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ASTD2009 国際会議に参加して

本年も5月31日~6月3日に米国のワシントンD.C.で、 ASTD2009 International Conference & EXPO が開催された。

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コンファレンスが開催されたワシントンD.C.は、米国の首都ということもあり、街全体に文化的な雰囲気が漂っていた。コンファレンス会場の近くには、スミソニアン博物館に代表される多くの博物館と美術館が軒を連ね、その周囲を新しいビルと歴史的な建物が混在しながら取り囲んでいる。

毎年各国のデリゲーションリーダーと共に、半年間かけて参加者の登録準備を進めるニコル氏が「ワシントン、良いでしょう!大好きなのよ」と語っていたのも頷けた。

ヒューマンバリューでは、例年通りツアーを組み参加したが、新型インフルエンザの影響を受けて、やや小さめの17人のグループで会議に臨んだ。
セッション参加後、ツアーの皆さんと情報交換会を行った。そこでは、セッションの内容や感想などを共有しながらダイアログが行われる。最終日を迎える頃には、コンファレンス全体を流れる文脈やトレンドをつかむことができるのだが、今年はその傾向や特徴を捉えづらく感じる人も多かったようだ。

そこで、私が特に興味深いと感じたセッションを中心に紹介することで、ASTD2009の雰囲気や話し合いの様子を感じていただけたらと思う。

全容

本年の ASTD には、世界77カ国から8,000人が参加した。そのうち、海外からの参加者は1,270人を占め、参加者の多い国は、韓国が151人、カナダ124人、クウェート104人、日本99人、デンマーク63人などである。昨年度の日本からの参加者は264人、韓国からは442人であったので、ともに大幅な減少である。コンファレンス会場で聞くところによると、どうやら主にアジアからの参加者が新型インフルエンザの影響を受け減少したようだ。しかしながら、会場でのインフルエンザに対する反応は、なんと参加者の中にマスクをしている人を1人も見なかったことに象徴されるように、日本のそれとは異なり、そのような事実があったことさえも忘れさせる雰囲気だった。

全体としての参加人数を昨年度と比べると、2008年は1万人であったので、2,000人の減少である。リーマンショックの影響もあるだろうか、参加者の雰囲気もお祭り騒ぎであった数年前に比べるとずいぶんと落ち着いた感じで、参加者同士の交流も必要最低限といったシビアな表情が伺われた。

筆者は、デリゲーションリーダーを務めて今年で5年目になる。インターナショナル・ラウンジと呼ばれる交流の場でASTDのスタッフや毎年おなじみの顔ぶれに会えることを楽しみにしている。例年、大きく拡大化された世界地図に、参加者が自国に名刺を貼るのであるが、そこから知り合いを見つけ出したり、廊下で出会ったりすることが楽しみだった。しかし今年は、会いたいと思っていた人の半分にも会えなかった。

ASTD2009は会期中の5日間で合計364本のセッションが開かれた。構成は、会期前のプレコンファレンスで1日から2日間のサーティフィケートプログラムが16コース、12本のワークショップが開催された。本会議では、基調講演が3本、約90分のコンカレント・セッションが延べ数で285本開催された。

セッションの合間を縫って行われるASTD支部の理事やデリゲーションのリーダーを集めたレセプションでは、2007年度発足したASTDインターナショナルジャパンの功績が称えられた。2008年に第2回目として開催された、日本経済新聞社主催のASTDシンポジウムの動員数もその理由の1つであったようだ。異なる国の理事メンバーから「ありがとう」と言われるのも少し照れくさい感じがするが、世界的なネットワークが広がり、皆がつながり合うことを我がことのように喜ぶ雰囲気があるのだろうと思った。

詳細

コンカレント・セッションから

今年は、いわゆる「レジェンド・セッション」と呼ばれる人材・組織開発の分野における大御所たちが行うセッションに人があまり集まらないという不思議な現象が起きていた。その中でも参加者が比較的多かったセッションを中心に紹介したい。

『Hip & Sage: Staying Smart, Cool and Competitive in the Workplace』の著書であるリサ・ヘインバーグ氏がセッションを行った。セッションのタイトルは、「Hip and Sage–Helping Older Workers Connect With Younger Workers(物知りと賢人……年配の雇用者と若い雇用者を結びつけることを助ける)」であった。タイトルにあるような、いかにベテランと若者が助け合って仕事をするかということに焦点を当てているところは、特段新しい印象がないが、スピーカーがそのコンセプトを思いついたときの話が面白かった。

それは、ある音楽番組で非常に有名な、誰もが知っているベテラン歌手が、若い歌手に向かって、「君とコラボレーションしたい、学ぶところがたくさんあって教えて欲しい」と言ったことからだったそうだ。このようにベテランが「あなたから学ぶことがある」というスタンスで若者と関わったら、どんなに仕事が素晴らしくなるだろうと考え、このコンセプトが生まれたという。「Hip」とは、コミュニケーションをしたり、インスパイアしたりして、どのように若い人とつながるかといった技術であり、「Sage」とは1人ひとりの個性と言い換えることのできる自然な強みや特性である。

「お互いがどのように助け合えるか」という双方向の着眼点ではなく、「若い人とどのように関わるか」というベテランからの関わり合い方についての秘訣とそのコンセプトが紹介されていた。「教えてあげる」、「導いてあげる」といった考えではなく、「あなたから学びたい」といった姿勢での視点は興味深かった。

ASTDのバーチャル・コンファレンス

ASTDも初の試みとして「バーチャル・コンファレンス」と呼ばれるサービスを今年から導入した。
日本に居ながらにして同時にセッションを見ることができ、スクリーンとスピーカーの様子が半面ずつ映り、下部にはチャットなどを使って質問などができるようになっていた。実際のコンファレンスに参加したメンバーにも、後日IDが与えられ、1カ月間アーカイブを見られるサービスを提供している。

インフルエンザの影響や、仕事の状況に左右されることなく、自分の好きな時間に参加できるのは、利便性が良く、そして何といっても今年のような場合はタイムリーの一言に尽きるだろう。バーチャル・コンファレンスに参加したメンバーから聞くと、使い勝手も含め良い感触のようだった。

基調講演:ナショナルジオグラフィックスの写真家 アニー・グリフィス・ベルト

3本行われた基調講演の1人目はASTDのプレジデントを務めるトニー・ビンハム氏、2人目は『ブルーオーシャン戦略』の著者であるレネ・モボルニュ氏、そして3人目がアニー・グリフィス・ベルト氏である。

例年ASTDは、3本目の基調講演をクロージング・セッションとしているが、ASTD2009はナショナルジオグラフィックスの写真家であるアニー・グリフィス・ベルト氏の講演にて幕を閉じた。ビジネスの実践家ではない講演者が最後を締めくくること自体に珍しさを感じたこともあり、本セッションに参加することを楽しみにしていた。

アニー氏は、コミュニティが薄れてきていることに対する懸念を語り、ぜひ意識して集まることが必要だという警鐘から講演をスタートさせた。セッションでは、数多くの写真を紹介しながら、これまで経験した人々との関わりについてのエピソードが紹介された。
例えば、ポラロイド写真を見せたことによって、言葉の壁を越えて親しくなったり、いっしょに時間を過ごすことによって生活にとけ込んだ写真を撮ることを許されたり、またはじっと時を待つことによって出会う素晴らしい体験などについてである。全部で100枚程度の写真を紹介したのではないだろうか。その中で同氏はいくつかの大切なメッセージを語ったように思う。

そのいくつかを紹介すると、「ベストなことは、急がずにその人と時間を過ごすことによって実現する」、「裏庭にある美しさを忘れない」、「皆に認められて権利を得ること」、「今まで思ってもみなかったことが待っていると起きる」といった内容がある。

アニー氏の純粋な好奇心と、起きることを信じてアンテナを高く張り続けるという姿勢、そしてそれを素直に喜び、表現するという姿に共感を覚えた。
アニー氏の講演を振り返る中で、思い出されたのが2001年に基調講演を行った『Dream Maker』の著者、ミシェル・ハント氏である。黒人として差別を受けながら学校に通っていた彼女は、毎朝「あなたは本当に素晴らしい」と鏡の前で言ってくれる両親によって育てられ、「誰もがドリームメーカーになれる」といった話をしてくれた。内容的にはシンプルであったと思うが、時として単純なことを信じ切ることこそが難しい時もある。

同じようなシンプルなメッセージを、アニー氏からも感じた。「写真を撮ることは、与えることだ」と語る彼女にとって、自然の一部である自身の才能は、いわば誰かに与えるためのギフトであり、それによって1人ひとりや世界に対して貢献するということは、当たり前であると考えているのではないだろうか。

人材開発のコンファレンスの最後に、アニー氏を招いたその真意というところは推察にしか及ばない。しかし、役割や名前を与えることで、ある人を取り巻く世界をいくつかの領域にカテゴライズしても、同じ地球の上に住む自然の一部である「人」である。
分断された世界の中に、ある才能を与えられた1人としてできる貢献を考える、大きな生き方というものを感じることができた。

今年はやや参加者が少なく毎年顔を会わせていた方々に会えなかったが、来年のシカゴの会議ではまた再会できることを願っている。来年もASTDを介して出会うであろう、たくさんの気づきや学びを楽しみにしている。


「企業と人材(産労総合研究所)」2009年8月5日号掲載

私たちは人・組織・社会によりそいながらより良い社会を実現するための研究活動、人や企業文化の変革支援を行っています。

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