ラーニング・オーガニゼーション最新事例 2 :SPS(Safety Performance Solutions)
本稿では、2004年9月に米国にて行ったSPSのメンバーとのディスカッションの内容を基に、どのようにシステムシンキング的な考え方が、ヒューマンファクターという分野で高い成果を挙げているかを紹介したい。
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ラーニング・オーガニゼーション最新事例2:SPS(Safety Performance Solutions)
システムシンキングは人為ミス防止にも効果をあげる。
ヒューマンファクターに起因する問題は医療・原子力・航空といった特定分野だけでなく、ごく一般的な企業や行政体の日常の業務処理プロセスの中でも機密漏洩やシステム作成のといった人為的ミスが話題になっている。そういった人為ミスへの対処方法のあり方では限界を感じるところから、新たな方法を模索する過程で、システムシンキングの考え方を応用したコンサルテーションによって高い成果を挙げているSPS(Safety Performance Solutions)という米国のコンサルティンググループに辿り着いた。
ラーニング・オーガニゼーション最新事例2:SPS(Safety Performance Solutions)
SPSは、ヒューマンファクターの分野での米国の権威E.Scott.Geller氏を中心とした、工場における安全確立をサポートするコンサルティンググループである。Geller氏は同時に、SoLのメンバーでもあり、システムシンキングに関する論文を発表している。SPSのコンサルティング手法は、 Geller氏の考え方をベースに構成されている。このSPSのコンサルティング手法は、システムシンキングの考え方と、心理学の要素を組み合わせたユニークなものになっている。
過去の安全確立のための典型的なアプローチは、過去に発生した事故の要因を分析し、マシンに問題があったのか、人為的な部分に問題があったのかを区分、その情報を基にしてマシンの改善や注意を促すポスターを作成するというものであった。
しかしSPSでは、こういった問題の原因の多くは従業員のオーナーシップ、労働環境などの要因、あるいは個人的な資質など、より多岐に渡る要素が複雑に絡み合って発生していると指摘する。多くの安全確立への取組みが失敗してきたのは、表面的なマシンの扱いやすさや作業手順などにばかり注目し、それらの作業ミスにこれらの要因が関連していることを無視した結果だというのである。
SPSのコンサルティングは、まずこれらの複雑に絡まりあう要素をクライアントと共同で洗い出すというプロセスからスタートする。この部分こそが、 Geller氏がシステムシンキングの考え方である複雑に作用しあう要素を全体の構成要素として捉えるという姿勢が反映されている。これらの要素を、クライアントのマネジメントチームと共同で洗い出してゆくことにより、クライアント側には徐々に自分達で問題点を発見し、主体的に安全確立に取り組む力がついてゆくというのが、SPSが成果を挙げているアプローチである。
「学習する組織」のコンセプトは、企業活動のあらゆる場面で実践することができる。その1つの例として、SPSによるシステムシンキングをベースとした安全活動及びヒューマンファクターという領域での取組みは、これまで問題分析などの工学的アプローチが中心だった分野に、「学習する組織」のコンセプトが成果を挙げた点で、今後「学習する組織」の考え方が、多くの場面や分野で応用されてゆくのではないかという可能性を感じさせる内容だった。
「人材教育」(株式会社JMAM人材教育)2005年1月号掲載 「ラーニング・オーガニゼーションの米国最新事情」より抜粋