ATD(The Association for Talent Development)
ASTD2005概要
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ASTDについて
ASTDは、1944年に設立された非営利団体で、世界中の企業や政府等の組織における職場学習と、従業員と経営者の機能性の向上を支援することをミッションとした、訓練・開発・パフォーマンスに関する、世界第一の会員制組織です。米国ヴァージニア州アレクサンドリアに本部を置き、現在100以上の国々に70,000人余りの会員(会員には20,000を越える企業や組織の代表が含まれる)をもっています。
ASTDは国際的な企業と産業の訓練資源に対して比類ないアクセスをもち、この団体の事業は、世界の最高水準にあると認められています。ASTDは、トレーナーやトレーニング・マネジャーたちに専門的な開発材料やサービスを提供し、職場における学習促進を援助し、世界中の政府・企業等、各種組織に属する従業員や役員たちのコンピタンス・パフォーマンス・充足感を高める手助けをすることを使命としています。
ASTD2005
2005年もASTDコンファレンスが、6月5日〜9日(プレコンファレンス・ワークショップ:6月3日〜4日)の期間、『YOUR TIME IS NOW.THE FUTURE IS CALLING(HERE) 』というテーマのもと、米国フロリダ州オーランドのオレンジ・カウンティ・コンベンションセンターにて開催されました。
ASTDが毎年開催しているこのコンファレンスは、今年で60周年を迎え、今年は、世界中から企業の人材開発関係者やコンサルタント、教育機関・行政体のリーダーなど約9000人が集いました。
コンファレンスでは、3人の基調講演と300以上のコンカレントセッション、および300以上の出展社によるEXPOが開催されました。
ASTD2005では、そうした催しを通して、人材開発やマネジメントにおいて企業や行政体が現在直面している諸問題とソリューションの動向をうかがうことができました。
ASTDの今年のチェア(議長・委員長)はリタ・ベイリー氏で、プレジデント・CEOは、トニー・ビンガム氏が昨年に引き続き担当しています。開会の挨拶でビンガム氏は、ワークスペース・ラーニングとプロフェッショナル・パフォーマンスの関連性と重要性が高まっていることをあげていました。
ビンガム氏によれば、組織の重要性が高まるにつれて、プロフェッショナルな能力と組織の能力を高めていく必要があると述べていました。そのためには、スキルギャップを埋めて、コンピテンシーを高めたり、個別の仕事の関連性を高めることをクライアントに提供していくことができなければならないということでした。
今後は、ラーニング・トレーニング担当CLOやHRが組織全体に認知され、ビジネスパートナーになる必要があります。ラーニング・トレーニング担当は、リーダーとのパイプラインを作ることで、組織が必要としているコンピテンシーを開発する計画を策定していきます。そのためには、ファイナンスを理解しなければならないと訴えていました。
米国では470万人が失業しているが、実際には組織の67%が新しいスキルの必要に直面しているものの、内部ではカバーできないため、その47%が外部から調達しているそうです。そこで組織は今後、どんなスキルが将来必要なのかを理解させ、ダウンサイジングが起きないように、スキルの足りない人に変化にコミットするように推進していく必要があると語っていました。また、ASTDではラーニングと組織を高めていくために、DDIと協力をして、「マッピング・ザ・フューチャー」を出しました。これによって、人事関係者のプロフェッショナル・パフォーマンスを高めることができるようになったとしています。そして、ASTDのビジョンは、集合的に、かつ協働的に、より効果的な世界をつくっていくことだとまとめていました。
ASTD2005の参加国・参加者数
本年の参加国数と参加者数は以下の通りとなっています。
参加者総数
約9,000名
参加国数
72カ国
米国外からの参加者が多い順
韓 国:327名
日 本:214名
カナダ:195名
オランダ:91名
ブラジル:90名
ASTD2005の主要テーマ
ASTD2005は、 以下の9テーマを中心に展開されました。
1.Career Planning and Talent Management (キャリアプランニングとタレントマネジメント)
2.E-Learning (Eラーニング)
3.Leadership and Management Development (リーダーシップとマネジメント開発)
4.Performance Improvement(パフォーマンス改善)
5.Learning as a Business Strategy (ビジネス戦略としてのラーニング)
6.Measurement, Evaluation, and ROI(測定、評価、ROI)
7.Facilitating Organizational Change(組織変革をファシリテートする)
8.Personal and Professional Effectiveness(個人的および職業的効果性)
9.Designing and Delivering Learning(ラーニングをデザインし、デリバリーする)
これを昨年のテーマと比較すると次のようになります 。
ASTD2005の全体的傾向
ASTDコンファレンスでは、基調講演を除いて20以上のセッションが同時に開催されているため、個人ではコンファレンスの全貌を把握することが難しいと思います。そこで、コンファレンス期間中に、ヒューマンバリューが毎晩開催している情報交換会で発表された内容をもとに、ASTD2005でみられた特徴的な傾向を紹介したいと思います。
まず、コンファレンス全体として、今年は昨年に比べて参加人数が数千人多かったと思われます。しかしながら、内容面では、表面的には際立って目新しいテーマは見受けられませんでした。またEXPOも規模が縮小している印象をもちました。
ファイナンスを知ろう
様々なセッションで、「ファイナンスのことを理解しよう」という発言が多く見受けられました。これは、人材開発スタッフがもっと影響力を高めるためには、経営層や予算を管理している部門に対して、彼らが受け止められる言葉で語ろうということです。この内容は、ASTDのCEOであるビンガム氏のスピーチや、パフォーマンスコンサルタントで有名なデーナ・ロビンソン氏の「どうしたら経営会議の席を獲得できるかといったセッション」(M102)でも紹介されていました。また、レベル4の効果測定で有名なドナルド・カークパトリック氏の息子であるジェームス・カークパトリック氏(SU309)は、レベル4とBSCを合体する方法を紹介していましたが、その試みも同様のねらいがあろうかと思います。
パフォーマンスコンサルタントの変化
HPI(ヒューマン・パフォーマンス・インプルーブ)のグループが取り上げてきた内容に、変化が見られました。1つは、HPIがなぜ失敗するのかという反省がジョー・ウイルモア氏(SU310)から提示されていました。また、デーナ・ロビンソン氏のセッション(M102)でも、パフォーマンスコンサルタントは戦略的なパートナーとならなければならないという考え方が発表されていました。当初は、クライアントのニーズにソリューションを提供するのがパフォーマンスコンサルタントであり、戦略は扱わないという印象だったのが、実際にはそれではうまくいかないことから、取り組み姿勢を変えてきたものと思われます。
ROIの変化
研修のROIをテーマにしたセッションの数は、昨年に比べて減少傾向にありました。従来のROIを取らなければだめだという勢いが消えて、すべてにそれが必要なのではなく、計測できない大事なものもあるのだという調子に全体的に変化してきています。5段階モデルで有名なジャック・フィリップス氏のセッション(M105)でも、ROIを実際に測定しているのは企業の5%程度であるといった紹介をしていました。また、リン・シュミット氏とジョン・ミラー氏(TU203)のセッションでは、昨年の発表と同様に、ROIの算出方法として、生み出した業績額に対してプログラムの貢献度を掛け、さらに信頼性を掛けることでアウトプットを算出し、それを費用で割るという方法を紹介していました。
また、これと同様の方法でROIを算出した事例が、ASTDの賞を受賞していました。これは、ブース・アレン・ハミルトンのバニーダ・パーカー・ウィルキンス氏のセッション(TU211)で、エグゼクティブ・コーチングの導入にあたって、コーチングのROIを測ったものです。その手順は、どういうアウトプットが欲しいのかを経営層にまず聞き、その結果、顧客との関係やチームワークなどの8項目を掲げたそうです。そして、8項目それぞれについてどのような伸びがあったのか、金額で受講者に聞き、その額の高い上位2人をデータから省いたものに、貢献度と信頼度を掛けて、さらにそれを50%にするという計算方法です。事例では、その結果ROIが600%であったということですが、論理的な根拠の希薄な、荒っぽいやり方であるという印象は拭えません。しかし、この事例に対して、ASTD側が賞を授与したということが、ROIの今後の動向を占う意味で興味深いと思います。こういった背景には、ROIは理屈ではきれいだが、実際にやってみるとうまくいかないという結果が出たのではないでしょうか。また、別のセッション(W312)では、ROIといった現在の価値を測るものではなく、EVA(企業経済価値)といった将来にわたる価値を測定していく方法を模索したらどうかという提案も出ていました。
リーダーシップの動向
リーダーシップ開発に対する関心は、相変わらず高いものがうかがえました。流れとしてはいくつかの方向性が見受けられます。
リーダーのロールモデルまたは実践からの教訓
1つは、基調講演などに見られるように、高い業績を上げた人のリーダーシップについての考え方を聞こうというものです。
基調講演では、ニューヨーク・シティ・アカデミーのCEOであるボブ・ノウリングがスピーチをしました。ボブ・ノウリング氏は、これまでAmeritech社や、官僚的で業績の著しく低かったUSWest社の組織変革を行い、高い業績を上げてきました。そのノウリング氏は現在、ニューヨーク市における深刻な教育問題を解決するために、学校の先生や生徒、そしてコミュニティの両親たちを触発し、学校の校長先生をチェンジ・エージェントへと変革させることに従事しています。
ニューヨークの就学児童は110万人にも昇りますが、識字率は低く、また1200の学校組織があり、50以上のカリキュラムがバラバラに行われているうえ、教師の欠席率が11%のために9000人の代理教員がいたそうです。
こうした事態に対して、ノウリング氏は二桁台の改善を行っています。講演では、そういった際に、組織を変容させるにはどのようなリーダーシップがポイントとなるのかを紹介していました。組織を目覚めさせるには危機感が必要であり、また、変化の必要性についても人々に理解してもらうことが重要であると述べていました。そのためには、モチベーションを高めるようなビジョンを与え、社会的な組織を見直していくことを同時に行わなければならないという説明をしていました。
2つ目の基調講演では、今回の目玉というべき元ニューヨーク市長であるルディ・ジュリアーニ氏のスピーチがありました。壇上に登場しただけで、ほとんどの聴衆が立ち上がり、拍手で迎えました。これはASTDコンファレンスでは珍しいことで、ジュリアーニ氏を称える参加者の気持ちの現れかと思います。氏の業績として9.11への対応でみせたリーダーシップや、犯罪発生率を65%低下させ、ニューヨークを全米で最も安全な都市へと変化させたことがあげられますが、取り組みの中で、どのような姿勢や態度、行動が必要だったかを説明していました。またそのスピーチは、キング牧師やレーガン元大統領などの例を示しながら行われ、卓越したプレゼンテーションでした。
ジュリアーニ氏のメッセージは、「リーダーシップは学ぶものである」ということです。そして一番大事なことは、「自分の信じていることが何かを知らなければならない。それがないとリーダーはフォロワーになってしまう。信じて、行く方向を定めることが重要だ」ということでした。そして2つ目は、楽観主義でなければならないということです。最初に掲げた2つのポイントは、他のセッションでも強調されているポイントだったと思います。
リーダーシップのレベル論
もう1つのリーダーシップの動向は、リーダーシップのレベル論といったものです。「リーダーシップは開発可能である」とか、「組織の1人ひとり全員がリーダーなのだ」といった考え方が主流になりつつあります。開発可能であるとすると、その発達段階を明らかにすることが必要になるため、そういった試みが出ているものと思われます。
ジョン・マクスウエル氏(TU217)は、リーダーシップが成熟していく段階として5レベルのリーダーシップを提唱していました。ポジションレベルからパーミッション、プロダクション、ピープルデベロップメント、パーソナリティという5レベルでした。
また、毎年1000人近い聴衆を集める人気のケン・ブランチャードもスーザン・フォウラーと一緒に、「なぜエンパワーメントは失敗したか」というセッション(W221)で、セルフ・リーダーシップから始まり、ワンツーワン・リーダーシップ、次がチームリーダーシップ、そしてオーガニゼーション・リーダーシップに移行していくのだと紹介していました。
リーダー開発に向けたセルフ・ノーイング
3つ目のリーダーシップの動向は「セルフ・ノーイング」であると思います。
これは、米国ではもう当たり前のようになっているのですが、リーダーシップを開発するには、まず自分自身について知らなければならないということです。自分を深く知る能力が他人に影響を与えるという考え方は、昨年も出ていたBEINGとDOINGの違いと同様のテーマだと感じますが、これはすでに定番になっている印象を受けました。
アレックス・パタコス氏の「自分の思考の囚人となる」という満席のセッション(SU311)では、ビクター・フランクルの原理を使って、自分にとって意味のある仕事とは何かを探求し、個人が自分のミッションを深めていくことで人々のモチベーションを高め、ポジティブな状況を作り出していくことを提唱していました。
「リーダーシップ・レガシィ」をテーマにしたセガ・カバヒル氏(M206)は、人は自分の人生に影響を与えた人を記憶するとしています。それは学校の先生であったり、様々な人がいます。このように、人は人に対して影響を与えているから、1人ひとりが皆リーダーだといえます。そして、そのパワーを高めるには自分の強みを知らなければならないと説明しています。また、これからのリーダーはセルフサービングリーダーではなく、サーバントリーダーでなければならないとし、ビジョン作成はトップダウンでピラミッド型であるが、インプリメンテーション段階では、逆さまのピラミッドを描き、現場の人やお客さまに対してサポートしていく関係をつくる必要があるとしていました。
リーダーシップ開発のプログラムも長期間のものが多く、自分を知り、周囲を知り、組織を知り、プランを作成して実践するといったプロセスが多くなっています。また、今までの様々な手法を統合しているようなプログラムも出てきました。(TU303)
コンテクストの重要性
知識や技術の更新スピードが速くなり過ぎた結果、従業員間のスキルギャップがますます広がっています。いままではコンピテンシーを明確にして、スキルギャップを埋めるといったことをトレーニングで行ってきたわけですが、それでは間に合わなくなってきました。そこで、教える人と教わる人という関係でなく、知識の生成と獲得がワークプレイスで同時に起きなければならないという状況になっています。従来のイベントとしての集合研修の位置づけが弱まり、トレーニングを行うことより、従業員が自ら知識を獲得してもらえる状況をつくることが必要になってきていると思います。そこで、重要になってきたのが、コンテンツを教えることよりも、コンテクスト(文脈)を獲得・共有することです。今回のASTDでは、このコンテクストをいかに伝えて共有するかを扱ったセッションが多くありました。
トヨタウェイ(W310)というセッションでは、2001年に作成したトヨタウェイを浸透させるためのケンタッキー工場の取り組みを紹介していました。トヨタウェイをティーチングではなくディスカバーしてもらうために、「ディスカバリー・マップ」を使ってゲームを行う試みです。これは、トヨタの過去をマップにした人生ゲームのようなカードゲームになっていて、トヨタの歴史を教える中で、なぜ改善が重要なのかなどのコンテクストを理解してもらうことができるものです。ちなみに、この手法を紹介しているパラダイム・ラーニングやルート・ラーニング社のEXPOのブースは、昨年よりも大規模なものでした。
また、リーダーはコンテクスト(文脈)を共有させるために、俳優の使う影響力を開発しなければならない(TU408)といったACTなどの応用や、テキストなしで、有名な絵画のコピーだけを使ってプレゼンテーションのポイントを教える(W112)セッションも新しい試みとして興味を引いていました。
また、ストーリーテリングという手法が様々なセッションで活用されています。インスピレーショナル・リーダーシップでもストーリーテリング(W117)を紹介していました。リーダーシップは二律背反を統合することが大切であり、それにはエモーションをどう共有するかがポイントで、それにはストーリーテリングが効果的(W304)だということです。
コンファレンス最終日の基調講演でも、コンテクストが強調されていました。講演者である写真家のスティーブ・ウゼル氏は、『ナショナル・ジオ・グラフィック』の編集長を務め、50冊以上の著書があります。ウゼル氏は、聴衆を魅了する感動的に美しい写真を大画面に映しながらスピーチを行いました。ウゼル氏によれば、写真は撮るものではなく、作るものだそうです。常にコンテクストが先にあり、それが画像になるそうです。そこにどんな関係性があるのかを知ることが不可欠で、それから入念に準備し、解決までをオープンロード(広がりのある空間にどこまでも伸びていく道)のように視覚化する必要があると説明していました。このソリューションがしっかりしていると、突然の変化に対応ができるし、チャンスが偶然のようにやってくるのだと、ウゼル氏自身の体験談とその時の写真を使って紹介していました。そして、現代の人々はフォーカスを絞りすぎているために、コンテクストの大きな写真がわからなくなっているとのことでした。
ディスカバリー・マップや、絵画・写真・映像の活用、そしてストーリーテリングなどは、文字にして整理された情報よりも、多次元の情報を織り込むことができ、経験や文化・意味などを多面的に認知することが可能です。そういった素材が、背景にある関係や状況をそのまま獲得・共有してもらうためのツールとして、今後活用が進んでいくものと思われます。
エンゲージメントとリテンション
リテンションの問題は、人々が辞めてしまうことによる育成費用のロスや知識・技術の流失からくる損失が膨大な金額になることの認識から、最近注目されてきています。
ベバリー・ケイ氏(TU115)は毎年、リテンションの問題を扱うセッションをもっています。3年前は辞める理由に焦点を当てて発表しており、昨年は自分自身のリテンションを扱い、今年は辞めない理由に焦点を当てていました。辞めない理由は国によって異なっているが、給料が一番の理由ではないということです。一対一できちんと話をすることが必要で、辞めそうになって話しかけても遅いということでした。
リテンションをするために、衛生要因を高めようという議論はすでになく、リテンションにはトラストビルディングが大事だ(W204)というアプローチが一般的になりました。
堀田恵美、川口大輔、吉澤康弘(ヒューマンバリュー:TU205)はエンゲージメントのコンセプトをアプリシエイティブ・エンゲージメントサイクルとして整理し、エンゲージメントの基本となる要因を貢献感・適合感・仲間意識の3つにあると紹介しました。そして、このエンゲージメントを高めるには、従業員の仕事に対する指向性を理解することが重要として、新しい7つの指向性の枠組みを紹介しました。そしてこういった指向性の理解を踏まえ、お互いの背景にある価値観や状況、組織に対して何を望んでいるかを話し合い、共有化することが必要で、これによってエンゲージメントを強めることができると説明しています。
Eラーニング
Eラーニングに関しては、新しい動向は特に見られませんでした。セッションとしては、シミュレーションなどの実践例の紹介が多く見られました。Eラーニングという言葉を生み出したエリオット・メージィー氏は(M302)、今はEラーニングだけでは十分ではないとした上で、知識の更新速度に合わせて学習できるように、これからはエクストリーム・ラーニングでなければならないといっています。全体的には、一時期のEラーニングブームの勢いはなくなったものの、セッションをみると、Eラーニングの12の作成原則といったベーシックコース(W404)は、相変わらず満席の状態でした。
クリエイティビティへ
組織のクリエイティビティを高めるといったセッションと、組織能力をいかに高めるかというプロセスをテーマにしたセッションが多くありました。
人々の思考や認知のあり方に働きかけることを通して、個人や組織の変革を図っていくことをねらっています。シックスハットで有名なエドワード・デ・ボノ博士の行ったセッション(SU202)もそういったテーマの1つではないかと思います。エドワード・デ・ボノ氏は、クリエイティブ思考における世界的名声をもつエキスパートで、「ラテラル思考」(水平思考と言われていましたが、最近は平行思考と呼ぶことが多い)の概念とツールを開発しました。このデボノ博士のシックスハットのアプローチは、近年話題になっているオットー・シャーマーのUプロセスやAI(アプリシエイティブ・インクワイアリー)と似たような効果があるところから、その良さを再度見直されているのではないかと思います。
以上に掲げた傾向は、主催者であるASTD側が意図して発表しているものではなく、実際の組織が生み出しているソリューションの方向性だと思います。ASTDという団体自体が取り組んでいる内容そのものは、コンピテンシーモデルの探求であったり、ROIやEラーニングをメインにしているところから、深い潮流であるコンテクストとややそぐわない運営をしているようにも感じられます。こうした状況は、2005年のASTDには底流に流れる先を読めるようなセッションがあっても、そこには30人程度しか受講者がおらず、その一方で、20年前から行っている伝統的クラスルームトレーニングの進め方のようなセッションに200人も集まって満席になっている傾向からも見て取れます。そして、ラーニングオーガニゼーション系のものや、AI、OSTなどの先進企業で積極的に採用されている組織能力を高める手法や、北欧などのユニークな取り組みがほとんど紹介されていないところが、ASTDの今後の課題ではないでしょうか。
ASTD2006のコンファレンスは、チェア(会長)もリタ・ベイリー氏からケビン・オークス氏に代わって実施されます。2006年の6月4日から8日の米国のニューオリンズでは、どんな変化が起きるか楽しみです。
ASTD2005エキスポジション
本年のエキスポの概要は以下のとおりであった。
出展社数
ASTD2005プログラムガイドによると、本年度のエキスポでの展示は約330社であった。
展示日時
・月曜日 9:45a.m.−2:30p.m.
・火曜日 11:15a.m.−4:00p.m.
・水曜日 9:30a.m.−14:00p.m.
エキスポの内容
本年度のASTDのEXPOにおいては、300を超えるブースが出展され、カテゴリーの総数は約100にも昇っていた(重複カテゴリーを含む)。例年同様、それぞれのブースでは、人々の学習とパフォーマンスの向上をサポートする様々な商品やサービスが、紹介されていた。
全体としての傾向としては、出展社数こそ昨年と変わらないものの、出展規模は年々縮小しているようであった。以前は頻繁に見受けられた派手なパフォーマンスやのぼりなどは、ほとんど姿を消していた。また、サービスや商品の説明セッションなどもDDIなど一部の会社を除いて、ほとんど行われていなかった。ASTD側も今年からEXPOアワードという賞でEXPOのブースを表彰するなど、EXPOを盛り上げるための施策が垣間見られた。
特に、2〜3年前まではEXPOのメインでもあったEラーニング専門のベンダーについては縮小の傾向が顕著であり、出展している大手企業は、プラットフォームでは、今年のカンファレンスのスポンサーでもあるSumTotalとRISC、コンテンツでは、Allen Interaction、TOMSON NETgなど一部に限られていた。ただし、昨年から同様の傾向として、Eラーニングを専門としていないベンダーの展開するサービスの中に、Eラーニングの要素を取り入れているところも多く、その活用の仕方も様々であり、Eラーニングという枠組みが姿を消して、完全に学習をサポートする一手段として根付いているようであった。
SumTotal(サムトータル)
2004年3月にClick2learnとDocentが合併してSumTotalが設立された。米国のEラーニング業界が成熟化し、環境が厳しくなる中で、業界No.1と2が、規模の拡大と互いの強みを活かしあいながら勝ち残っていくことを目的とした合併とのことであった。提供しているサービスとしては、LMS、LCMS、バーチャルクラスルーム、パフォーマンスマネジメント、レポート作成システムなどを統合したソリューションが紹介されていた。プラットフォームのそれぞれの構成要素は昨年までのものと大きな変化はなかったように見受けられた。
縮小傾向の中で、以前よりも規模を拡大して出展していたベンダーには、Root LearningやParadigm Learningなどが挙げられる。これら2社は、グループラーニングを促進させるためのビジュアルやグラフィックツールの販売、コンサルティングを行っている。特にParadigm Learningにおいては、はEXPOのみに限らず、セッションの中でも北米トヨタや東欧のアルコン社において、文化や考え方を共有する手段としてDiscovery Mapと呼ばれるグラフィックツールが活用されたことが事例として紹介されており、ここに来て注目も増しているように感じた。
今年のASTDでは、コンテクストを共有することの重要性と、共有するにあたってのドラマ、ストーリーテリング、写真、絵など、右脳に訴えかける方法の効果が多く見られたが、EXPOにおいてもその潮流が現れていたといえる。
Root Learning(ルート・ラーニング)
グループラーニングを促進させるためのビジュアルやグラフィックツールを販売するベンダーとして、創業18年目を迎えている。今年は、EXPOアワードに表彰されるなど、例年以上にEXPOでの活動に力を入れていたといえる。提供しているサービスとして、企業の歴史や背景をグラフィックに落とし込んだ「Learning Map」と呼ばれるツールを使ってコンテクストを共有するワークショップの手法などを紹介していた。またEラーニングにも力を入れ始めており、これまで紙でのみ提供していたLearning Mapを電子媒体で提供することにより、さらにグラフィックの効果を高めることと、バーチャルにワークショップを提供することを可能にしていた。
Paradigm Learning(パラダイム・ラーニング)
Root Learningの競合他社であるParadigm Learningも一際大きなブースを出展していた。創業10年を迎える同社は、Root Learning同様、Discovery Mapというツールを使って、グループのラーニングを促進させる手法を紹介していた。特に北米トヨタでの活用事例などは参加者の関心度も、非常に高かったようである。またDiscovery Mapの他にも、グラフィックを活用したビジネスシミュレーションやゲームなどを提供していた。