ATD(The Association for Talent Development)
ATD23インサイトレポート〜タレント開発のあり方をRethinkする〜
2023年5月21日(日)~24日(水)に、米国サンディエゴ・コンベンション・センターにて、ATDインターナショナルカンファレンス&エキスポ(ATD23)が開催されました。本レポートでは、現地でのカンファレンスに参加したメンバー5名が、それぞれの視点で、セッションを通じて感じたタレント開発の潮流や傾向、得られたインサイトを紹介していきます。
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1. 基調講演にみるカンファレンスの全体傾向〜タレント開発の役割を捉え直す〜
取締役主任研究員 川口 大輔
80周年の記念大会: Create a world that works better
ヒューマンバリューから本カンファレンスに現地で参加するのは、3年ぶりとなりました。カンファレンスが行われたサンディエゴは、2018年に続いての開催地となります。5年前はオバマ元大統領が基調講演を行ったことでも話題になりました。
当時は1万3000人もの参加者がいたようですが、今年のATD23の規模は、現地参加が9000名、バーチャル参加が1000名との発表でした。開催規模は少し小さくなった感もあり、サンディエゴの街並みも昔あったお店が無くなっているなど、新型コロナウイルスの影響が見受けられるところもありましたが、現地会場では、ATDが戻ってきたことへの感謝や、たくさんの懐かしい顔に出会える喜びに溢れ、例年にも増した活気を感じられる場でした。
そして、今年はATDが始まってから80周年となる記念大会となりました。オープニングでは、CEOのトニー・ビンガム氏による80周年を祝うメッセージが発せられるとともに、過去の大会での基調講演者を一斉に振り返るムービーが流されました。ジム・コリンズ、スガタ・ミトラ、アリアナ・ハフィントン、ブレネー・ブラウン、ダニエル・ピンク、フランシス・ヘッセルバイン、マルコム・グラッドウェル、サイモン・シネック、オペラ・ウィンフリー、そしてバラク・オバマ元大統領……。これまでのカンファレンスを彩ってきた数々のレジェンド・キーノート・スピーカーたちの映像を眺めながら、リフレクティブな雰囲気が生み出されます。
ATDでは、毎年カンファレンスのスローガンが発表されますが、今年は「Create a world that works better(より良く機能する世界を創る)」というメッセージを至るところで目にしました。このスローガンは、ATD自体が掲げるビジョンそのものでもあります。世界中でESGやSDGsが叫ばれる現在、タレント開発に携わる人々が自分たちの領域に閉じるのではなく、事業や社会に価値を生み出し、共に世界をより良くしていくために境界を越えていこうといったメッセージがあるようにも思います。全体としても、これまでの80年を振り返りつつ、「これからの80年を築いていくために、私たちに何ができるのかを問い直していこう」という文脈が感じられるカンファレンスとなりました。
Rethink:人々の再考を促すタレント開発の役割 〜アダム・グラント氏の講演より〜
そうしたカンファレンス全体の文脈や議論の方向性に大きな影響を与えたのが、オープニングのキーノート・スピーチを行ったアダム・グラント氏でした。
グラント氏は、「GIVE & TAKE『与える人』こそ成功する時代」や「THINK AGAIN 発想を変える、思い込みを手放す」の書籍などで知られています。ベストセラー作家であり、TEDのスピーチでも著名なグラント氏ということもあり、会場は朝からたくさんの人で埋まっていました。
グラント氏の講演の大きなテーマは、「再考(Rethink)」にありました。グラント氏の原体験は、「考えるのは得意でも、考え直すことが苦手なリーダーをたくさん見てきたこと」にあると言います。そして、パンデミックやAIのはざまで急速に変化する時代に生きていく上で、グラント氏は、私たちが再考するスピードを上げて、すべての前提を見直し、思い込みを取り除く必要があると訴えかけました。
その上で、より効果的に再考するためのポイントを3つに絞って紹介しました。1つ目は、「チャレンジングなネットワークを築く」です。『GIVE & TAKE』の書籍を踏まえて、自分にとって耳の痛いことを言ってくれるような、信頼のおける、思慮深い批評家のグループ(Disagreeable Giver)とのネットワークを築くことが、自分の盲点を知る上で大切とのことでした。
2つ目は、「心理的安全性を築く」ことです。エイミー・エドモンドソン氏らによって広く知られることになった心理的安全性ですが、実際にそれを築くのは難しいものです。そのために、グラント氏は、リーダーが、自分自身について批評することを周囲に見せていくこと、それを習慣化することが重要であると説きます。そして、実際にウォートン校の教授陣が、学生からもらったmean evaluation(ひどい評価)のフィードバックを自分で読み上げ、それを受け入れる姿をビデオに収めたものを見せてくれました。リーダーがそうした姿を見せることで、チャレンジングな発言がしやすくなると考えられます。
そして最後の3つ目は、「マインドセット」を再考することです。具体的には、自分の信念を守る「牧師のマインドセット」、相手が間違っていることを証明する「検察官のマインドセット」、そして、自分が正しく相手が間違っていることを広げる「政治家のマインドセット」を手放して、自分自身が間違っているかもしれないと考え、常に仮説を検証する「科学者のマインドセット」を育んでいくことが、再考には必要とのことでした。
そして、最後にグラント氏は、パンデミックで役に立たなくなった習慣やベスト・プラクティスが何かを明らかにし、実行すべき新しい実験を探していくこと、また学習やタレント開発の専門家である私たちが、人々に再考を促していくことの大切さを語り、講演を終了しました。
日本においては、「人的資本経営」が声高に標榜され、人への投資が進もうとしています。しかし、私たちが投資を行う学習とは何なのでしょうか。講演を振り返って、アダム・グラント氏が、「アンラーニング(脱学習)」に投資をすることの大切さを述べていたことも印象に残りました。グラント氏は、次のように述べます。
「考える時間、学ぶ時間だけでなく、考え直す時間、学ぶことをやめる時間も必要です。それは、過去の決断や古い仕事を見直し、『まだ納得できないが、新しい視点を得ることができたか』を問う時間です。そして、自分のチャレンジ・ネットワークにアプローチし、『何を考え直せばいいのですか?』と尋ねます。これこそが、学び続けるための最良の方法で、アンラーニングに投資するということです」
変化の時代における学習のあり方、そして学習と人材開発の専門家である私たち自身が何を脱学習すべきかを考えていきたい。そうした意識の高まるオープニングの基調講演でした。
人が集うことの意味を問い直す 〜プリヤ・パーカー氏の講演より〜
2人目の基調講演は、ベストセラーとなったThe Art of Gathering(邦題:『最高の集い方』、プレジデント社)の著者であり、ファシリテーターとして名高い、プリヤ・パーカー氏によるライブセッションでした。
パーカー氏は、人種問題や紛争解決などの複雑な対話でファシリテーションをした経験をもとに、人が集うことの力や意味を問い直し、集い方を変えることで、人々をつなげて意味を生み出し、変化を起こすためのルールを提唱しています。
私たちは、結婚式、誕生パーティ、会議など、日常の中で集うとき、細かな段取りに気を取られ過ぎて、その集まりが何のために行われるのかの目的を見失いがちになります。パーカー氏は、私たちが何のために集まるのかによって集い方が変わると説きます。たとえば、子育てサークルの母たちが集うパーティでは、ナイフやワインをどこに置くかよりも、母として疲れ果てていたときに友人がピーナッツバターのサンドイッチを作ってくれて自分が癒されたという体験を語り合うことのほうが大切なのです。
その他にも、集まることを通して変化を生み出すには、不健康な平和ではなく、健康的な論争が必要であること、また異なる価値観を持つ人たちが一時的に団結するために、ポップアップルール(期間限定のルール)を設定して、普段とは違う空間を作ること、そして人が集う最初の5分の体験が、私たちの規範を決めるといった、The Art of Gatheringに関する様々な知恵が共有されました。
また、パーカー氏が、私たちがパンデミックを経験したことによって、人々が集うことの意味があらためて見えるようになったと強調していたことも印象に残りました。さらに、対面、オンライン、ハイブリッドの3つの形式の意味やバランスについても言及がありました。
講演の中では、数千人の参加者一人ひとりが、自分自身がこのATDに招待されたときどこにいたのか、ここにいる目的が何なのか、過去を振り返って印象に残っているのはどんな集まりだったか、自分のチームでいま核となる議論は何なのかといったことを内省した後、会場にいた多くの人とつながって話し合うというダイナミックなセッションが行われました。実際にArt of Gatheringによるつながりを体験することもできた時間でした。
パーカー氏の語りからは、「人が集うということは、生き方そのものである」というメッセージが体験として伝わってきます。パンデミックを経て、今世界中で集まることの意義が再考されているのではないでしょうか。
個人的な感想になりますが、ヒューマンバリューでは、人が集う場のデザインを「プロセス・ガーデニング」と呼んでいますが、その思想とも通ずる点があり、共感するところが多く、自分のあり方を見つめ直し、仕事の意義を問いかけられるセッションでもありました。
リスクを取り、決断する 〜レスリー・オドム・ジュニア氏の講演より〜
カンファレンス最終日、クロージングのキーノート・セッションでは、ミュージカル「ハミルトン」で世界中に知られているレスリー・オドム・ジュニア氏による基調講演が行われました。講演の後半では、ハミルトン上演曲「Wait for it」を含む3曲をオドム氏がバンドと共に歌い上げ、感動的なパフォーマンスで4日間の幕を閉じました。
講演は、ATDのインタビュアーとの対談形式で行われましたが、オドム氏の自伝的な著作であるFailing Up: How to Take Risks, Aim Higher, and Never Stop Learning(失敗する:リスクを取り、より高みを目指し、学ぶことを止めない方法)でも共有されているエピソードを交えながら、私たちがポテンシャルを最大限に解放していくために何が大切なのかが語られました。
オドム氏は、自分の人生を振り返りながら、数々の決断を行う場面で、自分の心がある場所に従い、原則に基づいて「イエス」と「ノー」を決め、自分の人生を自分でコントロールしていくことの大切さを語りました。特に、ハミルトンがオフ・ブロードウェイで制作されることになったとき、同時にテレビ番組の企画が立ち上がり、安定した収入の道を選ぶか、週給400ドルという不確実な道を選ぶかの選択に迫られたそうですが、「自分は素晴らしい作品にこだわるアーティストである」という信念に忠実であったため、収入が不確実であっても、ハミルトンを選ぶことに何の躊躇もなかったとのことでした。
オドム氏はまた、私たちが今に向き合うことの大事さを語ります。オドム氏は、1年半の間に、ハミルトンの公演に500回出演したそうですが、先週までの自分、昨日までの自分と比較するのではなく、「今日の自分は100%の力を発揮することができたか?」を問いながら毎日を過ごしていたそうです。同時に、自分自身に優しさを持つように努め、自分の持っているものを精いっぱい使ったという、その真実に敬意を表そうとしたと語りました。
その他にも、「自分の周りには、自分の可能性を信じてくれる大人がたくさんいたこと」「ハミルトンは、素晴らしいチャンピオン・チームの一員としての経験であり、共有化されたビジョンを実現し、一緒に働くことを望むグループであったこと」「素晴らしいメンターとは、自分のために時間をつくって、自分の人生から得た物語や、失敗を克服したことや成功への道を見つけたことを話してくれたり、私の中にある何かを教えてくれたりする存在であること」といったストーリーを通して、周囲の存在が自身に力を与えてくれた教訓が共有されました。
自著であるFailing Upは「失敗する」という意味になりますが、オドム氏のメッセージの大きな部分には、「リスクを取る」ということが含まれています。講演の終盤では、25歳のときに人生で初めて、自分が信じていることへの挑戦を自分に許した経験を振り返りながら、「リスクを取ることは、自分との契約なんです。時には開き直ることも必要です」と語ります。そして、「もしあなたが成長する必要性を感じたら、新しい方法で試す必要性を感じたら、自分自身と交わしたその約束を守ってほしいと願っています」というメッセージで講演を締めくくりました。
カンファレンス全体から伝わってくるメッセージ
以上、ここまで3者による基調講演の内容や様子をお伝えしました。「脱学習(Unlearn)と再考(Rethink)」「チャレンジングなネットワークを築く」「集うことの意味(Art of Gathering)」、そして「リスクを取って失敗する(Failing Up)」ということが、それぞれ異なる3者からのメッセージでしたが、そこには何か共通の文脈が存在している印象があります。
基調講演ではありませんが、今年はセッションの中で、ジャラール・ウッディーン・ルーミーの詩が紹介されることがよくあったと聞きます。ルーミーは、イスラム教の説教師、神学者であり、ペルシア文学史上における最も偉大な詩人の一人です。「人間はゲストハウスであり、毎日自身を訪れる様々な感情をありのままに歓迎しよう」と詠った詩『ゲストハウス』などがよく知られています。
ルーミーの詩も含めて、3者それぞれのストーリーを統合して、その意味をあらためて深く読み取ってみると、私たちがパンデミック後の世界において、人々の間に新たな結びつきを生み出し、異なる価値観をありのままに受け入れ、自分たちの枠組みの境界を越えて、これまでになかった価値を創造していくような学びのあり方が模索されているといったこともいえるのではないでしょうか。
ここからのレポートでは、カンファレンスで取り上げられたテーマごとに、どんな探求が行われていたのかを眺めてみることにします。
2. リーダーシップ&マネジメント開発のあり方を再考する 〜アンラーニングの促進〜
取締役主任研究員 川口 大輔
ATDの中で、リーダーシップ&マネジメント開発は特に参加者の関心の高いテーマです。今年も数多くのセッションが行われましたが、基調講演の流れも受けてか、開発のあり方やアプローチ、またリーダーシップそのものを再考(Rethink)していこうとする傾向が強かったように思います。その様子をいくつかのセッションを通じて眺めてみることにします。
マネジャーの役割をリブランディングする:アンサング・ヒーロー
「Designing Leadership Development for Middle Managers(ミドル・マネジャーのリーダーシップ開発をデザインする)」のセッションでは、DDIのバイス・プレジデントであるヴェリティ・クリーディ氏が、組織の中で、過小評価されている(多くの人がなりたがらない)ミドル・マネジャーの役割について、「Unsung Heroes」として焦点を当て、捉え直していこうというメッセージが発せられました。
パンデミック後、シニア・マネジャーとミドル・マネジャーの境界線が曖昧になったり、組織がよりフラットな構造になり、仕事のスピードが速くなったり、責任が大きくなるなど、環境の変化が見受けられます。
セッションでは、様々なリサーチから、ミドル・マネジャーが見えないところでいかに価値を発揮しているのかを問い直し、戦略と実行をつなぎ、カルチャーの変革を促すマネジャーの価値やコンピテンシーについて、現代の文脈から再考しました。
特に、ミドル・マネジャーという表現自体をリブランディングすることを重要とし、「Director of Strategy」「Leader of Leaders」「Strategic Connector」「Strategy Driver」「Strategy Translator」などの候補が挙げられていたところが興味深いと言えます。会場全体で行われた投票では、Strategic Connector(戦略をつなぐ人)が選ばれていました。
ミドル・マネジメントの役割の再考は、日本においても関心の高いテーマであり、本セッションにも300人超が参加するなど、グローバルで共通の課題として、今後探求が進んでいくかもしれません。
エグゼクティブのリーダーシップ開発を再考する(1):ホライゾンタルからバーティカルへ
エグゼクティブのリーダーシップ開発のあり方を再考するセッションも多く見受けられました。
まず、「Elevating Executives Above the Most Common Executive Struggles(エグゼクティブが陥りやすい悩みを超えて、エグゼクティブを上昇させる)」には300名近い人が参加し、その関心の高さがうかがえます。
スピーカーのライアン・ゴットフレッドソン氏は、新しいスキルを付けたし、横に広げていくようなアプローチを「ホライゾンタル(水平)」なリーダーシップ開発と位置づけ、これまでのアプローチが、ホライゾンタル中心であったとします。
しかし、エグゼクティブの成長を促していく上では、それは十分でなく、リーダーが見ている世界の意味づけの仕方をより洗練されたものに高めていくような「バーティカル(垂直)」なリーダーシップ開発が必要であるというのが、ゴットフレッドソン氏の主張です。
そして、バーティカルなリーダーシップ開発では、特にマインドセットにフォーカスを当てることが重要と説きます。たとえば、リーダーの成長にブレーキをかけているメンタルブロックが何なのか、その根底にあるマインドセットを特定し、それを壊していくためのエクササイズ、そしてパーソナル・プランを立てていくアプローチの必要性が事例と共に紹介されました。
昨今は「リスキル」や「アップスキル」への注目度が高いといえますが、エグゼクティブ・リーダーシップを育んでいくためには、スキルではなく、リーダーとしての次元を高めていく方向へシフトしていくことが大切になるといえるかもしれません。意図的にバーティカルなリーダーシップ開発を実現するためにどんなアプローチが考えられるのかをさらに探求していきたいと感じました。
エグゼクティブのリーダーシップ開発を再考する(2):脳科学を活用する
毎年、脳科学などの科学的な根拠に基づいて、ラーニングに関する質の高い情報を提供してくれるブリット・アンドレアッタ博士のセッション、「The Science of Executive Leadership: Training That Drives Organizational Results(エグゼクティブ・リーダーシップの科学:組織の結果を導くトレーニング)」では、同じくエグゼクティブをテーマに、リーダーシップのあり方やその学習アプローチについて科学的な知見を交えながらの再考が行われました。約500人が参加するなど、こちらも熱量のあるセッションとなりました。
セッションの中では、エグゼクティブになることで得る「パワー(権力)」が、リーダーの共感力を低下させたり、自信過剰にさせてしまうことが、様々な事例やリサーチ、脳科学のエビデンスをもとに紹介されていました。
特に、「権力者の脳は、社会的な合図に対して異なる反応を示し、サイコパスや前頭葉に障害を持つ患者(共感や他者の視点を取り入れる能力がない)に似ているのです。研究により、権力は脳を変形させ、こうした人々と同じように行動させることができることが明らかになりました」というマルワ・アザブ博士の研究は、会場にもインパクトがあったようです。
セッションの中では、そうした背景を踏まえながら、エグゼクティブ・リーダーシップのペインポイントを特定し、リーダーが高めるべきクリティカル・スキルやそのためのアプローチに関して様々な洞察が紹介されました。
以上、ここまで、リーダーシップ&マネジメント開発に関するセッションの一端を紹介しました。その他にも、インクルーシブな組織をリーダーがどう築くのか、そのためのトラストやストーリーテリングといったものへのフォーカスもありましたが、全体として、リーダーが「自分は正しい」と思い込んでしまうことに対する課題意識が、これまで以上に強くフォーカスされていたように思います。
基調講演を務めたアダム・グラント氏は、チャレンジ・ネットワークを築くことの重要性を説いていましたが、アンドレアッタ博士も同様に、自分のエゴをチェックしてくれるエゴ・チェッカーの存在の価値を話していました。既存のナレッジを強化すること以上に、強化されたメンタルモデルをどう手放していくかといったテーマへのフォーカスがいっそう高まっているのかもしれません。そうした観点から、自分たちのリーダーシップ開発のあり方を再考してみると、異なるアプローチが見えてくるのではないでしょうか。
3. カンファレンスに参加する目的ともいえるFuture Readiness
主任研究員 霜山 元
Future Readinessは、ATDの「Talent Development Capability Model」の中に組み込まれている能力・概念の1つであり、今回のカンファレンスの主要トラックにもなっている言葉です。
しかし、様々なセッションに出たり、参加者と会話する中で、この言葉がケイパビリティや主要トラックという枠組みを超え、世界中の人が本カンファレンスに集まる目的そのものになっているのではないかということを感じました。
その背景の1つとして、今回のカンファレンスでは、そのテーマについて関心のある人同士が集まって話し合うミートアップやフォーラムが毎日開催されており、今それぞれの企業や国でどんな変化が起きているのか、この先に待ち構える変化に対してどのような取り組みを行っているのかといった情報が、例年以上に共有されていたことが挙げられます。
ここでいうFuture Readinessには、大きく2つの観点での議論がありました。
1つは、今、そしてこの先にどんな変化が起きそうなのか、そのトレンドを探ろうとするもの。
そしてもう1つは、タレント開発の分野において、そうしたトレンドに対してどのような取り組みを進めていけばよいかというものです。まず、前者について紹介していきます。
タレント開発の専門家が注目している変化・トレンド
今後のトレンドとして、最も話題になっていたのは、やはりChat GPTに代表される生成AIでしょう。実際にそれがどれほど影響を及ぼすのか、完全な見通しを持てている人はいないと思いますが、間違いなく仕事や働くという領域のランドスケープを変えるほどの影響力を秘めているという印象を、ほとんどの参加者が持っていたように感じます。
生成AIを扱ったセッションの詳細は他項をご覧いただけたらと思いますが、たとえば「Three Critical Talent Development Trends for Our Hybrid World(ハイブリッドな世界における3つの重要な人材育成のトレンド)」というフォーラム形式のセッションにおいても、AI Revolutionがトレンドの1つとして紹介されていました。直前に開催されたG7広島サミットでも、生成AIの扱い方が議論されていたことがあったからかもしれませんが、その影響力をいかに人のために活用するかということについて、多くの方が関心を寄せていたのが印象的でした。
単純な事務処理、データ処理だけでなく、医薬品の開発等も含め様々な業務が効率化されるという予測の一方で、同時に多くの従業員がAIによって今の仕事がなくなるのではないかという不安を感じているという話も参加者の中からは多数出てきており、こうした不安から生じる社会的分断を防ぎ、適切に対処することの重要性を多くの実務家が指摘していました。
また、生成されたアウトプットのファクトチェックやバイアスチェックをどのように行うのか、ネクストレベルのクリティカル・シンキングが必要という話も出ていて、アダム・グラントの基調講演の中であった、Rethinkや科学者のマインドセットの重要性が増しているような印象も受けました。
議論の方向性とは直接関係ありませんが、G7サミットが日本であったことや、日本政府がオープンAIのサム・アルトマンCEOを招いて意見交換をするなどAIの活用に積極的な姿勢を示していることなどから、これまでのATDでは経験がないほどたくさんの参加者から「日本の状況を教えてほしい」と言われたのは、ちょっとしたサプライズで、この分野に対する注目度の高さを実感しました。
そして、上述のフォーラム形式のセッションにおいては、
・Educating & Reskilling(教育とリスキリング)
・Generation Disruption(新たな世代による破壊)
も大きなトレンドとして紹介されていました。
Educating & Reskilling(教育とリスキリング)では、パンデミックによって学校教育が遅れるなど、これまでよりも低い学力や知識・スキルで就労してくる人々に対して企業サイドがどのように対応していくのか、また、基礎的な科学的思考を持ち合わせていない人が増えるなど教育格差による分断が広がる中で、そうした分断を放置するのではなく、企業として責任を持って向き合っていくことの重要性が語られたりしました。
リスキリングについては、すでに重要なテーマになっていると思いますが、今後AIの利活用がさらに進む中で、その重要性はますます高まっていくという認識を多くの人が共通して持っていたように感じます。
実際、EXPOに出展している企業の多くがこのテーマを取り扱っていましたし、「Powering a Dynamic Workforce with a Skills-First Approach to Talent(スキルファーストのアプローチでダイナミックな人材にパワーを与える)」など多くのセッションで、いかにスキル獲得を促していくかということが取り上げられていました。
また、Generation Disruption(新たな世代による破壊)では、
・お金よりもパーパスを優先する最初の世代
・自分の働いている会社に誇りを持つことが重要
・意義のある仕事がモチベーションの原動力
・多様性を尊重し、受け入れる
・平等と環境は最重要課題である
・メンタルヘルスと肥満が重要な健康問題
という主に米国のZ世代の特徴が紹介され、この世代が本格的に職場に入ってくるインパクトの大きさが取り上げられました。
これに合わせて、企業も見せかけではなく本気でパーパスを軸にした経営、サステナビリティやDEIを中心に据えた経営を行わなくてはいけないという認識を多くの参加者が共有していました。
その他にも、「Human-Centric Leadership Navigating Change in a Data-Driven World(ヒューマンセントリック・リーダーシップ:データドリブンの世界における変化のナビゲーション)」というセッションにおいては、人間を中心に据えた経営の重要性や、ウェルビーイングが米国においても重要な経営指標となっているということが語られるなど、経営を取り巻く価値観が実際に大きく変化している様子が伝わってきました。
どのようにトレンドへの対応をリードするか
では、このようなトレンドに対して、タレント開発の専門家としてどのような取り組みを進めていくことが必要なのでしょうか。
多くのセッションに参加する中で見えてきたのは、
(1)Rethinkとそれを支えるコーチング
(2)テクノロジーを活用した学習の拡張
(3)相互に学び合うラーニングカルチャーの構築とコホートラーニング
の3点です。以下でそれぞれについて見ていきたいと思います。
<(1)Rethinkとそれを支えるコーチング>
まず、今回のATDに一貫して流れていると感じたのが、アダム・グラント氏の基調講演に代表されるRethinkの重要性です。価値観のシフトを含む絶え間ない変化の中にあって、自身の認識の枠組みに気づき、適切にその枠組みや前提を変容させ続けることの重要性は至るところで語られていました。
たとえば、「CREATING BETTER ACCOUNTABILITY :Practice ‘Noticing’ to Improve Relationships and Results(より良いアカウンタビリティを果たすために:人間関係と成果を高めるための「気づき」の実践)」では、Conscious Accountabilityという書籍の著者でもあるスピーカーが、過去の結果に対して個人が責任を持って説明をし、時には責めを受けるこれまでのアカウンタビリティの概念に対し、結果だけでなく相互の関係性について共同で責任を持ち、未来に向けた学習を生み出していてくコンシャス・アカウンタビリティの概念を提示していました。
セッションの中では、コンシャス・アカウンタビリティについて、
「expanding awareness to create deliberate intentions, take informed actions, and be responsible for your impact.(深い意図を生み出し、十分な情報を得た上で行動し、自分の影響に責任を持つために、アウェアネスを拡げる)」
という定義が紹介され、いかに気づきやアウェアネスを得るかというところにフォーカスした具体的な実践も紹介されていました。
リーダーシップ開発に関する項で詳細に触れていますが、こうしたメタ認知やアウェアネスを生み出し、認知の枠組みを広げ、多様な概念を統合的に捉えられるようにすることはバーティカルな成長・発達と表現されるようになっています。こうしたバーティカルな発達を支援する上で、あらためてコーチングの重要性にスポットライトが当たっているように感じました。
たとえば、オンラインでのコーチングサービスを提供するSounding Board社が「Skills vs Capacity: How to Develop Dynamic Leaders(スキル vs キャパシティ: ダイナミックなリーダーを育てるには)」というセッションを行っていたのが象徴的ですが、単なるスキル開発ではなく、思考のスペースを広げるためのコーチングのような機会を、限られた役員層ではなく、幅広い従業員にいかに提供するかは今後の重要なテーマとなってくるかもしれません。
<(2)テクノロジーを活用した学習の拡張>
ますます高まるリスキルやアップスキルのニーズにどう対応するかは、タレント開発の最も主要な役割といえます。前述のバーティカルな発達に対して、ホリゾンタルな成長・発達と表現されるこうした分野に関しては、進化するテクノロジーを活用して学習を拡張させていくということが1つの大きな方向性となりそうです。
EXPOにはLearning Experience Platform(LXP)を提供する企業が、その数を把握するのが困難なほど多数出展しており、こうしたLXPを活用することで、従業員のデータを集めながら、より一人ひとりに合った学習体験を提供できるようになってきています。
また、「Into the Metaverse: New Technologies for Learning(メタバースの世界へ:学習のための新しい技術)」など、メタバースを活用した事例を紹介するセッションも数多く開催されていました。
LXPのようなシステムに、AI、VR・メタバースを活用した没入型の学習体験などを組み合わせることで、既存のラーニングの枠組みを超えて、学習経験を拡張させていこうとする動きは止まることはなく、今後もますます加速していくでしょう。来年のATDでどんな事例が出てくるのか、今から楽しみです。
<(3)相互に学び合うラーニングカルチャーの構築とコホートラーニング>
一方で、テクノロジーを活用して、一人ひとりに合った学習体験を個別に提供するだけでは十分ではなく、人々の学び方の変化に合わせてラーニングのデザインの仕方を革新したり、相互の学び合いのカルチャーを育んでいくことの重要性を指摘するセッションも数多くありました。
特に、Learning in the Flow(フローの中での学習)やCohort Learning(コホート学習)などがキーワードとなっているように思います。
「Learning in the Flow: Just Do it!(流れの中で学ぶ:やってみよう!)」では、学習におけるリフレクション(振り返り)の重要性に触れ、効果的なリフレクションをいかに日々の仕事の中に埋め込んでいけるかがテーマとして挙げられていました。
また、「The Modern Learning Ecosystem: A New Mindset for Today’s Workplace(現代のラーニングエコシステム: 今日のワークプレイスのための新しい考え方)」においても、学習を特別なものとして切り出すのではなく、いかに日々の仕事の流れの中で自然に学習を行えるか、そして相互にナレッジをシェアする文化をつくることが現代のラーニングエコシステムにおいていかに重要かといったことが語られていました。
相互の学び合いという観点で、今回のATDでよく耳にしたのがCohort Learning(コホート学習)です。コホート学習とは、特定のプログラムに集った個人参加者が共同で学び合うことで、学びの価値を高めていくアプローチですが、「Using Neuroscience Principles to Create Powerful Cohort Learning(脳科学の原理を利用して、強力なコホート学習を実現する)」など、多くのセッションでコホート学習に言及していたのが印象的でした。
学びは一人で行うものではなく、相互に学び合うほうが効率的・効果的であり、それを支えるカルチャーやグロース・マインドセットで溢れる組織を構築していくことは、不確実な未来に備える上でクリティカルなことのように感じました。
ここまで、広義のFuture Readinessについて、今回の参加を通して感じたことを述べてきました。
くしくも基調講演において、プリヤ・パーカー氏が「人が集まることの意味を問い直す」ということを語っていましたが、ATDのカンファレンスに世界中から1万人以上の参加者が集うことの意味合いは、それぞれが感じている変化や想像する未来を共有し、望ましい未来を創り出すために何ができるのかを考えて備えをするという広義のFuture Readinessにあるのかもしれません。
また、毎年グローバルから様々な経験やバックグラウンドを持つ人が集まって、この広義のFuture Readinessについて語ることは、アダム・グラント氏がその重要性を主張する定期的なRethinkの機会にもなっていると感じます。こうした部分にATDカンファレンスの本質的な価値があるのかもしれないと感じた次第です。
4. AIを中心としたテクノロジー活用の状況~タレント開発における生成AI~
研究員 中野 広基
タレント開発におけるAIの進化と活用の広がり
ATDにおいては、テクノロジーの活用というトラックの中で、以前からAI(人工知能)が取り上げられてきましたが、前項のFuture Readinessのところでも紹介があったように、今年は特にChat GPTに代表される生成AIの活用や組織的なAIの活用が語られる傾向にありました。
AIがタイトルにあるのは11セッションあり、そのうちの3セッションでChatGPTや生成AIをキーワードに含むセッションが行われました。
ATDでAIの話題が取り上げられ始めたのは2018年ごろかもしれませんが、当時のカンファレンスレポートに目を通すと、人の仕事をAIがどう代替するのか、そこにどう備えるのかといった議論が多かったように感じます。今年のATDでは、生成AI登場の影響も受け、学習の最適化や学習コンテンツ作成の自動化など、AI活用の幅が広がっている印象があります。
ここでは、いくつかのセッションの中で、生成AIをはじめとする人工知能がどのように扱われたのかを具体的に紹介し、人や組織がAI活用にどのように向き合うかのポイントや得られた洞察を述べていきます。
生成AIの登場と人材開発に与える影響
「What Will Generative AI Do for You This Year(生成AIは今年どんな活躍を見せるか)」では、生成AIが普及している背景や具体的なサービスでの活用状況、教育や学習への適用、今後の課題が話されました。生成AIへの関心度は高く、会場には300名近い参加者がいました。
このセッションでは、AIについて、「人間の知性を必要とするタスクを機械が実行する能力」と定義されており、 AIはデータに依存するシステムであると説明していました。生成AIより先に分析的なAIが登場し、たとえばUberで移動する際の価格設定や、動画のレコメンドシステムなどの日常的に利用するサービスに組み込まれていると述べられていました。対して生成AIは、画像、動画、音楽、テキストなどのコンテンツやデータを新たにオリジナルで作成するAIとしています。
そして、生成AIが人材開発や学習に与える影響が話されました。
1つの例として、従来型の教室学習と比較すると、1on1の個別指導がテストの得点を標準偏差2つ分上昇させるという研究結果を踏まえ、今後そうした個別指導のプログラム作成を生成AIが担っていく方向性について、実際のAIとの対話のデモと併せて紹介されていました。
また、「今後3年間で、生成AIはあなたの組織をどの程度変えると思いますか?」という質問に対して、会場の参加者の約7割の人が「仕事と機械との相互作用が大きく変化する」とが答えていました。その他にも、AIを活用する人たちのリテラシーの問題に関する質問が投げ掛けられ、今後の課題として触れられていました。
体験型学習へのAIの適用
上述したように、学習プランやコンテンツの準備およびデザインにAIを活用し、学習体験の質や効率を向上させることへの注目度が高まっています。
その別の例として、「Experiential Learning: Discover AI Tools to Accelerate Design and Development(体験型学習:デザイン・開発を加速させるAIツール)」では、体験型学習にAIを活用してく方向性が探求されました。
世界経済フォーラムでは、「分析的思考」や「創造的思考」を今後重要になるスキルTOP10に挙げていますが、これらのスキルは書籍などからではなく、実際に意思決定をして反復的に得られるフィードバックから学ぶことが重要であり、そのためには体験型学習が必要と述べました。
体験型学習を開発していく上では、参加者の能力やスキルに合わせて個別にカスタマイズしていくことが効果的ですが、そうした学習コンテンツの個別化をAIが効率的に実現すると語られました。具体例として、講演者が所属するREGIS社のSimGateによるAIを活用した学習コンテンツの作成機能が紹介されました。
参加者からは、AIを活用する際の自社の知的財産権を守る方法について質問が出ました。顧客の独自情報や機密情報となるデータは、プライベートな環境にデータを置いて活用するなど、プライベートとパブリックのデータ環境を切り分けることで、知的財産を守り、自社で活用する方法を述べていました。
構造的に捉えてAIを組み込む
「Adaptive or Artificial Intelligence? What You Need to Know Now! (アダプティブ・ラーニング or 人工知能:今知っておくべきこと)」では、AIを活用する領域を構造的に捉えることで、個別の学習体験だけではなく、ビッグ・ピクチャーを描くことの重要性が紹介されました。
セッションでは、まずアダプティブ・ラーニング(学習者一人ひとりに最適化された学習内容を提供すること)とAIの共通点として、「人の入力に基づいて結果を返すシステムである」という点が述べられ、人が環境に適応していく際にAIが支援してくれる事例として、講演者自身がカスタマーサクセスのマネジャーの業務を経験したエピソードが話されました。その中で、業界の中でパフォーマンスやNPSのスコアが高い企業を調べて、どのような考え方で顧客維持を行うかをChatGPTに相談したとのことです。
そして、そうしたアダプティブ・ラーニングやAIを組織に活用していく上では、既存の手順を改善する「ポイント」、新しい手順を採用する「アプリケーション」、そして影響関係そのものを変えていく「システム」の3つの要素・レベルに分けて考えていくことが大切であると述べられていました。その具体的な実践として、公立学校の教育改善の例が挙げられました。「ポイント」のレベルでは、学生の能力をAIで分析して適した問題を出題し、「アプリケーション」のレベルでは、政治問題に学生が回答した結果を分析してChatGPTがコメントを返し、「システム」のレベルでは、学生の興味や能力、適正に応じて特定の研究分野に配属する仕組みが紹介されました。
学習のエコシステム全体で捉える
さらに、学習のエコシステム全体にAIを適用していく考え方についても議論が行われました。
今日において、私たちは人材開発に関わる様々なシステムを活用していますが、特に数千人を超えるような規模の企業では、システムが相互に入り組んで連携しています。「Practices that Work_ Applying AI Across the Talent Ecosystem(タレントエコシステム全体でAIを活用する実践例)」では、ジム・ハーゲン氏とジェリー・プルウィット氏が所属するコンサルティング会社のブーズ・アレン・ハミルトンで展開されている人材開発のエコシステムの事例が紹介され、複雑に絡んだタレントエコシステムを開発・運用していくポイントが探求されました。
事例では、3万人の従業員に対して、キャリアやスキルをどのように開発して、全体を管理していくかがテクノロジーの側面から語られました。たとえば、AIがスキルのデータ管理や、能力開発のために適したスキルをレコメンドする機能として活用されていたり、人材開発に関わるエコシステムとしてLMSやLXP、TMS、さらにSlackやTeamsなどのチャットツールまで含めて体系的に整理されている様子がうかがえました。
最後に、エコシステムを構築していく上では、自社だけで考えるのではなく、テクノロジーベンダーと協働し、AIを学習戦略の中でどう位置付け、何を重視していくかを 共に創っていく ことが重要と述べられました。
以上、ここまでAIに関連するセッションを紹介してきました。AI活用の取り組み事例を聞いて感じるのは、単純にスキル開発をするだけでなく、人をエンパワーメントする存在になってきていることです。また、単発的な施策ではなく、組織全体のシステムやプロセスを捉えた活用が、組織をより成長させる観点として重要になるように思います。
そして、人・組織のどちらの観点においても、AI活用によってどのような状態を実現したいのか、どのような意図や考え方から進めていくかが特に大切なのではないでしょうか。
5. リモート、ハイブリッドワークにおけるタレント開発のあり方を再考する
研究員 菊地 美希
2020年から3年間、世界中がパンデミックの中で、リモート・ハイブリッド環境での働き方を余儀なくされました。その中で、各企業や組織が人材育成や組織開発をどのように捉え、何を変化させ、逆に何を変化させずに実践を重ねてきたかについて共有するセッションが、直接タイトルに単語として入っていないものも含めて複数見られました。
その中でも、リモート・ハイブリッド環境下においてチャレンジされてきた取り組みや考え方を、「タレント開発」「インクルーシブ」「エンプロイー・エクスペリエンス」の3つの観点からご紹介します。
パンデミックを機会に、タレント開発の捉え方をピボットする
「CTDO Next Panel: Next Capabilities of the Talent Development Profession(タレント開発のプロフェッショナルとしての次なる可能性)」では、金融技術ソリューション企業であるWEX、バイオベンチャー企業のGenentech、素材メーカーである3Mの3社の人材開発・組織開発領域の担当者の方が登壇し、パンデミックを機会にタレント開発をどのように捉えて変化させてきたか、そして日々の学習にどのようにバーチャルを取り入れチャレンジしてきたかについて、パネルディスカッションが行われました。
まず、パンデミック後の各社の状況や実践の共有がありました。たとえばWEX社は、2020年当時すでにバーチャル学習の準備がされていたようで、VRを取り入れた学習方法にも切り替えが進んだようです。同様に、3M社もバーチャルファーストに移行し、学習を止めないために、全体のデザインを変えるというより、すでにあるコンテンツの表現方法を置換していったことが語られていました。また、Genentech社からは、ハイブリッドでのトレーニングは実施せず、バーチャル実施もしくは対面実施のどちらかにするなどの原則が紹介されていました。基調講演ではプリヤ・パーカー氏が、「集まる目的」からデザインする重要性を伝えていましたが、対面の場合はネットワークづくりを目的とするといったデザインの方針が、ここでも語られていました。
次に、現在のタレント開発において、新たに重要になってきている役割についての議論に移っていきましたが、3社ともにデータサイエンティストやアナリストのポジションの重要性が増しているという見解が共有されました。
3M社からは、タレント開発を考える際には、トレーニングなど一側面だけに焦点を当てるのではなく、採用の段階から今生み出している成果まで、従業員の経験全体を通して何が起きているのかをデータを通してみることで、「HRがビジネスへのインパクトを高めることに、本当に光を当てることができる」と語っていました。Genentech社からは、タレント開発のコンテンツづくりにAIを活用する可能性が話され、今後、HR領域にデータ・AIをどのように取り入れるかにより、各企業が捉えるタレント開発の範囲やデザインの仕方が大きく変わってくること、そして、これからのタレント開発を考える際の大きなレバレッジになるであろうことが想像されました。
また、パンデミックを機会にシフトしたスキルセットや考え方について議論されたことも印象的でした。WEX社は、様々な変化に応じて戦略や理論を適応させていくために、マネジメント層に、デザイン思考に加えてチェンジイネーブルメントの資格を取ってもらうという対応をしたそうです。変化することが大前提となった今、タレントに直接関わるマネジャーに求められるスキルセットが、より人間(従業員やユーザー)を中心とした視点で、現実を見ながら生成的に日々生み出していくマネジメントに変化していることを興味深く感じる共有でした。
そして最後に、WEX社や3M社から、「私たちは、もっといい仕事をしなければならない。そのタレントにとっての価値提案とは何なのか? 私たちはなぜここにいるのか? 最後までタレントの成果を見届けなければならない」「ビジネスの成果に直接結びつけなければならない。この介入は、ビジネスを発展させることになっているのか?」という問いが発せられ、本質的な価値を常に問い続けながらタレント開発に携わることの重要性が述べられ、締めくくられました。
ハイブリッドな世界で、インクルーシブな環境を実現する
リモート環境下におけるインクルージョンも大きなテーマとなっています。
「Leadership’s New Challenge: Inclusivity in a Hybrid Workplace(リーダーシップの新たな挑戦:ハイブリッドワークプレイスにおける包括性)」では、MBTIを開発・提供するThe Myers-Briggs Company社により、インクルージョンを実現することの価値や、それをハイブリッドな環境で育む上での大切なポイントについて共有されました。
まず、「インクルージョン」とはどういう状態なのかについて、「多様な社員が本当に生き生きと成長し、仕事にベストを尽くせるような文化をつくること」という定義を紹介しながら、それについてどのような意味や価値があるのかを、データを用いて共有されました。
・D&Iが高いと評価された組織は、新規事業や新規市場を獲得する確率が70%高い(Chief Executive for Corporate Purpose(CECP))
・Inclusionの数値が上位4分の1の企業は、下位4分の1の企業よりも収益性が36%高い(Mckinsey)
・D&Iの高いチームは87%の確率で、より良い意思決定をする(Cloverpop)
そして、興味深いのは、上記のようなインクルージョンによる価値だけでなく、「多様性はチーム内の摩擦を15%増やす」という困難な側面についてもデータとして紹介されたことです。しかし、多様性を摩擦という観点だけでなく、総合的な視点で見ることで、結果的にパフォーマンスが60%向上していることが判明し、「摩擦をパフォーマンスにつなげるためのレバーがインクルージョンである」という示唆が紹介されていました。
また、自分がインクルージョンを大切にするチームや組織に属していると 感じられない人々は、自分の意見を控える傾向が強く、また、直属の上司がインクルーシブな働き方をしていないと答えた人は、組織がどのような取り組みをしているかにかかわらず、排除されていると感じる可能性が2倍高いという共有もありました。つまり、多様な人々が集っていたとしても、自分の意見やアイデア、能力を場に出しても安全だと感じなければ、創発を起こすことはなく、パフォーマンスにつながらないということです。心理的安全性という言葉が多用される今、多様性を価値につなげる仕組みが、データとともに示されたことは、これから真の意味での価値創造を行う上でますます重要になる内容として感じられました。
また、LinkedInでのリモートワーク・ハイブリッドの求人が、ここ2年で8.6倍となるなど、働く環境が大きく変わった今、インクルーシブな職場を実現するリーダーの必要性についても語られました。
セッションでは、ハイブリッドな世界でリーダーが直面する課題について、いくつか取り上げられましたが、あらためて興味深いと感じたのは以下の点でした。
・私たちは皆、経験や環境、性格によって形成されたバイアスをもっている
・これらは、排他的な行動や他者を排除することにつながる
・私たちは、思い込みや、同質性・同類性を好むことがある
・ハイブリッドな働き方をするとき、私たちは、自分と同じ「世界」にいる人たちをより重視する
ハイブリッドであっても、そうでなくとも、人は上記の傾向を持っていますが、ハイブリッド環境では、よりその傾向が強くなるということです。確かに、私たちの日常を考えると、ハイブリッド環境で仕事をする場合、私たちの感受性は、自分がリアルな場に参加しているときはオンライン参加者ではなく、リアルでの参加者に注意が向きますし、逆も然りと感じることがあるのではないでしょうか。多様性を価値につなげるインクルージョンの環境を実現するために、人間には上記のような傾向があることを認識し、ここにはいない他者に対しての感受性を高めることが重要になってきていることを感じました。
そして、ハイブリッド環境でのリーダーシップ実現のチャレンジとして、多様性、公平性、包摂の原則を推進するために必要なスキルの育成は、リーダーシップ開発において欠かすことのできない要素であると共有されました。自分の担当する仕事を、共に働く人たちと「こなす」ことはできますが、人々が何を求め、何を必要としているかを本当に理解し、人々が意思決定に参加し、協力できると感じられるようにする環境をつくることは、「仕事をこなす」とは別の特別なスキルセットであるということです。それを実現するために、まず大切なことは、自分を理解し、自分が人に何をもたらしているかを自己認識することだと話されました。
最後に、「リーダーシップを発揮するのはマネジャーでなくてもいい。私たちは皆、関わり方によってリーダーになることができる」と共有されたことも、働き方が変化している今、とても大切な示唆であると感じました。どのように同僚をサポートし、お互いの成長を支援し合うことができるのか。それは、マネジャーだけでなく、一人ひとりが周囲への感受性を高め、実現していくものであることをあらためて感じるセッションでした。
多様な働く環境において、エンプロイー・エクスペリエンスを実現する
上述したパネル・ディスカッションでも述べられていましたが、エンプロイー・エクスペリエンス全体を見ながらタレント開発の役割を広げていこうとする意識の高まりも散見されました。
たとえば「Crafting a Powerful Hybrid Employee Experience(強力なハイブリッド・エンプロイー・エクスペリエンスを構築する)」では、Lead Above Noiseという組織コンサルティング企業の創業者から、対面やバーチャル、ハイブリッドの働き方の中で、エンプロイー・エクスペリエンスを育んでいく際のロードマップやポイントが語られました。
まず、エンプロイー・エクスペリエンスとは「従業員が体験する『すべて』」のことを指し、そして「従業員が企業との相互作用をどのように解釈しているか、またその相互作用の根底にある文脈をどのように解釈しているか」であり、「従業員がポジティブな体験を持つ企業は、そうでない企業と比較して、エンゲージメントが16倍高く、職場にとどまる意向が8倍高い」というデータとともに、その重要性や意義を共有するところからセッションが始まりました。
そして、充実したエンプロイー・エクスペリエンスを実現するためのロードマップとして以下の3点が示されました。
● Destination(行き先・目的地)
何を目指しているのか。エンプロイー・エクスペリエンスを高めることに取り組むのであれば、その目的地はどこなのか?
● Directions(方向性)
どの曲がり角を曲がるのか?
● Fuel(燃料)
どのように勢いを維持するのか?
たとえば、上記3点の1つ目Destination(行き先・目的地)を検討する際のポイントに目を向けてみると、エンプロイー・エクスペリエンスを実現するための核心となるものは、「Deliver」「Develop」「Connect」「Thrive」の4つであり、この核心は同期的な組織・非同期的な組織であろうと、対面・バーチャル・ハイブリッドであろうと変わらないと語られました。
つまり、
● Deliver:最高の仕事をするための環境を整え、
● Develop:新しいスキルや能力が育ち、組織から投資されて挑戦し、成長していると感じ、
● Connect:チームやコミュニティの一員であると帰属意識を感じ、
● Thrive:自身のエネルギーを管理し、元気であり、尊重され、感謝され認められていると感じるwell-beingな状態
であることが、様々な働く環境において、充実したエンプロイー・エクスペリエンスを実現するキーであり、インパクトを持続させるものということです。
そして、これらを実現する際の「ベストプラクティスはどんなものか?」と聞かれることがあるが、「ベストプラクティスは存在せず、自身のチームのコンテキストを生かしたright practiceをみつけることが大切。ロードマップを定義する唯一の方法は、チームの出発点を理解することであり、それはあなたのチームからしか生まれないのです」と語られていたことが、あらゆる組織開発の前提でありつつも、まず一歩目を踏み出す際のあらためて大切なポイントであると感じました。
上記3つのセッション以外にも、リモート・ハイブリッド環境の中での働き方や学習について触れているセッションは多く行われていた印象があり、この3年間で世界中の組織が突然訪れたパンデミックの変化に適応し、進化し続けてきたことがうかがえます。
また、ヒューマンセントリックの考え方、正解はなく自らが目的を設定して状況を見ながら変わり続けるチェンジイネーブルメント、それらをベースとした新しいリーダーシップや、ゴールはなく揺らぎを育み続けることなど、2020年以前に語られていたことの重要性がさらに増していることを感じました。そして、それらはすべて、目の前の現実を観察し、捉え直すRethink、Reframeの考え方がベースにあるのではないでしょうか。基調講演で、アダム・グラントが「これまでの成長はラーニング、これからの成長はアンラーニング」と伝えていたように、私たちは立ち止まり、何が起きているのか?それは本当なのか?と問うた上で、新たな一歩を踏み出すことの重要性がますます高まっているのかもしれません。
6. ウェルビーイングとDE&I 〜画一的なアプローチを超えて〜
研究員 萩森 聖香
今年のカンファレンスの大きな特徴として、ウェルビーイングやDE&I(ダイバーシティエクイティ&インクルージョン)について扱うセッションが、これまで以上に多く見受けられたことが挙げられます。その背景には、コロナ禍を経て、リモートワークに代表されるようなあらゆる労働環境の変化が起こっていたり、社会的な分断を生むような事件が多発するなどの経験から、それに伴って働く人々の価値観にも変化が起きていることが考えられるかもしれません。
ここでは、いくつかのセッションの様子を共有することで、どんな議論が行われているのかを見てみたいと思います。
たとえば、「Embracing a Culture of Well-Being to Drive Better Organizational Outcomes(ウェルビーイングの文化を取り入れて、組織の成果を向上させる)」では、冒頭で「A one-size-fits-all approach to employee well-being is falling dramatically short of reaching today’s workforce.(従業員のウェルビーイングに対して画一的なアプローチをしても、今日の従業員にまったく届きません)」ということが述べられていました。こうした発言からは、上述したような環境や価値観の変化に対して、企業がどのように向き合い、より良い組織の実現を目指していくのかを本気で考えるタイミングが来ていることがうかがえます。
そして、同セッションの主題は「Is it time for talent development for drive well-being ?(タレント開発がウェルビーイングを促進するときが来たのではないか)」という問いにありました。それは身体的な健康状態を目指して福利厚生の施策として取り組まれてきたウェルネスという考え方から、身体的・心理的・社会的な健康状態であるウェルビーイングを促進することを、タレント開発の役割や施策としてリードしていく考え方にシフトしていく必要性といえます。ウェルネスは健康管理を行ったり、健康プログラムに参加することを促すことなど、1つの課題に対して1つの解決策がある場合が多い一方で、ウェルビーイングは従業員一人ひとりによって異なるため、タレント開発を起点に、組織文化としてお互いに尊重し合える状態をつくっていくことが目指されているようでした。
では、そうしたウェルビーイングの向上に、タレント開発に携わる私たちは、具体的にどのように取り組むことができるでしょうか。たとえば「The Gratitude Effect: Unleashing the Power of Recognition and Appreciation(ザ・グラティチュード・エフェクト 認識と感謝のパワーを解き放つ)」では、“感謝”をすることによって、生活の満足度や人間関係のが向上し、それがモチベーションアップや寛大さへつながるなどの効果に焦点を当て、そこからウェルビーイングな組織文化を育むために取り組めるアイデアが数多く紹介されていました。
そのうちの1つは「今職場にいて素晴らしい仕事をしている人に感謝のメッセージを送る」というもので、セッション会場にいる参加者は、その場で思いつく相手にテキストメッセージを送り、自らその効果を実感していました。
また、それを実践する際にRecognition(認識)とAppreciation(感謝)の違いを理解する必要があることも述べられていました。Recognition(認識)は相手の行動やその結果を基準に行う、前向きなフィードバックのようなものである一方で、Appreciation(感謝)は人間本来の価値に対して行うものであり、何かを達成することなどは必要ではないということでした。どちらか一方ではなく、違いを理解した上で両方を活用していくことの大切さが語られていました。
そして、言葉以外にも感謝を伝える方法が紹介されており、テキストメッセージだけでなく、対面で肯定的な言葉を投げかけて感情的なコミュニケーションを取ることや、コーヒーやお菓子など相手を気にかけていることを示す贈り物をすること、相手にも同意を得た上で握手など身体的な接触を図ることなどが紹介されており、実際に参加者同士で体験してみることで会場の一体感も高まるセッションでした。
また、「Creating an Inclusive Workplace for Trans and Nonbinary Employees: A Critical Conversation(トランスジェンダーとノンバイナリーの従業員のためのインクルーシブな職場づくり: 重要な対話)」では、LGBTQIA+の人たちにとってのウェルビーイングな組織づくりという観点で、次の3つのアイデアが紹介されていました。
1)誰かの性自認や表現について、思い込みを避けること
2)集団に言及するときは、ジェンダーインクルーシブな言葉を使用する
3)ジェンダーに関する固定観念を強制するような言葉遣いを避け、すべての個人を尊重し、包含すること
たとえば、ジェンダーを表す言葉は今や100個以上あり、すべてのアイデンティティは認識する人にとって個別のものです。「ladies and gentlemen」や「He」や「She」といった表現も性別の二元論に根差したものであり、多様な個人を尊重した表現とは言い難く、またそれらは単に当事者に適切な表現を聞けばよいというものではなく、あらゆる性自認を持つ個人が安心してそれを表現できるよう配慮する必要があります。セッションの中では、多様な国籍の参加者同士が各国の言語表現を共有し合ったり、自らの実体験をもとにアイデアを出し合うことで、共に学び合う場となっていました。ルールを決めたり、チェックリストをつくるといったアプローチ以上に、このように体験をもとにお互いの配慮について対話していくことが大切なのかもしれません。
それでは、このような取り組みを組織的な施策としてどのように適用していくことができるでしょうか。最初に引用した「Embracing a Culture of Well-Being to Drive Better Organizational Outcomes」のセッションで語られていたポイントを3つに絞って紹介してみます。
1つ目は現場の従業員に近いフロントライン・マネジャーと一緒に取り組みを進めていくことです。マネジャーたちは現場で何かあったときに、最初に相談を受ける立場のため、従業員のあらゆる状況に精通しており、多様性を考慮することにつながるとのことでした。
2つ目は、取り組みをオープンにしていくことが挙げられます。具体的には、社内のトイレの壁紙や社内メディアなど、あらゆる場所に取り組みが見える状態にすることで、日常会話にウェルビーイングやDE&Iについての観点が含まれ、自然と会話が生まれる状態をつくっていくことが大切とのことでした。
そして、その際の言語表現に配慮することが3つ目のポイントとして語られていました。ウェルビーイングやDE&Iという言葉には文化や社会的な関連性が強くあり、言葉が同じでも、育ってきた文化によってまったく異なる意味合いを持っています。そのため多国籍の従業員を抱える場合は特に、彼らが母語として使う言語で表現を行うことが大切ということでした。
ここまでセッションから得られたインサイトを抜粋してお伝えしてきましたが、どのセッションにも共通していたのは、ウェルビーイングやDE&Iのあり方を考えることには終わりがなく、生涯変化し続けるジャーニーのようなものであり、従業員自身も雇用主も常に探求し続ける必要があるということでした。
今回参加したセッションでも、1つの解決策のようなものが提示されるのではなく、ウェルビーイングやDE&Iというテーマに対して様々なアプローチがアイデアとして紹介されており、各組織の多様な状況に合わせて取り組みを検討していく必要があることが理解できました。また、どのセッションでも多数のインタラクティブワークが行われることで、参加者はこれまでの枠組みとはまったく異なる新たなアイデアを得られているようでした。国籍はもちろん、多様なバックグラウンドを持つ参加者同士が対話をすることの価値を実感するとともに、ATDという場自体がウェルビーイングとDE&Iの価値を体現している場でもあったようにも感じられる4日間でした。