感を高める手助けをすることを使命としています。
ASTD2001
今年で57回を迎えるASTDコンファレンス(ASTD2001)は、6月3日〜7日(プレコンファレンス6月1日〜2日)の期間、米国フロリダ州オーランド市、オレンジ・カウンティ・コンベンション・センターにおいて開催されました。
今年のセッションとワークショップの数は、昨年同様250を超えており、エキスポのブースは、550に及んでいました。また、参加者は、80を超える国々から11,000人以上もの人が集まりました。
今回は、会議の運営方法にも若干の変化があり、会議の中の会議(Conferences-With-A-Conference)や別料金で運営される集中講座、そして期間中、毎日基調講演が行われるなどの試みが見られました。
今年のASTDコンファレンスに参加することにより、HRDに関する世界の最新動向をつんだだけでなく、欧米の企業や大学などの人材開発の専門家が、今どのような問題を抱え、どのような取り組み方を行っているかについて一望し、ラーニングやパフォーマンスに関する動向をベンチマーキングすることができたといえます。
ASTD2001の参加国・参加者数
本年の参加国数と参加者数は以下の通りとなっています。
・参加者総数
11,842名
・一般参加者
約10,000名
・EXPO出展者
2,000名弱
・海外参加者
2,631名
・参加国数
82カ国
・米国外からの主な参加者
カナダ:294名
韓国:254名
ブラジル:202名
日本:192名
クウェート:125名
ASTD2001の主要テーマ
ASTD2001は、次の9つのテーマを中心に展開されました。
1.キャリア・ディベロップメント
CAREER DEVELOPMENT
2.E-ラーニング
E-Learning
3.ヒューマン・パフォーマンス改善
HUMAN PERFORMANCE IMPROVEMENT
4.トレーニングの測定と評価
MEASURING AND EVALUATING TRAINING AND PERFORMANCE
5.トレーニング・学習機能の管理
MANAGING THE TRAINING/LEARNING FUNCTION
6.組織開発
ORGANIZATION DEVELOPMENT
7.グローバル問題
GLOBAL ISSUES
8.トレーニングの基本
TRAINING BASICS
9.職場問題
WORKPLACE ISSUES
ASTD2001のキーワード
本年のASTD大会におけるキーワードとしては以下のようなものが挙げられていました。
1.E-ラーニング(E-Learning)
昨年から引き続きE-ラーニングという言葉があらゆるセッションで使われていました。特に今年は、ブレンディッド・E-ラーニング(Blended E-Learning)という言葉が使われ始めていました。
2.ROIインパクト
昨年までエバリエーションという言葉が研修の効果測定やパフォーマンスの効果測定に使われていましたが、今年はROI(投資効率)という観点に焦点が絞られてきていました。
3.リーダーシップ
今年はCEOやエグゼクティブのリーダーシップ特性を明らかにする試みやリーダーシップ開発プロセスの紹介が多くありました。CEOに経営論を学んでもらうようなものは皆無で、さらに360°フィードバックだけでなく、多様なアプローチを模索したものが多かったようです。
4.リテンション
ハイパフォーマーの行動特性から、言わば必然とされてきたような流出をいかに押さえるかについての論点が多く示されていました。
5.コミュニティー
ラーニング・オーガニゼーションや北欧系のナレッジマネジメントの領域で、知識を創発する場を象徴するキーワードとして3年ほど前から使われていた「コミュニティー」が、ASTDでも今年から相当数のセッションで登場するようになっていました。
6.カルチャー融合(多文化及びM&A)
あるセッションでは「戦略と文化が出会ったとき、必ず文化が勝つ」と提唱されていましたが、そのように、あらためて文化の重要性が強調され、グローバリゼーションの観点からの多文化融合と企業の吸収・合併における異文化融合の影響と方法が検討されていました。
7.メンタリング
セッションのタイトルに登場することは少なくなった反面、多くのセッションの中でさまざまな目的に応じた手段として登場し、メンタリングが定着してきたことを示していました。
8.パッション
昨年まではコミットメントという言葉が頻繁に使われ、パッションという言葉を聞くことはほとんどありませんでしたが、今年のコンファレンスでは多くのセッションでパッションという言葉が使用され、リーダーシップの重要な特性の1つとして挙げられていました。
ASTD2001の全体的な傾向
今回のASTDでは、ASTD自体がラーニングとパフォーマンスに関して、国際的な影響力をもつ団体であることの自覚を深め、今後はこの分野で世界的な学習のコミュニティーを形成し、情報を発信していくミッションを強く打ち出した印象をもちました。 そして特にE-Learningに関して強力に推進をする意思を示していました。
そういった背景からか、今回の大会でセッションの数が多かった分野は、E-LearningとROI(トレーニングの投資効率)でした。EXPOの出典を加えて捉えると、まさにE-Learning一色という感じがしました。そして、昨年に引き続きリーダーシップに関するセッションが多く、新しい傾向としては、リテンション(雇用維持)、文化融合などのテーマがやや増えてきているのが印象的でした。 EXPO会場は、大手出展社のほとんどが、E-Learningを展示していました。
昨年に比べると各ブースが小さくなっている印象があり、B2Cをターゲットとしたラーニング・ポータルサイトの出展がほとんどなくなっていました。 昨年は大小混在していたコンテンツプロバイダーも大手に集約する傾向が見られ、コンテンツプロバイダーとLMS(ラーニング・マネジメント・システム)を提供している企業、そしてSABAのようなB2Bのフレーム提供企業とのアライアンスが複雑に絡み合っていました。
提供しているサービス・製品はコンピュータの中に入っているため、端から一目見ただけでは、その会社の内容がわからない状態になっています。それぞれのブースでプレゼンテーションを聞かないと情報を取ることができないため、各ブースでは客寄せの工夫を凝らしており、従来の景品配りが減って、トランポリンの曲芸を見せたり(アチーブグローバル)や岩登り(フランクリンコビー)などの派手なパフォーマンスが多くなっていたようです。
E-Learning
E-Learningはセッション数で約35セッション以上もあり、セッション全体の1割以上を占めていました。
一昨年までは、WBTや遠隔学習というテーマで、マルチメディアによる学習の将来像といった扱われ方が多くありましたが、昨年突然E-Learningという言葉が全面に出てきました。その際には、主に技術的なテーマが多く、例えば、マルチメディアの活用、プログラミングツール、デリバリープラットフォーム、ブロードバンドの限界といったのが主流でした。
本年はE-Learningのテーマが、個別的になってきた観があります。
論じる視点としては、インストラクション、テクノロジー、グラフィック、ユーザーに大きく分けることができます。 その内、インストラクションの内容としては、いかにうまく運用させて、失敗させないかというテーマが多くありました。成功させていくための視点をいくつものセッションで紹介していましたが、共通して強調されていたのは、E-Learningはツールなので、企業の戦略や目的と一致させなければならないという点でした。
そして、2つ目は受講者のモチベーションを高めるために、メンタリングなどのインタラクティブな要素を取り込むことが必要であるという点です。
また、集合研修はなくなることはないので、深い部分を対面式の研修で行い、ベースのところをE-Learningでやるといったような組み合わせ(=ブレンディング (Blending) )を考えていく必要があることが強調されていました。
ユーザーに関しては、 ニュージャージー大学、国防省、連邦政府機関、またフォーチュン500社でのWBTの活用実態など多くの事例が提供されていました。
ROIの関心の高まりからか、E-Learningの効果測定もかなり行われていて、多人数が受講しながら、なおかつ教育予算がE-Learningのおかげて50%ダウンしたというような、めざましい成果を上げた数多くの先進企業(ファーストカンパニー、スマートカンパニーなど)の報告がされていました。 どの企業も様々な方法を組み合わせる傾向が見られました。
E-Learningの他の視点としては、E-Learningを導入する企業の文化をいかに変えていくかという問題が提起されていました。その具体的な方法としてオンライン・コミュニティーをいかに形成するかということを扱ったセッションもありました。 そのツールとしての教育的効果の限界が認識される一方、企業の活動がグローバリゼーションによって広範囲になり、さらなるスピードとコストダウンが要求される背景の中で、E-Learningへシフトしていく流れは止めることができないという印象を受けました。
ROIインパクト
ROI関係では、ROIインパクトという言葉を使っているセッションが多くありました。この分野に属するセッションは、3〜4年前から増えてきていますが、特に今年は、約15セッションも開催されていました。
内容的にはトレーニングの評価や効果測定に関するもの、パフォーマンス測定に関するものが多いようです。今年はかなり具体的な測定・分析の方法が紹介されるようになりました。米国の先進的企業では、トレーニングの効果測定を行うのが、すでに一般的になっているようで、先進企業の効果測定がどのように行われているかを紹介するセッションも見られました。
この分野では、ジャック・フィリップス、ロバート・ブリンカホフ、ドナルド・カークパトリックなどの草分け的存在がセッションをもっており、彼らの書籍がEXPOのブックストアでもROIというテーマで新設された棚の中に多数並んでいました。
リーダーシップ
リーダーシップは古くて新しいテーマといえます。今回は10近くリーダーシップ関係のセッションがあり、 特にエグゼクティブやCEOのリーダーシップをどう開発するかというセッションが多かったようです。
組織コミュニティーが変化し、コミュニケーションプロセスや情報の流れ、労働人口構成、さらに価値観や文化が変わって、仕事の質そのものも変化していく中で、リーダーシップのスタイルも変えざるを得ないという状況が共通に認識されているようでした。
そこで、新しいリーダーの行動や生き方を事例や比喩で論じているセッションと、実証的な調査で新しい特性を明らかにしようとするセッションが見られました。
事例では、ディズニースタイルのリーダーシップというセッションや、南極探検の事例などがありました。ケン・ブランチャードもオズの魔法使いの映画を参照しながら、新しいリーダーシップについて論じていました。
実証研究では、従来のリーダーシップとの違いを論じているものが多く、成功しているリーダーの特性を明らかにするモデルが多く紹介されていました。良いリーダーを育成するために、コンピテンシーに加えてリレーラー(レールからはずれている特性)を押さえる考え方が提示されていました。 また、グローバルマネジメントという仕事の中で必要とされるリーダーシップも1つの焦点になっているようでした。
リーダーシップに関しては、今までのやり方ではいけないので、特にエグゼクティブに新しいリーダーシップを身につけてもらいたいという共通認識はありながら、何をどのように開発していったらよいのかの方法論を、皆で提案し合っている状態で、まだ決め手はないといったような印象を感じました。
今後は、具体的なプロセスと成功例が紹介される方向にいくと思われます。それは、メンタリング、コーチングやコミュニティー、E-Learning、360°フィードバック、アセスメントなどのツールとの関係で扱われると思われます。しかし、リーダーシップとは生き方や哲学・思想・バリューといった領域と密接な関わりがあり、単なるトレーニングや知識教育では手が打てない領域であるので、どのように気づきを起こしてもらい、どうやったら変わってもらえるかといった「解」を得るには、従来の教育の枠組みを破る発想が求められるかもしれません。
リテンション
リテンションに関しては今年は6セッションほどに増加していました。
テーマとしては、いかに良い人材を引きつけるかというものと、いかに引き留めるかというものに二分されていました。これは、米国の企業で優秀な人材が3カ月ほどで辞めていってしまう傾向に対応しているものだといえるでしょう。こういったテーマをリテンション・ストラテジーと呼んでいるセッションもありました。
論調としては、ただストックオプションを出しても、金では人をつなぎ止めることはできないので、どうするかということですが、細かいリウォードを論じているセッションから、バリューやビジョンの共有という視点から論じているものもあり、まだこれだという方法論は確立されていない印象でした。
ただし今年出てきた新しい観点としては、ハイパフォーマーが働きたいと感じられる職場環境を持続する方向でリテンションが論じられていたことが指摘できます。チャレンジや知的好奇心、創造性を発揮しつづけられるような組織づくりが、リテンションを高めるといった見解が出ていました。 今後、具体的な方法論が整理されていくことになるかと思われます。
その他の傾向
M&Aでの文化融合の問題や、クロスカルチュラルでの多文化融合マネジメントなど、文化融合のテーマが5セッション程度見られました。 またイノベーション・組織変革のテーマなどでは、コロンビア大学の心理学と教育学の教授であり、「組織イノベーションの原理 (原題 Business Climate Shift)」(ダイヤモンド社)が日本でも出版されているウォーナー・バークやVISAの創業者であり、「混沌と秩序(原題 Birth of the Chaordic Age)」(たちばな出版)が日本では出版されているディー・ホックもセッションをもっていました。 キャリア開発のセッションも4セッション程度ありました。
安定しているのは、パフォーマンスコンサルタントで4セッション、減ってきたのは、エモーショナルインテリジェンス(EQ)でした。 ナレッジマネジメントも4セッションぐらいあり、システム思考は2セッションありました。
ASTD2001 エキスポジション
本年のエキスポの概要は以下のとおりでした。
出展社数
6月6日付のASTDのホームページによると、エキスポでの展示は500社を超えていた。
展示日時
・月曜日 4:00p.m.−7:00p.m.
・火曜日 10:00a.m.−5:30p.m.
・水曜日 9:30a.m.−4:00p.m.
エキスポの内容
◆全体の印象
前年度よりE-Learningという言葉がASTDで使用され始めたが、1年が経過した今年のEXPOは、セッション同様まさにE-Learning一色であった。
昨年から変化したところは、雑多に登場し始めたE-Learningベンチャー企業も整理され、淘汰の時期に入り、全体として出展の規模が小さくなった感があったことと、ポータルサイトがEXPOから姿を消し、E-Learningの主流がBtoCから企業向けのBtoBに完全に移行した様子がうかがわれた。それに伴い、企業にE-Learningを導入するにあたって必要となるLMS(Learning Management System)に関する出展が圧倒的に増加しているのが、今年度の傾向であった。
また、i-Authorに代表されるようなオーサリングソフトは、XMLの発達に伴い、かなり使い勝手がよくなっており、パワーポイントを使用するかのように簡単に編集作業ができるようになった。これに伴って、今後ますますコンテンツの多様化が進行するものと考えられる。
◆Saba
今回のエキスポの中で、いっそう大きなブースを出展していたのが、LMSベンダーのSabaであった。デモンストレーションでは、Procter&Gamble社に導入したRapidLEARNというE-Learning Programの成功事例を紹介していた。
Saba Learning Enterpriseのデモでは、AICC(Aviation Industry CBT Committee)の規格に沿っており、さまざまなベンダーの提供するコンテンツがSabaの1つのプラットフォーム上で機能していることが強みだと強調していた。また、トータルでソリューションを提供するために、さまざまな企業と提携してE-Learning Businessを行っており、パートナー企業の数は90を超えると言っていた。
◆SkillSoft
コンテンツベンダーの中では、SkillSoft社が多くの人を集めていた。デモの内容は、コンテンツではなく、1年ほど前からSkillSoft社が独自に開発した、SkillPortというLMSについての発表であった。
この自社LMSにより、他社プラットフォームと共同でコースを開発した場合半年から1年ほどかかるリードタイムが、数週間に削減され、コストも大幅に改善されるとのことであった。
コンテンツの中身は多岐に渡っており、財務やITに関するカリキュラムをはじめ、リーダーシップやコミュニケーションといったソフトスキルに関するコースも用意されていたが、残念ながらLMSの説明が主でコンテンツの詳細は述べられていなかった。
◆Click2learn
Click2learnは昨年と同様”ToolBook II Assistant”及び”ToolBook II Instructer”というオーサリングソフトに関するプレゼンテーションを行っていた。Click2learnは、日本ではソフトバンク社にディストリビューションしており、現在ToolBook IIの日本語翻訳バージョンは出ていないものの、近日中に発売されるということであった。 ToolBook IIに関しては無料でお試しCD−ROMを配布していた。本体の値段は2500ドルほどであり、一般的なオーサリングソフトと大差のない価格帯であった。
その他の出展
その他出展していたE-Learning企業の情報を以下に簡単にまとめる。
「Smart Force」
2000を超える主な法人顧客と、重大なトレーニングビジネスプロセスのために企業にE-learningソリューションを提供する会社。 企業全体に渡る解決(シングルユーザーからグローバル企業まで)を提供している。 E-learningの特徴としては、dynamic, operates in real-time, collaborative, individualize, comprehensiveと挙げていた。E-learningでは一歩先を行くものの、デジタルコーチングをいかに行うかが課題のようである。
「DigitalThink」
ラーニング環境の提供やレポート分析、企業のゲートウェイを作る会社。 カスタマーデベロップメント、セールストレーニング、テクニカルトレーニング、プログラムトレーニングなどを提供している。
成功した例では、チャールズシュアブでは、構築されたもの、また既存で予期される顧客登録の何倍ものペースのでクラス最高の投資学習センターを展開させた。それにより、低コストなどを実現したようだ。今後、よりアクティビティが重要になるようだ。 他に成功させた企業として、サンマイクロシステムズ,3comなどがある。 エンタープライズアプリケーションとしては、e-commerce、HR,CRM、LMSを行っている。
THINQ
この会社ではプロバイダーコンテントとラーニングマネジメントシステムを扱っている。
ここにRockwellAutomation社におけるケースを紹介する。
・チャレンジ 競争上の優位としてそのオートメーション・システム上で顧客トレーニングを使用しようとした。
・ストラテジー 顧客を訓練し、顧客関係を支援し、かつY2K従順なシステムを備えたトレーニング管理を中心に
集めるためにTHINQ trainingserver学習経営組織を使用した。
・リザルツ 顧客は、その製品の使用の中で上手に訓練されており、スタッフとのよい関係をもっている。今、
従業員はレコードを管理上に続くことではなく、顧客ニーズに注目することができるようになったのである。
以上エキスポの概要と特徴をまとめたが、昨年と比べて派手さはなくなってきており、ASTDのセッションと同様実質的なコンテンツ重視に移り変わってきているようだった。