自律分散型の文化を育む上での阻害要因に向き合う
いま多くの組織がアジャイルな振る舞いを組織に取り入れ、自律分散型組織を育んでいくことを求めるようになっています。ヒューマンバリューでは、2018年より計画統制型の組織構造の中にアジャイルな振る舞いを取り入れていく、チームマネジメント手法「チームステアリング」を開発してきました。今回は、計画統制型組織において自立分散型組織の振る舞いを導入しようとした際に起きがちな阻害要因と、阻害要因に向き合いながら、自律分散型の組織文化を育むためのポイントをご紹介します。
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■ ニューノーマルな時代に求められるアジャイルなマネジメント
ニューノーマルとも称される変化の激しい世の中において、多くの企業・組織では、社会や環境への貢献や、社員の幸せな生き方の実現を図りながら、自身が生き残るための適応が必要になっています。その中で、今まで成果を生み出してきた統制型・トップダウン型などの従来の組織構造が機能しにくくなり、変化に柔軟に適応する「アジャイル」な振る舞いを特徴とする「自律分散型」と呼ばれる組織形態が注目を集めています。
ヒューマンバリューでは、従来のマネジメントシステムを機能させながら、無理なく組織文化を変化させていく方法が必要だと考え、2018年から研究を続けてきました。計画統制型の組織に、変化に柔軟に適応する「アジャイルな振る舞い」を徐々に取り入れるチームマネジメント手法が「チームステアリング」です。
チームステアリング推進チームでは、これまでのトライアル、オープンセミナーや模擬体験セミナーの実施、そして、そこでの参加者の方々との対話を通して、自律分散型の取り組みを導入しようとした際に何が起こるのか、それにどう対処していくことが必要なのかを探求し、開発や実践に生かしています。
私たちのこれまでの気づきや仮説を共有させていただくことで、組織文化を変えていきたいと願い、取り組もうとされている皆さんにとっての一助になればと願っています。
■ 今の企業・組織の置かれている課題と必要な取り組み
今の企業・組織の置かれている課題
世界中でリモートワークへの適応が異例のスピードで進む中、多くの企業・組織の経営層や従業員の意識(マインドセット)、働き方や管理、協力のあり方も急激に変化しています。今までの意思決定システムや旧来の指示命令型のマネジメントが通用しなくなっており、組織によってはコミュニケーションがうまくいかなくなったり、リモートワークで働く人と、現場に出て働く人との分断も起きてます。
社会や環境への貢献、社員の幸せな生き方の実現、そして組織が生き残るための適応をも図らなければいけないという葛藤の中、新たな取り組みが必要なのはわかるが、どうしたらよいのかがわからないという状況にある企業も多いようです。
今の企業・組織に必要な取り組み
変化に適応し生き残るために、企業・組織が必要とする取り組みを整理してみました。
・複雑性が高く、変化が激しい状況に対応するべく、素早い意思決定を行う。
・チームが協力し合って、自律的に問題を発見し、問題解決に取り組む。
・変化を生み出し、変化に対応し、不確実性に対処できるように組織を構造化し、運営する。
今までのマネジメントのパラダイムだけでは、これらの取り組みを生み出すことはできません。これまでの計画的アプローチを生成的アプローチへ、開発方法になぞらえるとウォーターフォール型をアジャイル型へと変化させることが必要です。ここでいう「アジャイル」とは、単にプロセスやツールのことだけではなく、人や文化のあり方のことです。アジャイルな取り組みを通して、相互の信頼と尊敬に基づく価値観をもった、人を中心とした組織をつくり、コラボレーションを促進し、社員が働きたいと思えるようなコミュニティを構築します。この新たなコミュニティや組織のあり方を実現するために、「自律分散型」組織を育む取り組みが必要なのです。
■ 計画統制型組織に自律分散型組織の要素を取り入れる
「自律分散型の組織を育む」とはどのようなイメージなのか、マネジメントのあり方から考えてみましょう。
これまでの組織にみられた「計画統制型」のマネジメントは、組織を取り巻く状況を予測・コントロールできることを前提として、組織を目的達成のための機械のように捉えて、統制に基づいた運営をしていました。これは、オーダー(秩序)の世界観によるマネジメントとも言えます。
一方、変化に適応していくためには、権限を分散させて、それぞれが自律的に素早く対応し、緻密な計画よりも柔軟・実験的に動く「自律分散型」のマネジメントが必要になります。
ここで注意したいのは、「自律分散型」のマネジメントは、無秩序でコントロール不能な「カオス(混沌)」ではないということです。多くの組織には管理や構造化が必要な部分もあり、全体のコントロールもまた不可欠です。組織の周囲はカオスであるという前提で、オーダーとカオスの狭間にある「ケイオディック」な状態をマネジメントできるようにしていくことが、「自律分散型組織」を育む上で大切なのです。
このように、計画統制型組織に自律分散型組織の要素を取り入れていくことを、ヒューマンバリューでは「組織にアジャイルな振る舞いを取り入れる」と表現しています。
現在、新たな組織運営手法やマネジメントシステムに大胆に切り替え、統制型組織から自律分散型組織に一気に転換することで成果を上げている事例も増えてはいます。ただし、日本の多くの企業、特に長い伝統をもつ企業においては、急激に組織のマネジメントシステムを切り替えることが逆に事業活動を妨げてしまうこともあります。また、組織の中に蓄積された経験や、それによって育まれた文化により、変化が妨げられてしまうことも多いでしょう。
そのため、従来のマネジメントシステムを機能させながら、無理なく自律分散型組織へと変化させていく方法が必要とされています。計画統制型の組織に、変化に柔軟に適応する「アジャイルな振る舞い」を徐々に取り入れながら、組織の文化を変化させていくチームマネジメント手法が「チームステアリング」なのです。
■自律分散型組織を生み出し継続させる原則・条件
組織にアジャイルな振る舞いを取り入れていく際には、取り入れていかなければいけない原則・条件があります。
ヒューマンバリューでは、世界で様々な組織が実践している取り組みの原則を調査・分析し、組織開発に携わってきた経験から整理し、本当に欠くことができないと思われる原則・条件として次の5つを絞り込みました。
これらの原則・条件は、ただ掲げるだけではなく、組織の中のあらゆる階層の人々が実際の行動に取り入れ、継続していくことで、自律参画型の組織文化が育まれていきます。原則や条件を意識して行動したり、何かしらの取り組みに取り入れていくことでも文化は育まれていきますが、従来型の組織では、その取り組みにおいて阻害要因や障害に直面することも多いのです。
■自律分散型組織を生み出し育む際の阻害要因
これまでの研究で見えてきた自律分散型組織の文化を育もうとする際の阻害要因には、たとえば以下のようなものがあります。
・アジャイルな振る舞いを導入したときの違和感からの抵抗
・強固なメンタルモデルを変えられない
・今までのやり方・習慣への引き戻し
・一度始めたら途中で止めることができない
・メンバーが意味を理解しないまま手法を導入することで形骸化する
・自分たちで正解を生み出せる、全体が見えているという思い込み
・実行した後に振り返り、それを次に生かすことができない
・感情的な抵抗・対立を適切に扱えない
これまでの経験や習慣を変化させていくには、抵抗や痛みが伴うことを前提に、これらの阻害要因に向き合い、少しずつ変化を生み出していく必要があります。
■ 阻害要因に向き合いながら、自律分散型の組織文化を育む
チームのミーティングやプロジェクト推進のあり方から変化を生み出していくチームステアリングには、阻害要因を乗り越えながら新たな組織文化を育むための6つの特徴が包含されています。
・組織の戦略よりも、個人の「テンション」を重視する
・計画を守り抜くのではなく、「アジャイル」に動く
・目的を進化させる
・プロジェクトにはリーダーがいない
・「多数決」や全員の「合意」を取らない
・何が正しいかを問う議論はしない
企業や組織を取り巻く状況がカオスであるからこそ、何もしなければ組織内がカオスになりやすくなります。そこに対して統制を強めることでは変化に対応できないため、何かしらのツールや方法といったオーダーを取り込むことで、自律分散型組織を育んでいく必要があります。チームステアリングは、そのために開発された手法なのです。
■自組織の文化に合わせた取り組みを生み出す
組織は機械ではなく生き物です。その中で育まれた文化やマネジメントのあり方を変化させようと単にツールや手法を機械的に導入してしまうと、間違いなく阻害要因にぶつかることになります。自律分散型組織を育むための原則・条件をカバーしながら、阻害要因を克服するプロセスを歩んでいくことが必要なのです。
特に大事なことは、手法を導入する意味を組織のメンバーが理解できるようにすることです。そして、組織固有の文化や状況に適合させるために、言葉の使い方を変えていく必要もあります。また、取り組みを通して得た経験や学びを振り返り、組織の文化として進化させていかなければなりません。それこそが、伝統的なマネジメントのスタイルとは異なる、自律分散型のマネジメントスタイルを育む取り組みとなるのです。
自律分散型組織を育むことに関心のある方は、ぜひオープンセミナーや模擬体験セミナーにご参加いただき、自身の組織文化のあり方を振り返ったり、今後のありたい姿やその実現のために何が必要になるのかを一緒に考える機会にご一緒いただければ幸いです。