ATD(The Association for Talent Development)
ATD2017事前レポート
ATD2017 International Conference & EXPOが、2017年5月21日~24日に米国ジョージア州にて開催されます。このカンファレンスは、Workplace Learning & Performance(職場における学習とパフォーマンスの向上)に関する世界最大の会員制組織であるATDが、毎年開催しているものです。本レポートでは、ATD2017公式ホームページに掲載されている内容を参考に、今年のカンファレンスではどのようなことがテーマになるのか、どのような人が講演を行うのかといった見どころを紹介していきたいと思います。
関連するキーワード
このカンファレンスでは、世界中から集まった先駆的企業や教育機関・行政体のリーダーたちが、現在直面している諸問題にどのように取り組んでいるかを企業や国の枠を越えて学び合います。世界における人材開発の最新動向に触れながら、これからの組織・人材開発のあり方について、多くの人との情報交換や課題の探求をしていく貴重な場であるといえます。
今年のキーノート・スピーカー(基調講演者)
キャプテン マーク&スコット・ケリー大尉
高い勲位を受けたNASA宇宙飛行士・米国退役海軍大尉
勇気・リーダーシップ・犠牲を体現するヒーロー、マーク&スコット・ケリー大尉は、米国の宇宙飛行士であり、双子の兄弟でもあります。二人は宇宙旅行・探検の未来の基盤をつくり、歴史上に名を残した人物です。
彼らの見た目の似つかわしさと同じくらい見事なキャリアを持つケリー兄弟は、経験豊かなパイロットで、かつ勲位を受けた大尉として米国海軍を退職した後、1996年にNASAでの輝かしいキャリアをスタートさせました。
NASAを退職するまでの15年の間、マークは50日以上を宇宙で過ごし、2011年のスペースシャトル「エンデバー号」の最後の飛行、「ディスカバリー号」の指揮を執りました。彼は世界中で2人しか存在しない、国際宇宙ステーションを4度も訪れた人物のうちの一人です。
スコットは、米国で1年を通して活躍する宇宙飛行士として、2015年3月から2016年3月の間、ロシア人宇宙飛行士のミハイル・コルニエンコ氏とともに、だれも見たことのないような国際宇宙ステーションからの中継インタビューで世界を驚かせ、新しい記録を打ち立てました。
歴史的な任務は他にも、NASAの双子に関する研究において、宇宙にいるスコットと地上にいるマークを観察し、宇宙が人間の身体への影響を理解する前例のないような実験にも及びました。
マークとスコットは、チームワークやリーダーシップについての自身の考えを築いてきたともいえる、困難を乗り越え悲劇と向き合った経験や教訓、また勇気を身に着け変化に適応するといった個人的な対策を素直に振り返ることで、そのユニークなプレゼンテーションの中で、2倍のインサイトやインスピレーションをお届けします。
来る2017年秋、スコットは広く期待された回想録『Endurance: My Year in Space and Our Journey to Mars』のなかで、自身の人生やキャリアに焦点を当てており、そこにはマークからの独占解説も含まれています。また、この本は最近ソニー・ピクチャーズに映像化の権利が購入されました。
ケリー・マクゴニガル博士
健康心理学者、スタンフォード大学講師
私たちの多くにとって、こんな1日は意志との長い闘いのように思える:プロジェクトに集中しようとしているのに、メールの確認ばかりしてしまう。もっと運動をしたいのに、なかなかジムに行けない。誓って最後のたばこになる…そう必ず…いやもう一本。
一方職場では、締切や打ち合わせ、顧客からの要求など、仕事における何千もの小さなストレスを支えようと、意志の力にしがみついている。しかし、物事をつなぎとめようと苦心すればするほど、高レベルの仕事をしたり、長期的な意思決定をしたり、仕事における目標を持つことが難しくなってくる。
もし、あなたの意志の力をトレーニングすることができると言ったらどうだろうか? 私たちの多くは、意志の力を誤解し、自制心を磨けば磨くほど実際は自分を傷つけているとしたら? 科学と感受性の両方を持ち合わせている人が、欲求と意志の迷路からの抜け道を示してくれる(そしてより力強い人生へと導いてくれる)としたら?
スタンフォードの自身の授業(The Science of Willpower)や、自著『The Willpower Instinct(邦題:スタンフォードの自分を変える教室)』の中で、彼女自身のインサイトは何百もの学生の人生を変えてきました。このわくわくするような本には、心理学や脳科学の最新の知見を集め、意志の力の進化的・認知的基礎やそれを強化するためのステップを解説しています。
また、彼女の著書『The Upside of Stress: Why Stress Is Good for You, and How to Get Good at It(邦題:スタンフォードのストレスを力に変える教科書)』では、驚きのメッセージを届けています「ストレスは悪いものではない」と。最新の研究によれば、ストレスは、受け入れる方法さえ学べば、私たちをより強く、より賢明に、より幸せにしてくれるものであることを、彼女は強調しています。
ケリーはスタンフォード大学院ビジネス・スクールや、スタンフォード薬理学部トランスレーション神経科学研究所(Institute for Translation Neuroscience)の一部である、思いやりと利他主義研究教育センター(Stanford Center for Compassion and Altruism Research and Education)においてマネジメントを教えています。また、国際ヨガセラピー・ジャーナル(International Journal of Yoga Therapy)の元編集長でもあります。彼女の科学的研究はJournal of Personality and Social Psychology、International Journal of Psychiatry in Medicine、Monitor on Psychologyなどで発表されています。また、ニューヨーク・タイムズ、ワシントンポスト、ロサンゼルス・タイムズ、MSNBCドット・コム、ウェブMD、TIME、フィットネス、ウーマンズ`・ヘルス、その他多くのメディアにもコメントが掲載されました。2010年には、フォーブス誌の「ツイッターでフォローしたい20人の最もインスパイアされる女性」の一人に選ばれました。
ケリーの愛嬌があり、また明るいスタイルは、人生を取り戻すという手ごわい仕事をも、今にもつかみ取れそうに感じさせてくれます。彼女のメッセージは必ず、あなたの個人や仕事における目標を実現したり、あなたが生きたい人生を生きることを助けてくれるでしょう。
ローナン・タイナン博士
アイルランド出身のテノール歌手、パラリンピック・チャンピオン、医学博士
ジェレミー・アイルランド出身のテノール歌手、ローナン・タイナン博士は、現代のルネサンスを行く人物です。アイルランド、キルケニーの酪農場で育てられた彼の偉業と情熱のこもった歌のストーリーは聴衆をインスパイアします。ユーモアがあり、生まれつきのストーリーテラーであるローナンは、聞き手が困難を乗り越え、リスクをとり、最高のパフォーマンスを達成する力を与えてくれます。
下半身に障がいを持って生まれたローナンでしたが、馬に乗ったり、バイクレースをしたり、とてもやんちゃな少年でした。ローナンは、リムリックにある国立体育大学(National College of Physical Education)に障がいを持ちながら初めて入学を許可されましたが、交通事故によって合併症を患い、20歳の時に足を切断しました。しかし、彼は手術の数週間後には大学寮の階段をよじ登っていたのです。さらに1年もたたないうちに、パラリンピックで金メダルを獲得します。ローナンは1981~1984年の間に、18の金メダルを獲得し、14の世界記録を達成しました。
夢を追いかけ、ローナンはトリニティ・カレッジの医学部に入学します。33歳のとき、スポーツによるけが専門の整形外科医として働く傍ら、正式に声楽の勉強を始めました。仲間からの励ましもあり、BBCのテレビ番組「Go for It」に出演しただけでなく、優勝を収めました。アイリッシュ・テナーズ(the Irish Tenors)のメンバーとして選ばれたローナンは、世界各地で歌う機会に恵まれ、彼のユニークな声と圧倒的な魅力が知れ渡るようになりました。
ローナンは、母親のアドバイスによりソロとしてのキャリアを歩み始め、夢にも思わなかったような成功を成し遂げました。彼はアイリッシュ・テナーズの一員として、またソロ・アーティストとして、ツアーを続けています。ケンタッキー大学のオペラシアター所属のオルテック・アーティストであり、今最も求められているモチベーショナル・スピーカーでもあります。
ローナンは、米国テレビ局ABCの番組「20/20」やCBSの「Sunday Morning」でも特集され、誰にもまねできないほどに人々を感動させています。困難を乗り越え、人生を最大限生きるメッセージとともに、ローナンは聞き手とすぐにつながることができ、仕事やプライベートのどちらにおいても新しい高みに立つための方法を推進しています。
※キーノート・スピーカーの写真は、ATDのウェブサイトから引用しています。
ATD2017のトラックとセッションの見どころ
ATDでは、基調講演の他に数多くのコンカレント・セッションが開催されます。3月27日時点で公開されている情報によると、今年は全体で500のセッションおよびワークショップが行われる予定です(※セッション数は常に更新されていくため、今後セッション数が増減することもあります)。また、同時並行で開催されるEXPOにおいては、例年400以上のブースの出展が見込まれ、学習とパフォーマンスの向上をサポートする様々な商品やサービスが紹介されます。
以下に、今年掲げられた14個のセッション・トラック、および各トラックのセッション数を紹介します。
・ラーニング・テクノロジー(Learning Technologies):41セッション
・リーダーシップ・ディベロップメント(Leadership Development):40セッション
・トレーニング・デリバリー(Training Delivery):26セッション
・インストラクショナル・デザイン(Instructional Design):34セッション
・ヒューマン・キャピタル(Human Capital):38セッション
・キャリア・ディベロップメント(Career Development):21セッション
・グローバル・ヒューマン・リソース・ディベロップメント
(Global Human Resource Development):25セッション
・ラーニングの測定と分析(Learning Measurement & Analytics):18セッション
・ラーニングの科学(The Science of Learning):28セッション
・セールス・イネーブルメント(Sales Enablement):14セッション
・マネジメント(Management):13セッション
・ガバメント(Government):6セッション
・ヘルスケア(Healthcare) 10セッション
・ハイヤーエデュケーション(Higher Education):4セッション
以降、各トラックのセッションの見どころを紹介します。
ラーニング・テクノロジー
このトラックでは、最先端のテクノロジーを用いた新しい学習の姿や、学習を効果的に行う方法、事例などを取り上げています。
近年、ラーニングとテクノロジーの関係はさらに密接になり、インターネット、モバイル、ソーシャル・ネットワーク、最近ではAlやバーチャル・リアリティなど、毎年新しいテクノロジーの動向には目が離せません。
そうしたラーニングとテクノロジーの最新のトレンドについて取り上げているセッションとして、「M204:Learning Trends, Hype, Disrupters, and Shifts in 2017(2017年の学習動向、誇大広告、妨害者、およびシフト)」がありました。こちらのセッションでは、2017年のトレンドとして、学習のパーソナライゼーション、いつでも学習できる環境、機械学習、バーチャル・リアリティ、エンゲージメント、ゲーミフィケーションといったテクノロジーの流れが紹介されます。
また、「SU211:ATD2027?News from the Not Too Distant Future of Learning(ATD2027そう遠くない未来のラーニングからのニュース)」と「W215:The Day Everything Changed: How AI Changed the Way We Learn in 2027(すべてが変わった日:2027年にどのようにAIが学ぶ方法を変えるか)」では、共に2027年の未来の学習について、AIやロボットがどのような変化を生みだすのかがテーマになっており、注目してみたいところです。
新しいテクノロジーのトレンドとして、バーチャル・リアリティ(VR)をキーワードとして挙げたセッションが散見されます。専用のヘッドセットで360度の世界観を利用した新しい学習のデザインが、どのように行われているのか期待が高まります。
たとえば、「TU111:The Future of Training Is Here: The Power of Chatbots, AR, and VR(トレーニングの未来はここにある:チャットボット、AR、VRの力)」、「TU216:Virtual Reality: Failing Gracefully, Engaging Seamlessly, Connecting Virtually(バーチャル・リアリティ:潔く失敗する、シームレスにエンゲージする、バーチャルに接続する)」、「TU417:Next-Generation Gamification, Simulation, and Virtual Reality Learning(次世代のゲーミング、シミュレーション、バーチャル・リアリティ・ラーニング)」などがあります。
また、近年では、ラーナー・セントリック(学習者中心)な学習環境を実現するためのテクノロジーとして、ソーシャル・ラーニングが紹介されていましたが、今年はより実践的な内容のテーマにシフトしているように見受けられました。
たとえば、「M111:Go Viral! Motivating Your Employees to Share Their Knowledge(急速に広がる! 従業員の知識共有を促す)」や「SU418:Supporting Social Learning for the 21st Century(21世紀に向けてのソーシャル・ラーニング・サポート)」では、どのようにして社員間のナレッジの共有や学び合いを促すのか、そのノウハウについての内容になっています。
また、「TU413:Social Learning: How to Build Community Engagement Using Chatter(ソーシャル・ラーニング:Chatterを使ってコミュニティへの関与を構築する方法)」では、ゼロックスでの具体的な取組事例の紹介があります。
例年同様、動画(ビデオ)を使った学習コンテンツ開発や、バーチャルやオンラインのトレーニングについてのセッションも多数あります。たとえば、「SU318:Video for Non-Video Professionials(ビデオ専門家ではない方のためのビデオ)」のような、ビデオコンテンツを上手に作成する方法を学ぶためのセッションがいくつも見受けられます。
また、「TU411:Interact and Engage! Activities for Virtual Training, Meetings, and Webinars(インタラクトとエンゲージ!バーチャル・トレーニング、ミーティング、ウェビナーのためのアクティビティ)」のような、バーチャルな学習環境で、どのように学習者とのエンゲージメントを高めていくかといったテーマについても、複数のセッションが見受けられました。
効果的な学習を促進するためのビジュアルやデザインについてのセッションもいくつか見られました。「W114:Design for the Mind: UI and Visual Design for a New Generation of E-Learning(心のデザイン:新しい世代のeラーニングのためのUIとビジュアル・デザイン)」では、心理学の知見からデザインが学習に与える影響をインストラクショナル・デザインで応用した内容になっています。
「TU202:Awesome Apps to Create Infographics, Web Stories, Animated Videos, and More(インフォグラフィックス、ウェブストーリー、アニメーションビデオなどを作成する素晴らしいアプリ)」と「M211:Composing Infographics for Learning(学習のためのインフォグラフィックスの作成)」では、インフォグラフィックスを使った学習コンテンツの作成について学べそうです。
その他にも、ゲーミフィケーションのセッションや、キュレーションのセッションがいくつか見受けられました。ゲーミフィケーションは、「TU102:Not “When Learning Games?” but “Which Learning Games?”(「いつゲームを学ぶ?」ではなく「どのゲームを学ぶ?」」や「M103:Playing Games to Learn How to Design Games(ゲームをしてゲームをデザインする方法を学ぶ)」といったセッションがあり、キュレーションは、「SU109:From Content Creation to Content Curation: An Emerging Critical Role(内容の創造から内容のキュレーションまで:存在感を増す批判的な役割)」や「M305:How to Curate: Putting Curation Into Practice for L&D(キュレーションを行う方法:L&Dのためにキュレーションを実践する)」といったセッションがありました。
その他興味深いところとして、「M318:Reimagining Education in the Workplace(職場での教育の再考)」では、マサチューセッツ工科大学とハーバード大学によって創立されたオンライン学習プラットフォームである「Edx」が取り上げられています。教育の世界に革命をもたらせた、テクノロジーを利用した未来の企業内大学の姿について、興味深い話が聞けるかもしれません。
最後に、「W314:Inspired Practice: Developing Talent With Emerging Technologies(インスピレーションを受けた練習:新技術でタレントを開発する)」では、Bluetoothの技術を採用して職場での学習者の位置を特定するビーコン技術を使った、学習体験のデザイン(Learning Xperience Design)についての取り組みの紹介があります。学習デザインの可能性が広がる機会になりそうで、こちらも注目してみたいところです。
リーダーシップ・ディベロップメント
本トラックにおいては、リーダーシップ・ディベロップメントに関連した様々なテーマが扱われています。たとえば、リーダーシップ開発のデザイン、リーダーシップのあり方、より効果的なリーダーシップを発揮するために必要となるスキルや知識の習得などのテーマなどが挙げられます。今年のセッション数は約40セッションですが、その主な構成としては、毎年トレンドとなっているテーマを踏まえたセッション群と、常連のショーケース・スピーカーのセッション群があります。
各セッションの概要を見ると、今年は、2つの傾向があるように見受けられました。1つ目は「変革を推進するリーダーシップ」について、2つ目は「リーダーシップで求められるマインドセット」についてです。
1つ目の傾向に挙げた「変革を推進するリーダーシップ」を扱ったセッションが多く見受けられた背景には、VUCAの時代に対応するために、リーダーシップをもっていかに既存の思考の枠組みを変えていくかの必要性がより高まっていることがあるかもしれません。
具体的なセッションとしては、たとえば「M203:Learning in Liminal Space: Organizational Change in a VUCA World(閾空間での学習:VUCA世界における組織変革)」、「TU105:Disruptive Design: Leadership Development for Transforming Industries(破壊的デザイン:変革する業界でのリーダーシップ開発)」、「W212:Mastering the Art of Change Leadership: How to Change Yourself, Others, and Organizations(変革時のリーダーシップをマスターする:自身を、他者を、会社組織を変えるには)」といったものがありました。
また、リーダーシップ・ディベロップメントのグルの一人であるジャック・ゼンガー氏も「W104:Change the Culture? Change Leadership Development(組織文化を変える?変革型リーダーシップの開発)」のセッションにて、変革を推進するリーダーシップについて語る予定です。
2つ目の傾向として挙げた「リーダーシップで求められるマインドセット」を扱ったセッションとしては、まずマインドセット関連の研究とトレーニングを行っているアービンジャー・グループの「TU316:Helping Others to Change by Changing Mindsets(マインドセットを変えて他者のチェンジを支援する)」が挙げられます。
また、別の切り口としては、リーダーシップ開発において、ここ数年注目を集めているマインドフルネスのマインドセットを扱った「M220:East Meets West: Mindset Is a Choice(東洋と西洋の邂逅:マインドセットの選択)」や数十年にわたるグローバルな研究から、リーダーがより効果的な相互作用を実行するために必要なマインドセットと言動について扱った「W304:From My Turf to One Team: Developing Global Leadership Mindsets(自分一人からワンチームへ:グローバル・リーダーシップ・マインドセットを開発する)」も挙げられます。
上述した2つのトレンド以外にも、近年、注目を集めているミレニアル世代に対する理解とリーダーシップ・ディベロップメントのあり方について扱ったセッションや女性のリーダーシップ開発やキャリア形成のあり方などについて扱ったセッションも昨年同様に登場する予定です。
トレーニング・デリバリー
このトラックは、トレーニング・デリバリーの技術や学習効果を高めるためのトレーニング設計の仕方、またファシリテーション・スキルなどを扱っているトラックになります。「インストラクショナル・デザイン」や「ラーニング・テクノロジー」のトラックと合わせて、トレーニングの設計・実施のトレンドについて知ることのできるトラックです。
本トラックでは、学習効果をあげるための様々な技術が紹介されますが、昨今は特にゲーミフィケーションを使ったアプローチが増えており、今年も同様の傾向があるようです。
たとえば、「SU215:Bringing Boring Concepts to Life for Millennials Through Gamification and Microlearning(ミレニアル世代のために、ゲーミフィケーションとマイクロ・ラーニングを通して退屈なコンセプトに活力をもたらす)」では、多様な学び方を実践しているミレニアル世代に着目しながら、トレーニング・カリキュラムをデザインするためのアプローチが紹介されます。
具体的には、ゲーミフィケーションやマイクロ・ラーニング、また、コラボレーティブ・ラーニング・デザインのアプローチなど、学びを多様で楽しいものにし、学習の定着化や従業員たちを結びつける方法などを学ぶことができるようです。学習の新しいデザインを探求する際のヒントが得られるかもしれません。
また、「M108:Supercharge Your Learning With Games(ゲームによって学習をあふれるほど満たす)」や「TU404:Simplifying Serious Learning Game Design(まじめなラーニング・ゲーム・デザインを簡略化する)」でも、ゲームを生かしたラーニングのデザインが取り扱われています。とくに「TU404:Simplifying Serious Learning Game Design(まじめなラーニング・ゲーム・デザインを簡略化する)」では、これまでATDで数多く講演されているマイケル・アレン氏が同テーマで登壇するので注目してみたいです。
また、昨年に引き続き、今年も「声」に焦点を当てたセッションがいくつか見受けられました。
たとえば、「M218:Voice Matters: From Simple Endurance to Lasting Impressions(声は大きな違いを生むのです:単純な忍耐から長く続く印象に)では、歌手や舞台俳優が用いる確立された発声のテクニックをもとに、電話会議やウェビナー、リアルなセミナーなどで話す際のヒントや秘訣などを学ぶことができそうです。
また、「TU311:Is This Thing On? Unleashing the Power of Your Full Voice in Your Work and Your Life(スイッチは入っていますか?仕事や人生の中で豊かな声の力を最大限解放する)」では、声の5大要素のフレームワークを用いながら、信憑性を打ち出したり、情熱を表現したり、共感性を高めたり、想像力を刺激したりするためには声をどのように使ったら良いのかが紹介されるようです。また、自分自身で継続して声の探求を行うためのツールも手に入れることができるそうです。こちらのセッションに登壇されるバーバラ・マカフィー氏は一昨年から人気を博しているスピーカーのようですので、どのようなパフォーマンスがあるか気になるところです。
他にも、このトラックでは、毎年人気のあるレジェンド・スピーカーが今年も登壇します。
たとえば、「SU106:They’re Changing, How About You? Tools for the New School!(彼らは変化していますが、あなたはどうでしょう?新しい学校のためのツール!)」では、例年熱量の高いセッションで人気の高いジム・スミス氏が登壇します。既存の枠組みを壊したい人たちに向けられた刺激的なセッションのようですので、演出を含めて、楽しみながら参加ができるかもしれません。
また、「TU103:Creative Learning Strategies: 17 Ways to Get More Into and Out of Your Training(クリエイティブなラーニング・ストラテジー:トレーニングの収穫と成果をさらに得る17の方法)」は、ボブ・パイク氏が登壇します。今年で70歳を迎えるATDのレジェンドがどのようなセッションを提供されるのか、楽しみです。
最後に、昨今あらためて注目されつつある「ストーリー」や「インプロ」の考えを用いたアプローチが紹介されているセッションもあるようです。「W307: Story CRAFT: Using Plot Lines to Make Your Point(ストーリークラフト:要点を伝えるためにプロットラインを使用する)」や「W211: How Improv Training Addresses the Soft Skills Gap(インプロ・トレーニングが対人能力のギャップにどう取り組むか)」など、注目してみてもよいかもしれません。
インストラクショナル・デザイン
本カテゴリのセッションでは、学習プランを作成する、トレーニングのマテリアルを開発するといった学習を設計開発し提供する方にとって具体的なティップスが得られるようなセッションが集められたカテゴリとなっています。
このカテゴリのセッションを見てみると、ITの発達によって、伝統的な教室でのトレーニングを超えて、学習の仕方や提供方法も、マイクロ・ラーニングやアダプティブ・ラーニングといった様々な形で提供されるようになってきていることが伺えます。また、そうしたラーニングを提供するにあたって、アジャイル・プロジェクト・マネジメントが人材開発や組織開発でも実際に適応されてきているようです。
注目のセッションとしては、数年前からADDIEに代わるアプローチとしてLLAMA(the Lot Like Agile Methods Approach)を提唱してきた、トランス・ラーニングのメーガン・トランス氏によるセッション「SU105:Designing Meaningful Iterations Using Agile Project Management and LLAMA(アジャイル・プロジェクト・マネージメントとLLAMAを駆使して意義のある反復行為のデザイン)」が挙げられます。
トランス・ラーニングは主にeラーニングを提供している会社で、eラーニングを作成する上での、アジャイル・プロジェクト・マネジメントによる開発プロセスなどが紹介されるのではないかと思われます。
また、スターバックス・コーヒー社のスピーカーによるセッション「W203:Agile Instructional Design for Program Development and Sustainment(プログラムの開発と持続のためのアジャイル・インストラクショナル・デザイン)」では、より少ない時間で、より時代に沿った学習プログラムを作成する、アジャイルの手法が、実践事例を通じて紹介されます。アジャイルなインストラクショナル・デザインの具体的なアイデアを得られるかもしれません。
インストラクショナル・デザインの重要な要素の1つとして、「評価」がありますが、評価についても、学習の提供方法が変わってきたことで、変化が起きていることが伺えます。「TU313:Adaptive Learning: The Essential Ingredient for Advanced Learning Measurement(アダプティブ・ラーニング:より進化した学習効果の測定のための重要な要素)」では、クラウドを使った、アダプティブ・ラーニングのサービスを提供しているスキリティクス社のCEOグレン・ブル氏がスピーカーを務めます。
セッションの内容は、サービスの紹介になる可能性もあるかもしれませんが、アダプティブ・ラーニングを実践する際に注意する点や、最新のラーニングの分析や測定について、グレン・ブル氏が経験した様々な実践から得られた知見が紹介されるかもしれません。
また、数年前からセッションのタイトルでも使われるようになってきた「ゲーミフィケーション」をテーマにしたセッションもあります。「M106:The Gamification of Talent Development(タレント開発のゲーミフィケーション)」では日本語での同時通訳も入る予定で、ゲームの要素をいかに取り入れ、組織に変化を起こすかを知ることができそうです。
このセッションを担当するスピーカー、モニカ・コルネッティ氏がCEOを務めるセンテンティア社では、ゲーミフィケーションの認定(サーティフィケート)を提供しており、ATDの CPLPや、SHRMのPDC’ s、HRCIといった米国の人材開発プロフェッショナルとして認められている資格を取得するためのクレジットとしてカウントされるようになっています。人材開発・組織開発を担当する方にとっては「ゲーミフィケーション」について理解しておくことが今後重要になってくるかもしれません。
その他にも、ドミノ・ピザ社による動画を活用しパフォーマンスの効用につなげた事例を紹介する「TU412:Free the Interns! An Experiment in Mobile Video and Peer Learning(インターンを自由に!携帯の動画とピア・ラーニングにおける実験)」や米軍の訓練機関であるマニューバー・センター・オブ・エクセレンスによる「学習の転移」にフォーカスを当てたケーススタディを紹介する「M217: Learning Transfer: Hinderer or Facilitator, Which One Are You?(ラーニング・トランスファー:邪魔者とファシリテーター、あなたはどっち?)」など、様々な切り口からプログラム開発に生かせるアイデアを得られそうなセッションがみられます。
ヒューマン・キャピタル
このトラックでは、Human Capital(人的資本)を最大限に高め、組織のパフォーマンス向上や変革を推進するためのアプローチや取り組み例などが紹介されています。扱われているテーマとしては、タレント・ディベロップメント、エンゲージメントやダイバーシティ&インクルージョン、メンタリングやコーチングなど幅広いものが挙げられます。
以下に複数のセッションで取り上げられているキーワードや分野、5つを中心にご紹介していきます。
例年に続き、今年もミレニアル世代に関するセッションがみられます。特に注目したいのは、人材関連の大手調査期間であるカンファレンス・ボードと、リーダーシップ・コンピテンシーなどのコンピテンシー調査やトレーニングを世界中で行っていることで知られるDDI(Development Dimensions International)との共同セッションです。
このセッションは、「M301:Divergent Views/Common Ground: Leadership Perspectives of C-Suite and Millennial Leaders(異なる意見と一致する意見:経営幹部とミレニアル世代のリーダーのリーダーシップ観)」というタイトル通り、両社が共同で行った14社に対するベンチマーク調査をもとに、「CEO(リーダー)」としてどのような特質が大事だと考えているのかについての、ミレニアル世代とそれ以外の世代との認識の違いについて扱います。
その他にも、CEO自身がミレニアル世代である、ミレニアル・ソリューション社による「W109:Millennial Engagement Bootcamp: Retention and Marketing Secrets to Win the Next Generation(ミレニアル世代のエンゲージメント・ブートキャンプ:次世代で勝つリテンションとマーケティングの秘訣)」といったセッションもあります。今年は、さらにミレニアル世代の次の世代であるGen Z(Z世代)についてのセッション「SU115:Multigenerational Intelligence: How to Develop Talent Across Generations(世代を超えた知性:世代を超えてタレントを育成するには)」もあります。
2015年にミレニアル世代が職場内の多数を占めるようになり、今後も組織の姿が変わり続ける中で、どのように多様な世代を育成し、エンゲージメントを高めるかということへの関心の高さが伺えます。
また、メンタリングやコーチングのセッションも引き続きいくつか見られます。毎年、講演を行っているケン・ブランチャード氏が「TU104:One-Minute Mentoring: How to Find and Work With a Mentor(1分間メンタリング:メンターを見つけて協働する方法)」で、メンタリングをテーマにしています。
また、ストレングスファインダーを開発・提供していることで有名なマーカス・バッキンガム・カンパニーが、「M206:Practicing Strengths-Based Coaching(強みを基盤としたコーチングを実演する)」というセッションを行います。
その他のメンタリングやコーチング関連のセッションとしては「M115:Powerful Mentoring Programs: 5 Steps to Empower Mentors and Supercharge Learners(パワフルなメンタリング・プログラム:メンターをエンパワーして学習者をたっぷり充電する5つのステップ)」「TU211:Stop Coaching Behind the Scenes(水面下でコーチングするのはやめよう)」「W200:Provocative Coaching: Making Things Better by Making Them Worse(挑発的コーチング:実際より悪く言って実際をよく見せる)」があります。
リーダーシップを扱うセッションとしては、たとえば「SU205:The Humbling Experience: Why Leaders Need It to Grow(屈辱的体験 : なぜリーダーたちがそれを成長の糧とするのか)」、というセッションが注目できます。20年リーダーのコーチングを行ってきたアンジェラ・シーバリー氏が、自身の経験をもとに、リーダーが挫折の中でどのようなことを学ぶのかについて調査研究とストーリーテリングとを組み合わせて話す予定であり、学習者中心の学習やラーニング・エクスペリエンス(Learning Experience)を重視する現在の潮流とも合った内容になりそうです。
また、「W308:Transformational Leadership: The New Competitive Edge(変革型リーダーシップ:新しい競合優位性)」のセッションでは、リーダーを6つの次元、physical(どう生きるか)、emotional(どう感じるか)、intellectual(どう考えるか)、social(どう他と相互作用するか)、vocational(どう成果を出すか)、spiritual(どう世界を観るか)で捉え、これらの次元で開発することで柔軟性と適応力を発揮することを提言しています。このセッションではリーダーを能力という側面だけでなく、全人的に捉えている点が興味深いかもしれません。
ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)をテーマとしたセッションは2つ見受けられます。特に「TU101:More Than a Numbers Game: Integrating Diversity, Inclusion, and Talent Development(ナンバーズ以上のゲーム:ダイバーシティ、インクルージョンとタレント開発の統合)」は注目したいものです。
このセッションのスピーカーの一人が所属するカリール・ジャミソン・コンサルティング・グループ社は10年ほど前からATDで発表しており、D&Iに関する様々な取り組み経験をもとに、インクルーシブな文化の構築やインクルージョンを組織の力にしていくための本質的なポイントを提示するなど良質なセッションを行っています。今年は、インクルージョンに関する企業目標の数値を実現するための統合的なシステム変革アプローチを扱うそうです。
また、組織文化に関するセッションも見られます。毎年ATD発表を行っており、様々なベストセラー本の著者でもあるジョセフ・グレニー氏による「TU305:How to Bridge a Culture Chasm(組織文化の断裂に橋を架けるには)」があります。
そのほか、シュバイツァー・エンジニアリング・ラボラトリーズが24か国4000人以上に提供したオンボーディング・プログラムについて紹介する「SU315:How a Growing Multinational Company Maintains Its Strong Culture(成長する多国籍企業が強いカルチャーを維持する方法)」、「TU301:How to Build Your Organizational Culture: The Power of Rituals, Artifacts, and Totem Poles(組織文化を構築するには:儀式、工芸品、トーテムポールのパワー)」があります。
また、文化に限ったものではありませんが、学習する組織に関する「M307:Building Resilient Learning Organizations: 7 Practices for Creating Sustainable Value(レジリエントな学習組織を構築する:持続的に価値を創出する7つの習慣)」、変革(組織と個人含む)についての「W205:Learning to Change: Know your Enemy(変革を習得する:まず敵を知るべし)」などもあり、組織的なアプローチに関しても、幅広いテーマが見られます。
事例のセッションとしては、「ATD Forum 4:Modernizing Learning to Build Performance Capability(パフォーマンス力を構築するためにラーニングを近代化する)」の中で、複数企業による学習者中心のラーニング・エコシステム構築の取り組みが紹介されます。
また、米国の住宅関連商品の大手小売業者であるホーム・デポの子会社グローバル・カスタム・コマースの事例「M205:Engaging Learning Experiences for Improved Overall Talent Development(エンゲージした学習経験をタレント開発全体の改善に活かす)」、先に紹介したシュバイツァー・エンジニアリング・ラボラトリーズによる「SU315:How a Growing Multinational Company Maintains Its Strong Culture(成長する多国籍企業が強いカルチャーを維持する方法)」などもあります。
これまで紹介したテーマ以外にも、多様なテーマが見られます。たとえば、パフォーマンス改善の分野で著名であり、ATDベーシックシリーズの「HPIの基本」の著者でもあるジョー・ウィルモア氏による「SU406:Taking a Performance Approach to Your Work Regardless of Your Role(自分の役割に関わらず仕事にはパフォーマンス重視のアプローチを取る)」、Project Adventure関連の学習を紹介する「ATD Forum 2:Experiential Learning?Building Teamwork for Problem Solving(経験にもとづく学習 ?? 問題解決のチームワークを構築する)」、パフォーマンスマネジメント革新に関するセッション「W113:Unchecking the Box: Performance Management Reloaded(チェックボックスの ✓ を外す:パフォーマンスマネジメントを再考する)」などがあります。
キャリア・ディベロップメント
このトラックでは、個人および組織のキャリア開発や、タレント開発の分野で働く人々のキャリアについてのセッションが主に扱われています。
今年の各セッションの概要を眺めてみると、傾向とまでは言えないかもしれませんが、本トラックで扱われているキーワードが多少変わってきている印象を受けました。
具体的には、レジリエンス、カルチャー、モビリティ、ネットワーキング、ステークホルダーへの影響、アジャイル、といったキーワードがよく使われています。キャリアの権威でもあるベバリー・ケイ氏は、近年キャリアのメタファーを、「ラダー(一段ずつ上に計画的に上がっていけるもの)」から、「フリー・クライミング(壁を登るような動的なもの)」として捉えて表現していますが、キャリアのあり方そのものが、静的なものから、「動的かつ生成的」なものへと変遷していることが全体を通して伺えるかもしれません。
たとえば、「M113:Six Powerful Resiliency Strategies for Women to Thrive at Work(女性が職場で活躍する6つのパワフルなレジリエンスの戦略)」では、キャリアのチャレンジに直面した女性を支援する6つの戦略が紹介され、どのようにレジリエンスを維持・向上させ、仕事への満足度を高めていくのかについて考えるヒントが紹介されるようです。
セッション内で紹介される予定のレジリエンス・フレームワークは、女性用に作られているようですが、その多くはジェンダーを超えて使用できたり、コーチの方も活用できるもののようですので、幅広い方々にとって参考にできるものかもしれません。
また、「M117:Using Culture Fit to Help Employees Thrive(カルチャー・フィットを用いて社員が前進するのを支援する)」の中では、ステップバイステップで、自分自身を知る・組織の文化を知る・文化へのフィットを診断するという、カルチャー・フィットを理解するプロセスを辿るそうです。
昨今、人材開発・組織開発の分野では、組織の文化についての注目度が増してきておりますが、組織の文化とキャリアがいかに影響し合うのかを考える意味で、示唆が得られるかもしれません。
他にも、「M216:Up Is Not the Only Way: Mobility Matters!(上に行くだけが道ではない:モビリティも重要!)」では、上述したベバリー・ケイ氏が登壇します。マネジャー向けに、キャリアの複数の道を探査することの重要性や、社員とどのように向き合いキャリア形成のサポートを行うかについて紹介されるセッションのようです。
昇格・昇進だけを目指すのではない、新しいキャリア形成の捉え方について学べる機会になるかもしれません。
その他の傾向としては、世代別でのキャリアのアプローチをテーマに扱ったセッションがいくつか見受けられます。
たとえば、「TU214:Motivating Millennials: New Research Into Unlocking Their Passions(ミレニアル世代を動機付ける:彼らの情熱を解放する新しい調査)」では、近年ATD内でも注目度の高いミレニアル世代をテーマに挙げています。ミレニアル世代の核となるモチベーション要因や、情熱と仕事の間の分断を判断する方法について紹介されるそうです。
今後さらに組織の中でミレニアル世代が占める割合や存在感が増していく中、組織の持続的成長や価値創出を考える上でミレニアル世代についての理解を深めることはますます重要となってくるように思いますので、注目したいところです。
また、「TU116:Training to Nudge Pre-Retirees Into a Soft Exit(定年近い社員を優しく出口に誘導するトレーニング)」では、退職への移行を容易にするために、人生を豊かにするライフプランを作るよう働きかけるカリキュラムづくりについて紹介されます。ATDではこれまでにあまり見受けられない新しい切り口のセッションですので、注目してみてもいいかもしれません。
グローバル・ヒューマン・リソース・ディベロップメント
また本カテゴリの特徴としては、異文化、バーチャル、ダイバーシティといった言葉が見られることが挙げられます。数年前まで本セッションのカテゴリでは、各国の特徴を理解し、適応することが大切だというメッセージが背後にあったように感じられていましたが、今年はそういったメッセージは消えているようにも伺えました。
その背景には、インターネットの普及、ITの進化によって、グローバル化が人々にとって特別なことではなくなっているということがあるのではないかと推察されます。
注目したいセッションとしては、世界で二番目に大きな企業といわれている中国の国営公益事業企業SGCC(State Grid Corporation of China)が挙げられます。
SGCC社によるセッションは、本カテゴリの中で「SU405:Fostering Leading Professionals to Realize Business Goals(ビジネスゴールを実現するために優秀なプロフェッショナルを育成する)」と、「TU206:Driving a Learning Strategy Through a Global L&D Center of Excellence(グローバルL&D拠点を通じてラーニング戦略を推進する)」の2セッションが予定されており、どちらも日本語での同時通訳も入る予定で、ATDでも重視されているセッションとして扱われていることが伺えます。
米国に本拠地を置く多国籍企業の事例紹介セッションでは、エマーソン・エレクトリック社の「M315: Taking Leadership Development Global With Your CFO as Your Champion(CFO(最高財務責任者)をチャンピオンとするリーダーシップ開発のグローバル化)」やキンベリー・クラーク社の「TU206:Driving a Learning Strategy Through a Global L&D Center of Excellence(グローバルL&D拠点を通じてラーニング戦略を推進する)」も注目です。
また、調査をベースとしてグローバルの現状について理解を深め、未来を予測するといったセッションも見られます。人材開発の領域に関する様々な調査レポートを提供しているフューチャー・ワークプレイスによるセッション「SU202:The Future Workplace Experience: Prepare for Disruption in Corporate Learning(未来の職場体験: コーポレート・ラーニングの断絶に備える)」では、2000名を超えるグローバルHRリーダーや採用担当マネジャーを対象としたリサーチの結果から、育成、リテンション、エンゲージメントについて得られた示唆や、3000名以上のミレニアル世代Z世代を対象とした調査から得られた育成のポイントや、今後のラーニングについての予測を紹介する予定です。
また、マレーシアを拠点に主にアジアに対して取り組みを展開しているアイクリフ・リーダーシップ&ガバナンス・センターによる、「M116:The Open Source Organization: Future-Proofing Leadership and Management Wisdom(オープンソース型組織:古くならないリーダーシップとマネジメントの知恵)」では、27カ国にまたがる調査研究をもとに、リーダーシップ開発やマネジメント開発のモデルを新しくするアイデアが紹介されるようです。
ラーニングの測定と分析
このトラックは、ラーニングに関する様々な施策の効果測定や、より成果を高めるための分析に関するセッションで構成されています。
全体としては、実際のビジネスに与えるインパクトの分析や測定を扱うセッションが増えているのが特徴です。また、例年通り、カークパトリック一家やジャック・フィリップス一家によるセッションが数多く開催される予定ですが、今年は、カークパトリックの4段階モデルやジャック・フィリップスのROIモデルの、ベーシックな部分を扱うセッションは見受けられず、よりビジネスへのインパクトに重きを置いたようなセッションが増えているようです。
注目してみたいセッションとしては、まず「W306:Advanced Learning Intelligence: Using Analytics to Measure and Change Your Business(進化したラーニング・インテリジェンス:ビジネスに変化と測定する為の分析論を活用する)」が挙げられます。
このセッションでは、ビジネスへのインパクトを分析する重要性が高まる現代における、効果測定に必要なスキルを紹介します。スピーカーは、認知神経科学者であり、NeuroLeadership Instituteの主任教授でもあるグレース・チャング氏であり、その専門的な観点から、どういった内容が語られるか期待してみたいと思います。
また、「SU306:Using Workforce Analytics to Navigate Organizational Change(労働力分析論を用いて組織の改革を先導しましょう)」では、これからの組織ではチェンジ・マネジメントが基本的なスキルであるとされる中、その変化を阻む要因と、変化を促し持続させていくスキルを行動科学や職場分析から紹介されるようです
効果測定のレジェンドとして、ジャック・フィリップス氏は、「M107:How to Keep (and Increase) Your Learning and Talent Development Budget(どのようにラーニング&タレント開発予算を確保(増加)するか)」というセッションの中で、業績につながるラーニング&ディベロップメントのデザインについて語ります。
また、4段階モデルを提唱したドナルド・カークパトリック氏の息子の、ジェームズ・カークパトリック氏は、「M210:Transform Your Future: Building Tactical and Strategic Business Bridges(あなたの未来を変える:ビジネスの架け橋となる戦略と戦術を作る)」で、従来の4段階モデルに新たな指標を加えた「ニューワールド・カークパトリック・モデル」と、このモデルを活用した事例を共有するようです。
その他、注目してみたいセッションとしては、「TU218:Training Doesn’t Work if Impact Is the Goal(研修はインパクトをゴールとしたら上手くいかない)」が挙げられます。
最近注目されている短時間のビデオやワークショップ、eラーニング等だけでは、研修後の十分な行動の変化は促せないとし、研修後も継続可能なプロセスの設計についての紹介が行われます。短い時間で学習を起こしていく切片学習への注目が高まる昨今、その発展の方向性が示唆されるセッションとして注目を集めそうです。
ラーニングの科学
2014年に新設されたこのトラックでは、主に、心理学、行動科学、神経科学(脳科学)の研究から得られた知見を活用した学習のあり方を変容させるアプローチや取り組みを扱っています。
本トラックにおける全体のセッション数は、年々増加しており、なかでも神経科学に関するセッションの増加率には目を見張るものがあります。神経科学の分野での研究が進んできたこともありますが、それ以上にこの分野に関する人々の関心の加熱度合いが急激に高まっているような気がいたします。
NeuroLeadership Summit(参加レポートはこちら)などを主催し、こうしたトレンドを加速させている存在の一人といえるデイビッド・ロック氏が、今年は「TU303:Neuroscience and HR(脳科学とHR)」というセッションを開くようです。神経科学の知見をビジネスのHRの領域にどうつなげるかという観点から、広く今起きているトレンドを概観する情報が得られるかもしれません。
神経科学に関するセッションは、例年、大別すると、トレーニング効果や個人のパフォーマンス向上に関するものと、より良いチーム・組織づくりの促進に関する2つのセッション群に分けられるように思われますが、今年は後者のチームや集団に関するトピックを扱ったセッションが増加傾向にあります。
「M104:The Neuroscience of Teams(チームの神経科学)」はそうしたセッションの代表格と言えるでしょう。リンクトインのグループ会社で、オンライン・ビデオ学習サービスを展開するリンダ・ドットコムのCLOが、チームの信頼やコラボレーションについて、神経科学の観点から話をされるようです。
また、「M306:The Neuroscience of Creating High Performance Cultures(ハイパフォーマンスの文化を創り出す神経科学)」では、組織文化の醸成と神経科学の繋がりに関する研究が紹介されるそうです。
組織開発の重要性がますます広く認識される中で、こうした取り組みと神経科学の繋がりについて、どのような研究と実践が進んでいるのかは興味深いところです。
また、今年の特徴としては、映像や音楽などアートな分野とラーニングとの関連性を扱ったセッションが増えていることもあげられるかと思います。こうした分野の重要性自体は従来から語られていたものの、その関連性を科学的なアプローチでどのように紹介するのかについては注目してみたいと思います。
セールス・イネーブルメント
本トラックは2012年に創設され、今年で6年目を迎えます。セールスを取り巻く事象全般を扱っており、セールスを強化し成果を生み出すための、様々なツールやシステム、トレーニング、方法論などに関するセッションで構成されています。
今年度のセッションは全体として、組織のセールス・パフォーマンスの向上を扱うセッションが多いことが特徴です。
たとえば「SU408:5 Strategies for Building a Winning Sales Team(勝つことのできるセールス・チームを作るための5つの戦略)」では、セールス・トレーニングやマネジメント・コーチングを長年専門に行うジェイソン・フォレスト氏が、優秀な人材の募集や開発、セールス・チームのパフォーマンス向上、企業文化改善のアイデア等を紹介します。
「SU312:Mastering the universe:Advanced Sales Coaching for Managers(世界をマスターする:マネジャーのためのアドバンスド・セールス・コーチング)」では、IBM社の3名のスピーカーが、自社のアプリケーションを用いた企業事例を共有します。
マネジャーが、ソーシャル・メディアを活用しながら、マネジャー同士や専門家と関わりをもち、コーチング力を高めていったプロセスが語られるようであり、ソーシャル・メディアを活用した、今後のトレーニングのあり方を考えるヒントが得られるセッションとなるかもしれません。
また、注目したいセッションとしては、「M319:Engaging Multigenerational Learners Through a Blended Learning Approach(ブレンデッド・ラーニング・アプローチにより多世代にわたる学習者をエンゲージさせる)」が挙げられます。
このセッションでは、ミレニアル世代に関する最新の研究、セールスの脳神経科学、デジタル配信等の最近注目されるキーワードをもとに、それらが次世代のセールス・トレーニング製品開発をどのように推進しているかについて議論します。世代に関わらず人々をエンゲージさせるトレーニング・アプローチの示唆が得られるかもしれません。
※事前レポート内のセッション情報は2月17日時点のものです。セッション番号は、変更になる可能性がありますので、最新情報はATDのウェブサイトでご確認ください。