ビジネスにヒューマニティを取り戻す(ビジネスパラダイムの再考 vol.3)
アレックス・エドマンズ氏の『GROW THE PIE』を読まれた山口周氏に、書籍の感想とともに、これからのビジネスパラダイムを探究するインタビューを行いました。(山口周氏 Interview Series)
本記事は、そのVol. 3となります。
前回語られた、日本社会や日本企業の課題。
それらを乗り越えるために、ビジネスはどんなアプローチを取るべきか、どのように取り組むべきかについて、語っていただきます。
Index
- 新たな価値創造は、「問題をつくる」ことから
- 旅と多動が、人の創造性を引き出す
- 革新的な事業は、遊びから生まれる
聞き手:ヒューマンバリュー 霜山、菊地、内山
話し手:山口 周氏
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新たな価値創造は、「問題をつくる」ことから
― 少数派が意見していくことや、組織の当事者が自分たちで軌道修正したり、外的なものによるのではなく社会が内部から変わっていくために、一人ひとりができることは、何でしょうか?
組織の中でも、一部の経営者に限らず、一人ひとりに求められてくることもあるかなと思っています。
やっぱりね、「問題をつくる」っていうのに尽きると思うんですね。
問題は人間の想像力がつくり出す。いま現時点の社会が歴史の終着点で、ここでもう歴史が止まるっていうふうに思っていないんだとすると、100 年後に何が変わっているか。今を見てみた時に、じゃあ100年後も同じ状況なのかっていったら、おそらく違う。
じゃあ何が違うのか。そこで生み出していくものは、まさにゼロからパイが生まれるということですよね。
僕自身は、テクノロジーやら法律やらっていうよりは、やっぱりヒューマニティをベースにしないと、問題は考えられないんじゃないかって思っていて。
自己効力感とか、自分が感じた違和感が大事で。宮崎駿さんの映画タイトルにもなりましたけど、『君たちはどう生きるか』の中で、吉野源三郎がコペル君に「君自身が心を動かされたことを真に大事に抱えて生きなさい」っていう言葉を贈っていますが、あれだと思うんですよね。
「何かおかしいな」とか「違和感があるな」って思ったことが、パイを生み出すきっかけになる。
ガソリンエンジンの車が毎年何百万台も売られているということに、多くの人は「そんなもんだろう」と思ったけど、イーロン・マスクは「おかしいんじゃねえか」と思ったんですよね。
ブライアン・チェスキーは、「ホテルが満室で、値段もすごい高いのに泊まれない。何なの、これは」って思ったのが、あのAirbnbをつくったきっかけだったんです。一事が万事、みんなは「こんなもんだろう」と思っていたところに、「本当か? 何かおかしくないか」って思った人が作り出している。
Airbnbは、GROW THE PIEそのものですよね。完全にパイをゼロからつくったわけですから。そのきっかけになったのは、市場調査でも何でもなくて、やっぱり世界を見た時に感じた「何かおかしい」っていう違和感ですよね。
旅と多動が、人の創造性を引き出す
あと、もう1つ、パイを生み出す人の共通項があるなと思っていて。
ブライアン・チェスキーがAirbnbをつくったきっかけも、旅行中のことですよね。
元々国連の職員で、化粧品のTHE BODY SHOPをつくったアニータ・ロディックという人がいます。彼女は国連職員のときに、世界中を見て回ったら、その土地で取れる自然のもので化粧品をつくっているところがほとんどなのに、イギリスに帰ると化学品による化粧品ばかりで、「何かおかしくないか」と思って、自然派由来の化粧品をつくり始めました。
「多動する」ってことが共通項になっていて、世界の矛盾をまざまざと感じるためには、物理的なコンフォートゾーンから出て、旅をしないといけないんだろうなって思いますね。早稲田大の入山章栄先生も、「この人、すごいな」っていう経営者は、大体、累積移動距離が多いということを言っていて、人の創造性とか問題を生成する能力というのは、人生の累積移動距離に比例するんじゃないかっていう仮説を、この間言っていたんです。面白いですよね。
革新的な事業は、遊びから生まれる
― 日本企業の経営や人事を担う人たちにとっては、どんなマインドセットの変化が必要となるでしょうか?
パイを生み出したり、広げてきた人は、「成長させよう」と思って、事業をつくったり成長させているわけじゃないと思うんです。
Airbnbの創業者も、THE BODY SHOPの創業者も、個別に具体的に解決したい問題や、何か投げたい石があって投げているわけで。それは、アニータは売上高1000億円の企業をつくろうと思って、化粧品の事業をやり始めたわけじゃないし、ブライアン・チェスキーだって、世界最大の宿泊事業をやろうと思ったわけではない。
ビジネスになるかどうかわからない中で、ビジネスのサイド事業として、半ばフェスのような形で始まっているわけです。
例えばGoogleは、元々は大学の研究プロジェクトでしたし、Facebookはマークザッカーバーグ が遊びで作ったFacemashというゲームから始まってますよね。Appleは、元々ウォズニアックが自分の趣味で作っていたパソコンを、ジョブズが口八丁手八丁で地元のパソコンショップに売ったっていうのがきっかけです。Slackも元々ゲーム会社のサイドプロジェクトですよね。
ですから、「事業化しよう」「利益を出そう」「でかい市場のビジネスを生み出そう」と言って始まったものって1個もないと思うんです。逆にそれでは大きな事業をつくれないと僕は考えていてね。
まず遊びでやってみて、そのうちの1万個ぐらいの中から何個かビジネスになるものが出てくるっていうことだと思うんですよね。なので、グロース・マインドセットを持てば、実際にでかい市場のものができるのかというと、最初の入り口としては違う気がするんです。
もちろん、ある程度のところにいったら、ちゃんと成長しているところに集中してリソースを回していったり、だらだら続いてるものはカットするとか、こういうマインドセットは必要だと思います。
ただ、何かのイニシアチブを立ち上げる時というのは、「面白そう」とか「このままだと我慢がならない」とか、「ちょっと試してみたい」っていうことから始まるわけですよね。
Vol.4に続く
山口周氏 Interview Series ビジネスパラダイムの再考
Vol.1:経済とビジネスの前提から、企業のあり方を問い直す
Vol.3:ビジネスにヒューマニティを取り戻す
Vol.5:パイの拡大を導くリーダーの思考様式と在り方とは
編集後記:ビジネスパラダイムの革新に向けて、私たちにできること