シリーズ:エンゲージメントストーリー第1話:「有期雇用社員の話」
いま、エンゲージメントが注目されています。
エンゲージメントとは何かをお考えいただくために、実際に筆者が体験した4つのストーリーを紹介します。
この4つのストーリーが、働くこと・働く場・働く仲間といったものについての考えを整理する上でお役に立てばと思います。
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シリーズ:エンゲージメントストーリー第1話:「有期雇用社員の話」
第1話:有期雇用社員の話
なんとしても、目標を達成して、この会社を退職する
ある企業で実施したワークショップでのオープニングでの出来事です。
参加していた20名ぐらいのラインマネジャーたちが、輪になって座っていました。
順番を決めずに、話したい人から「いまの正直な気持ち、気になっていること」を話し、全員が終わったら、ワークショップが始まります。
3人目の方が、次のようなことを話し始めました。
それを聞いた私は、強い感銘を受けました。
じゃあ、私・・・。D営業所リーダーの田中(仮名)です。おはようございます。みなさん知ってのとおり、僕は3年契約の有期雇用社員で、今年は3年目です。ですから、あと1年で、僕はこの会社を卒業です。
つい先日、僕の営業所の年度目標が決まったんですけど、ふつうで考えたら絶対に届かないような高い目標です。昨年もそうでした。でも、昨年度は頑張って達成しました。そんな状況で、さらに高い目標なんです。でも、僕は、何がなんでも達成して、そしてこの会社を卒業して、退職したいんです。
もし、年度の終わりにその目標を達成していたら、きっと僕は、いまの僕と違う僕になれていると思います。だって、いまの僕のままだったら、絶対に達成できないからです。
来年、僕は、実家がやっている材木商の会社に入るつもりです。うちの実家の会社、すごくやばい状況なんです。僕がこの組織に入ってからの2年間で、僕はとても成長できました。でも、もっと成長して実家の会社に戻りたいんです。
営業所の今年の目標が達成できたら、僕はすごく成長できているはずです。だから、なんとしても、どんなことがあっても、僕は最高に成長し、営業所の目標を仲間と一緒に達成して、この会社を卒業、退職したいんです・・・
彼は、仕事を、働く場を、どう捉えているのだろう・・・
この組織は、正社員だけでなく、3年契約の有期雇用社員がたくさんいます。全体の8割以上が有期雇用社員です。
有期雇用社員は、セールスパーソンだけでなく、営業拠点のリーダーもいます。この組織では、正社員と有期雇用社員という雇用形態によって職務が固定化されているのではなく、実力によって職務が決定されています。彼のようなスタンスで仕事をしている仲間がたくさんいる組織です。
3年で辞めることがあらかじめ決まっていることは、もちろん、本人たちも承知しています。その3年間で、仕事を、そして働く場を、自分なりに意味づけて、めいっぱい仕事をしている人々がたくさんいるのが、この組織です。
一般的な人々は、「絶対に届かないような高い目標」を迫られたら、「押しつけられた・・・、無理だよ・・・、困った・・・」という捉え方をするでしょう。でも、オープニングの彼は、その目標に対して、「もし、達成できたら、自分はすごく成長できるだろう・・・」という捉え方をしていました。そんな、仕事と働く場を自分なりに意味づけて捉える人々がたくさん存在している、そういう組織は、いったい何を大切にしているのでしょうか・・・。