インサイトレポート

『GROW THE PIE』フォーラム第2回 実施レポート(前編) <持続可能な経済・企業経営を、「動的な学び」で実現する〜ラーニング・ソサイエティ〜>

本レポートでは、2024年11月28日に開催された『GROW THE PIEフォーラム:持続可能な経済・企業経営を「動的な学び」で実現する 〜ラーニング・ソサイエティ〜』(リアル&オンライン開催)の内容をダイジェストで紹介しています。本ページはその前編となります。「人・事業・社会の価値を創発する(パイを拡大する)これからの学びのあり方」について、4名の実践から探求を深めた様子をぜひご覧ください。
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『GROW THE PIE』フォーラム第2回 実施レポート(後編) <持続可能な経済・企業経営を、「動的な学び」で実現する〜ラーニング・ソサイエティ〜>

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GROW THE PIEフォーラム 第2回 開催への想い:
なぜ持続可能な企業経営の実現に向けて「動的な学び」がテーマになるのか?

ヒューマンバリューでは2023年7月に、ロンドン大学ビジネススクールのアレックス・エドマンズ氏の著書Grow the Pie: How Great Companies Deliver Both Purpose and Profitの日本語翻訳版を出版しました(邦題『GROW THE PIE~パーパスと利益の二項対立を超えて、持続可能な経済を実現する』)。

「企業が事業を通じて地球環境課題や社会課題の解決を目指すことと業績を向上させることは、果たして両立し得るのか?」という問いにダイレクトに向き合い、多くの業界にインパクトを与えた本書。

私たちは、本書を日本に紹介することを通して、サステナビリティやパーパス、ESG経営に取り組む経営者、マネジャー、従業員、投資家など、多様なステークホルダーの方々と新しい経営や組織づくりのあり方を議論し、構築していきたいとの想いから、本フォーラムを開催することにしました。

そして、今回で2回目を迎える本フォーラムでは、「動的な学び」をテーマに置きました。それはなぜか? それは私たちが、パーパスと利益の二項対立を超えて、持続可能な経営を実現していく中で、一番大きなハードルとなるのが、人々のマインドセットにあるからです。

せっかく素晴らしいパーパスを掲げても、足元の業績に目を取られ過ぎて、変革が前に進まずスタックしたり、揺り戻しが起きたり、現場と経営との想いが乖離する、というような場面に遭遇することも多いのではないでしょうか。

こうしたことを乗り越え、変革を進めるためには、人々が既存の枠組みを超え、世界の見方を変えていく必要があります。ただし、それは正解を教わって学ぶような「静的な学び」では実現できません。私たちの枠組みを壊し、新たな価値観や行動変容につながるような「動的な学び」が必要となります。

本レポートでは、フォーラムの中で語られた4名のストーリーを紹介し、「動的な学び」のイメージを膨らませながら、「人・事業・社会の価値を創発する(パイを拡大する)これからの学びのあり方」を考えるきっかけにしていただければと思います。

企業の実践ストーリー:2社のストーリーから学ぶ

最初は、企業のフィールドでの実践ストーリーです。2社の取り組みをダイジェストで紹介します。

安全自動車株式会社 取締役副社長 中谷 象平氏
個の成長と組織の成長を育み、その組織変革の取組みが組織の枠組みを超えていく

フォーラムのスタートは、安全自動車株式会社で取締役副社長を務める中谷象平さんから、10年にわたる組織変革プログラムの推進によって、社内の“学びの場”が、組織の垣根を越えるとともに、社外にも広がっているストーリーをお話しいただきました。

安全自動車では「働きがいのある職場づくり」を掲げて、長期的に人材開発や組織開発に取り組まれています。そのきっかけとなったのは、2010年に行った全社員ヒアリングという施策でした。

リーマンショック直後で会社全体が疲弊感に包まれていた当時、現場の不満や社員の想いが肌感覚でわからなくなっていたという中谷さん自身の危機感から、全国のオフィスに訪問し、現場で働く社員に話を聞いていきました。出てきた項目は1000個にも及んだそうです。そしてその声を集約した結果、もっと個人の成長と組織の成長がより明確に関係を持つような仕組みにしていきたいと考えるようになり、「より良くフォーラム」「より良く会議」そして「1on1ミーティング」という柱となる3つの施策が始まりました。

最初に始まった「より良くフォーラム」は、部門を超えて全国からリーダーたちが集まり、将来の安全自動車のために、今自分たちが何をすべきかを語り合う場でした。模索しながら3年間取り組む中で、参加したリーダーたちが職場に戻った時、孤独感を感じないようサポートするために、新たに「より良く会議」が生まれ、それぞれの職場で、自分たちの職場がより良くなるにはどうしたらいいか、共に職場をつくり上げていくチームとして何ができるかが話し合われるようになっていきました。

そして、そういったチームをつくるのはマネジャーだけではありません。その後、メンバーも共にチームに対してどんな貢献をしていきたいのか、どのように成長していきたいのかを考える1on1ミーティングの取り組みもスタートし、変革の輪が社内に広がっていきました。

お話を聞いての所感になりますが、動的な学びとは、誰か一部の人、一部の立場の人が学び、リードするというものではなく、全方位からダイナミックに変化を築いていくような営みなのかもしれません。

このようにして社内の枠組みを超え、どんどん拡大していった組織変革の取り組みですが、今では社外の方も巻き込んだ取り組みになっているようです。

中谷さんはそこへの想いも込めて次のように語りました。

「2018年ごろをきっかけに、外部の企業の方と学びの場を持つことは我々の枠を超えていく、思考が広がる良い学びの場になるな、という原体験ができました。コロナ禍以降、全部オンラインに切り替えたんですけど、そこではどんどんいろいろな企業の方に来ていただいて、一緒に学ぶ場にしています」

「将来的には、さまざまな企業のマネジャーと共に学びたいと思っています。組織の枠を超えても、課題感とか問題点っていうのは相似形で話が合ったりするので、外部の企業の方と一緒にやりたいと思っているんですね。今は人事の担当者の方が多いですが、将来的には多様な人が集える環境を整えたいと思っているところです」

また、学びの場も社外へと広がっていきました。2023年から始まったラーニングジャーニーでは、北海道の美瑛町や福島県の郡山市、静岡県の熱海市、それ以外にも自分たちで訪問したい地域に行き、現場で活躍している方々のストーリーから学んでいるそうです。ここにも企業という枠組みを超えて、地域にも広がっていく学びがありました。

一方、10年にわたって取り組む中では、失敗と捉えられるような出来事もあったそうですが、それについて語られた中谷さんの言葉も印象的でした。

「1on1導入を失敗した時とか『なんで辞めないの?』と言われるんですけど、辞めるっていう選択肢はないんです。前提としてどう継続するかしか考えていない。会社のDNAとして粘り強いというのはあるかもしれませんが、それは社員の中にも流れている文脈なんじゃないかな」

一見すると簡単そうな“継続”も、周りの賛同や協力がなくては成り立ちません。人や組織の変化、学習は目に見えづらく、そして時間がかかることも往々にしてある中で、継続するという前提を決め、そのためにできることを思考したり、そこから何を得たのかを振り返ることが、ラーニング・ソサイエティが広がる起点になるのかもしれません。

メンバーの声に耳を傾けたいという願いを基点に、たくさんの想いが共有され、その想いに皆で向き合って一つずつ形にしていく中で、組織全体がシフトする。そんな動的な学びのあり様が感じられるストーリーの共有でした。

NTTテクノクロス株式会社人事部 人材開発部門 部門長 堺 寛氏
コミュニティ型人材成長企業への道のり~自ら学び続け、高めあう風土づくり~

続いて、NTTテクノクロスの堺さんに登壇いただき、人材開発部門でビジョンとして掲げる「コミュニティ型人材成長企業」の実現に向けて、社内のあらゆるところで生まれているラーニングコミュニティについて、「自ら学び続ける」「社員同士で高めあう」「土壌を耕す」という3つの観点からご紹介いただきました。

「コミュニティ型人材成長企業」という言葉が意図しているのは、社員が誰かに引っ張られて育つ状態ではなく、自ら学び、コミュニティの中に入っていくことで成長していく状態です。

まず「自ら学び続ける」という観点では、入社したての頃から自発的に成長する意識を育めるよう取り組まれている「新入社員研修」「モノづくりプロジェクト」について紹介されました。新入社員は集合研修を終えた後、配属される現場とは別に、アジャイルでのシステム開発を経験するプロジェクトに参画します。そこでは現場のOJT指導者とは別のサポーター社員が伴走することによって、業務の経験機会と共に、社内のコミュニティを広げるきっかけとなっているのです。

そのような経験を経て、社内では、「社員同士がお互いに高めあう」取り組みも数多く生まれています。その中の一つに「よろず相談」という仕組みがあります。ここでは、社内の誰もが認めるプロフェッショナルや、テクニカルスキルを持った社員が登録されており、プロジェクトを進めていく上で自分たちでは解決ができない困り事が発生した際に、こうした人たちへの相談を通じて解決していくというものです。実際に、よろず相談を活用して解決した困り事については“お助かり時間”として積算され、解決ノウハウは履歴として公開されているなど、その後も活用できる状態になっているそうです。こうしたラーニングコミュニティは、2001年ごろ「社内の知識やナレッジが分断されているのではないか」という危機意識からスタートした技術者Q&Aコミュニティに端を発しており、ラーニングコミュニティの草分け的な取り組みだったと言えるかもしれません。

ここまで紹介したラーニングコミュニティが生まれる背景には、「土壌を耕す」という観点で進められてきた多くの取り組みがありますが、その一つが実践コミュニティ創出プラットフォーム「First Penguin Lab」です。

これは2017年の会社合併を機に生まれたコミュニティで、当時合併前の2社の社員がお互いにどんなふうに仕事を進めてきたのか、どのようなことを考えているのかが理解できないようなケースがあり、そこを乗り越えるために社員自ら発案したものでした。そこでは、社員が設定したテーマが取り上げられ、本業では直接関わりのない内容でも、2社の社員が一緒になって話し合うことで、何かが起きた時に助け合うような現在の土壌につながっているのだそうです。

ここで紹介した以外にも、約20種類に及ぶ取り組みの数々を紹介していただきましたが、それらが、人事部主導のもの以上に、社員個人や社内のコミュニティから自然に生まれてくるというのも驚きでした。その背景について堺さんはこのように語っていました。

「当社の前身会社は二十数名で始まっており、上位層が少ないとか、早くマネジメント的な役割が期待されていた経緯もありました。その結果、自分たちで何かをやっていこうというマインドは昔からあったと思います。最近ではプロパーの役員も誕生し、『じゃあ、やってみろ』という形で、社員はやりたいことを言いやすい環境になってきました。その新しい取り組みがうまくいくと壁新聞に取り上げられて他の社員が知ることとなり、別の新たな取り組みを生むという相乗効果になっている感じがありますね」

多様な取り組みの背景にあるストーリーを聴きながら、「コミュニティ型人材成長企業」のあり様が立体的に見えてきた時間でした。

そこには、社員が本来持っている学習性を解放できるよう、人事部が仕掛けるのではなく、働くすべての人が、お互いがお互いに対して貢献し合っていく姿がありました。そして、それが自然と起きていくようなコミュニティの場や会社としての制度を整えていくこと。その双方がうまく循環することで、組織として学習する文化が育まれていくように感じたお話でした。

2名の登壇者からのストーリー共有の後は、参加者同士で対話を行いました。今回のフォーラムは、企業で働く方だけでなく、地域で働く方や教育関係の方、社会的投資事業を行っている方など、多様なバックグラウンドをお持ちの方々にご参加いただき、対話からの学びも大きかったようです。リアル会場では、休憩時間にも対話や登壇者への質問が継続しており、参加者の関心の高さや探求が深まっている様子が感じられました。

ここまで当日の流れに沿って、企業の視点からお二人のストーリーについてご紹介してきました。この後は地域にも視点を広げ、一般社団法人あがのがわ環境学舎代表理事の五十嵐 実氏、そして株式会社ヒューマンバリューの保坂光子氏にお話しいただいたストーリーをご紹介します。(後編につづく)

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『GROW THE PIE』フォーラム第2回 実施レポート(後編) <持続可能な経済・企業経営を、「動的な学び」で実現する〜ラーニング・ソサイエティ〜>

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私たちは人・組織・社会によりそいながらより良い社会を実現するための研究活動、人や企業文化の変革支援を行っています。

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