ATD(The Association for Talent Development)
ATD24事前レポート〜セッション概要から見るLearning & Developmentの探求マップ〜
ATD International Conference & EXPO(ATD-ICE)は、ATD(Association for Talent & Development)が主催する世界最大規模のタレント開発に関するカンファレンスです。2024年は、5月19〜22日に米国ニューオーリンズでの開催が予定されています。
本カンファレンスでは、先駆的企業や教育機関・行政体のリーダーたちが世界中から集い、現在直面している諸問題にどのように取り組んでいるかを企業や国の枠を超えて学び合います。
ヒューマンバリューでは、約30年にわたってATD-ICEにデリゲーションを行い続け、世界における人材開発の最新動向を探求してきましたが、新型コロナウイルスの影響を受けて、2020〜2022年の3年間は現地参加を見合わせていました。昨年は3年ぶりにサンディエゴでのカンファレンスに参加しましたが、渡航制限がなくなり、ATDも活気を取り戻し、ポスト・コロナにおけるL&D(Learning & Development)のあり方が、多面的に議論される会となりました。
今年はさらに実践的な探求が行われる年になると考えられます。ATDの公式ホームページ上では、今年開催予定の300を超えるセッションの概要が紹介されていますが、それらを一望すると、グローバルのL&Dが今向き合っている課題やテーマが、縮図のように浮かび上がってきます。
そこで本稿では、ATD 24の事前レポートとして、各トラックでどのようなセッションが行われるのか、その概要や見どころを紹介することで、L&Dの探求の視点を得るマップを提示してみたいと思います。
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セッション・トラック別の傾向と見どころ
ATDの公式ページ上に公開されている情報によると、5月3日の時点で、今年は約390のセッションやワークショップ(ベンダーによるソリューション・セッションを含む)が行われる予定です。セッションは、カテゴリー別に分類されていますが、下記に主要なトラックのセッション数をまとめてみました。
・Leadership and Management Development(リーダーシップ&マネジメント開発):48セッション
・Talent Strategy & Management(タレント戦略&マネジメント):29セッション
・Future Readiness(未来への準備):26セッション
・Managing the Learning Function(ラーニング・ファンクションのマネジメント):21セッション
・Learning Technology(ラーニング・テクノロジー):26セッション
・Learning Sciences(ラーニングの科学):16セッション
・Measurement & Evaluation(測定と評価):15セッション
・Career Development(キャリア開発):25セッション
・Instructional Design(インストラクショナル・デザイン):29セッション
・Training Delivery & Facilitation(トレーニングの実施とファシリテーション):28セッション
※セッション数は、2024年5月3日時点のものです
セッション・トラック自体は昨年までと大きな変更はありません。今年は、トラックとまではいえないかもしれませんが、「Wellness(ウェルネス)」という括りで、主にマインドフルネス等をテーマにしたセッションがいくつか行われることが興味深く感じられました。
以降、各トラックから見受けられる傾向と注目したいセッションを紹介します。
Leadership and Management Development(リーダーシップ&マネジメント開発)
本トラックでは、リーダーシップ開発プログラムのデザイン、リーダーのあり方、より効果的なリーダーシップを発揮するために必要となるスキルや知識の習得といった、リーダーシップに関する様々なテーマが扱われます。ATDのトラックの中でも、毎年セッション数が多く、注目を集めるトラックであるといえるでしょう。
変革リーダーシップのあり方
ビジネスを取り囲む環境が目まぐるしく変化し、常態化している現代において、変革は急務であり、必須であるとも言えるかもしれません。本トラックの中でも、変革リーダーシップに関するセッションは最も多く見受けられました。そこで、その中で注目したいセッションを挙げてみます。
たとえば、「Leading the Charge : Harnessing Strengths to Champion Change(リード・ザ・チャージ:強みを生かして変革の先頭に立つ)」では、何千人ものリーダーから得たデータに基づき、卓越したリーダーになるための、個人や組織の強みを高める行動の力について紹介されます。毎年のA T Dカンファレンスにおいて、緻密なデータ分析による説得力のあるインサイトを聴衆に提示するZenger Folkman社のJoe.Folkman氏が講演する本セッションは、価値ある学びの時間になるでしょう。
また、「Creating WOW Leaders : A Case Study in Executive Development(WOWリーダーの創造:エグゼクティブ開発のケーススタディ)」では、組織の戦略的な未来を実現するための、エグゼクティブやリーダーの行動の起こし方について、実践事例をもとにその成果と課題が紹介されます。講演者はATDカンファレンスにしばしば登壇するBooz Allen Hamiltonのコンサルタントですので、変革リーダーシップ開発について提示される体系的に整理されたアプローチやポイントに注目したいと思います。
また、「Don’t Hold People Accountable; Develop Accountable People(責任を押し付けるのではなく、責任を果たせる人材を育成せよ)」では、95%の従業員が組織の業績評価プロセスについて不満を抱いている状況の中、従業員のアカウンタビリティ(目標を自分事化し、結果にコミットして完遂する)を高めるリーダーシップの発揮の仕方について紹介されます。講演者は、多くの翻訳書が日本でも知られている、ユタ州にあるコンサルティング会社アービンガー・インスティテュートの方ですので、こちらも注目したいと思います。
組織文化をつくるリーダーシップ
昨年よりも、組織文化の創造におけるリーダーシップのあり方に焦点を当てたセッションが多く見受けられました。P・F・Drucker氏が残した言葉である「Culture eats strategy for breakfast(組織文化は戦略に勝る)」が示しているように、組織文化づくりはリーダーシップにおいても重要なテーマと言えますので、注目したいところです。
たとえば、「Helping Leaders Put Values Into Action(リーダーがバリューを行動に移すための支援)」では、米国のデルタ航空におけるコア・バリューの導入から組織への定着に向けた実践事例が、パネルディスカション方式で紹介されます。この変革イニシアチブの推進チームとHRBP(HRビジネスパートナー)がどのように連携し、リーダーがバリューを実行に移していくのか、そのアプローチや方法などを知ることができそうです。
また、「Inclusive Cultures Require Agency in the New World of Work(インクルーシブな文化は、新しい仕事の世界における主体性を必要とする)」では、個人とチームの「エージェンシー(行為主体性)」をテーマとして議論しながら、インクルーシブかつ組織パフォーマンスの向上にどのように生かすことができるかを探ります。講演者であるThe Kaleel Jamison Consulting Group, Inc.は、本年11月にエージェンシーに関する書籍The Power of Agencyを発刊するようです。エージェンシーはOECDが教育の未来の重要なキーワードとして掲げていますが、それが企業組織の中でどのように効果を発揮するのか、探求したいと思います。
さらに、「Feedback-Fueled Leadership: Why Seeking and Receiving Is Better Than Giving ? (フィードバックを燃料とするリーダーシップ:なぜ「与える」よりも「求める」方がよいのか?)」では、リーダーが自ら積極的に周囲からのフィードバックを求め、承認と批判の両面を自身の成長のためにいかに生かしていくかについて紹介します。本セッションは、変革リーダーシップのあり方のところで既述した、Zenger Folkman社のJoe Folkman氏の盟友のJack Zenger氏が登壇します。近年、着目されている組織におけるフィードバック文化の醸成にもつながる内容ですので、実際に話を聞いてみたいと思います。
他にも注目したいセッションとして、「4 Simple Tips to Build a Culture of Psychological Safety(心理的安全性の文化を築く4つのシンプルなヒント)」や「Breaking Through the DEI “Wall”(DEIの “壁 “を突破する)」が挙げられます。前者では、心理的安全性の重要性や何をすべきか知られているが、どのように行っているかはあまり知られていないという背景を踏まえ、心理的安全の運用や習慣化のヒントが紹介されます。後者では、DEI推進において逆境に立たされたとき、自分自身も他者にもダメージを与えることなく前進するためにはどうすればよいかについて紹介されます。
リーダーの影響力
リーダーの影響力をどのように高めるかといったテーマは、以前から取り上げられていますが、組織マネジメントの複雑性や難易度がより高まっている状況の中で、あらためて、リーダーの影響力について探求することの価値を感じます。そこで、注目したいセッションをいくつか挙げてみます。
たとえば、「It’s Always the Leader !(リーダーは常にリーダーである!)」では、ATDカンファレンスのショーケーススピーカーであるKen Blanchard氏が数十年にわたって説いてきたリーダーの普遍の真理について紹介します。その上で、Scott Blanchard氏が新たに習得すべきリーダーとしてのスキルを紹介します。今日のリーダーは、人々に力を与え、組織の成果につなげるために、オーセンティック(本物)であり、インクルーシブであり、共感的でなければならないといったメッセージを打ち出しているようですので、実際にどのような話がなされるのか、聞いてみたいところです。
また、「5 Key Principles of Leadership to Change Your Life(人生を変えるリーダーシップの5大原則)」では、米国のリーダーシップに関するコンサルティング会社として知られているDDI社が、リーダーが周囲とより強い人間関係を築き、より深い影響力をもたらすための5つのコア・リーダーシップ・スキルの磨き方について紹介します。
他にも、「Trust and Inspire(信頼とインスピレーション)」や「Improve Your Ability to Influence(影響力を高める)」も挙げられます。前者では、フランクリン・コビー社による、リーダーにとって不可欠な信頼関係の構築や回復の能力について紹介されます。後者では、目標を達成するために周囲の賛同を得られるような影響力の高め方について紹介されます。
バーンアウト、ストレスへの対応
近年、従業員のウェルビーイングの向上や働き方改革の一環として、働く一人ひとりの心身のケアを大切にする機運がより高まっています。そうした文脈の変化の中で、バーンアウトの防止やストレスの軽減への対策を講じる組織も増えているようですので、そうした事例の一端を知る機会になるかと思います。
たとえば、「Burnout Prevention Beyond Bubble Baths(バブルバスを超えるバーンアウト防止策)」では、米国におけるバーンアウトの実態を踏まえ、その構造から抜け出すための文化づくりについて紹介されます。具体的にどのような文化づくりをしていくかの実践のヒントやポイントを知りたいところです。
また、「Do What Matters Most: Improve Productivity and Reduce Stress!(最も重要なことをしよう: 生産性の向上とストレスの軽減)」では、多くの従業員が課題だと感じ、ストレスや生産低下の主要因となる時間の優先順位づけの仕方について紹介されます。ワークライフバランスの具現化を試みるにあたり誰もが直面する課題ですので、参考になるかもしれません。
ストーリーテリングの重要性
効果的なリーダーシップの発揮におけるストーリーテリングの重要性は、以前から述べられています。今日、正解のない時代だからこそ、組織運営においても論理だけでなく、感情を重んじながら従業員をエンゲージしていくことがより一層求められていますので、押さえておきたいテーマです。
たとえば、「Storytelling for Engagement: Using Narrative to Strengthen Communication(エンゲージメントのためのストーリーテリング: 物語を使ったコミュニケーション強化)」では、相手の感情に働きかけ、相手を引きつけ、動機づけるストーリーテリングの実践のポイントが紹介されます。講演者であるG.Riley Mills氏は約10年前から毎年ストーリーテリングに関連したセッションを実施しているなど、豊富な研究と実践があるため、参考になるところが多いかもしれません。
また、「Stop the Chaos: Bring Teams Into Alignment With Business Storytelling(カオスを止めろ:ビジネスストーリーテリングでチームを一致させる)」では、チームビルディングやコラボレーションの質の向上につなげるためのリーダーによるストーリーテリングの活用方法について紹介します。講演者のJanine Kurunoff氏もまた、ここ数年続けてA T Dで同テーマに関する講演を行っています。今回は具体的にどのようなアプローチの紹介があるのか、注目したいところです。
Talent Strategy & Management(タレント戦略&マネジメント)
本トラックでは、組織のパフォーマンス向上や変革の推進、また、それらの取り組み事例等が紹介されます。テーマとしては、タレント・ディベロップメント、エンゲージメント、組織のカルチャー醸成、ダイバーシティ&インクルージョンなど多岐にわたっています。今年は特にどんなテーマにフォーカスされているのかを見てみたいと思います。
DE&I:「ダイバーシティ(多様性)」「エクイティ(公平性)」「インクルージョン(包括性)」
DE&I(Diversity Equity and Inclusion)は、より良いタレント戦略やマネジメントにおける最も重要なテーマとなっていますが、今年も昨年同様に本テーマに関するセッションが多く見受けられます。
たとえば、「The Energy of Belonging: 9 Ideas to Spark Workplace Community
(ビロンギングのエネルギー:職場のコミュニティに火をつける9つのアイデア)」では、従業員のエンゲージメントや組織へのロイヤルティ(忠誠心)、生産性向上の原動力となるビロンギング(帰属意識)が構築されるのも、破壊されるのも、職場の人間関係次第であると説いています。研究に基づいた、職場のビロンギングの向上につながる9つの実践アイデアが紹介されるようです。
また、「Out With the Old: Six New Rules to Reinventing Work(古きを捨てよ: 仕事を再発明する6つの新ルール)」では、パンデミックを経て、従業員の幸福やD&Iが重要であるという文脈がより強く流れるようになった一方、その解決の難しさが課題となっていると指摘しています。そうした状況の中で、リーダーが従業員を引きつけ、確保し、動機づけていくための6つの戦略を探るようです。
さらに、「The DEI Divide: Finding an Inclusive Way Forward(DE&Iの溝:前進につながる包括的な道を探る)」では、DE&Iに対する批判やフィードバックに対して、人材開発の専門家はどのように対応すればよいかといった課題が扱われます。そうした課題に向き合いつつ、組織で働く従業員個々人を尊重し、価値を認め、能力が発揮できるような職場をつくるためにはどうすればよいかについて、話し合いがなされるようです。 また、今年は「Beyond Diversity: Embracing Neurodiversity for Organizational Success(ダイバーシティを超えて: 組織の成功のためにニューロダイバーシティを受け入れる)」のタイトルで、日本においても少しずつ注目度が高まってきているニューロダイバーシティ(ADHDなど、脳や神経に由来するレベルで多様性を捉え、生かしていく考え方)を扱うセッションも登場してきており、ダイバーシティの領域へのL&Dの貢献のあり方がさらに高まっていると言えるでしょう。
メンタリング、スポンサーシップの活用
メンタリングについては、以前からATDの中でよく見受けられたキーワードですが、近年、組織の中でDE&Iを推進・定着していく上での効果的なアプローチの1つとして捉えられているようです。
たとえば、「Empowering Change: Harnessing Micro sponsorship to Tackle Workplace Inequities Live Online(変化に力を与える:マイクロ・スポンサーシップを活用して職場の不平等に取り組むライブオンライン)」では、メンターが従業員にキャリアに関するアドバイスを行うといった従来のメンタリングとは異なり、組織の上位層が積極的に従業員のキャリアアップにつながるような特別な機会や経験を提供することで育成の強化を図ろうとする、マイクロ・スポンサーシップが紹介されます。マイクロ・スポンサーシップを活用することで、職場の不平等を解消し、誰もが活躍できるようなインクルーシブな職場づくりにつながるポイントについて学ぶことができるようです。
また、「Learning Through and From Generations: Leaving a Legacy ! (世代を通して、世代から学ぶ: 遺産を手放す)」では、リバース・メンタリングを活用した、世代を超えた学習のベストプラクティスについて、グローバルで活躍する4名の専門家が互いに紹介し合い、探求を深め合うようです。
個人のスキルアップに基づく組織のパフォーマンス向上
早期にアップスキリングやリスキリングを行うことが、変化の時代において仕事を通じて価値を発揮し続けるための前提となってきていますが、本カテゴリーでもスキルアップやパフォーマンス向上についてのセッションが複数扱われています。
たとえば、「The Skills Revolution: Unlocking the Potential of Tomorrow’s Workforce(スキル革命 明日の労働力の可能性を解き放つ)」では、組織の未来を支える鍵として、戦略的かつ実践的なスキル中心の人材育成アプローチを取り入れることの重要性について触れています。テキサス州の廃棄物管理会社であるWaste Management社が取り組んでいるテクノロジーをイネーブラーとして活用しながら推進したスキル中心の人材育成の事例が紹介されるようです。
また、「Designing Employee Development Strategy With the Whole Person in Mind(全人格を考慮した社員開発戦略の設計)」では、ソフトスキルやパワースキルに焦点を当てた学習プログラムの提供の仕方が紹介されます。従業員の学習ニーズや学習の嗜好性を考慮した能力開発戦略のデザインについて知ることができるようです。
心理的安全を踏まえたチームや組織づくり
より良いチームや組織づくりにおいて、心理的安全の向上のために様々な実践が試みられています。本カテゴリーでもそうした実践事例を紹介するセッションがいくつかあります。
たとえば、「The Neuroscience of Psychological Safety and Teamwork(心理的安全とチームワークの神経科学)」では、心理的安全性が組織のパフォーマンスの大幅な向上につながるエビデンスが紹介されます。オキシトシンと信頼の関係を初めて解明した神経経済学者であり、TEDの人気のスピーカーでもあるクレアモント大学院大学のポール・ザック氏が登壇するセッションですので、注目したいところです。
また、「Employee-Forward Performance Counseling: No More PIPs !(従業員を前向きにするパフォーマンス・カウンセリング:P I P(業績改善計画)はもういらない)」では、企業において業績が伸び悩む社員を対象に実施される業績改善計画であるP I Pが、従業員に不安や恐れをもたらす弊害についての警鐘を鳴らしています。本セッションでは、そうした弊害を踏まえつつ、従業員を前向きにし、業績向上につなげるパフォーマンス・カウンセリングについて紹介されるようです。
従業員経験価値やエンゲージメント・ウェルビーイングの向上
従業員が、心身が健康で、かつ働きがいを実感できるような職場や組織づくりは、グローバルで積極的に推進されていますが、A T D においても、実践を積み重ね、年々進化した各組織の取り組みが紹介されます。
たとえば、「The Power of Employee Engagement and Connectedness: Employee Resource Groups(従業員のエンゲージメントとつながりの力:従業員リソースグループ)」では、共通の特性や属性をもった従業員が主体となって編成される社内コミュニティERGを活用したエンゲージメントの向上の実践事例が紹介されます。昨年は効果的なオンボーディングを行うためにERGを活用した事例紹介のセッションがありましたので、ERGは今回も注目したいキーワードです。
また、「Integrating Mental Health and Well-Being Into the Employee Journey(メンタルヘルスとウェルビーイングを社員の旅に組み込む)」では、従業員が経験する企業文化の中にメンタルヘルスを統合することで、インクルージョン、心理的安全性、メンタルヘルスの文化の強化を図るためのポイントが紹介されます。日本では健康経営とウェルビーイングは相互に関連はありますが、異なるものとしてそれぞれ定義されていますので、本セッションでは、両方を包含した取り組みを知る良い機会になるかもしれません。
さらに、「From Exhaustion to Engagement: Helping Leaders Combat Change Fatigue(疲弊からエンゲージメントへ:リーダーを変革疲労から救う)」では、絶え間ない変化の中でもリーダーを勇気づけ、チームを動機づけながら、疲弊からエンゲージメントへと移行するための実践的な戦略のあり方について紹介し、参加者同士で対話が行われるようです。変革疲れについては、組織の中で起こりがちが事象であり、対応の仕方について苦慮されることが多いかと思いますので、参考にしたいところです。
Future Readiness(未来への準備)
ATDは2020年1月に、これからの人材・組織開発に携わるプロフェッショナルに期待する能力のモデルとして、「Talent Development Capability Model」を打ち出しましたが、Future Readiness(未来への準備)は、その中で求められる23の能力の1つです。内容としては、社会的な動向を踏まえて、タレント開発の今後のトレンドや洞察が提示されています
AIが解放するL&Dの可能性
AIの活用は、近年のATDのトレンドとして外せないものと言えます。昨年もAIを扱ったセッションには多くの人が参加しており、注目度も高いと言えます。今年のセッション概要を見ると、昨年よりもテーマが広がったり、具体的な取り組みに言及しているものが多い印象です。
AIは、後述する「ラーニング・テクノロジー」のトラックでも扱われていますが、このトラックでは、より広い文脈で、AIがいかにL&Dの可能性を解放していくかが探求されています。
たとえば、「Empowering Collective Intelligence: Co-Creating a Culture of Human-AI Collaboration(集合知に力を与える: 人間とAIのコラボレーション文化の共創)」では、人間とAIのダイナミズムが、いかにこれからの職場やカルチャーに影響を与えるのか、そして人がAIを活用して人間中心のスキルの可能性をいかに最大化できるのかについて、具体的な戦略や方法を交えながら議論が行われます。
また、「Human+: Leveraging AI to Empower Your Workforce(ヒューマン+:AIを活用してワークフォースを強化する)」では、パーソナライズド・ラーニングやエンゲージメントの促進、トレーニング業務の効率化、ピープル・アナリティクスによるインサイトの抽出など、AIを活用し、L&Dを次のレベルへと押し上げる方策が紹介されます。
ラーニング・エコシステムへの着目
AIと同様に、近年のATDでキーワードとして挙げられるものにラーニング・エコシステムがあります。学習を一時的なイベントとしてデザインするのではなく、人を中心に置き、その周りにエコシステム(生態系)を築くように学習環境をデザインしていくことが継続的な学習と実践につながります。
そして、今年はラーニング・エコシステムの構築にもAIを活用していこうという動きが散見されます。たとえば、「Harness AI to Transform Your Learning Ecosystem(AIを活用してラーニング・エコシステムを変革する)」では、L&Dの役割をラーニング・エコシステムの構築と定義し直し、その実現にいかにAIを活用できるかをステップごとに紹介していきます。
また、「6 Learning Ecosystem Hacks to Win the War for Talent(人材獲得競争に勝つための6つのラーニング・エコシステム・ハック)」では、自社のラーニング・エコシステムを分析し、質を高めることで、タレントの獲得にいかにつなげていけるかが探求されます。タレントの獲得を採用のプロセスだけで捉えるのではなく、ラーニング・エコシステム全体として考えていくアプローチが興味深いと言えます。
スキルをベースにした人材戦略構築
リスキリングやアップスキリングは今では当たり前のように扱われていますが、ATDの1つのトレンドとして、スキルをベースにした人材戦略の構築をより具体的に考えていくセッションがここ数年増えてきている印象があります。
たとえば、「Upskilling a Future-Ready Workforce: A Skills-Based Success Story(将来を担うワークフォースのスキルアップ:スキルベースのサクセスストーリー)」では、協働学習やピア・ツー・ピア・コーチングを日常の仕事に組み込みながら、アップスキリングを実現していくアプローチが紹介されます。
また、「Developing the Dynamic Foresight Skills of Your Organization’s Leaders(組織リーダーのダイナミックな先見スキルを開発する)」では、VUCAの世の中において、先を見通すスキルをいかにリーダーが獲得していけるかについてのセッションが行われるようです。
また、昨年くらいから、「マイクロ・クレデンシャル(学習内容をより細分化し、細分化された単位ごとに習得を認証する)」への注目が高まっていました。今年もたとえば「Digital Credentials: The New Currency in Skills-Based Hiring and Development(デジタル・クレデンシャル:スキルベースの雇用と能力開発における新しい通貨)」の中で、デジタルに焦点を当てていくデジタル・クレデンシャルに着目しています。こうしたスキルのクレデンシャルをもとに、人材の流動性を高めていく動きが垣間見られるかもしれません。
サステナブルな職場環境づくり
ここまでFuture Readinessのトラックの中では、AIやスキルなどハード的な側面を扱ったセッションを多く紹介してきましたが、より人間的な職場環境や経験、リーダーを育んでいく動きが同時に高まっているようにも見受けられます。
たとえば、「Building More Inclusive Communities at Work(職場でよりインクルーシブなコミュニティを築く)」では、働く人々の孤立化が進む中で、いかにインクルーシブなコミュニティを職場に築けるリーダーを育てていくかについて、議論が行われます。
また、「Create a Culture of Belonging to Drive Employee Experience(エンプロイー・エクスペリエンスを促進するビロンギングの文化を創造する)」では、承認、メンターシップ、そしてつながりを組織の中に生み出していくことで、働く一人ひとりがビロンギングを感じられる職場づくりを推進するアプローチが紹介されます。
そして、「Preparing Leaders for the Future of Sustainable and Equitable Business(持続可能で公平なビジネスの未来に向けたリーダーの育成)」では、サステナビリティやエクイティへの関心が社会的に高まる中で、ビジネスを推進できる将来のリーダーをどのように育てていくのかが探求されます。社会的インパクトを人事プログラムに組み込むことで、前向きな変化を生み出すと同時に、ビジネスの未来に向けて人材を育成するアプローチが議論されるようで、興味深いと言えます。
このように、サステナビリティを意識したセッションは、ATDの中ではあまり取り上げられてこなかった印象がありますが、社会的なサステナビリティと組織内のサステナビリティの両者を統合して高めていくアプローチに着目してみたいと思います。
Managing the Learning Function(ラーニング・ファンクションのマネジメント)
このトラックでは、ラーニングを扱う組織の役割を考えていくセッションが登場します。トレーニングの発注・請負といった単純なアプローチだけでなく、組織内の学習機能をマネージするなど、その役割は近年ますます複雑になっています。そのようなラーニング・ファンクションを管理する人々の責任範囲には、組織開発やプロジェクト管理、タレント開発とビジネス目標とのアライメント、学習アイデアや傾向の理解、トレーニング以外のソリューションの専門性(パフォーマンス・コンサルティングやコーチングなど)を養うことなどが含まれてきます。
ラーニング&ディベロップメント(L&D)の役割の革新
近年、このトラックでは、学習のパラダイムが変わる中で、L&Dに携わる人たちの役割を革新していくことの必要性を扱ったセッションが多く見受けられます。
たとえば、「A Guided Workshop on How to Launch a Capability Academy(ケイパビリティ・アカデミーの立ち上げ方に関するガイド付きワークショップ)」では、HR領域のトレンドを発信するJosh Bersin氏によって提唱され、近年注目されている「ケイパビリティ・アカデミー」とは何かの概念とその立ち上げ方が紹介されます。数多くのコースが並ぶ企業内大学型の教育を超えて、戦略的なケイパビリティを特定し、現場での実践やマネジャーによるコーチング等を含む、多様な学習機会を構築していくケイパビリティ・アカデミーの実践に着目してみたいところです。
また、「The Collide of Data, Culture and Design(データ、文化、デザインの衝突)」では、人材開発プログラムを設計する際に、カルチャーに関するデータをどのように活用できるかが紹介されるようで、興味深いと言えます。
そして、「3 AI Amplifiers to Augment the Learning Function(学習機能を強化する3つのAI増幅器)」では、L&Dの機能を増幅させるAIの要素として、パーソナル・アシスタンス、オアフィーマンス・サポート、データ増強(オーグメンテーション)の3つを取り上げ、深堀りしていきます。
こうしたセッションを通して、L&Dに関わる私たちの役割の再考につなげていきたいと思います。
Learning Technology(ラーニング・テクノロジー)
このトラックは、新たなテクノロジーを用いた新しいラーニングの姿や、学習を効果的に行う方法、事例などを取り上げています。
生成AIの活用の進化
このトラックでは、昨年から生成AIのラーニングへの適用が大きなテーマとして取り上げられていましたが、今年も同様の傾向が見受けられます。特に今年は、より実践的なところに踏み込んだり、様々な実践家が集うパネル・ディスカッションの中で、多面的な観点から活用のあり方を模索していこうという意志や流れが感じられます。
たとえば、「Courage and Commitment to Change: A Modern Learning Transformation Journey(変化への勇気とコミットメント モダンラーニング変革の旅)」では、米国公認会計士協会の事例が紹介されます。同組織において、生成AIを含む様々なテクノロジーの活用を通して、伝統的な学習のあり方をモダンなものへとどのように変革していったかが紹介されます。タイトルにもあるように、そこでキーとなるのは、勇気とコミットメントであるとされており、伝統的な組織の変革のあり方についても学べるセッションになりそうです。
また、「EmERGing Corporate Learning Trends With the Development of Generative AI(生成AIの発展がもたらす新たな企業学習トレンド)」では、コンテンツの開発からコースのデリバリーに至るまで、生成AIを活用して、学習の成果や生産性を高めるアプローチが紹介されるようです。
「Generative AI: New Technologies for Learning(生成AI:学習のための新技術)」では、AWSのテクノロジストのファシリテーションのもと、実際に生成AIを体験するセッションが行われます。その中で、AIの活用と、ヒューマン・タッチのトレーニングのバランスをいかに取っていくのかが探求されるようです。
そして、「Global Insights Panel – Mastering Lifelong Learning: Navigating a World of Technological Disruption and AI(グローバル・インサイト・パネル-生涯学習を極める: 技術的破壊とAIの世界をナビゲートする)」では、学習者エンゲージメント、スキル予測、学習者サポート、コンテンツ作成とキュレーション、パーソナライズされた学習、学習分析を含むラーニング・ジャーニーにおいて、組織がどのようにAIを活用しているのか、そしてそれらが生涯学習や人材育成にどのような影響を与えているのかについてパネル・ディスカッションが行われます。グローバルの様々な地域から参加する専門家同士の議論が期待されます。
Spatial Learning(空間学習)の探求
生成AIと並行して、本トラックでは、VRやAR、メタバースについて触れるセッションも多く、仮想現実・拡張現実を活用したラーニングのあり方への注目度も年々高まってきています。
毎年テクノロジーに関する興味深いセッションを行うアンダース・グロンステッド氏は、今年「The Future of Learning Is Spatial(学習の未来は空間的である)」というタイトルのセッションを行います。Spatial Learning(空間学習)とは、自らが置かれた空間全体を認識・記憶し,それに基づいて一定の反応を習得していく学習を指しています。グロンステッド氏は、アップルのビジョン・プロやメタのメタ・クエストなどが一般化される中で、未来の空間学習のあり方が到来していることに言及し、実際にこうしたテクノロジーを活用して、学習のあり方がどう変わっているのかをフォーチュン50の企業の事例をもとに紹介していくとされており、注目してみたいと思います。
また、「Breaking Barriers: Using VR and AI to Transform Soft Skills(壁を破る: VRとAIでソフトスキルを変える)」では、体験型ソフトスキルトレーニングにおいて、バーチャルリアリティ(VR)と会話型AIを組み合わせたアプローチが紹介されます。
以上、ここまで生成AIやVRなど、最新のテクノロジーのラーニングへの適用について模索するセッションを中心に紹介してきましたが、たとえば「Building Powerfully Customized Learning Solutions With Low-Code Technology(ローコード技術で強力にカスタマイズされた学習ソリューションを構築する)」では、ローコード技術を活用して、コーディングの経験やスキルがない人でも、学習にテクノロジーを活用していくあり方が探求されます。ラーニング・テクノロジーのトラックも、技術に強い一部の人たちだけではなく、より多様な人たちに関心をもってもらい、探求を進めていけるとよいかもしれません。
Learning Science(ラーニングの科学)
このトラックでは、主に、心理学・行動科学・脳神経科学の研究から得られた知見を活用し、学習のあり方や、人および組織の認知・行動を変容させるアプローチや取り組みなどを紹介しています。
このトラックで毎年注目されているのは、LinkedIn Learningの元CLOで、脳科学や心理学の知見をリーダーシップ開発や育成の領域にわかりやすく還元するインフルエンサーとして知られるブリット・アンドレッタ氏のセッションです。今年は、「The Science of Emotional Intelligence and Well-Being at Work(仕事における感情知性とウェルビーイングの科学)」というタイトルで、職場のウェルビーイングをどのように高めるのかを脳科学の観点から紐解くとともに、具体的なトレーニングのデザイン方法にも言及されるとのことです。
同じく脳科学の領域で毎年人気のあるセッションを行っているケネス・ノワック氏は、「The Neuroscience of Effective Coaching(効果的なコーチングの脳科学)」において、目標について取り上げるようです。目標設定は、パフォーマンス・マネジメントにおいても重要なテーマですが、目標設定と(進捗の)追跡を効果的に進めるために2つの脳のネットワークにどのように働きかけるのがよいかということについて紹介されます。
その他、「Mnemonics: How Our Brains Can Comfortably Remember Almost Anything !(記憶術:私たちの脳はどのようにして、ほとんど何でも快適に記憶することができるのか!)」「The Distracted Mind: How Technology Changes Memory and Learning(注意散漫な心:テクノロジーは記憶と学習をどう変えるか)」など、記憶と学習に焦点を当てたセッションや、「The 5 Es to Learner Engagement: Driving a Learning Culture(学習者を引きつける5つのE :ラーニング・カルチャーの推進)など、学習者のエンゲージメントにフォーカスを当てるセッションなど、多様なテーマが取り上げられており、注目してみたいと思います。
Measurement & Evaluation(測定と評価)
このトラックでは、トレーニングの効果性を高めるためのデータの取り方やL&DのROIの適切な測定方法、及びデータの活用の仕方についてのセッションを扱っています。
今年の傾向としては、データの測定や分析を業績や企業価値の向上につなげようとするテーマのセッションが複数見受けられます。「Aligning Instructional Design With Business Goals(インストラクショナル・デザインをビジネスゴールに合わせる)」では、インストラクショナル・デザインの8つのプロセスに評価の観点を組み込むことで、ビジネスの成果にもつなげていくアイデアが紹介されるようです。
また、「From Intangible to Tangible: Demonstrating L&D’s Impact(無形から有形へ:L&Dのインパクトを実証する)」では、データ活用によってラーニングのインパクトを示し、取り組みを強化していくことで、ビジネスの課題解決にもつながるという連携を実現していく方法が示されるようです。昨今日本では人的情報開示の動きが高まっている中で、多くの企業がトレーニングに関するデータを集めていると思いますが、それらをビジネス成果につなげていくための示唆が得られる内容として期待されます。「Create a Measurement and Reporting Strategy With TDRP(TDRPで測定とレポート戦略を構築する)」というセッションとも併せて注目してみたいと思います。
その他、この分野の基礎的な知識や実践について扱うセッションも例年通り行われます。「The Secret of Training and Evaluation That Works(効果的なトレーニングと評価の秘訣)」は、4段階評価モデルの提唱者である故カークパトリック氏のご子息ジム・カークパトリック氏がスピーカーを務めるセッションです。また「Demonstrate the Impact and ROI of Learning and Talent Development(学習と人材開発のインパクトとROIを実証する)」は、故カークパトリック氏と共にモデルをつくり上げたジャック・フィリップス氏によるセッションです。これらは、この分野の基礎を把握し、今日的な組織における活用を考えていく上では、ぜひ押さえておきたい内容になっているかと思います。
一方で、「7 ChatGPT Prompts That Make Training Evaluation Better, Easier, and More Fun ! (トレーニング評価をより良く、より簡単に、より楽しくする7つのChatGPTプロンプト)」は、今日らしいテーマのセッションかもしれません。評価の設計と分析にChatGPTを活用していく方法が紹介されるセッションとなっており、L&Dの測定や評価と最新テクノロジーとの融合がどのように行われるのか楽しみです。
Career Development(キャリア開発)
このトラックは、キャリアに対する考え方そのものを扱うセッションや、専門知識やスキルの習得支援に関するセッション、L&Dの実務家のキャリアに関するセッション、働く個人を対象としたキャリア開発セミナーのようなセッションなど、キャリア開発という大きな傘の下に様々なテーマのセッションが集まって構成されています。
「From Telescope to Kaleidoscope: How to View Career Mobility(望遠鏡から万華鏡へ: キャリアの流動性をどう見るか)」は、『会話からはじまるキャリア開発』(佐野シヴァリエ 有香訳.ヒューマンバリュー出版)の原著者の一人でもあるジュリー・ウィンクル・ジュリオーニ氏によるセッションです。望遠鏡のように遠くを見通して、直線的なキャリア開発を目指すのではなく、変化する職場環境に合わせて柔軟に自身のキャリアを開発し、視野を広げて可能性を模索するキャリア観について紹介するセッションとなっています。キャリア観を扱うセッションとしては代表的と言える存在であり、今後のキャリア観を探求する上で参考となりそうです。
専門知識やスキルの習得支援に関して、「Becoming Interculturally Competent: Strategies and Stories(異文化コンピテンシーを身につける:戦略とストーリー)」や「DEI and Your Talent Development Career(DEI とあなたの才能開発のキャリア)」といったセッションが行われることは、今年の特徴と言えるかもしれません。昨今の多様化する職場環境において必要不可欠となるD&Iの視点からみたキャリア開発について、探求することができそうです。
また「6 Secrets to Consulting Success(コンサルティングの成功についての6つの秘密)」は、昨年も同じタイトルでのセッションが行われており、ATDの中でもグル的な存在であり、豊富な経験をもつエレイン・ビーチ氏からコンサルタントとしての成功の秘訣を学ぶことができます。「What’s Next? Creating Your L&D Career Path Blueprint(次は何? L&Dキャリアパスの青写真をつくる)」と併せて、急速に変化しているL&Dの領域の中でどんな役割を担っていくのかを考える参考となりそうです。
最後に、個人を対象としたキャリア開発セミナーのようなセッションとしては、昨年に引き続き、パーソナルブランディングを扱うものが多く見受けられる一方で、「Career Well-Being: How to Get It and Keep It(キャリアウェルビーイング:それを手に入れ、維持する方法)」は、今日らしいテーマと言えるかもしれません。成長や発達に対する願いは、私たち個人のウェルビーイングに大きな影響を与えます。現在のキャリアに対するウェルビーイング度合いを把握し、キャリアに対する価値観を定義し、最高のキャリア選択を行うための行動計画を作成することで、自分らしいウェルビーイングなキャリア選択を行っていく示唆が得られるのではないかと思います。
Instructional Design(インストラクショナル・デザイン)
このトラックには、組織における学習の計画や設計およびトレーニング開発に携わる人々にとって、具体的な支援ツールやティップスを得られるセッションが集まっています。
近年は、この領域にデザイン思考を取り入れていくことをテーマに置いたセッションが目立ちましたが、今年はやや少ない印象です。それに代わり、ここでも生成AIを活用したコースのデザインに関するセッションが増えており、伝統的なインストラクショナル・デザインからの脱却を模索していく流れが見受けられます。
たとえば、「Innovating Course Development With Chat GPT, Prompt Engineering, and Prompt Chaining (Chat GPT、プロンプト・エンジニアリング、プロンプト・チェイニングでコース開発を革新する)」では、タイトルにあるような技術をもとに、どのようにしてAIを活用したコースデザインを行うのか、具体的な戦略構築のあり方が紹介されます。
また、「Use Generative AI to Create Scenario-Based Learning(生成的AIを使ってシナリオベースの学習を作成する)」では、生成AIを活用し、インストラクショナル・デザインのプロセスをいかに加速させ、魅力的なシナリオベースのコースを作成していくかについて、ツールの使用法と共に紹介されるようです。
その他、興味深いものとしては、「Data-Enabled Instructional Design: How to Show Real-Time Learning Outcomes(データを活用したインストラクショナル・デザイン:学習成果をリアルタイムに表示する方法)」があります。このセッションでは、コース実施後にプログラムの測定と評価を行う従来型の方法ではなく、コースの展開中にリアルタイムでデータを取得し、それをプログラムに反映させていくインストラクショナル・デザインの方法が共有されるとのことで、注目してみたいと思います。
また、生成AI以外では、マイクロラーニングに関するセッションが多く開催される印象です。「20 Ways to Use Microlearning—and Design Tips for Success(マイクロラーニングを活用する20の方法と成功のための設計のヒント)」「1% Better Everyday: Microlearning For The Frontline To Improve Your Bottom Line(毎日1%良くなる:最前線のためのマイクロラーニングで収益改善)」「Making Microlearning Work: Design for Conciseness and Context(マイクロラーニングを機能させる:簡潔さと文脈のデザイン)」などのセッションが行われます。マイクロラーニングについては、すでに当たり前のコンセプトになった感がありますが、より具体的な方法論を検討したい方にはお薦めと言えます。
Training Delivery & Facilitation(トレーニングの実施とファシリテーション)
本トラックでは、トレーニングを通じた知識伝達や人材開発の技術を高めるためのプログラム設計の仕方をはじめ、インストラクションやファシリテーションのスキル、テクニックなどが主に扱われています。「インストラクショナル・デザイン」や「ラーニング・テクノロジー」のトラックと併せて、効果的な学習のあり方や進め方のキーポイントを知ることができるトラックです。
たとえば「Think Like a Performing Artist. Speak Like a Master Trainer(パフォーミング・アーティストのように考える。マスタートレーナーのように話す)」や「Let the Good Talks Roll!: World-Class Speaker Best Practices(グッドトークを巻き起こせ!:世界トップクラスのスピーカーのベストプラクティス)」のように、トレーニングのデリバリーの技術向上にフォーカスを当てたセッションが多く行われます。
ハイブリッド・ファシリテーション
ここ数年、このトラックではコロナ禍の影響もあり、バーチャル環境でのファシリテーションについてのセッションが多く見受けられましたが、今年はさらに、オンラインとリアルの場を同時並行で進めるハイブリッド環境でのファシリテーションのあり方が多く議論されるようです。
たとえば、「Onsite? Offsite? Yes to Both! How to Facilitate Hybrid Learning(オンサイト? オフサイト? 両方にイエス!ハイブリッドラーニングの進め方)」では、ファシリテーターが対面とリモートの両方の参加者に同時に向き合う必要がある状況で、どのように効果的なクラス運営ができるのかについて探求が行われます。
また、「Surviving Hybrid Horror Stories: Success Strategies From the Field(ハイブリッドの恐怖体験からの生還:現場からの成功戦略)」では、経験豊かな4名のファシリテーターが自分自身のハイブリッド・ファシリテーションの体験、特にうまくいかなかった場面をどう乗り越えてきたのかを語り、学び合います。実践家たちの多様な知恵を学べるセッションになりそうです。
その他のテーマでは、「If You Give a Robot a Story: Humanizing AI-Generated Content(ロボットに物語を与えたら: AIが生成したコンテンツを人間化する)」では、AIが作成したコンテンツにいかに人間的な要素を取り入れ、面白いものにしていくかが紹介されます。こうした現在のトレンドに即したセッションも興味深いところです。
終わりに
以上、ここまでトラック別にトレンドを紹介してきました。紙幅の関係から、紹介しきれなかったセッションもまだまだありますし、本稿では扱わなかった基調講演やEXPOなど、その他にも見所がたくさんあります。
ヒューマンバリューからは今年は4名のメンバーが参加します。世界各国から集う1万人の参加者の方々と、人の学習と成長について共に学ぶ約1週間の旅路が今から楽しみです。カンファレンス終了後に、またあらためて今年の動向について報告できればと思います。