ATD(The Association for Talent Development)
ASTD2007概要
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ASTDについて
ASTDは、1944年に設立された非営利団体で、世界中の企業や政府等の組織における職場学習と、従業員と経営者の機能性の向上を支援することをミッションとした、訓練・開発・パフォーマンスに関する、世界第一の会員制組織です。米国ヴァージニア州アレクサンドリアに本部を置き、現在100以上の国々に70,000人余りの会員(会員には20,000を越える企業や組織の代表が含まれる)をもっています。
ASTDは国際的な企業と産業の訓練資源に対して比類ないアクセスをもち、その事業は、世界の最高水準にあると認められています。
ASTDは、トレーナーやトレーニング・マネジャーたちに専門的な開発材料やサービスを提供し、職場における学習促進を援助し、世界中の政府・企業等、各種組織に属する従業員や役員たちのコンピタンス・パフォーマンス・充足感を高める手助けをすることを使命としています。
ASTD2007の参加国・参加者数
本年の参加国数と参加者数は以下の通りとなっています。
参加者総数:
9,300名
参加国数:
78カ国
海外参加者:
1,900名強
米国外からの参加者
韓 国:432名
カナダ:196名
日 本:178名
クウェート:122名
オランダ:71名
ASTD2007の主要テーマ
ASTD2007は、 以下の9テーマを中心に展開されました。
1.Career Planning and Talent Management
(キャリアプランニングとタレントマネジメント)
2.Designing and Delivering Learning
(ラーニングをデザインし、デリバリーする)
3.E-Learning
(Eラーニング)
4.Facilitating Organizational Change
(組織変革をファシリテートする)
5.Leadership and Management Development
(リーダーシップとマネジメント開発)
6.Learning as a Business Strategy
(ビジネス戦略としてのラーニング)
7.Measurement, Evaluation, and ROI
(測定、評価、ROI)
8.Performance Improvement
(パフォーマンス改善)
9.Personal and Professional Effectiveness
(個人的および職業的効果性)
ASTD2007国際会議の傾向
今年のASTD国際会議は、目立った新しい刺激的なテーマはなかったものの、それぞれの分野における各セッションの1つひとつのコンセプトはより進化し、実践的で効果が検証された内容になってきている。しかし、一見真新しいものがないように見えるものの、セッション全体の潮流を俯瞰してみると、人材開発・組織開発の河の流れが、今年の会議で大きなカーブを描いたことがわかる。そういった意味で、2007年のASTDは、最近の中で大変に意味のある会議であったと思う。
今年の会議は、例年よりも落ち着いた印象があった。ASTDという場が、売り込みや情報収集の場から、互いに人材開発や組織変革に携わる人間がコネクトして、交流する場に進化しているのかもしれない。参加している人たちの様子を見ると、米国から参加している人の年齢層が上がっており、20代の人がほとんどいなくなっていた。また、セッションの中身も、HRD担当者のビギナー向けの内容は減少しており、コンセプトの探求やより実践的なものに傾いている感じがした。
ASTDのCEOであるトニー・ビンガム氏の挨拶によれば、2003年からBESTな企業を調査したところ、そういった企業のHRDが関心をもっていることは、1.タレントマネジメントと組織能力、2.企業の洞察力、3.ラーニングのビジネスへのインパクト(効果)の測定、4.企業の戦略に対してどのような影響を与えるか、といったことであったそうだ。
そういった企業では、ラーニングと組織と戦略のリンクを付けることができているとのことであった。そこで、いまホットなテーマは、タレントマネジメントを行って人材をプールすること、リーダーシップ開発、そしてインフォーマルネットワーキングだとしていた。ASTDでは、タレントマネジメントの重要性が高まっている社会的要因として、ベビーブーマーの退職を2015年に控え、企業が労働人口の縮小にどう対応するかを憂慮していることが伺えると指摘していた。その際に、知識の伝承を行うためには、長期のトレーニングが必要であり、コンピテンシーラダーを明らかにして、スキルギャップへの対応を図っていく必要があるとのことであった。
それを実現する方法として、HRDが取り組むべきことには、1.学習文化・ブランドをつくる、2.スキルギャップに対応するためにニーズを把握する、3.リーダー自らが教育をする、4.戦略とのマトリックスを押さえることでビジネスパートナーになる。これはHRの役割からODの役割に変化することであり、個人と組織のパフォーマンスに焦点を当てることである。そういった意味で、いまラーニングのプロフェッショナルとして働くことはすばらしいことだと挨拶を結んでいた。
では、どのような潮流の変化が起きているのかを、トピック別に概説してみたい。ただこれは、ピース(セッション内容)を筆者なりに認知してつないだ、まだらな絵でしかないので、皆様がたの探求の参考としての仮説の1つとしていただければと思う。
ポジティブアプローチ
今回の会議の全体を流れるテーマを1つでいえば、ポジティブ・アプローチといえるのではないだろうか。
基調講演の講師3人のうち2人がポジティブ・アプローチの伝道者といえる人物であった。そのうちの1人は、基調講演の最後を飾ったトム・ラス氏である。ラス氏は、ギャロップ社で強みを測定するストレングス・ファインダーを開発したメンバーである。祖父と共著で「心の中の幸福のバケツ」という本を出している。祖父はギャロップの創始者で、米国におけるポジティブ・アプローチのビジネス界の元祖ともいえるのではないだろうか。
従来のビジネスのみならず、社会全体が弱点や不足に焦点を当てるギャップアプローチといえるものが主流であった。これを別名問題解決アプローチという。このアプローチだと、あるべき基準が外からくるために、どうしても受身となってしまい、やらされ感を感じて、元気も出ないということがある。理由は他にもいろいろあるのだが、ギャップアプローチだけではだめだというので、強みに着目してきたところが最近の潮流であろう。
アン・クランスィ氏等による「アプリシエィティブ・コーチング」(SU318)というセッションでは、ポジティブ・アプローチの代表的な手法であるAI(アプリシエイティブ・インクワイアリー:肯定的な質問を用いて人や組織の強みや価値を引き出して変容につなげていく)を使ってコーチングに応用している実例を紹介していた。そのセッションでは、参加者の70%がAIを実際に体験しており、AIが普及していることが伺われた。
また、基調講演の「NEVER EAT ALONE」(邦題「一生ものの人脈力」)の著者であるキース・フェラッチ(Ferrazzi Gleenlight社のCEO)は、自分の中の弱みを隠さないで、オープンにし、それを互いがジャッジをせずに、成功するように助けてあげることが大事だと述べていた。この講演内容を聞いていると、ポジティブ・アプローチが進化して、強みに注目していこうというものから、弱みがあっていいんだという考え方に深まっていった感じがした。
同様に、「あなたは信頼されていることができるか?」というセッション(TU120)では、否定的な感情を隠さないワークが、オープンオーガニゼーション社のゲーリー・イライニング氏によって開催されていた。
こういった強みだけでなく弱みも受容していくことが、本当の組織の信頼関係を構築していくし、互いに成功することを支援し合う強いチームを生み出していくのだという考え方は、今後の組織変革やリーダーシップに大きな影響を与えていくだろう。それは基調講演の目玉であった、グット・トゥー・グレート(ビジョナリーカンパニー2飛躍の法則)の著者であるジム・コリンズ氏の説く、組織がグレートになっていく条件や、偉大なリーダーのもつ要件とも通ずるところがあると思った。
タレントマネジメント
今年のASTDでは、タレントマネジメントという言葉が目立っていた。
「人生に変化を起こすための基本的な仕組み」(M200)というセッションでは、「あなたのパラシュートは何色?」という本を36年前に書いた後も毎年書き直し続けて、900万部刊行したというリチャード・N・ボウルズ氏が講演をした。その中でボウルズ氏は、「自分の人生を変えるためには、嵐のような変化の中で変わらないものが必要だ。何が好きかなのか、また、やってきたことや達成したときにどんなスキルを使っていたのかを振り返り、そのスキルの中で一貫性のあるものを探すようにする。そして、その強みを活かせることがないかを考えるために、自分についてのすべてを1枚の紙に書き込むようにする。そうすると右脳が働く。バラバラの情報を統合するのは右脳の働きである。私はただの労働者ではない、1人ひとりが歌であり、物語をする人であることを大事にして欲しい」といったメッセージを伝えていた。
「アメリカン・エキスプレス社におけるタレントマネジメント」(SU407)というセッションでは、個人のギャップを識別し、開発計画をグローバルなネットワーク組織で共有する営みを紹介していた。
このタレントマネジメントの流れは、組織のパフォーマンスを高めるために必要な部分を埋めようと、社員個々人のタレントを管理して適材適所をしようという従来の発想から、それだけではなく、個々人にとって本当に関心があり、やりたいことを受け止め、その成長を支援する活動を行うことで、社員のやる気を高め、リテンションにつなげていく捉え方に変化していると思う。
そして、それを実際に行うのはマネジャーの仕事であるということである。マネジャーは個人の成功を支援するのが重要な役割になっているという認識が共有されつつあると感じた。
エンゲージメントと組織変革プロセス
今年は、エンゲージという言葉が当たり前のように各セッションで使われるようになった。たとえば、「バリューによる変革プロセスで社員戦力をエンゲージさせる」(SU412)というセッションでは、組織は変容しない、人々が変容するのだという観点から、エンゲージの重要性を説いていた。
また、「変革に関するアクターの視野」(M311)では、アーン・ギルバート氏等が、社員が変革にエンゲージすることや、個人的ゴールや個人的関心をコネクトすることが大切であり、重要なスタート地点は社員の個人的な関心・ゴールであると提唱していた。
組織変革においても、今年指摘されていることであるが、個人のスキルだけでなく、関心をも受け止めて、個人のやりたいことと、組織のゴールとを合わせることから始めないと、変革ができないという理解が定着してきたと思われる。
リーダーシップ開発
リーダーシップ開発では、コンセプトが大きく2つに分かれている印象があった。
「マスターが語るリーダーシップ開発の将来」(M113)というセッションでは、DDI会長兼CEOのビル・ハイムと、ジャック・センガー、ケン・ブランチャードの3人が対談した。その中でDDIのハイム氏が、リーダーの役割の複雑性が増大したことを踏まえ、グローバルなリーダーのタイプを明らかにし、そのコンピテンシーを明確にして、そのギャップを埋めていこうというアプローチを紹介していたのが、1つの傾向である。一方、ブランチャード氏とセンガー氏は、リーダーに求められる究極のポイントを語り、それを高めるトレーニングをすることが大切だと語っていた。
そういった一元派といった立場の方が大切にすることは、倫理観、人を成功させること、自分のことばかりを考えない、奉仕をすることなどである。
「キャンベルスープ社での世界のリーダーの開発」(TU113)は、DDI社が取り組んだキャンベルユニバーシティの事例を紹介したセッションであった。その内容は、世界を5つに分けて意識調査をして認識の違いを明らかに、そこでの戦略からブレークダウンされた必要なコンピテンシーを明らかにして、スキルギャップを解消するトレーニングを行って成果を上げたというものである。
こういった戦略的なニーズからスキルにきちんと分解したリーダーシップ開発と、メンター制度やアクションラーニングを用いたキャラクター(人格・人物)の醸成を重視したリーダーシップ開発が見られたが、今後はどちらも重要だということになるのではないだろうか。
インフォーマル・ラーニング、COP
今年のキーワードと言えると思うが、「インフォーマル・ラーニング」という言葉が多く見受けられた。またそれに近い言葉では「ネットワーク・ラーニング」(SU208)という表現もあった。
ただ、このインフォーマル・ラーニングとは何かの定義自体は、まだバラバラの印象である。フォーマルの反対語であるので、会社が提供するものかどうかで切り分けるのか、あるいは、クラスルームトレーニング以外の個人で学習するポッドキャスティングなどの学習をいうのかも定かでない。
こういった言葉が出てきた文脈からいうと、会社が公式に提供しているかどうかという点で区分けすることに今さら意味がないので、おそらく組織的にデザインされておらず、自由に学習できるものを言うのではないかと推察する。
つまり、教えるコンテンツがあらかじめ準備されているものをフォーマルといい、複雑性の高い中で、インタラクティブで偶発的な学習に委ねるような、ピア・ツー・ピアのような学習形態をインフォーマルと言っているのではないかと思う。
デボラ・トーマス氏(M207)は、水飲み場でのインフォーマル・ラーニングは新しいトレーニング方法になるとし、どうやってインフォーマル・ラーニングを促進させるかを説明した。
また、1つの大きな傾向として、コミュニティ・オブ・プラクティスがまた注目されてきた。「ラーニング及びナレッジ管理戦略としてのコミュニティ・オブ・プラクティス」(SU215)では、ラーニングと情報の共有のほとんどは、ピア・ツー・ピアのインフォーマルなレベルで行われるところから、COPが重要として、米国陸軍の事例を紹介していた。
ストーリー、即興
今年のASTDでは、ストーリーという言葉や、即興(インプロビゼーション)という言葉を多く目にした。
ダグ・スティーブンスン氏が「ストーリー・シアター・メソッド」(SU301)を昨年に続いて提唱していた、このストーリー・シアターの情緒的なレッスンが、エモーショナルトリガーとなり、こういった右脳的なものが、人の気持ちを引き出すのだそうだ。
そういえば、ロールプレイングという手法はEラーニングでしか見なくなった。あらかじめ決められたコンテンツを学習するのがロールプレイングだとすれば、即興性を重んじるのがストーリー・シアター・メソッドであろうか。
「組織的変革のリーダーのための即興」(SU406)のセッションでは、モリーン・ケリー氏が、即興によってリーダーのパフォーマンスを向上させる方法を紹介していた。
研修の効果測定について
ROIというテーマは、今年また多くなっているような気がしたが、中身も大きく変わっている。従来のような詳細緻密な計算を行ってROIを出すという手法は影を潜め、代わりに、より簡便にインパクトを計る方法を紹介しようとするセッションが多かった。たとえば、ホーリー・J・バーケット氏の「ROIはより少ないコストで行う」(SU316)というセッションに代表されるようなテーマが多く見られた。
また、効果測定のパイオニアであるロバート・O・ブリンカホフ氏は、サクセス・ケース・メソッドを紹介していた。(SU401)インパクトのない数百のプログラムを分類してみると、その原因としては、準備不足が40%、研修自体とデザインの悪さが20%、研修後の実施を阻害する環境が40%になっているそうである。そこで、トレーニングの研修プログラムそのものを評価するのではなく、会社がそれを使って、成果を出しているかを評価しなければならない。それには、一番成功している人は誰で、失敗している人は誰かをみることが大切であるとし、受講者に簡単な質問をして、実際に使って効果をあげた人を見つけ、なぜ効果を出すことができたかを明らかにする。こうして組織のパフォーマンス改善を推進するために、マネジャーがレバレッジとして活用できる反復可能な要因とプラクティスを特定し、ビジネスケースを作るという方法を紹介していた。
シスコ社の事例(SU315)では、実際にサクセス・ケース・メソッドのような方法を活用して、リーダーシップ開発のビジネス・インパクトを測定した例を紹介していた。これはリーダーシップ開発プログラムの評価プロジェクトであり、フィリップ評価モデルのレベル3から5を測定するために、サクセス・ケース評価を行ったものである。
インストラクショナル・デザイン
今年は、「インストラクショナル・デザインのADDIEの設計プロセスは、実際的ではないのではないか」といった疑問が提示されていた。その背景としては、何を学ぶかのゴールをあらかじめ特定できなくなったことや、偶発的な学習には向かないということ、そして、Y世代に重要なひらめきといった発想が生きてこないといった理由があげられる。
マイケル・W・アレン氏の「あなたが知っているインストラクショナル・デザインなど忘れなさい・何かおもしろいことをしなさい」(M202)というセッションでは、コンテントの単なるページめくりのプレゼンテーションや質問を超越したEラーニングを設計するには、従来のインストラクショナル・デザインでは限界があることを提示していた。
また、ニール・ラッシャー氏の「インフォーマルで仕事の流れに沿ったEラーニングをどう設計するか」(M209)では、ティーチングのアプローチをベースにしたインストラクショナル・デザインは、急速な変化と高度なテクノロジーの状況の中では、ほとんど使い物にならないとしている。
シバサイラム・シアガラジャン氏(M300)はインストラクショナル・デザインの代替的アプローチを説明した。自己組織化の考え方を活用した、より速く設計するための協働的アプローチを提唱していた。
Eラーニング
Eラーニングでは、「Eラーニング2.0」という言葉が登場していた。
WEB2.0、wikiぺディア、ソーシャルブックマーキング、ポッドキャスティングなどの変化を受けて、1分間で学習できるコンテンツが重要になっているということである。
これはモバイルワーカーという伝統的な仕事場にいない人が、2004年は6億5000万人、2009年には8億5000万人になり、世界の労働人口の4分の1にあたるといった背景がある。
モバイルラーナーを扱ったセッション(SU409)では、特に、オンデマンドのジャストインタイムの情報や、リアルタイムでのパフォーマンス・サポートシステムが重要になってくると説明していた。また、「ポッドキャスティングで前線のパフォーマンスを変容する」(M111)といったセッションがあった。
2001年にEラーニングを書いたマーク・ローゼンバーグ氏は、最近「Eラーニングを超えて」というタイトルの新刊を出している。氏によるセッション(SU201)では、Eラーニングを再定義して、「Eラーニングとは本当は何なのか。できることとできないことは何かを特定しよう」という解説をしていた。
「遠隔教育にフローを創造する」(SU410)のセッションでは、フローが起こらないと学習が起きないことから、チクセンミハイの8つのフロー体験をEラーニングに取り込むことを提唱していた。
こういった流れをみると、Eラーニングにポジティブ心理学や社会構成主義の流れが融合してきていることが伺えた。
WLP、HPI
以前からあった言葉であるが、今年はWLP(ワークプレイス・ラーニング・パフォーマンス)という言葉が当たり前のように使用されているのが目立った。
HPIの考え方は、米海軍でのHPIの事例紹介(SU417)からも伺えるように、いまやHRDのスタッフには常識になっているように感じられた。
パフォーマンス・コンサルティングという著書で一躍HPIの考え方を世の中に広めたデイナ・ゲインズ・ロビンソン氏は、「パワフルな質問をしなさい」(M101)というセッションで、わかりやすくこの考え方の枠組みを解説していた。
ご主人のジェームス・C・ロビンソン氏は「パフォーマンス・コンサルティングを次のレベルにもっていく」(SU317)というセッションで、HRDのスタッフがいかに戦略的パートナーになるかといったテーマを扱っていた。
以上、筆者なりにトピック毎に浮かび上がった潮流をまとめたが、これら全体がまた1つの大きな潮流になっていると思う。しかしながら265のセッションと3つの基調講演のどこを取り上げるかで、また描ける図も変わるのではないだろうか。
来年の2008年は、気候と風景の良い西海岸のサンディエゴで、6月1日から4日まで国際会議が開催される予定である。その時には、この潮流がどのような変化を起こしているのかが楽しみである。
ASTD2007エキスポジション
本年のエキスポの概要は以下のとおりであった。
○出展社数
ASTD2007プログラムガイドによると、本年度のエキスポでの展示は約370社であった。
○展示日
・月曜日 9:15a.m.−14:15p.m.
・火曜日 9:15a.m.−16:00p.m.
・水曜日 9:15a.m.−13:15p.m.
エキスポの内容
本年度のASTDのEXPOにおいては、約370のブースが出展され、カテゴリーの総数は約70にものぼっていた(重複カテゴリーを含む)。出展社数は、昨年と同規模であり、例年同様、それぞれのブースでは、人々の学習とパフォーマンスの向上をサポートする様々な商品やサービスが、紹介されていた。
ここ数年の傾向として、派手な売り込みがなくなってきており、たまたま気になったブースの担当者と、少し長い時間をかけて話をするというスタイルが一般化してきている。戦略的HRDが求められる中、エキスポのあり方も、商品(研修プログラムやEラーニング・コンテンツ等)を大々的にプロモーションする場から、興味をもってもらった顧客からニーズを聴いていく場へと、少しずつではあるものの、シフトしていることがあらためて感じられた。
そのような全体的な傾向の中で、今年度の特徴として見受けられたのが、「モバイル・ラーニングの普及」があげられる。数年前に、「Mラーニング」という言葉が登場したが、セッションの中でも、ポッドキャスティングによる学習の事例が紹介されるなど、かなり浸透してきていると考えられる。提供されているコンテンツのクオリティもMラーニングという言葉が登場したころと比べると、格段と高まってきており、コンテンツを提供するメディアも、iPod、PDA、携帯電話など多様化していた。コンテンツの種類も、製品の取り扱いのトレーニング、セールススキル、シミュレーション、遠隔からのコーチングなど幅広いものがあった。
このように、モバイル・ラーニングが普及し始めている背景には、1.パフォーマンスを高めるために、学習の場がより現場に近づいているということ、2.学習スタイルが多様化してきていること、などが考えられる。今後のEラーニングソリューションのあり方の、1つの方向性になるように見受けられた。
(モバイル・ラーニングについての詳細は、「M111:ポッドキャスティングで前線のパフォーマンスをトランスフォームする」を参照)
「モバイル・ラーニングの普及」が進む一方で、EXPOの中では、それ以外には昨年と比較して、あまり大きな変化が見受けられなかったように感じられた。ASTDのセッションの中では、学習のあり方が、「フォーマル・ラーニング」から「インフォーマル・ラーニング」に進んでいるという傾向が、顕著に見受けられたため、それをサポートするベンダーのサービスやテクノロジーにも変化が見られるのではと期待していたが、そうした動きはまだ起きていないように感じた。インフォーマル・ラーニングでは、学習を企画する主体が、インストラクショナル・デザイナーから、学習者本人へと移行するようになる。そうなると、支援のあり方も、学習コンテンツを提供し効果を測定するといったものから、学習者同士がコラボレーションを行い、新たなナレッジを生成していく場をいかに提供するかといったことにシフトしていくことが求められる。セッションの中でも「Eラーニング2.0」という言葉が用いられていたが、学習のあり方について、より1人ひとりの学習者中心にシフトしていくことをどのようにサポートしていくかが、今後の課題となっているように感じられた。
ブースの紹介
chalk社
chalk社は、「chalkboard」と呼ばれるMobile Content Deployment System(モバイルコンテンツ提供システム)を紹介していた。このシステムでは、BlackBerryを端末として活用し、モバイル・ラーニングを実現している。デモ画面の映像もかなり鮮明であり、手に取ってデモコンテンツを見ている来場者も多かった。
OnPoint Digital社
Eラーニングのプラットフォームを提供しているOnPoint Digital社では、携帯電話を通して、学習コンテンツを提供する「Cellcast」と呼ばれるモバイル・ラーニングのサービスを紹介していた。一般的なポッドキャスティングによる学習では、学習の実行は、学習者に任せたままであるが、同社のサービスでは、音声コンテンツの取得履歴から進捗状況を把握することができるということであった。
p.o.d.Training社
p.o.d.Training社は、企業のニーズに応じたビデオコンテンツを作成し、携帯用ビデオプレイヤーなどのメディアを通じて、モバイルな学習環境を構築するサービスを提供しているとのことであった。