ATD(The Association for Talent Development)

ATD2016概要

1945年から始まったATDカンファレンスは、今年は5月22日~5月25日(プレカンファレンス・ワークショップ:5月21日)の期間、米国コロラド州デンバー、コロラド・コンベンション・センターにて開催された。今年のセッションとワークショップの数は480以上、また、エキスポのブースも400以上開設された。

関連するキーワード

ATD2016の参加者数

・トータル
  10,200名

・米国外からの参加者(総数)
  1,800名

・米国外からの参加者(国別・多い順)
 1.韓国:274名
 2.カナダ:196名
 3.日本:156名
 4.中国:142名
 5.イギリス:90名

ATD2016の主要テーマ

今年掲げられた14個のセッション・トラック、および各トラックのセッション数は、以下の通り。

・ラーニング・テクノロジー(Learning Technologies):40セッション
・リーダーシップ・ディベロップメント(Leadership Development):46セッション
・トレーニング・デリバリー(Training Delivery):24セッション
・インストラクショナル・デザイン(Instructional Design):31セッション
・ヒューマン・キャピタル(Human Capital):42セッション
・キャリア・ディベロップメント(Career Development):28セッション
・グローバル・ヒューマン・リソース・ディベロップメント(Global Human Resource Development):25セッション
・ラーニングの測定と分析(Learning Measurement & Analytics):18セッション
・ラーニングの科学(The Science of Learning):22セッション
・セールス・イネーブルメント(Sales Enablement):14セッション
・マネジメント(Management):12セッション
・ガバメント(Government):6セッション
・ヘルスケア(Healthcare):11セッション
・ハイヤー・エデュケーション(Higher Education):4セッション

カンファレンス全体の傾向

2016年5月22日~25日に米国コロラド州デンバーにて開催されたATD2016 International Conference & EXPOの傾向について概観してみたい。
今年は昨年と比較して参加者も増え、全体的に活気が感じられた。
今年のカンファレンスにおいても様々なテーマが探求されていたが、全体の傾向を考える上で特に印象的な変化として、ATDのCEOトニー・ビンガム氏がオープニング・スピーチの中で、「ラーニング・カルチャー」を取り上げていたことが挙げられる。

「変化の激しい時代環境の中で、企業が創造性を発揮して、チャレンジを乗り越えていくためには何が必要でしょうか。成功している企業に共通していることは、ラーニング・カルチャーが存在していることです」とビンガム氏は語った。そして、i4cp社とATDが共同で行ったリサーチの結果や、ツイッター社やSAP社のCLOの生の声なども紹介しながら、ラーニング・カルチャーを築いていくことの重要性を力説していた。ここ数年間、オープニングのスピーチでは、モバイル・ラーニングなどのテクノロジーに言及されることが多かったこともあり、今回の内容は、日本の参加者からも新鮮に捉えられたようだ。

カンファレンス全体を通しても、ビンガム氏のスピーチに限らず、ラーニング・カルチャーに触れられていることが多く見受けられた。セッションで扱われる内容も、働く人々の関係性やマインドセットの変革、行動への転移、職場における安全な場の構築、テクノロジーの活用、学習のあり方や構造の変革、ミレニアル世代の力の解放といった、カルチャーに影響を与えるような、より本質的な取り組みへと検討が進んでいるように思われる。
そして、そうした取り組みが、個別のテーマとして分断されているのではなく、相互に関連し合いながら進化しようとしているのが、今年の特徴であるように感じられた。

そうしたことから、タレント・ディベロップメント(人材開発)の潮流を、従来のように個別の分野(トラック)ごとに論じることには意味がなくなってきている気がする。それは、背景にある社会的要因や技術的要因の大きな変化によって、タレント・ディベロップメントで起きている様々な変化が影響し合い、それらが連関して、大きなシフトを起こしているからだろう。

大きなシフトを起こしている背景にある要因として、カンファレンスで多く挙げられていたものとしては、以下の4つが挙げられる。

・VUCAワールド
・モバイル、テクノロジーの進化
・ニューロサイエンスのエビデンス
・ミレニアム世代のポジショニング

VUCAワールドは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、 Complexity(複雑性)、 Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った言葉で、昨年あたりからバズワードとしてセッションの冒頭に掲げられることが多くなった。VUCAの時代では、先の見通しが立たず厳しい変化に直面する。そこで企業が生き残っていくためには、新しい価値を創造し続けなければならなくなる。
新しい価値創造に向けて、個人がパフォーマンスを生み出すために、しっかりと行動変容を行う必要がある。そのためにラーニングの重要性がますます高まってきたといえるだろう。

カンファレンスで見られた、こういった背景の変化によって起きている大きなシフトを4つに整理してみたい。

マインドとカルチャーを育む

1つ目は、パフォーマンス向上につながる「スキルや知識を獲得させる」から「マインドとカルチャーを育む」へのシフトである。
ラーニングによる行動変容にはマインドセットの変化が必要であり、それには組織の文化のあり方が大きく影響する。

3つの基調講演、300を超えるコンカレント・セッションの内容を見ても、「学習性を高めるマインドセットをいかに育てるか」とか、「ワークプレイスにおけるラーニング・カルチャーをどのように育むか」といった内容に関連するものが目立った。過去に多く見られた「リーダーシップにおいて、こういうスキルやコンピテンシーが大切で、それをこのようにすれば開発できる」といった具体的なディベロップメントの方法論を提示するようなものは、大幅に減少している。

学習のあり方・構造の革新

今年の2つ目のシフトとして、「学習のあり方・構造の革新」といったことが挙げられる。

テクノロジーの進化と合わせて、このシフトは昨今大きく取り上げられるようになっていたが、今年のカンファレンスの中では、「イベント」として学習を捉える旧来のパラダイムが消え、学習を「ジャーニー」や「プロセス」として捉え、ワークプレイスでの経験や相互作用、およびそれを支える様々な学習機会を通して学ぶことを主流としていくアプローチが完全に定着してきたことがうかがえた。

また、今年は目立って「70:20:10の法則」(人間は経験から70パーセントを学び、人との関わりから20パーセントを学び、クラスルームから10パーセントを学ぶというもの。80年代にCCLが提唱)が多くのセッションで頻繁に引用され、100%の効果を目指すためのデザインが議論されていた。

同様に、学習したことが仕事で生かされるように移転させる「ラーニング・トランスファー」(学習移転)を指向することが、当然のこととして扱われていたことも印象的であった。「SU205:フリップ&ドリップアプローチによるリーダーシップ開発:ラーニング・トランスファーの加速」「SU217:プレディクティブ・ラーニング・アナリティクスを用いてトレーニング・トランスファーをブーストせよ」「W217:ラーニング・トランスファーを起こすための7つの欠かせない要因」など、このテーマに特化したセッションも多く見受けられた。

ワークプレイス・ラーニングの環境デザイン

3つ目のシフトは、ワークプレイスでラーニングが起きる環境をデザインすることである。
ワークプレイスにおいて社員が主体的に知識を生み出し、集合的に学び合うといったことを成立させていくことの重要性が高まっている。

SNSやモバイルをはじめとしたテクノロジーの進化が、知識や情報の取得方法、学習に関するコミュニケーションにも大きな変化をもたらした。とりわけ、こうしたテクノロジーは、学習の場をクラスルームからワークプレイスへ、また個人の都合に合わせて時間と場所を問わない学習のあり方へとシフトさせることを容易にしている。
特に、ジャーニー型の学習が主流になった今日、ワークプレイスの中でラーニングが起きるような環境やプロセスをいかに構築できるかが特に重要になってくる。

昨年のカンファレンスでは、5分~7分といった短い時間で学習を起こしていくことを意図した「Bite-Size(バイト・サイズ)」のラーニングを、モバイル技術を生かして、学習プロセス全体に取り入れていく考え方が紹介されていたが、今年もそうした事例が増えていたように思う。特に今年は、「マイクロ・ラーニング」と呼んでいるセッションも見受けられた。

たとえば、「SU301:L&Dを再定義する:ある会社におけるマイクロ・ラーニングとソーシャル・ラーニングの成功」では、プルデンシャル社における4週間のマネジャー育成の取り組みにおいて、数分間のビデオコンテンツや90分程度のワークショップ、そしてワークショップをフォローするアプリや上司からのサポートなど、細切れに分かれた様々な学習機会を、学習プロセスの中に散りばめる形で学習のデザインを行っている様子が紹介されていた。

今年のカンファレンスでは、多くの企業において、学習プロセス全体の中に、フォーマル・ラーニングやソーシャル・ラーニング、マイクロ・ラーニングといった様々なスタイルの学習を埋め込んでいくようなデザインをしていたところが多かった。

それらの企業では、企画側の意図で強制的に学習させるのではなく、70:20:10の法則にモバイル・ラーニングやマイクロ・ラーニングを組み合わせて、本人が学びたいことを気軽に選べる状況を創ったり、実際の仕事においてより価値を高めるために、ラーニングツールを活用し、マネジャーがラーニングのトランスファーをサポートしたり、ラーニング・コミュニティの中でお互いのナレッジを共有し合うといったような事例が紹介されていた。

従来のように、Learning & Development部門のような企画側が中心ではなく、 Learner Centeredのラーニング環境をデザインしていくトレンドは、今後ますます加速していくのではないかと感じられた。

そうした学習環境づくりを表す言葉として、今年のカンファレンスでは、Embedded Learning(埋め込み型ラーニング)やPervasive Learning(浸透型ラーニング)、Learning Ecosystem(ラーニング・エコシステム)などの様々な用語が使われていたが、まだ共通の用語は定着していないようだ。

今後、本当の意味でラーニング・カルチャーを生み出すためには、偶発的な学習に基づき、学習者によって主体的に形成されるラーニング・コミュニティの重要性がより高まっていくものと思われる。今年のカンファレンスでも「SU302:5Pフレームワークで機能するラーニング・コミュニティの開発」などで、コミュニティが扱われていた。

こういった変化は、ミレニアル世代を中心に置いた学習のあり方にも対応しているといえる。2000年に入ってから社会人となったミレニアル世代が、就業者の主流になってきている。ミレニアル世代は、デジタルデバイスを常用し、マルチプルな情報のやり取り、頻繁なフィードバックを求めるといわれている。
今後、彼らの特性に合った学習のあり方に変えていく必要が認識されてきている。

神経科学から信頼と安心の重要性

4つ目のシフトとして、近年のニューロサイエンス(神経科学)の発達によって、人間の学習に影響する要因が科学的に明らかになってきたことがある。
一例を挙げれば、「怖れ」や「不安」といった脳内反応が学習や協働を大きく阻害していることが明確になり、これらをワークプレイスから減らし、「Trust(信頼)」と「Safety(安全・安心)」を育むことの重要性が認識されている。また、マインドセットのあり様が学習や協働に強い影響を与えていることも明らかになってきている。

多くのセッションで、学ぶことを楽しみ、失敗を恐れずチャレンジできるようなマインドセットを職場に育むために「信頼に基づいた安全な場をいかに構築していくか」がテーマに挙げられていた。
たとえば、基調講演においてもその傾向が強く見受けられた。1人目のキーノート・スピーカー、サイモン・シネック氏は、皮肉や不信感、自己利益が蔓延した危険な職場から脱し、リーダーが職場に「Circle of Safety(安全なサークル)」を築き、信頼と協働を生み出すことの重要性を投げかけていた。

また、2人目のキーノート・スピーカー、ブレネー・ブラウン氏は、彼女が探求しつづけてきた「Vulnerability(ヴァルネラビリティ)」のコンセプトを紹介した。ヴァルネラビリティは、日本語では、傷つきやすさやもろさ、攻撃や批判などを受けやすい、といった意味合いがある。
通常、ヴァルネラビリティは「弱さ」として捉えられがちであるが、それは間違いであると彼女は述べる。勇気をもって鎧を脱ぎ、ヴァルネラブルになることで、愛、帰属意識、喜び、共感、信頼、イノベーション、創造性といった素晴らしい価値を生み出すことができるということを自身のストーリーを織り交ぜながら語った。

いずれの講演も、聴衆から大きな共感をもって受け止められ、スタンディング・オベーションが起きていた。現在のタレント・ディベロップメントで起きている変化と話の内容が共時的につながるところも多くあり、こうした2名のスピーカーが同時に今年のATDに招聘されたことが意味深く感じられた。

以上のようなシフトの全体について視点を変えて俯瞰してみると、「学習とは人材開発専門家から提供されるもの」という価値観から、「学習とは働く一人ひとりが自ら取り組み、学びを人々と分け合い、共有するもの」という価値観への転換ともいえるかもしれない。

「Trust(信頼)」と「Safety(安全・安心)」が育まれている職場において、一人ひとりが尊重され、学ぶことに喜びを感じ、成長を実感し、また学びを人々と分かち合い、共感が生まれ、学ぶことと仕事をすることが1つに溶け合っている…。あえて思い切った言葉を使うならば、「ラーニング・デモクラシー」に向かって舵が切られたカンファレンスだったといえるのかもしれない。

基調講演

サイモン・シネック

2日目に行われた1回目の基調講演は、思想家であり、民俗誌学者(エスノグラファー)、シンクタンクRAND社の非常勤職員などで活躍しているサイモン・シネック(Simon Sinek)氏によるプレゼンテーションだった。

“Why?” というコンセプトを紹介したTED Talkは、視聴回数トップ3に入るほど世界的にも注目を浴びている。この講演では、最新の著書”Leaders Eat Last(邦題:リーダーは最後に食べなさい!)”の内容に基づき、 健康的な企業文化を育んでいくために、生物学的な見地を交えながら、メンバーの中に安心の感覚をもたらすリーダーシップの重要性について話された。

リーダーの仕事は、協力を生み出し、信頼が育まれる環境を整えることである。シネック氏は、石器時代に人類が協力し生活していた話も交えながら、メンバー間に「circle of safety(サークル・オブ・セーフティ)」をつくり出し、安心が生まれる重要性を説いた。そうすることで、生理学上、ポジティブな感情を生じさせる脳内物質である4つのホルモン(エンドルフィン、ドーパミン、セラトニン、オキシトシン)が生成されると語った。

エンドルフィンは、脳内麻薬ともいわれ、運動することにより生成され、身体の痛みを感じなくさせる働きをもっている。一方で、エンドルフィンから得る幸福感は短命であると説明した。

ドーパミンは、ゴールを定め、達成したときに感じる高揚感をもらたす。ゴールをありありと描き、定めることで、よりドーパミンが出ることがわかっている。
シネック氏は、「リーダーたちは、従業員に具体的な目標を描くことが大事である」と述べた。一方で、ドーパミンは、たばこやお酒のように、中毒性があり、バランスが崩れると、危険性もあることを話した。そのため、従業員の一部は、数値的な目標にフォーカスされ、盗みを働いたりするなど、自己中心的になることもある。そうした状況では、働く人たちの関係性は損なわれ、信頼も生まれないとのことだ。
 
セラトニンは、誇りや寛容さ、オキシトシンは、愛や忠誠心を感じさせる。それらは、職場において、ポジティブな効果を与える化学物質であり、リーダーと従業員の関係を促進する。「リーダーは、まず自分自身が犠牲となり行動し、責任を取り、お互いに支え合うことが大事である。そして、リーダーシップは、日々の実践の中で、行動することで育まれる」と話した。

講演の最後は、”people go to work, feel safe when they’re there, and go home feeling fulfilled(人々が職場で安心して働き、満足感を得て家に帰ること)”と、シネック氏のビジョンを語り、そして、会場にいる人材開発のプロフェッショナルに向けて、次のようなメッセージで締めくくられた。

“That will become a reality because of people like you. … If you take care of each other, I guarantee you, we will change the world(それは、あなた方によって現実となるのです。お互いを思いやりることができたら、きっと世界を変えることができるはずです)”

ブレネー・ブラウン

2つ目の基調講演では、傷つきやすさ(Vulnerability)、勇気(Courage)、価値(Worthiness)、恥(Shame)についての研究で知られるブレネー・ブラウン教授が登壇した。

『Brave Leaders, Courageous Cultures(勇気あるリーダー、勇気あるカルチャー)』のタイトルを掲げ、勇気(courage)と傷つきやすさ(vulnerability)の関係や、この2つが良いリーダーとなるためにいかに大切かということが、研究結果や彼女自身の体験を交えつつ語られた。

最初に、勇気(courage)について定義がなされた。勇気とは、ラテン語で心臓を意味する”cor”が語源であり、英語では「自分のことを心を込めて話すこと」とされる。ブラウン氏は、人が自分のことをどう思うかといったコントロールできないものを受け入れ、自分の話をすることが勇気であるとして、ここにリーダーシップとの関連を見出している。

彼女によれば、素晴らしいリーダーとは、皆が話すことをためらうようなことについて掘り下げていく人であり、感情が先行して反応するような困難な状況において、「勇気ある」リーダーであることは、人々にやすらぎをもたらすという。また、彼女の研究結果から、勇気は感情や行動、認知をベースとしてトレーニングが可能なものだが、同時に、容易なことではないということが語られた。

次に、そういった勇気あるリーダーシップのための「4つの柱」として、「傷つきやすさ・ヴァルネラビリティ(vulnerability)」「バリューの明確さ(clarity of values)」「立ち上がる力(rising skills)」「信頼(trust)」というキーワードが説かれた。

1つは、ヴァルネラビリティである。約15万に上る調査データの研究から、「ヴァルネラビリティは弱さではなく、勇気を測る最も正確な物差しである」とブラウン氏は語る。
ヴァルネラビリティにまつわるいくつかの誤解も紹介された。恥、恐れ、不安といった感情と同様に、ヴァルネラビリティを「弱さ」と捉えるのは万国共通であるが、そういったネガティブな感情は避けることができるというものである。

氏の研究では、本来、ヴァルネラビリティは愛や喜び、勇気、信頼、イノベーション、フィードバック、適応力、倫理的な判断の源泉であり、弱さではない。加えて、愚痴ばかりを話すことや、ムダ毛処理をツイートしたり、Facebookで万人に知らせるといった、自他の境界線なしに話をすることもヴァルネラビリティではなく、信頼できる相手に自分のストーリーを共有することがヴァルネラビリティだと語られた。
また、英国のロックバンド、ホワイトスネイクの曲を例に、一人でやっていけるという思い込みについても指摘がなされた。

次に、ヴァルネラビリティなしにリスクを取ることはできない。「勇気があるということは、すなわち失敗があるということ」だとブラウン氏は語る。
失敗がなければ、学びはない。「鎧を脱いで、自分であること」と彼女は会場に投げかけた。鎧を脱ぎ、自らの統合された価値、バリューに基づき行動することで、人は信念や勇気をもち、なぜそこにいるかを思い出すことができる。
そして、失敗から立ち直ることを学ぶのである。また、そういった勇気を支えてくれるような、共感したり親身になってくれる人の存在についても言及された。

上述したような3つの柱に関連する4つ目の柱としての「信頼」については、色とりどりのおはじきの入った瓶の写真をもとに、「毎日の小さなことの積み重ねによって信頼は形成される」というメッセージが投げかけられた。
また、信頼を定義する7つの要素として、”B.R.A.V.I.N.G”(「Boundaries(境界)」「Reliability(信頼性)」「Accountability(責任)」「Vault(保管庫…他人の悪口を言わない)」「Integrity(誠実さ)」「Non-judgment(判断しないこと)」「Generosity(寛容さ)」)という概念が紹介された。

最後にブラウン氏は、作家ヘンリー・ジェイムズの言葉を引用し、効果測定や指標管理のプレッシャーにさらされるタレント・ディベロップメントに関わる人々に対して、今している仕事がまさにあなた自身なのだと呼びかけた(”We work in the dark – we do what we can – we give what we have. Our doubt is our passion, and our passion is our task. The rest is the madness of art.”)。
そして、一見「線路から外れた」ように思われる人にも諦めずに投資をし続けること、誰かに拒否されたら押し返せばいいのだと、会場の参加者に力強くメッセージを放ち、スピーチは締めくくられた。

ジェレミー・グーチェ

最終日に行われた3つ目の基調講演では、TrendHunter.comというサイトを運営し、イノベーションにつながる数多くのアイデアを発信しているジェレミー・グーチェ氏が近著『Better & Faster』を元にプレゼンテーションを行った。

変化が激しく、製品やサービス、企業のライフサイクルがどんどん短くなる中で、予期しない変化の中にいかに機会を見出し、イノベーションの可能性を高めていくかということが語られた

最初にTrendHunterに関する90秒のビデオが流れ、その中で、実はチャンスは身近にあり、ほとんどの人が気づかない領域をつなげることでイノベーションが起きるという概要を説明した。

トレンドを見つけ、可能性を大きく育てるロールモデルとして、16歳でナイトクラブのオーナーとなり、そこからレストランを経営したり、フットボールクラブのオーナーになって成功した自身の父親のエピソードを紹介し、父親から学んだこととして「ハードワークをすることはもちろんだが、往々にして、組織は成功する機会を見逃してしまう」ということをあげていた。

その後、自身のこれまでの仕事の遍歴を語り、カオスが機会を生み出すということ、そしてそうした変化に適応できない企業が倒産していくということを語った。
変化の速い現代の社会においては、Better & Fasterであることがとても重要であり、倒産したような企業もそうしたことには気づいているものの、多くの企業がそのための努力をしていなかったということをあげ、Better & Fasterを実践するためのフレームワークを紹介していった。

まず、どうして企業が新たな機会を見逃してしまうのかということに関して、3 Traps of Farmer(農夫の3つの罠)と題して、Complacent(無関心)、Repetitive(反復)、Protective(保護的)ということをあげた。
これをより狩猟的にすることが大事だということで、Insatiable(貪欲)、Curious(好奇心)、Destructive(破壊的)といった3つの対の概念を提示し、毎日新しい機会を探し続けること、好奇心をもってコミュニケーションを行っていくこと、一見つながりの見えないような破壊的なことに挑戦することの重要性を語った。

そして、Better & Fasterであるためのステップとして、

ステップ1:Awaken
ステップ2:Hunt
ステップ3:Capture

という3つのステップを紹介した。
つまりは、機会=獲物に気づき、狩り=具体的な行動を行い、捕捉=成功を掴むということだ。

ステップ2のHuntの中には6つのパターン(Convergence、Circularity、Reduction、Acceleration、Redirection、Divergence)が類型されるが、プレゼンテーションの中では時間がないため、主にDivergenceについての説明が行われた。
その中では、レッドブルの奇抜なプロモーションの話を事例に出しながら、カオスが予測できる機会を生み出すため、いかに異質なものを組み合わせていくかということが語られていた。
大きな1つのアイデアは必要ではなく、小さなアイデアを拡大させていき、様々なトレンドを掛け合わせることでイノベーションが起きる確率を高めていきましょうというメッセージが伝えられていた。

プレゼンテーションは、「革新を続けてください。アイデアは皆さんが思っているよりも身近なところにあります。常に好奇心をもって破壊する力をもって成功して、みんなでHEY FIVEをしましょう!」という言葉で締めくくられた。

常にハイテンションでまさにBetter & Fasterを体現したかのようなキー・ノートスピーチだったように思う。

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