ATD(The Association for Talent Development)
ATD23事前レポート〜セッション概要から見るポスト・パンデミックにおける人材開発のテーマ〜
株式会社ヒューマンバリュー 取締役主任研究員 川口 大輔
主任研究員 霜山 元
ATD International Conference & EXPO(ATD-ICE)は、ATD(Association for Talent & Development)が主催する世界最大規模のタレント開発に関するカンファレンスです。2023年は、5月21〜24日に米国サンディエゴでの開催が予定されています。
本カンファレンスでは、世界中から集う先駆的企業や教育機関・行政体のリーダーたちが、現在直面している諸問題にどのように取り組んでいるかを企業や国の枠を越えて学び合います。
ヒューマンバリューでは、約30年に渡ってATD-ICEにデリゲーションを行い続け、世界における人材開発の最新動向を探求してきましたが、新型コロナウイルスの影響を受けて、この3年間は現地参加を見合わせていました。今年は渡航制限がなくなったことも受け、3年ぶりに5名のメンバーがサンディエゴに赴いて、カンファレンスに参加することになりました。
カンファレンスでは、300を超えるセッションが開催されますが、公式ホームページ上に各セッションの概要が公開されています。あらためてセッション概要を眺めてみると、3年前とは異なるキーワードが散見され、学習のパラダイムがシフトしてきていることがうかがえます。
ここでは、ATD23の開催を間近に控えて、セッションの見所を紹介するとともに、ポスト・パンデミックにおいて、どんなテーマが議論されようとしているのかを、事前レポートとして共有してみたいと思います。
関連するキーワード
セッション・トラック別の傾向と見所
ATDの公式ページ上に公開されている情報によると、4月6日の時点で、今年は約330のセッションやワークショップが行われる予定です。セッションは、カテゴリー別に分類されていますが、下記に主要なトラックのセッション数をまとめてみました。
Leadership and Management Development(リーダーシップ&マネジメント開発):49セッション
Talent Strategy & Management(タレント戦略&マネジメント):38セッション
Instructional Design(インストラクショナル・デザイン):33セッション
Training Delivery & Facilitation(トレーニングの実施とファシリテーション):27セッション
Managing the Learning Function(ラーニング・ファンクションのマネジメント):18セッション
Future Readiness(未来への準備):29セッション
Learning Technology(ラーニング・テクノロジー):45セッション
Learning Sciences(ラーニングの科学):17セッション
Measurement & Evaluation(測定と評価):21セッション
Career Development(キャリア開発):19セッション
※セッション数は、2023年4月6日時点のものです。
以降、各トラックから見受けられる傾向と注目してみたいセッションを紹介します。
Leadership and Management Development(リーダーシップ&マネジメント開発)
本トラックでは、リーダーシップ開発プログラムのデザイン、リーダーのあり方、より効果的なリーダーシップを発揮するために必要となるスキルや知識の習得といった、リーダーシップに関する様々なテーマが扱われます。ATDのトラックの中でも、毎年セッション数が多く、注目を集めるトラックであるといえるでしょう。
人間中心のリーダーシップ観
セッションを見ていくと、ここ数年の傾向といえるかもしれませんが、人を中心に置いたインクルーシブなリーダーのあり方を探求するセッションが増えていると思われます。
たとえば、「Human-Centric Leadership: Navigating Change in a Data-Driven World(ヒューマンセントリック・リーダーシップ:データ駆動型世界における変革のナビゲート)」においては、タイトルそのものにHuman-Centric Leadershipを掲げています。そして、データに主導されるビジネス環境の中で、メンバーを動機づけ、ダイバーシティ&インクルージョンを促進し、建設的なコーチングの会話を行うリーダーの人間的な側面が問い直されます。発表者はソニーのタレント開発とエンゲージメントのヘッドを務めるBritni Warner氏であり、企業での実践が話されるものと思われます。
「Trifecta of Trust: The Proven Formula for Building Trust(トリフェクタ・オブ・トラスト:信頼構築のための実証済みの公式)」では、リーダーシップ開発で名高くATDのレジェンド・スピーカーでもあるジャック・ゼンガー氏が、リーダーシップにおいて信頼が最も重要であることを示す多くのデータを紹介するとともに、信頼を高める3つの内容を学べるものとなっています。今後のリーダーシップ開発において、「信頼」こそが中心にあるという考え方が一般的になってくることも読み取れます。
また、「Leadership’s New Challenge: Inclusivity in a Hybrid Workplace(リーダーシップの新たな挑戦:ハイブリッドワークプレイスにおける包括性)」では、ハイブリッドな環境において、いかにリーダーがインクルーシブな職場環境をつくっていけるのかといったテーマが扱われ、現在の環境におけるリーダーシップの命題を深堀していくようです。その他にも「DEI Coaching 101: A Playbook for Inclusive Leadership(DEIコーチング101:インクルーシブ・リーダーシップのためのプレイブック)」など、ダイバーシティ&インクルージョンをリーダーシップのテーマとして扱ったセッションが増えていることも傾向の1つといえるでしょう。
カルチャー創造におけるリーダーシップ
その他の傾向として、リーダーの役割が、一人ひとりのメンバーへのフォーカスだけではなく、組織づくりやカルチャー創造にも広がってきていることがうかがえます。
「Building an Inclusive Organization(インクルーシブな組織づくり)」では、インクルーシブなカルチャーの創造に向けて、リーダーが人々のマインドセットや行動にどのように影響を及ぼしていく必要があるかを探求していきます。
「Leadership and the New Imperative: Improving People’s Psychological Sense(リーダーシップと新しい命題:人々の心理的感覚の改善)」では、リーダーがカルチャーづくりに失敗したとき、いかにパフォーマンスが低下するかを明らかにしながら、働く人々のウェルビーイングとパフォーマンスの両者について、それぞれを損なうことなく高めていくあり方が紹介されるようです。
また、「Take Off Your Coat and Stay Awhile: Extend Their Stay!(コートを脱いで、しばらく滞在してください: 滞在を延長する!)」では、人材開発や人事のメンバーだけではなく、すべてのマネジャーがリテンションやキャリア開発について学ぶことでタレント・カルチャーをつくっていくことの重要性が語られるようです。キャリア開発の領域でのレジェンド・スピーカーであるビバリー・ケイ氏の発信に注目したいところです。
さらに、「5 Steps for Creating Stellar Change Agents Using Dialogic OD(対話型ODによる優秀なチェンジエージェント育成のための5つのステップ)」では、カルチャー創造における対話型OD(組織開発)のアプローチを学べるものとなっており、リーダー自身が組織開発を実践していくことの必要性の高まりがうかがえます。
チームへのフォーカス
また、チームをつくる上でのリーダーの役割や実践に焦点を当てたセッションも数多く開催されるようです。
たとえば、5 Quick Wins to Better Bond Your Team(チームの絆を深めるための5つのクイックウィン)」「The Exhausted Leader’s Guide to Re-Engaging Your Team(疲弊したリーダーがチームを再活性化させるためのガイド)」「Beyond Assessments: Team Learning Experiences That Inspire Real Change(アセスメントを超える: 真の変化を促すチーム学習体験)」「Lead Your Team Through Change(変化を通してチームを導く)」などのセッションに注目してみたいと思います。
キーワードとしてのアカウンタビリティ
今年のカンファレンスでは、リーダーシップ開発に限らず、様々なセッションで「アカウンタビリティ」がキーワードとして語られている印象があります。アカウンタビリティは、日本語にすると説明責任と訳されることが多いですが、上述した人間中心や信頼に基づいたカルチャーの上に、組織のあらゆるレベルの人々が、チームや組織でターゲットにしているキー・リザルトに自分事としてコミットしていくカルチャーをつくっていこうという傾向が見受けられるように思います。
たとえば、「Don’t Hold People Accountable; Develop Accountable People(アカウンタビリティを問うのではなく、アカウンタビリティを果たせる人を育てる)」「Creating Better Accountability: Practice “Noticing” to Improve Relationships and Results(より良いアカウンタビリティをつくる: 関係性と成果を向上させる「気づき」の実践)」「Creating a Culture of Accountability, Not Blame(責めるのではなく、説明責任を果たす文化を創る)」「How to Turn Expectations into Reality With an Accountability Culture(アカウンタビリティカルチャーで期待を現実のものにする方法)」のようなセッションが挙げられます。
ストーリーテリングの重要性
トラスト、シビリティ、モラルに基づいたリーダーシップ
リーダーシップの役割として、ストーリーテリングの重要性は以前から述べられていましたが、パンデミック以降の数年間は、特にデジタル・ストーリーテリングなど、ハイブリッドな環境の中でこそ、その意味が大きくなることが語られていました。そうした影響を受けてか、ストーリーテリングをテーマにしたセッションが、様々なところでまた増え始めているのも興味深い傾向といえます。
たとえば「Storytelling for the Modern Professional: Why Narrative Leadership Matters(現代のプロフェッショナルのためのストーリーテリング: なぜナラティブ・リーダーシップが重要なのか)」では、元ジャーナリストや弁護士であった発表者がナラティブなリーダーシップの価値を科学的な観点から語るセッションであり、注目してみたいところです。
Talent Strategy & Management(タレント戦略&マネジメント)
本トラックでは、組織のパフォーマンス向上や変革の推進、また、それらの取り組み事例等が紹介されています。テーマとしては、タレント・ディベロップメント、エンゲージメント、組織のカルチャー醸成、ダイバーシティ&インクルージョンなど多岐にわたっています。今年は特にどんなテーマにフォーカスされているのかを見てみたいと思います。
DE&I:「ダイバーシティ(多様性)」「エクイティ(公平性)」「インクルージョン(包括性)」
リーダーシップ開発のところでも、インクルーシブなリーダーのあり方が取り上げられていることを述べましたが、このトラックでもDE&I(Diversity Equity and Inclusion)がタレント開発の主流なテーマとなってきていることがうかがえます。
たとえば、「A 5 Cs Approach to Formulating Your DEI Strategy With Adaptability(DEI戦略策定のための5つのCsアプローチと適応性)」では、DEIの戦略を策定していくために欠けているピースとしての「Adaptability(適応性)」を取り上げています。ここでの「Adaptability(適応性)」が何を指しているのかは、概要を見ただけではわかりませんが、メンバーが新たなDEIの戦略に適応していく力を高めていくことを指していることが推察されます。DEIを理想論として掲げるだけでなく、適応していくための実践について探求したいところです。
「Launching and Onboarding ERGs in Your Workplace: A How-To Guide(職場におけるERGの立ち上げとオンボーディング: ハウツーガイド)」では、「ERG(Employee Resource Group)」がテーマとして取り上げられます。ERGは、組織の中で同じ特質や価値観をもつ従業員が主体となって運営するグループのことであり、DEIを職場の中で進めていく上でキーとなる存在です。ここでは、実際の立ち上げなど、実践的な内容が学べるようです。
また、「Building Belonging: Currency of the Inclusive Leader(ビロンギングを構築する: インクルーシブ・リーダーの通貨)」では、リーダーが心理的に安全な状態をつくり、多様な価値観をもつ人たちが組織にビロンギングしていると感じられるようにしていくリーダーのあり方が探求されます。
その他にも、「Unconscious Bias and Uncomfortable Conversations(アンコンシャス・バイアスと不快な会話)」「Creating an Inclusive Workplace for Trans and Nonbinary Employees: A Critical Conversation(トランスおよびノンバイナリー従業員のための包括的な職場づくり: 重要な会話)」など多様なテーマが開催され、こうしたテーマへの関心の高さがうかがえます。
ハイブリッド環境下での職場づくり
ポスト・パンデミックという文脈から、ハイブリッドという言葉もキーワードとして多く扱われ、関心度も高そうに思われます。
「Three Critical Talent Development Trends for Our Hybrid World(ハイブリッドな世界における3つの重要な人材開発のトレンド)」では、毎年科学的な見地からクオリティの高い情報提供を行うブリット・アンドレッタ氏が、ハイブリッド環境における人材開発のトレンドを発表するとのことで、注目したいです。
また、「The 3 Cs of Building Hybrid and Remote Teams(ハイブリッドチームとリモートチーム構築のための3つのC)」では、リアルとリモートが混在した現代的な職場の中で、いかにチームを構築していくかが話されます。これは、多くのマネジャーや人材開発担当者が関心をもつテーマと思われます。
好奇心や創造性の発揮
ここ数年、好奇心や創造性をどう育んでいくかといったテーマがATDの中でも散見されるようになってきました。今年もその傾向が続いているといえます。
「Eliminate Apathy: How Genuine Curiosity Sparks Loyalty and Retention(無関心をなくす:本物の好奇心がロイヤルティとリテンションを生む方法)」では、無関心がいかに組織のカルチャーを押し殺すかをテーマとして扱い、好奇心をもとにコミュニティを形成していくことを打ち出し、その進め方について学ぶ内容です。
また、「Psychological Safety’s Impact on Creativity and Innovation(心理的安全性が創造性と革新性に与える影響)」では、この数年の大きなトピックであった心理的安全性を通して、いかに創造性や革新性を育んでいくのかについて、参加者同士で実践的な対話が行われるようです。
「Change Perception of Failure for Your Learners to Perform Better(学習者がより良いパフォーマンスを発揮するために、失敗の認識を変える)」では、失敗の捉え方が扱われます。心理的安全性やグロース・マインドセットでは、「失敗」の捉え方をシフトすることが重要な観点として扱われますが、このセッションでは、失敗についての考え方を変える方法を特定し、それを成功のためのリソースとして使用する方法を学んでいくようです。
以上のようなセッションの概略をみると、このテーマにおける議論が、コンセプチャルなものからより実践的なものに移行してきた感があります。
チーム学習の活用と変化
リバース・メンタリングやグループ・コーチングなど、チーム学習の活用や変化に関するセッションも多く行われます。
「How Reverse Mentoring Tackles Bias: 7 Guidelines and a 3-Stage Process(バイアスに対抗するリバース・メンタリングの方法:7つのガイドラインと3つの段階的プロセス)」では、年齢によるバイアスを取り除くためにリバース・メンタリングを取り上げます。リバース・メンタリングとは、若手が年配の社員と立場を逆転し(=リバース)、若手がメンターとして、メンティーである年輩の社員にメンタリングを行っていく仕組みで、企業においても実践が進んでいます。このセッションでは、リバース・メンタリングを具体的に進めていくためのガイドラインが共有されます。
「Investing in Your Team Through Career Circles Group Coaching(キャリアサークル・グループコーチングを通じたチームへの投資)」では、グループ・コーチングを通してキャリア開発を促進していくアプローチが紹介されます。自分一人で取り組んだり、上司との会話を通じてキャリアを開発するだけでなく、キャリア・サークルというグループ・コーチングスタイルで自律的なキャリア形成につなげていこうとする取り組みは、今日的でこちらも興味深いといえます。
ボランティアやウェルビーイング
また、タレント戦略のトラックの中に、ボランティアやウェルビーイングのようなキーワードが入ってきていることも今日の傾向といえるでしょうか。
たとえば、「Happy Staff, Higher Profit Through Corporate Volunteer Engagement(企業のボランティア活動を通じて、スタッフの幸せと利益の向上を目指す)」では、企業内のボランティア・プログラムのあり方が議論されます。ボランティアに参加することで、仕事にも活力が生まれることが多くの企業の実践からわかってきており、具体的な実践方法が紹介されるようです。
また、「The Gratitude Effect: Unleashing the Power of Recognition and Appreciation(ザ・グラティチュード・エフェクト:承認と感謝の力を解き放つ)」では、承認や感謝をされている社員は、より仕事に満足し、高いパフォーマンスを発揮するというリサーチの結果をもとに、そうした力を最大限に解放し、ウェルビーイングをいかに高めていくかといったところがテーマとして扱われ、注目してみたいと思います。
Instructional Design(インストラクショナル・デザイン)
このトラックには、組織における学習の計画や設計およびトレーニング開発に携わる人々にとって、具体的な支援ツールやティップスを得られるセッションが集まっています。
デザイン思考の適用
インストラクショナル・デザインの領域では、旧来的なADDIE(Analysis, Design, Develop, Implementation, Evaluation)のモデルを脱却し、デザイン思考やアジャイル開発的な考え方をラーニングの領域にも適用していこうという傾向がここ数年見受けられていました。今年もその傾向は続いているといえます。
「New Approach to Old Stuff: Design Thinking Applied to Learning(古いものへの新しいアプローチ: デザイン思考の学習への応用)」では、学習者が多様な文化、背景、視点をもつ中で、デザイン思考を適用して、より効果的で効率的な学習の開発をどう進めていくかが焦点として扱われます。
「7 Ds of Design Thinking for Engaging and Effective Learning Experiences(魅力的で効果的な学習体験のためのデザイン思考の7つのDs)」では、学習者を中心に置いたデザインのアプローチが扱われます。特に、フランス、デンマーク、ラテンアメリカ、米国という異なる国において、デザイン思考を適応したケースが紹介され、具体的なフレームワークの使用方法を学べる内容となっているようです。
また、「Beyond Design Thinking: Personas Drive Learning That Changes Behavior(デザイン思考を超える: ペルソナは行動を変える学習を促進する)」では、「デザイン思考を超える」という主題のもと、学習者のペルソナからラーニングをデザインしていく上で、これまでとは異なるアプローチが紹介されるようで注目してみたいと思います。
フローの中に学習を組み込む
上述のデザイン思考にも関連するものとして、今年のインストラクショナル・デザインのトラックでは、「フロー」というキーワードが散見されます。内容としては、特別な機会としての学習をデザインするのではなく、仕事の経験やエンプロイー・ジャーニーの中で学んでいけるようにするデザインをいかに実現するかといった意味合いが強いと思われます。
たとえば、「Learning in the Flow: Just Do it!(流れの中で学ぶ:Just Do it!)」では、「Learning in the Flow」を人材開発のホット・トピックとして位置づけ、マイクロラーニング、パフォーマンスサポート、ナレッジ・マネジメント・システムなどの専用サポートテクノロジーがない場合に、どこから始めたらよいかといったことをガイダンスするセッションとなっています。
また、「4 Steps to Building Learning Into the Flow of Work(仕事の流れの中に学びを組み込むための4つのステップ)」では、仕事の流れの中に学びを組み込むための具体的な例や教訓、ステップが紹介され、具体的な戦略やヒントを得る機会となるでしょう。
ラーニングをフローの中に位置づけることで、人材開発部門の役割も大きく変わってくることが想定され、注目したい領域といえます。
ユニバーサル・デザインの適用
リーダーシップ開発やタレント戦略の領域で、DE&Iが大きなテーマとなっていることを述べましたが、そうした傾向を受けて、インストラクショナル・デザインの領域では、ユニバーサル・デザインやアクセシビリティが大きなテーマとなっているようです。
たとえば、「Leave No Learner Behind: Accessibility Matters(学習者を置き去りにしない: アクセシビリティの重要性)」では、DE&Iについて人種やジェンダーという側面からだけでなく、人々の学習能力の多様性からも注目すべきだと述べ、学習者を誰一人置き去りにしないアクセシビリティのあり方を検討していきます。
その他にも、「Move Beyond Accessibility With Universal Design for Learning(学習用ユニバーサル・デザインでアクセシビリティを超えよう)」「Inclusion Mindset: Designing Accessible Content for All Learning Needs(インクルージョン・マインドセット: すべての学習ニーズに対応したアクセシブルなコンテンツのデザイン)」「Could Your Bias Be Derailing Your Talent Development Brand?(あなたの偏見が人材開発ブランドを損なっているかも?)」「Incorporating Accessibility Into the Beginning Stages of Learning Design(学習デザインの初期段階からアクセシビリティを取り入れる)」など、多くのセッションが予定されており、このテーマへの関心の高まりが感じられます。
ストーリーテリング
リーダーシップ開発のトラックで、ストーリーテリングの重要性を取り上げましたが、インストラクショナル・デザインの領域でも、ストーリーテリングがキーワードとして挙がっています。
たとえば、「Entertaining to Educate: Harnessing Powerful Storytelling in Professional Learning(エンターテインメントで教育する: プロフェッショナル・ラーニングでパワフルなストーリーテリングを活用する)」では、学習にストーリーテリングを組み込むことが、いかにエンゲージメントを高めていくについて紹介されます。
また、「Story Design: A Humanized Approach to Instruction(ストーリーデザイン:インストラクションへの人間味のあるアプローチ)」では、人々の学習体験に人間味を与え、デザインの可能性を広げるためのストーリーの活用方法について探求が行われます。インストラクショナル・デザインも、より人間中心に置き換わってきている流れを実感できるかもしれません。
Training Delivery & Facilitation(トレーニングの実施とファシリテーション)
本トラックでは、トレーニングを通じた知識伝達や人材開発の技術を高めるためのプログラム設計の仕方をはじめ、インストラクションやファシリテーションのスキル、テクニックなどが主に扱われています。「インストラクショナル・デザイン」や「ラーニング・テクノロジー」のトラックと併せて、効果的な学習のあり方や進め方のキーポイントを知ることができるトラックです。
バーチャル・ファシリテーションの実践
コロナ禍の中で、これまで以上にオンラインでのトレーニングやワークショップが増えたことから、バーチャルでのリーダーシップやファシリテーションはATDにおいても大きなテーマとなっています。
たとえば「Leveraging Humanity in vILT: The Art of Inviting(vILTで人間性を生かす:招待の技術)」では、無機質なバーチャル・トレーニングにいかに人間性を取り入れていくかが探求されます。
また、「Virtual Facilitation 2.0: Level Up Your Capabilities(バーチャル・ファシリテーション2.0: あなたの能力をレベルアップさせる)」では、バーチャル・ファシリテーターに、いかにコーチングを施してスキルアップを図ってもらうかというテーマを取り上げています。
また、「10 Brain Boosters in Online Training(オンライン・トレーニングにおける10個のブレイン・ブースター)」では、オンライン・トレーニング上で、参加者の活性化を促すためのティップスやコツが扱われます。
バーチャル・ファシリテーションは、ここ数年の実践を経て、様々なティップスが蓄積されていることが予想され、そうした多くの実践的な学びの共有が期待されます。
ハイブリッドでの学習環境の構築
現代は、バーチャルだけではなく、バーチャルとリアルが入り混じるハイブリッドな学習環境の構築が求められます。これは、バーチャルオンリー、リアルオンリーよりもより難易度が高いといえます。そこへの実践的なヒントが得るためのセッションも増えているように思います。
たとえば、「Meeting in the Multiverse: Mastering Engagement in a Hybrid Environment(マルチバースで出会う: ハイブリッド環境でのエンゲージメントを極める)」は、バーチャルとリアルの参加者双方のエンゲージメントを高めるには、自分たちの枠組みを超えるアイデアが必要とし、そうしたアイデアを共有するセッションとなっています。
また、「Hybrid Training: The Pillars of Successful Live Mixed Learning(ハイブリッドトレーニング: ライブ・ミックス・ラーニングを成功させるための柱)」においても、ライブをミックスしたオンライン・トレーニングをいかに実践していくかの戦略が探求されるようです。
「Using Icebreakers and Energizers for Employee Retention and Engagement(アイスブレーカーとエナジャイザーを使った社員の定着とエンゲージメントの実現)」では、オフィスで働く人とリモートワーカーをつなぐための効果的な方法やテクニックが話されるようです。
上述したバーチャル・ファシリテーションと同様に、このテーマも様々な実践のコツが生み出されていることが予想され、注目してみたいところです。
Managing the Learning Function(ラーニング・ファンクションのマネジメント)
このトラックでは、ラーニングを扱う組織の役割を考えていくセッションが登場します。トレーニングの発注・請負といった単純なアプローチではなく、組織内の学習機能をマネージするのは、近年ますます複雑になっています。そのようなラーニング・ファンクションを管理する人々の責任範囲には、組織開発やプロジェクト管理、タレント開発とビジネス目標とのアライメント、学習アイデアや傾向の理解、トレーニング以外のソリューションの専門性(パフォーマンス・コンサルティングやコーチングなど)を養うことなどが含まれてきます。
ラーニング&ディベロップメント(L&D)の役割の革新
このトラックでは、学習のパラダイムが変わる中で、L&Dに携わる人たちの役割を革新していくことの必要性を扱ったセッションが多く見受けられます。
たとえば、「Learning and Development’s Subtle Leadership in Changing Times(変化する時代におけるラーニング&ディベロップメントの微妙なリーダーシップ)」では、変化の時代において、L&Dの部門で働く人たちには、DE&Iの原則のもとに事業に働きかけていくことが求められているといったテーマを取り上げ、L&D部門のリーダーシップのあり方を問い直していきます。
「Relationship-Based Consulting: A New Approach for a New Era(リレーションシップ・ベース・コンサルティング:新時代の新しいアプローチ)」も同様に、L&D部門と事業との関係性に焦点を当て、コンテンツ以上に、リレーションシップをベースに置いたコンサルティングを展開していくことの必要性が紹介されるようです。事業との関係性を見直す機会になるかもしれません。
また、「Cohort Learning Epic: How to Fuel Connection at Your Organization(コホート・ラーニング・エピック:あなたの組織でつながりを深める方法)」では、本カンファレンスの1つのキーワードである「コホート・ラーニング」の観点から、L&Dの役割を考えていきます。コホート・ラーニングとは、グループに参加するメンバーが、一緒に教育プログラムに取り組んでいく共同学習スタイルのことを指します。SlackやZoomなどを活用して、学習者がコミュニティ的に学んでいくスタイルとして広がりを見せています。学習のあり方が教える・教わるといった客観主義的な学習から、共に学んでいく社会構成主義的な学習にシフトする中で、L&Dの学習への向き合い方も変わってくると考えられます。
そして、「Forget SAM and LLAMA, Use Scrum for Agile Delivery(SAMとLLAMAを忘れて、アジャイルデリバリーにスクラムを使おう)」では、スクラムが取り上げられます。インストラクショナル・デザインの領域では、ADDIEからSAM、LLAMAといったモデルへのシフトが提唱されてきましたが、よりアジャイル開発を志向したスクラムの適用を提言するセッションも登場するようです。
比較的プラクティカルな内容のセッションが多い印象ですが、これらのセッションを通して、自分たちの役割を今一度見直してみたいところです。
Future Readiness(未来への準備)
ATDは2020年1月に、これからの人材・組織開発に携わるプロフェッショナルに期待する能力のモデルとして「Talent Development Capability Model」を打ち出しましたが、Future Readiness(未来への準備)は、その中で求められる23の能力の1つです。そういう意味で比較的新しいトラックであり、内容としては、タレント開発の今後のトレンドや洞察が多く探求されている印象です。
たとえば、「CTDO Next Panel: Next Capabilities of the Talent Development Profession(CTDOネクストパネル: タレント・ディベロップメント・プロフェッションの次の能力)」では、3MやUPSなど、グローバル企業のチーフ・タレント・ディベロップメント・オフィサーが集うパネル・ディスカッションが行われます。パンデミックを経て、パーパス主導、アジャイル、社会価値創造を志向した組織づくりが求められる中、マネジメントの重要性は、継続的なフィードバック、貢献ベースのパフォーマンス・マネジメント、プロジェクトベースの仕事において高まってきています。そうした環境の中でこれからのタレント開発に必要な能力について議論が行われる予定です。ダイナミック・スキリングやマイクロ・クレデンシャル(習得した知識や技術、態度等を小さな単位で学習証明するコンピテンシーモデルのこと)、ユニバーサル・アクセスなどのキーワードも扱われる予定です。
「Beyond L&D: Mapping the Future of Skills in the Workplace(L&Dを越えて:職場におけるスキルの未来をマッピングする)では、アマゾン社のリーダーシップ&ラーニングの担当者から、テクノロジーやオートメーションの進化と共に、L&Dの役割がどう進化していくかについて洞察が語られます。
また、ラーニング・テクノロジーのところで多く登場するAIを扱ったセッションも当然のように見受けられます。「What Will Generative AI Do for You This Year?(生成AIは今年、何をやってくれるのか?)」では、昨今注目を集めている生成AIをいかに自分たちの仕事の領域で生かしていくかについて紹介されるようです。
その他にも、「Creating a Learning Culture to Retain Talent(人材を確保するためのラーニング・カルチャーの創造)」では、ラーニング・カルチャーの醸成とタレントのリテンションの関係性に焦点を当てたセッションが行われる予定で、こちらも興味深いといえます。
Learning Technology(ラーニング・テクノロジー)
このトラックは、新たなテクノロジーを用いた新しいラーニングの姿や、学習を効果的に行う方法、事例などを取り上げています。
今年の大きな特徴としては生成AIの登場が挙げられます。以前からA I(人工知能)はキーワードとして取り上げられてきましたが、Chat GPTに代表される生成A Iの隆盛を受け、今年はこうした生成AIの活用をテーマとするセッションが増えている印象を受けます。また、V RやAR、メタバースについて触れるセッションも多く、仮想現実・拡張現実を活用したラーニングのあり方についての注目度は高まっているように感じられます。
こうしたテクノロジーが生み出す全体的なトレンドを概観する上では、「Exploring the Opportunities of the New Learning Technology Landscape(新しいラーニングテクノロジーの情勢における機会を探求する)」というセッションが参考になるかもしれません。スピーカーのデイビッド・ケリー氏は近年、こうしたセッションを毎年持ち、テクノロジーの進化によりL&Dが直面している変化と将来の展望を発信しており、今年はどんな内容を語るのか注目です。
生成AIに関するセッションとしては、「Applied AI For the Enterprise: Relevance, Brand Compliance, and Safety(企業向けの応用人工知能:関連性、ブランドコンプライアンス、安全性)」が挙げられます。このセッションでは、生成A Iの活用法や留意すべき点、企業として取り入れられるサービスなどが紹介される予定です。生成AIによってラーニングがどう変わるのか、またどうそれを活用するのかについては、その検討が始まったばかりというところが多いと思いますが、こうしたセッションでどのような議論がなされるのか注目したいと思います。
また、「Practices that Work: Applying AI Across the Talent Ecosystem(機能する実践:タレントエコシステム全体にAIを適用する)」では、ラーニング環境やタレントエコシステム全体にどのようにAIを活用するかという観点で、アクセンチュアやブーズ・アレン・ハミルトンの実践事例が紹介される予定となっています。生成AIの活用まで共有されるか定かではありませんが、特定の学習コンテンツにAIを活用するのではなく、エコシステム全体にAIを活用する点で興味深い内容となっています。
このようにエコシステム全体にAIを活用するケースを扱ったセッションは他にもいくつかあり、こうしたAIの活用が働く人のパフォーマンスやエンゲージメント、エンプロイー・エクスペリエンスにどのようなインパクトがもたらされるのかは、継続して探求していけたらと思います。
メタバースやVRを扱うセッションとしては、「Into the Metaverse: New Technologies for Learning(メタバースへ:ラーニングの新しいテクノロジー)」が挙げられます。メタバースに関連する技術を活用して、どのようにラーニング体験を拡張することができるかについて、Amazon Web Serviceの実務家がセッションを行う予定となっており、メタバースを活用した独自のラーニング環境を構築する際の実践的な示唆が得られる内容となっています。
その他にも、テクノロジーを活用したラーニングコンテンツ開発としては、動画やポッドキャストに関連するものも多く紹介されるようです。また、「Restoring Human Connection: Designing Digital Cohorts to Work From Anywhere in the World(人のつながりの回復:世界のどこからでも働けるようにするためのデジタルコホート設計)」では、リモートワークやバーチャルチームが常態化した中で、チームメンバー間のコラボレーションや相互学習支援を行うための方策が扱われます。リモート環境におけるコラボレーションをどう高めるかは今後も重要なテーマであり続けると思われますので、こちらも注目したいと思います。
Learning Science(ラーニングの科学)
このトラックでは、主に、心理学・行動科学・脳神経科学の研究から得られた知見を活用し、学習のあり方や人および組織の認知・行動を変容させるアプローチや取り組みなどを紹介しています。
数年前は、脳神経科学から得られた知見を紹介するセッションが一大トレンドといえるほど多くありましたが、そうした知見は一定程度この業界に定着したのか、一段落して少し数が減った印象があります。
そうした傾向はありつつも、組織における信頼の高め方について神経科学の観点から述べた著作を多数もつポール・ザック氏が、「Immersive Training: Reaching Flow(没入型トレーニング:フローへの到達)」にて、神経科学や心理学の新たな知見を生かした効果的なトレーニングの作り方を紹介するセッションをもつなど、脳神経科学の新たな知見を扱うセッションは多くあります。
たとえば、「Using Neuroscience Principles to Create Powerful Cohort Learning(神経科学の原則を使用した強力なコホート・ラーニングの作成)」は、今年のカンファレンスのキーワードとして多く見られるようになってきたコホート・ラーニングについて、神経科学から得られた知見を活用して、いかに効果的に実践するかを紹介するセッションとなっています。
このように、脳神経科学から得られた知見が、ラーニングや組織のありようにどのような変化やインパクトをもたらし得るのかについては、引き続き注目していきたいところです。
行動科学を活用した行動変容の促進という点においては、この分野の代表的な存在ともいえるマインドジム社が「The Science of Sustainable Behavior Change(持続可能な行動変容の科学)」というセッションを行います。持続的な行動変容やそれを支える組織文化の変容をもたらすメソドロジーや、その裏付けとなる理論的な背景が扱われる予定となっており、この分野に興味のある方にとっては押さえておきたい内容といえるでしょう。
また、「Purpose: A Catalyst for Learning(パーパス:ラーニングの触媒)」「The Science of Storytelling(ストーリーテリングの科学)」「Psychological Safety: Foundation for Fearless Learning(心理的安全性:大胆不敵なラーニングの基盤)」といったセッションでは、他のトラックでキーワードとなっているパーパスやストーリーテリング、心理的安全性を神経科学や心理学の観点から扱っており、こうしたテーマについて立体的な理解を深める上で参考になる内容ではないかと思われます。
Measurement & Evaluation(測定と評価)
このトラックでは、トレーニングの効果性を高めるためのデータの取り方、L&DのROIの適切な測定方法、データを活用した効果的なコミュニケーションの仕方についてのセッションを扱っています。
今年の傾向として、単純なデータ収集や測定、数字による判断を超えて、集めたデータを使ってどのようにコミュニケーションをとっていくのか、データに表れない部分をどのように判断するのかというセッションが増えているように感じられます。
昨今、インパクト投資やインパクト・エコノミーという言葉が広がってきているように、企業経営において、投資によってどのくらいの利益(財務指標)が得られたかだけでなく、どのくらいのインパクト(非財務指標も含む)をステークホルダーにもたらしたのかということがさらに重要視されてきています。これと同様のことが、ラーニングの中でも起きてくるのではないかと思います。
「High-Impact Evaluation(ハイ・インパクト評価)」というセッションでは、従来のRO Iモデルの“インパクト”を超えた“ハイ・インパクト”を生み出すためのアプローチについて、エミレーツ航空での事例を紹介しながら語られる予定となっています。ここでのハイ・インパクトが何を指すのかは現時点ではわかりませんが、注目してみたいところです。
また、「Your DEI Story Is Hiding in Your Data(データの中に隠れているDEIのストーリー)」は、企業のDEIに関するデータを活用して、行動変容を促すストーリーやナラティブを生み出していく重要性を強調するセッションとなっています。人的資本情報開示の動きが強まる中で、多くの企業がDEIに関するデータを集めていると思いますが、それをインパクトや変容に効果的につなげるための示唆が得られる内容になっていそうです。
この分野の基礎的な知識や実践について扱うセッションとしては、「Delivering Results That Executives (and Others) Will Love(幹部たちが愛する結果を提供する)」が挙げられます。この分野を故カークパトリック氏と共に築き上げてきたジャック・フィリップス氏がスピーカーとなって、あらためて自身の開発したROIモデルを活用したラーニングの価値の示し方についてのセッションを行う予定となっています。この分野の基礎と今日的な進化を知る上では、ぜひ押さえておきたい内容になっているかと思います。
また、「Data Literacy Fundamentals for Learning(ラーニングのためのデータリテラシーの基本)」も、ますます増えるデータの取り扱いについて、その集め方や解析の仕方などの基本をAmazonの実務家が紹介する内容となっており、企業内での実践を進める上では有益な内容となっているのではないかと思います。
Career Development(キャリア開発)
このトラックは、キャリアに対する考え方そのものを扱うセッションや、専門知識やスキルの習得支援に関するセッション、L&Dの実務家のキャリアに関するセッション、働く個人を対象としたキャリア開発セミナーのようなセッションなど、キャリア開発という大きな傘の下に様々なテーマのセッションが集まって構成されています。
「Today’s Career Development Journey: Looking Beyond the Landmarks (and Landmines)(今日のキャリア開発の旅:ランドマーク<および地雷>を超えて)」は、『会話からはじまるキャリア開発』(ヒューマンバリュー出版)の共著者でもあるジュリー・ウィンクル・ジュリオーニ氏によるセッションです。従来のはしご型のキャリアパスをベースにしたキャリア観ではなく、縦横自由に柔軟に判断していくボルダリング型のキャリア観を書籍の中で提示したスピーカーが、キャリア開発を旅路(ジャーニー)と捉え、その中で働く人の豊かな成長をどのように支援するかについて紹介する内容となっています。今年のATDの中でキャリア観を扱うセッションとしては代表的といえる存在であり、今後のキャリア観を探求する上で参考となりそうです。
専門知識やスキルの習得支援に関するセッションに関しては、オンライン学習プラットフォームでもあるLinkedInが、「Powering a Dynamic Workforce With a Skills-First Approach to Talent(タレントへのスキルファーストアプローチでダイナミックな労働力を駆動する)」「Drive Business Outcomes Through Skills and Career Development(スキルとキャリア開発を通じてビジネス成果を推進する)」という2つのセッションを開催します。日本においても、また世界的にも、リスキルやアップスキルが注目を集める中で、これらをどう進めていけばよいかの示唆が得られるのではないかと思います。
「6 Secrets to Consulting Success(コンサルティングの成功についての6つの秘密)」は、ATDの中でもグル的な存在で、豊富な経験をもつエレイン・ビーチ氏からコンサルタントとしての成功の秘訣を学ぶという趣旨のセッションです。急速に変化するL&Dの領域の中でどんな役割を担っていくのかを考える内容となっている「What’s Next? Creating Your L&D Career Path Blueprint(次は何? L&Dキャリアパスの青写真をつくる)」と併せて、L&Dとしてのキャリアを考えていく上での参考となりそうです。
最後に、個人を対象としたキャリア開発セミナーのようなセッションとしては、パーソナルブランディングを扱うものが多い印象です。その中で、2013年のATD(当時はASTD
)カンファレンスで基調講演を行ったリズ・ワイズマン氏も「Becoming an Impact Player(インパクトプレーヤーになる)」というセッションをもつ予定となっています。リーダーシップ開発の要素に近い部分もありますが、10年という時を経て、当時提唱していたマルチプライヤーというコンセプトからどのような進化や変化が生まれているのかを知ることは、この期間の社会の変化を洞察する上での示唆を与えてくれるのではないでしょうか。
終わりに
以上、ここまでトラック別にトレンドを紹介してきましたが、セッション概要を見てレポートを書きながら、私たち自身も参加へのレディネスが高まり、探求したいテーマが浮かび上がってきました。
紙幅の関係から、紹介しきれなかったセッションもまだまだありますし、本稿では扱わなかった基調講演やEXPOなど、その他にも見所がたくさんあります。3年ぶりに訪れるATD-ICEのリアルな場の相互作用からどんな学びが生まれてくるか、カンファレンス終了後にあらためて報告したいと思います。