Ocapiの回答データ解析から見えてきた、組織づくりのポイント
この度ヒューマンバリューでは、株式会社Lightblue Technologyの方々と共同で、「Ocapi」の回答データの解析を行いました。解析結果から、組織が変化するプロセスや、イノベーションやブレークスルーを生み出す組織づくりに関するポイントが見出されましたので共有します。
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Ocapiの概要
解析結果を共有するに前に、まずはOcapi の概要をご紹介します。
Ocapiとは
Ocapi開発の経緯と明らかになったこと
ヒューマンバリューでは、Ocapi の開発を2012年秋ごろから始めました。当時、ヒューマンバリューでは、それまで約20年間にわたって取り組んできた組織変革のプロジェクトを通して、実際に組織に起きた変化に関する生の声を数万件のデータとして保持していました。
この数万件のデータをもとに質的調査、およびその後の定量的な検証を行った結果、主に下記のことが明らかになりました。
組織に起こった具体的な変化を記述し、分類のコード(ディメンション)をつけました。さらに、そのディメンションを整理すると、41のプロパティに分類することができました(図1)。
次に、実際にチームや組織に変化が起きる順番で41のプロパティ(指標)を並べてみると、どの組織でも、変化するプロセスはほぼ同じであることと、そのプロセスは、ダニエル・キム氏(MIT組織学習センター共同創始者)が提唱する「成功の循環モデル」(図2)に当てはまることがわかりました。
関係の質 :
職場での会話量の多さ、お互いに協力し合う度合いなど、メンバーの関係や関わり合うときの雰囲気
思考の質 :
メンバーが一緒に考える度合い、広い視点で自分たちのビジョンを考え続けることなど、物事の捉え方や思考の仕方
行動の質 :
取り掛かりの速さ、自然にできたチームで自主的な実践が行われている度合いなど、行動の取り方や習慣となっていること
さらに、たとえば「関係の質」と一言で言っても、ヒューマンバリューが明らかにしたプロパティを当てはめると、関係の質が深まる変化には、段階(レベル)があることがわかりました(思考の質、行動の質も同様のことがわかりました)。また、こうした縦方向の深化だけではなく、たとえば「関係の質レベル2」は、「思考の質レベル1」にも影響を及ぼすといった、横方向への連鎖も同時に行われながら、組織は変化していくということが明らかになりました(図3)。
今回行った解析の背景と本レポートの目的
2013年秋のリリース以降、ヒューマンバリューでは、蓄積された回答データをもとに随時解析を実施し、組織づくりに関する様々なヒントやレバレッジを探ってきました。
今回は、株式会社Lightblue Technologyの方々と共同で、解析を実施しました(期間:2018年11月~2019年1月)。株式会社Lightblue Technologyは、東京大学大学院で、AIや機械学習を研究する学生が立ち上げた、機械学習を活用したサービス開発を専門とする企業です。今回、外部の専門家とともに解析を進められたことで、より専門的な知見を取り入れた解析や議論を行うことができました。特に複数の変数間の因果関係を検証するパス解析からは、組織が変化する「プロセス」に、これまで以上に着目することができ、興味深い結果が見出されました。
本レポートでは、今回の解析から見えてきた、組織づくりを行う上でのポイントや、イノベーションを生み出す組織づくりのヒントを共有します。
組織が変化するプロセスの全体傾向と組織づくりのポイント
「縦方向の深化」と「横方向の連鎖」のプロセスで組織は変化する
まず、私たちは「組織は、縦方向の深まりと横方向の連鎖を繰り返しながら変化する」という、開発時に作成したOcapiのモデルに関して再検証を行いました。検証の結果、今回の回答データの解析からも、本モデルのような特徴をもって組織が変化する傾向があることが、あらためて明らかになりました。
検証の方法は、Ocapiが提唱している変化のプロセスに沿ってパス図を描き、パス係数を算出しました(図4)。図からわかるように、どのパスにおいても因果関係が見出されたことで、これまでのモデルが組織の変化のプロセスとしてあらためて示唆されたと考えています。
組織の変化におけるボトルネックの存在と、それを超えるためのポイント
図4からは、組織を良くしていくためのポイントとして考えられそうな事柄がいくつか見えてきました。
1つ目は、比較的レベルの浅い段階で、組織の変化が進みづらくなる「ボトルネック」があり、ここを超えることが組織を良くしていくためのポイントになりそうだということです。
具体的には「行動の質レベル1(笑顔、フレンドリー)」→関係の質レベル4(背景理解、率直さ、横断)」の横連鎖、つまり、「職場が明るく活気があり、お互いに感謝し、物事の良い側面に着目しながら、まず行動を起こしてみようと思える」といった状態から、「自分の想いや考えを素直に共有し、お互いの状況を理解し合いながら、違う仕事や他部署の人ともコミュニケーションする」といった状態へは変化が進みづらい傾向があると考えられ、変化するには、何らかの難しさやハードルがある部分といえるのかもしれません。
このことは、図4において、「行動の質レベル1(笑顔、フレンドリー)」→「関係の質レベル4(背景理解、率直さ、横断)」の斜め方向の横連鎖のパス係数が、周囲より比較的小さくなっていることから考えられます。
なお、解析結果からは、こうしたボトルネックを超えて、「関係の質レベル4(背景理解、率直さ、横断)」の状態を高めるためのヒントを見出すことができました。それは、「関係の質レベル3(ありがとう、活気、尊重)」に着目し、この状態を高めていくということです。
このことは、「関係の質レベル4(背景理解、率直さ、横断)」に向かうパス係数に着目すると、確かに「行動の質レベル1」からの斜めの横連鎖は因果関係が低いですが、「関係の質レベル3(ありがとう、活気、尊重)」からの縦方向のパス係数は、比較的高い数値が出ていることから考えられます。
組織に、「関係の質レベル3(ありがとう、活気、尊重)」、具体的には「お互いに自然に感謝し合い、役職や経験にかかわらず、お互いが一人の人間として関わり合う」といった関係性を皆で育んでいくことが、ボトルネックを超え、組織を良くしていく際の1つのヒントなのかもしれません。
レベルの深浅で異なる、組織づくりのポイント
図4から見えてくる、組織を良くしていくためのポイントの2つ目としては、レベルの浅い段階と深い段階とでは、組織の変化のプロセスが異なり、組織を良くするために着目したいポイントが異なるということです。
具体的には、比較的レベルの浅い段階では、成功の循環モデルに基づき、「関係の質」を高めるアクションを取ることが大切で、それにより「関係の質」がさらに深まるとともに、「思考の質」や「行動の質」にまで自然と変化が波及しやすい傾向があるということが考えられます。また、深いレベル、特に「関係の質レベル4」以降も高まっているような組織が、さらに組織を変化させていくためには、「関係の質」だけではなく、「思考の質」や「行動の質」を高めるようなアクションやサポートを行うことも大切になってくることが考えられます。
これらのことは、任意のプロパティに対する、縦方向と横方向のパス係数の比較から導き出しました。レベルの浅い段階に着目すると、総じて縦方向、横方向ともに、比較的大きな因果関係があることが見て取れます。また、深いレベルに着目すると、総じて縦方向のパス係数がかなり大きくなり、反対に横方向のパス係数が小さくなっていることが見て取れます。具体的には、縦方向では「思考の質レベル3→4→5」や、「行動の質レベル3→4→5」の因果関係が顕著に強くなり、横方向では、「思考の質レベル3」や「思考の質レベル4」は、「関係の質」からの因果関係が弱くなっています。
こうした特徴からは、レベルの浅い段階と深い段階では、組織が変化していくプロセスに違いがあるということ、そして、組織を良くするために着目したいポイントが異なってくるということがいえそうです。
今回の解析では、組織を俯瞰して捉えるために「レベル」という塊に着目していますが、それぞれのチームや組織は、個々の状況に応じ、一つひとつの「プロパティ」等にあるような細かな要素が複雑に影響し合って変化していくと考えられます。
実際に一つひとつのチームや組織に関わっていく際には、一般的な解析結果から言えることを基準として外側から働きかけるのではなく、自分たちのありたい状態や、体験から感じていることなどそれぞれの観点を率直に共有し合う中から、自分たちの組織の数字が示す意味や、現在の状態に対する価値を見出し、次へのアクションを生み出すことが大切です。
イノベーションやブレークスルーを生み出す組織づくりのヒント
「結果の質」向上にインパクトを与えるプロパティ
検証の結果、まず、組織の成果(結果の質)を高めるためには、先述した変化のボトルネックを超え、さらに深いレベルへと組織を育んでいくことが大切になりそうだということが見出されました。また、特に「行動の質レベル3(新たな習慣、主体的行動、誠心誠意)」は、組織の成果に影響を及ぼすキーとなり得るプロパティとして浮かび上がってきました。
検証の方法として、Ocapi で捉えている、組織で生み出したい「成果(結果)の3つの指標」それぞれと、各プロパティ間でパス解析を実施し、成果(結果)の指標それぞれが、各プロパティからどの程度の影響を受けるのかを調査しました。なお、Ocapiが捉えている「成果(結果)の3つの指標」とは、「事業価値創造(イノベーションによって、成果が高まり続けていること)」「人的価値創造(組織で働く人々が成長し、より意味のある人生を送れるようになること)」「社会的価値創造(組織の活動を通して社会に役立つ価値を生み出すこと)」です。
検証の結果、「成果(結果)の指標」それぞれについて、パス係数が最も大きくなったプロパティ、つまり、それぞれの結果の質の指標に最も大きな影響を与えるプロパティは、以下のように算出されました。
「人的価値創造」に最も大きな影響を与えるプロパティ:行動の質レベル3
「社会的価値創造」に最も大きな影響を与えるプロパティ:思考の質レベル4、思考の質レベル5,行動の質レベル3
この結果から、結果の質を高めるためには、先述した変化のボトルネックを超えて組織を育むことが大切であるとともに、3つの成果の指標すべてに対して最も大きな影響を与える「行動の質レベル3(新たな習慣、主体的行動、誠心誠意)」を高めること、具体的には、「ありたい姿に向けて、自分ができることを見つけながらひたむきに取り組み、皆で新たな規範や習慣づくりに挑戦し続ける」といった状態になるまで組織を丁寧に育む姿勢や取り組みが、イノベーションやブレークスルーを生み出す組織づくりにおけるポイントの1つと考えられるのではないでしょうか。
変化のボトルネックを超える組織の特徴
今回の解析を通じ、「Ocapiを実施した組織や人を分類すると、どうなるのだろうか。たとえば成功の循環とは異なる状態(例:思考の質のみがとても高く、関係の質や行動の質はそうでもない人や組織)が塊として存在することはないのだろうか」といった問いが生まれてきました。
そこで、回答データの「組織(レポート単位でのデータ)」「人(回答者単位でのデータ)」のそれぞれで、クラスター分析(K-Means法)を実施した結果、成功の循環とは異なるような状態は見出されず、組織を数万人規模で俯瞰して捉えると、組織は成功の循環によって変化していくということが示唆されました。
このことは、クラスター分析により分類された組織や人の、いずれにおいても、関係・思考・行動の3つの質それぞれの平均点の高低順と、全体得点の平均点の高低順はすべて一致する、つまり平均点の高低によるグループに分かれたことから考えられます(表1、表2)。
もちろん個々の組織で見れば、その組織のカルチャーや業務内容等によって、レポート結果として様々な特徴が出てくることはよくあることですが、上記の結果からは、組織を数万人規模で俯瞰して捉えた際、関係の質、思考の質、行動の質は循環しながら次第に高まっていくことが示唆されるといえるのではないでしょうか。
これらの結果を受け、私たちは、「組織は、どんな個人で構成されているのか」を検証することにしました。個人を全体平均点の高い順に「個人Ⅰ、個人Ⅱ、個人Ⅲ、個人Ⅳ、個人Ⅴ」とラベル付けし、それぞれの個人が存在する比率に着目し、組織のクラスタリングを実施しました。その結果、組織は統計的に5つに分類されました。
この分類された組織も、おおむね似たような傾向が見えてきました。具体的には、分類された5つの組織は、関係・思考・行動の3つの質それぞれの平均点の高低順が一致しており、また、平均点の高い組織ほど、平均点の高い個人(個人Ⅰ~個人Ⅱ)の比率がおおむね高くなっていました。さらに、どの組織においても、個人Ⅰ~個人Ⅴの比率が双峰型ではなく単峰型となっており、たとえば分類された組織に、得点の高い個人Ⅰと、得点の低い個人Ⅴの両方がボリュームゾーンとなるようなことはありませんでした。
これらの結果から、私たちは、「分類された5タイプの組織について、それぞれの変化するプロセスには特徴や違いがあるのだろうか。(違いがあるとすれば、組織ごとの取り組みやサポートのポイントが見えてくるかもしれない)」といった問いを立てました。検証の結果として、組織のタイプによって、先述した「変化のボトルネック」の超えやすさに違いがあることが見出されるとともに、ヒューマンバリューとして、さらに研究を行っていきたいポイントが生まれてきました。
検証の方法として、まずは分類された5つの組織を平均点の高い順に、組織Ⅰ、組織Ⅱ、組織Ⅲ、組織Ⅳ、組織Ⅴとラベル付けしました。次に、組織Ⅰ~Ⅴそれぞれの変化のプロセスを見出すため、組織ごとに、プロパティ間のパス解析を実施しました。さらに、組織Ⅰ~組織Ⅴの変化のプロセスの違いを見るために、任意のプロパティ間での組織Ⅰ~Ⅴのそれぞれのパス係数において、順位相関係数を算出しました。その結果が図5です。この図では、相関係数が+1に近い場合は、「平均点の高い組織ほど、プロパティ間の変化の因果関係が強い(変化が進みやすい傾向がある)」ということを示しています。
図5で、赤い実線の丸で囲んだ箇所は、比較的相関係数が高い箇所、つまり、平均点の高い組織(組織Ⅰ)ほど、変化が進みやすい傾向がある箇所です。具体的には、「行動の質レベル1→関係の質レベル4」「関係の質レベル4→思考の質レベル3」「思考の質レベル3→思考の質レベル4」「思考の質レベル3→行動の質レベル2」という変化は、平均点の高い組織ほど進みやすい傾向があるということがわかりました(行動の質レベル3→思考の質レベル5は、0.9と高い値を示していますが、そもそものパス係数が小さいので検討の対象外とします)。
この箇所を、実際のOcapi のレポートにプロットすると図6のようになり、ここは、まさに先述した、組織の変化におけるボトルネックとなる「行動の質レベル1(笑顔、フレンドリー)→関係の質レベル4(背景理解、率直さ、横断)」の斜め方向の横連鎖の部分が含まれていました。
このことは、組織Ⅰの状態、すなわち関係・思考・行動の質の組織の平均点が総じて高く、個人の平均点の高い層(個人Ⅰ、Ⅱ)も比較的多くいる状態が、変化のボトルネックを超え、さらにその先まで変化が及んでいくためのポイントになるということを、解析結果からあらためて確認することができたといえるのではないでしょうか。
今後ヒューマンバリューでは、組織Ⅰのような状態の組織にヒアリング調査等を実施し、こうした組織のより具体的な特徴や、組織Ⅰのような状態になるためのポイント、さらには変化のボトルネックを超えていったポイント等について研究し、実践につなげていくと同時に、随時、皆様にも共有させていただきたいと考えています。