ラーニング・オーガニゼーション最新事例 1 :NASA
今回システムシンキングが海外の先進企業や行政体などでどのように実際に活用されているのかを調査し、今後日本の企業・行政体においてどのような導入の仕方をすると成果があがるのかを確認したいと考えた。2004年9月にシンガポール警察、National Community Leadership Institute、NASAなどを訪問し、システムシンキングをどのように活用しているのかをつぶさに意見交換することができた。本稿では、そのうち NASAでの事例を紹介することで、組織変革を妨げるメンタルモデルをシステムシンキングによっていかに変えられるかを明らかにしたい。
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ラーニング・オーガニゼーション最新事例1:NASA
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メンタルモデルを変えるシステムシンキングの活用例
NASAの事業部の1つ、ESE(Earth Science Enterprise)では、変革の際に生じる防衛的、他責的反応といったメンタルモデルに陥らせないためにシステムシンキングを活用した。ESEではかねてから、プログラムや予算のアサインメントを行うHQ(ヘッドクォーター)と、各センターにおいてプログラムのミッションを遂行するプログラムマネージャーとの関係性に問題があった。例えば、各センターのプログラムマネージャーたちは、ミッションの遂行過程で様々な問題が発生することによって、予算内でプログラムのマネジメントを行うことができなくなっても、自分たちに責任があると考えずにHQに対して「もっと予算が必要だ。もっと人員が必要だ。」との要望を伝えるだけであった。そういったことから各センターとHQはお互いに信頼しあうことができなくなっていた。
そうした状況を打破する一助として、ESEでは2002年にセンターのプログラムマネージャーやHQのエグゼクティブを招いて2日間のワークショップを行い、組織のあるべき姿を探求することにした。ワークショップの中では、各自が持っているメンタルモデル(行動に影響を与える思い込みや仮説)を、ダイアログを通して明らかにしていき、それをシステムシンキングの手法を用いて、1つひとつ系としてつなぎ、全体の構造をシステム図に表していった(下図参照)。全体システムを描くプロセスの中で、参加者たちは、自分たちが取っている行動は、それよりも深いレベルの構造によって生み出されているということに気づいた。参加者は、自分たちの行動が他者から「ジャッジ」される恐怖からの防衛行動が背景にあることを発見することで、その恐怖から解放されたのである。その結果、自分を守ろうとする防衛的な発言や、お互いを非難しあう他責的な発言はもう見られなくなっていた。その後は「どうしたらこのシステムを変えることができるだろうか?」というような建設的な話合いが行われるようになり、こういった話し合いは、以後も継続されている。
「学習する組織」を構築するためには、メンバーがジャッジされる恐怖から解放され、オープンにコミュニケーションを取れるような環境を作る必要がある。そのひとつの取り組み方法として、理論的・理性的アプローチを好む組織では、NASAのESEの事例のように、システムシンキングを活用して、問題を構造的に捉えることで、個人の責任追及に陥ることを防ぐのも効果的だと感じられた。
「人材教育」(株式会社JMAM人材教育)2005年1月号掲載 「ラーニング・オーガニゼーションの米国最新事情」より抜粋