<HCI エンプロイー・エンゲージメント・カンファレンス2020参加報告>〜COVID-19の影響下において、エンゲージメントを考える〜
HCIエンプロイー・エンゲージメント2020バーチャル・カンファレンスが、2020年7月27〜28日の2日間にわたって開催されました。
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新型コロナウィルス(COVID-19)は、私たちの働き方やコミュニケーションのあり方に大きな影響を与え、仕事を通して私たちが見る景色・世界観を大きく変えています。リモートワークやバーチャルでのコミュニケーションへの移行が進み、新しい可能性が見えてきた一方で、今まで当たり前のようにもっていた接点を失い、気がつかないところで関係の希薄化を招いているといった声も耳にします。そうした大きな変化の中で、私たちは、個と組織の関係、エンゲージメントについて、どのように捉え、どう向き合っていくのでしょうか。
これからのエンゲージメントについて考える1つの機会として、HCI(ヒューマン・キャピタル・インスティチュート)が主催するエンプロイー・エンゲージメント2020バーチャル・カンファレンスに、ヒューマンバリューのメンバーが参加しました。本カンファレンスは、例年米国サンフランシスコで開催され、多くの企業やコンサルタントがエンゲージメントに関する実践事例やコンセプトを共有し合う場として、10年以上続いています。
今年はバーチャルでの開催になりましたが、様々な企業の実践家たちが、COVID-19と向き合いながらエンゲージメントの再構築に取り組んでいる様が伝わってきました。各企業の模索が続く段階で、正解が提示されたわけではありませんが、議論に触れながら、今後考えていきたい視点が浮かび上がってきたところもありました。本レポートでは、カンファレンスでの議論のテーマや内容、得られた示唆を共有することで、これからのエンゲージメントを多くの人と考えていくための視点を見出していきたいと思います。
1.ニューノーマルへの模索:タレントのダイナミズムとエンゲージメント
本カンファレンスでは、毎年、全体のテーマを設けていますが、今年は「Culture in the New Normal: Creating an Employee Experience Based on Purpose, Belonging, and Leadership(ニューノーマルにおけるカルチャー:パーパス、つながり、リーダーシップをベースに、働く人々の経験を創造する)」がテーマに掲げられました。日本と同様、もしくはそれ以上にCOVID-19から大きな影響を受けている米国において、いかに働く人々がニューノーマルと呼ばれる環境に適応していくのか、そして、いかに個と組織の関係性を再構築していくのかといったことが中心的に語られていました。
カンファレンスの冒頭では、米国における失業者数がリーマンショック時をはるかに上回る2100万人となり、過去最高水準に達していること、またリモートワークが進む一方で、フルタイムでリモートワークに取り組む人々の半数以上が、組織とのつながりが希薄になったと感じていることなど、私たちが今置かれている環境のリアリティが共有されるところからスタートしました。2020年6月には、米国で働く人々のうちエンゲージメントしていない人の比率が68%に達するなど、歴史的な落ち込みを記録したといった、ギャロップ社のデータも紹介されていました。
オープニングの基調講演を務めたフューエル50社CEOのアンネ・ファルトン(Anne Fulton)氏は、「私たちが住む世界、組織は6カ月前と大きく変わりました。私たちHRも、タレントに対するアプローチを大きくシフトしていく必要があります」と投げ掛けます。セッションのタイトルや概要にも、「COVID-19」が付けられたものが数多く見受けられたり、紹介されたエンゲージメント・サーベイの項目の中にもCOVID-19に関連した質問が組み込まれるなど、各企業のHRがそうしたシフトにいかに取り組んでいくのかを模索している様がうかがえました。
そうした中、「Talent Imperative(必須のタレント)」というタイトルで講演を行ったファルトン氏は、人材の需要と供給のバランスが大きく崩れたり、失業率が高まる一方で、領域によっては深刻な人手不足に陥っているなどのミスマッチが顕在化している状況を指摘し、タレントのダイナミズムを再構築していくことが、今後のエンゲージメントを考えていく上でも大切であることが示唆されました。
講演の中では、フューエル50社が行ったタレント・ケイパビリティのトレンド・レポートの結果が引用され、特にパンデミック後の世界の中で働く人々に求められる能力の一群を、「Digitized Capability Architecture(デジタル化された能力の構造)」と呼び、たとえば下記のような能力を高めていくことの必要性が紹介されていました。
・デザイン思考
・リモートでのイノベーション・マネジメント
・予想のモデリング
・アジリティ
・業界を超えたコラボレーション
・分散したワークフォースのマネジメント
・統合化された学習
・サプライ・チェーンの再想像(Reimaging)
・コスト・リストラクチャリング
・デジタル・エコノミー
・DXコーチング
・デューデリジェンス
・リモートにおけるエコシステムのマネジメント
・サイバー・セキュリティ
・リ・インベンション
・レジリエンス(回復性)
・HQ(人間指数)
昨今では、デザイン思考やデータ・アナリティクスなどを一部の専門家がもつスキルではなく、会社全体で育んでいくカルチャーにしていこうといった議論がありますが、ここで挙げられたケイパビリティは、これからの社会において価値を生み出していく上で、働く一人ひとりに必要とされるものといえるかもしれません。特に最後に挙げた「HQ(人間指数)」は、IQやEQといわれているものとは多少異なり、デジタル社会において人間としての経験を創造していくためのアウェアネス(気づき)や認知、関係といったものを指しており、今後必要とされる能力群の中でも、特に重要な位置づけであると提起されていました。
タレントとして求められるものが今後大きく変わっていく中で、働く人々にそうした状況へ適応することを促し、新たな世界でエンゲージできる仕事やスキル、能力をつくり出していくといったダイナミズムをいかに生み出していけるかが、エンゲージメントを考える上で重要だということが、本講演の主題にあったように思います。ファルトン氏は、そこでリーダーシップを発揮するのがHRの私たちであり、HRが、「Future of Work Transformational Leader(未来の仕事への変革を図るリーダー)」となっていく必要性を述べていました。
その一方で、別のセッションでは、リワード・ゲイトウェイ社ディレクターのアレクサンドラ・パウエル氏が、「91%のHRリーダーは、自分たちの組織が、未来の仕事に対して準備ができていることに自信がない」といったガートナー社の調査結果を引用し、HRの現状への課題意識を投げ掛けています。
エンゲージメントとキャリアには密接な関係があると思われます。ここで述べられているように、ウィズ・コロナ、ポスト・コロナの時代に価値を生み出していく上で、働く一人ひとりがこの先どんな力を高めていく必要があるのか、そしてどのようにキャリアを構築していけるのかといったことを考えたり、自分事として議論できるような場や機会をいかにつくっていけるかが、エンゲージメントのこれからを考える上で、1つの視点になるかもしれません。
2.アナリシスからケアへ:働く人々に寄り添うエンゲージメントの取り組み
今回のカンファレンスにおいて、多くのセッションで使われていたキーワードとして「ケア(Care)」が挙げられます。COVID-19の影響を受け、物理的、心理的に不安定な状況下で働いている一人ひとりの声に耳を傾け、組織として寄り添っていこうとする姿勢が、多くの場面で見受けられました。
特にそうした姿勢を強く感じたセッションの1つに、セールスフォース社ヴァイス・プレジデントのアーネスト・ン(Ernest Ng)氏による「How to Build Culture and Engage Employees Through COVID-19(COVID-19の中で、いかにカルチャーを築き、従業員のエンゲージメントを高めるのか)」がありました。
ン氏は、セールスフォースが重視するバリューに「トラスト」や「カスタマー・サクセス」があるという前提を共有した上で、セールスフォースで働く従業員を十分にケアすることができて初めて、従業員がカスタマーに十分なケアをできると述べます。そのために、特にCOVID-19の影響下において心理的安心が脅かされている中、まず働く一人ひとりの「Anxiety(不安)」を軽減することに全力を傾けたとのことでした。
ン氏は、チップ・コンリー氏が提唱するEmotional Equations(感情の方程式)の1つの式である、「Anxiety(不安)=Uncertainty(不確実性) x Powerlessness(無力)」に着目します。一人ひとりが不確実性と無力感から脱することができるよう、情報をできる限りオープンにし、自分で自分をコントロールできるような状態を生み出すことを目指しました。そして、そのために、「(1)コミュニケーション → (2)サーベイ → (3)プログラムの開発・修正」というサイクルを築いていきました。
まずコミュニケーションでは、「Radical Transparent Communication(徹底的に透明性を高めたコミュニケーション)」をテーマに掲げ、従業員に対して情報のアップデートを進めたとのことでした。たとえば、毎週1回水曜の9時に全社員参加のミーティングを行ったり、毎週2回ローカル・リーダーからの共有を行うことにしたり、COVID-19関連の情報を毎日更新したり、従業員がヘルプを求められるコンシェルジェ・ヘルプ・デスクを用意するなど、多様な施策に取り組んでいきました。ン氏は、「従業員が自分で判断できるために必要な情報を得られるよう、コミュニケーション過多になるくらい、徹底して情報公開を進めるようにした」と語ります。
その上で、従業員の声に耳を傾けるために、積極的なサーベイにも取り組みました。たとえば、毎月行う「マンスリー・サーベイ」では、仕事の状況、ウェルビーイング、カスタマー、家庭の状況、コミュニケーションの課題など30問にわたる設問を通して、従業員の状態の変化を捉えていきました。また、ヨーロッパやアジアでは、5〜10の設問を通して毎日状態を確認する「デイリー・パルス」にも、最初の1週間に取り組んだとのことです。そして、その結果を匿名データとしてすべて公開し、社員が今どういう状況にあり、何を感じ、どう変化してきているのかを皆で共有できるようにしました。現在のような危機的な状況において、今自分たちがどういう状態にあるのかについて、集合的・定期的に理解を深めたり、感覚をもつことは、孤独感を取り除き、心理的な安定を高め、組織にエンゲージしていく上でも重要な取り組みであるように思われます。
そして、サーベイから得られた声をもとに、従業員をサポートしていくための施策やプログラムをデザインしていきます。たとえば、データから従業員のレジリエンスが下がっていることが見えてきたので、それらを高めるために、ウェルビーイングやメディテーション、医療分野など様々なテーマのプログラムを構築していきました。具体的には、アリアナ・ハフィントン、ジャック・コーンフィールド、ディーパック・チョプラといった各分野の第一人者たちのプログラムを配信して視聴できるようにしました。その他にも、不確実な環境下で仕事に安心して取り組めるよう、チャイルド・ケアやメンタルヘルスのプログラムなどを強化していきました。
こうしたサイクルを通じたサポートによって、働く人々のトラストも高まっていったとのことです。86%の従業員がセールスフォースのコミュニケーションのあり方を適切に感じていたり、「セールスフォースが、私をバックアップしてくれていることを毎日思い返します」といった声が、従業員からのフィードバックとして多数寄せられていることが紹介されていました。
ここで紹介されているプロセスの項目1つひとつは、取り立てて新規的なものではないかもしれません。しかし、上述したサイクルを徹底し、従業員と組織があたかも会話をしているかのように双方向にコミュニケーションを取り、心理的な安心感を築いていくプロセスを通じて、組織への信頼やエンゲージメントを高めていく取り組みは、COVID-19という特殊な状況下以外でも、参考になると思われます。
また、セールスフォース社に限らず、今回のカンファレンスで紹介されているエンゲージメントの取り組み事例の多くから、似たような姿勢を感じることができました。
「Cultivating a Human-Centered Employee Experience(人間を中心に置いたエンプロイー・エクスペリエンスを醸成する)」というタイトルで講演を行ったカルチャー・アンプ社のロバート・メロイ(Robert Melloy)博士は、「データを集める行為は、従業員とのインタラクションを生み出す」と述べています。また、アチーバーズ社のナタリー・ボームガートナー(Natalie Baumgartner)博士は、従業員のVoice(声)に耳を傾けることが、組織のレジリアンスを高めると述べています。
過去を振り返ってみると、以前は、エンゲージメント・サーベイの事例紹介などでは、いかに従業員の状態を可視化・分析し、必要な施策を講じていくかといったアナリシス(分析)の側面がより強く出ていたように思います。しかし、本カンファレンスでは、上述の発言からも示唆されるように、エンゲージメントの取り組みが、働く一人ひとりに対して丁寧に問いを投げかけ、従業員の視点からの声を集め、双方向のコミュニケーションを通して必要なサポートを行ったり、従業員同士が相互に勇気づけ合う機会を創造していくといったケアの側面が、より強く打ち出されていたように感じました。
COVID-19の影響により、将来の不確実性や不透明性がますます高まる中、分析して答えを提示するのではなく、ケアや信頼を通して組織と個人を結びつけていくことが、今後のエンゲージメントにおける重要な視点になるのではないでしょうか。
3.イベントからプロセスへ:継続的な対話
上述したようなケアを通して、従業員のエンゲージメントの向上に貢献していく上では、継続的に従業員のVoice(声)に耳を傾ける場を構築していくことが重要であり、エンゲージメント・サーベイはそのための手段になります。ここ数年、HR系のカンファレンスに参加するとよく耳にするテーマに、サーベイを含むエンゲージメントの取り組みを一時的なイベントにするのではなく、プロセスにしていくこと、そして経験を伴ったカルチャーにしていくことが挙げられます。本カンファレンスでも、そうした傾向が継続して見受けられました。
たとえば、上述したセールスフォース社以外にも、「The Importance of Not Only Continuous Listening, but Continuous Conversations(継続的に耳を傾けるだけではなく、継続的な会話が重要)」のセッションでは、ヘルスケアの非営利組織スペクトラム・ヘルスが、自組織のエンゲージメントの取り組みを大きく変革した事例が紹介されていました。
講演を行ったシニア・タレント・プログラム・スペシャリストのブライアン・スニオカイティス(Brian Sniokaitis)氏は、同組織の過去の取り組みは、スロー(ゆっくり)で、コンプレックス(複雑)で、時代遅れであったと述べます。1年、もしくは2年に1回エンゲージメントのデータを取っていたそうですが、その結果はすぐにフィードバックされず、HRで働く自分たちでさえも、自分たちが決めたアクション・プランを忘れてしまっている状態だったとのことです。
そこで、エンゲージメントのコンセプトを大きく変え、より頻繁にチームでチェックインができるように、サーベイも四半期に1回(年4回)実施できるようにしたり、働く人のライフサイクルに合わせて、オンボーディング(入社時)やエグジット(退社時)など、主要な場面で行うサーベイと、エンゲージメント・サーベイを同じシステムで実行できるように統合したり、従業員がサーベイへの回答と併せて気軽にコメントを書けるようにしました。
結果についても、回答が集まった次の日には、リーダーやチームにレポートをフィードバックできるようしたとのことです。また、データの見せ方もヒートマップなどを使って、どこが強みや課題なのか、それらがどう推移しているのかの傾向を一覧で見ることができるようにしたり、平均点の高低だけではなく、各項目のエンゲージメントへの影響関係を捉え、平均点が低く、エンゲージメントへの影響度が高い項目を、重点的に改善していく領域として把握していくなど、見せ方や検討の仕方を工夫してきました。
このようにサーベイの頻度や活用の仕方を変えていくことで、エンゲージメントへの関心や活用度合い、アクションへのつながりを高めていこうとする事例が多く見受けられたように思います。
その他にも、ピッツバーグ大学医療センター(UPMC)では、従業員のエンゲージメントを把握するマイ・ボイス・サーベイに取り組んでいますが、そのフォローアップとして、アカウンタビリティ・サーベイという簡単なアンケートを行っているとのことでした。アカウンタビリティ・サーベイでは、マイ・ボイス・サーベイの結果に対して、従業員一人ひとりが発言する機会があったか、マネジャーやリーダーから何らかのアクションは取られたか、といったことを尋ねながら、実際にサーベイの結果が職場で効果的に生かされているかをフォローしているとのことでした。
こうした形で、働く一人ひとりと組織との間の双方向のコミュニケーションを活性化させていくことが、組織への信頼、そしてエンゲージメントの向上に影響していくものと思われます。一方で、こちらは私見になりますが、こうした働きかけは、マネジャーや従業員がしっかりと行動を起こしたかを管理されるチェックリストのように取り組んでしまうと、逆効果になることも考えられます。押し付けのケアではなく、働く人々の主体性を尊重するようなケアのあり方が問われるとも感じました。
4.エンプロイー・エクスペリエンスやカルチャーへのフォーカス
近年のエンゲージメントの議論の中では、エンプロイー・エクスペリエンスと近い概念でエンゲージメントが取り扱われており(or捉えられており)、働く人々の経験価値を高めていくことこそが、エンゲージメントの向上につながるという見解がなされています。こうした視点は、COVID-19影響下においても当たり前のように共有されていました。現在の困難も、エンゲージメントを高める経験や機会としてリフレームしていくことが可能かもしれません。
本カンファレンスでも、エンプロイー・エクスペリエンスをメインテーマにしたセッションも数多く見受けられました。たとえば、「Cultivating a Human-Centered Employee Experience(人間を中心に置いたエンプロイー・エクスペリエンスを醸成する)」という講演を行った、カルチャー・アンプ社のロバート・メロイ(Robert Melloy)博士は、エンプロイー・エクスペリエンスを、「従業員が、組織における旅路(ジャーニー)を歩む中で出会い、観察し、感じるすべてを含むもの」と定義しています。
そして、採用からオンボーディング、パフォーマンス・フィードバック、キャリア構築、成長、退社、退社後のつながりまで、一人ひとりが歩むジャーニーの中で、いかに”Moment that Matter(大切な瞬間)”を連続的につくり出していくかがエンプロイー・エクスペリエンスを育んでいく上でのキーであると述べます。
その際、よく引き合いに出されるカスタマー・エクスペリエンスやカスタマー・ジャーニーとの違いとして、メロイ博士は、「エンプロイー・エクスペリエンスは、継続する人間関係やカルチャーに基づいて構築される」という点を挙げます。「大切な瞬間」を構築していく上でも、その企業や組織が大切にしているカルチャーやバリューと整合性を図りながら、上司とのチェックインや入社初日などのエクスペリエンスをデザインすることの必要性が述べられていました。
所感になりますが、特にCOVID-19の影響を受けて、リモートワークが仕事の中心になるなど、働く人々の経験も大きく変化していきます。そうした中で、それぞれの経験を自社が実現したいカルチャーに照らし合わせて、いかにデザインしていくかが、今後重要となってくるように思われます。「自社が大切にしているカルチャーにつながるようなリモートワークの体験とはどのようなものか?」といった問いを投げかけることが大切かもしれません。
また、豊かなエンプロイー・エクスペリエンスやカルチャーを生み出していく上でのリーダーやマネジャーの役割の重要性について数多く言及されていたのも、今回のカンファレンスでの特徴でした。「Curating the Employee Experience with a Culture that Cares(ケアのカルチャーを伴うエンプロイー・エクスペリエンスを収集する)」というタイトルで講演を行ったライムエイド社のリートゥ・サンドゥ(Reetu Sandhu)博士は、組織開発の権威であるD.D. Warrick氏の言葉を引用し、「カルチャーは傷つきやすいアセットであり、リーダーがその大切さに関心を向けなかったり、カルチャーを変えてしまうような実践、態度、驚異、出来事から目を背けると、損なわれてしまう」と強調します。
その他にも、UPMCの事例が紹介された「Manager’s Action Planning Guidebook: A Toolbox Full of Support(マネジャーのアクション・プランニング・ガイドブック:サポートが詰まったツールボックス)」や、金融系のソフトウェアを開発するFIS社による「Creating a culture of engaging managers(マネジャーがエンゲージするカルチャーを創る)」など、エンゲージメントの向上に向けて、マネジャーがキーとなる役割を担い、具体的なアクションをいかに促進していくかを扱ったセッションなどが見受けられました。
5.終わりに:パーパスを通してつながる
以上、ここまでカンファレンスでの議論やポイントを紹介してきました。この困難な時代において、各企業が様々な試行錯誤や探求を行っている様が見受けられました。全体を通して様々な議論がありましたが、1つポイントとなるものに、カンファレンスのメインテーマにも含まれていた「パーパス(目的)」があるように思います。
「What Now: Reimagining the Future through Purpose-Driven Inspiration(今度は何:パーパス駆動のインスピレーションを通して未来を再想像する)」のセッションにおいて、講演を行ったアリソン・ホルザー(Allison Holzer)氏は、この時代を航海する上で、私たちが人々を触発するような新しいパーパスを再定義していくことが必要であると説きます。そして、私たちはそのパーパスの下でこそ、恐れや不安、未知の世界と向き合い、ニューノーマルではなく、ベター・ノーマル(より良い日常)を創造できると述べました。
COVID-19の影響を受け、人と人、人と組織の間に距離や分断が生まれ、疎な関係になりやすい現状があります。そうした中だからこそ、一人ひとりの想いと、組織のパーパス、バリューの間にどう共感を生み出し、つながりをつくっていくことができるのか、どんな経験を構築していくことが必要なのか、そのために私たちはどんなケアができるのか、どう役割をシフトしていけるのかといった点を今後も探求していきたいと思います。