ラーニング・オーガニゼーション最新事例4:フィリップ・モリスUSA
企業を取り巻く環境が複雑性を増している今日、戦略を立案し推進する際に単純な問題解決型アプローチを用いるだけでは十分とはいえなくなっている。そこで求められる重要な取り組みの1つは、一見無関係に見える事象の影響関係を捉え、全体観をもって戦略の方向性を決定していくことである。さらにもう1つは、その内容を広く組織内にコミュニケーションするということである。最近の欧米企業の取り組みでは、こういった複雑な問題へのアプローチが研究されている。その一例として、本稿では、2004年9月に調査を行ったフィリップモリスUSAの戦略決定ミーティングを紹介したい。
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ラーニング・オーガニゼーション最新事例4:フィリップ・モリスUSA
ラーニング・オーガニゼーション最新事例4:フィリップ・モリスUSA ラーニング・オーガニゼーションのコンセプトを戦略会議に活用する
フィリップ・モリスUSA(バージニア州リッチモンド)では、HRディレクター、ロブ・ドライバー氏と同マネージャーのリンダ・メイ氏にインタビューを行った。同社では、1年間の方針を決める際に、CEOや部門のリーダーたちが出席する「ゲーム・プラン」と呼ぶ戦略ミーティングを実施している。このミーティングの進め方が大変興味深い。まず最初の段階で、広くビジネス環境全体に何が起こっているか、因果関係を俯瞰することを行う。具体的には各部門のリーダーがそれぞれ詳細な環境分析を発表する。その内容は、あらかじめマーケティングやセールス、製造など各部門内で幅広く社員を巻き込んで議論されたものである。その際、発表ごとにデータやフリップチャートを会議室の壁に次々と貼っていく。この後、全員ですべての情報をあらためて俯瞰するのである。こうすることによって、顧客や市場の動向、環境やテクノロジーの変化、政府施策、ビジネスの業績などといった時間や場所などが離れているため一見別々に見える変化や事象相互の影響関係と仮説を探ることを行っている。
ミーティングの次の段階は、問いかけを中心とした生成的アプローチを行っている。ビジョンから俯瞰した場合には「最も重要なクエスチョンは何か」と質問し、そこから現在のシステムやしくみをどう変える必要があるかを探っていくのである。他社の一般的な会議の場合には、プレゼンテーション後「原因・結果を分析し、現状のアクションを決定する」というプロセスに入る場合が多い。しかし、フィリップ・モリスUSAのアプローチはあえてそれをしないことで、短期的・近視眼的な視野に陥る危険を避け、広く環境変化や未来を見据えて長期・短期の戦略の方向性を決定していくのである。
そして最後の段階では、会議の内容を組織内にシェアしている。周知・共有化する対象は、会議の決定事項を箇条書きにまとめたものだけではない。大変おもしろいのは、話し合いのプロセスも含めた豊かなコンテンツを、イラストなどのグラフィックによって記録し、それを併せたものを議事録として社内ウェブに掲載することで、社員の関心を喚起しているところである。
この事例では、ラーニングオーガニゼーションのコンセプトを丁寧に活用して効果を上げていることがうかがえた。日本でも今後の会議運営には、こういった影響関係を捉え全体を俯瞰するプロセスの組み入れや、会議の内容をグラフィックを使ってシェアすることなどの活用が望まれると思う。
「人材教育」(株式会社JMAM人材教育)2005年1月号掲載「ラーニング・オーガニゼーションの米国最新事情」より抜粋