【Rethink -組織開発を再考する対話会 実施レポート】第4回:OSTの体験から、自律分散・自己組織化型の変革を考える
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ビジネスの環境の変化や働く人々の多様化に伴い、ヒューマンバリューでは、これまでの実践を振り返りながら、現在の変化に適応したこれからの組織開発のあり方を問い直していきたいと考えています。
その一環として、多様な組織開発の実践家の皆さまと対話を通して探求を深める「組織開発を再考する対話会」を開催しています。
<過去のテーマ>
第1回:「エンプロイー・エクスペリエンスの視点から考える組織開発
第2回:「不確実性の時代にアプリシエイティブ・インクワイアリーが開く可能性
第3回:「人間性を回復し、ソーシャル・キャピタルを育むワールド・カフェの可能性
第4回となる今回は、「OSTの体験から、自律分散・自己組織化型の変革を考える」をテーマとしました。当日は29名の方が参加され、それぞれの背景や経験、アイデアを持ち寄りながら探求を行いました。
対話会の流れと生まれたインサイト
本対話会では、ヒューマンバリューのホームページで事前に公開したレポート「オープン・スペース・テクノロジーの現代における意味を考える〜自己組織化の学習フィールドとしてのOST〜」を素材として、ヒューマンバリューから探求のテーマと問いを投げかけ、それらについて小グループに分かれての2回の対話と全体共有を行いました。以下では、探求のテーマと、その中で行われた対話や生まれた気づきを紹介しながら、あらためて、OSTの意味や可能性について考えてみたいと思います。
【オープニング・ダイアログ】”自己組織化”ってどんなイメージ?
対話会ではまず、オープニング・ダイアログとして、「”自己組織化”ってどんなイメージ?」をテーマに、3〜4人のグループに分かれて話し合いを行いました。グループの中では、「誰かの指示がなくても動く」といった具体的なイメージの他、「誰に言われるでもなく集まって遊ぶ、小学生の放課後」「自然の力で形を成す、観葉植物」といった、メタファーを用いたイメージも語られました。また、「自己組織化は、組織の全員がその世界を信じていないと起こりづらい」「上司から主体的にやるように言われ、主体的に行動したら『そうじゃない』と言われ、主体的になれなくなる」など、自己組織化を妨げる要因についても語られ、「自己組織化」をキーワードにしながら、各グループで幅広い話し合いが行われました。
【1つ目の探求テーマ】OSTとはどんな“経験”なのか?―OSTの経験や大切にしている原理から私たちが学べることは?―
そうして共有されたイメージを踏まえながら、あらためてOSTの起源や概要、進め方を参加者全員で確認し、その意味合いを考えていきました。
共有は、ファシリテーターの川口が、2004年にOSTの提唱者であるハリソン・オーエン氏を訪ねた際のエピソードも交えながら、オーエン氏の大切にしている哲学や想いが、具体的にどのような形でOST に表されているかについても紹介されました。また、川口がこれまでのOSTの実施を通じて感じたことも併せて紹介され、知識だけなく、OSTが一体どんな経験であるかということも共有されました。
具体的には、OSTは人々をアサインするのではなく、想いをもった人のインビテーションで始まること、中央に用意するサークルはホームとしての引力をもっていること、オープニングで心理的安全が育まれること、テーマを掲げる際の場の揺らぎ、4つの原理と1つの法則、マーケットプレイスでのダイナミズム、全員の呼吸を感じながらのアクション生成等が共有されました。
上記の情報共有を踏まえ、対話会では1つ目の探求テーマ「OSTとはどんな“経験”なのか?―OSTの経験や大切にしている原理から私たちが学べることは?―」について探求を行いました。
全体の文脈としては、OSTの場では、「自分らしく振る舞える自由さや可能性を実感する」「職場の現実に戻っても、OSTで勇気を出してテーマを掲げた体験が、自身の力や自信になる」という体験ができる場であることが語られていました。一方で、その自由さを通常の職場でも体現するには、現状に何らかのハードルがあると感じていることが多いことも浮かんできました。
対話の中では具体的に、「『ここにやってきた人は誰でも適任者である』という原則があることで、自分よりテーマに長けた人が話し合いのグループにいても、正解を探すことなく自分の参加を肯定できる」といった意見が聞かれました。その一方で、職場での体現に向けたハードルとしては、「時間効率良く成果を出すことが求められる職場では、OSTでの蝶や蜂は存在し得ない」「組織が、機械やロボットのように認識されているので、OSTの原則を受け入れづらい現実がある」「ノルマや目標値がある中、『何が起ころうと、起こるべきことが起こる』という原理は受け入れ難い」といった意見も出され、そうしたリアリティをどう受け止め、乗り越えていくかについても話し合われました。
下記のボードにあるように、グループでの対話による気づきを全体でも共有しましたが、「人はもともと主体的な存在」であり、その「主体性を信じ」、「始まったら手放す勇気」や「場から生まれることは、どんなことでも受け入れる心持ち」が大事であるといった、提唱者であるオーエン氏が大切にしていたあり方や考え方が挙げられています。また、「人が実現したいことを結晶化し、仲間をつくり、足を踏み出すことを、OSTという名がつかなくても生かしていきたい」といった、OSTの哲学や原則が、社会全体に広がることへの願いが感じられるコメントがあったことは印象的でした。
【2つ目の探求テーマ】OSTが現代にもつ意味を探求する―自律分散型の組織や自己組織化的な変化を実現するために大切なことは?―
対話会では、そうしたOSTの体験の深堀りを土台として、「OSTが現代にもつ意味を探求する」をテーマに話し合いを行いました。最初にファシリテーターから仮説が投げかけられました。その仮説とは、「OSTは、人間が本質的には自由な存在であることを学ぶ空間であり、そこでエクスペリエンスを重ね、自己組織化のマインドセットを養うことが、これから自律分散型の組織や社会に移行する上で大きな意味をもつのではないか?」というものです。その上で、ハリソン・オーエン氏の著書Wave Rider(Berrett-Koehler Publishers, 2008)から、自己組織化の認識と理解を深めた先の私たちの可能性が提示されました。
そして、その可能性を実現するためには、私たち一人ひとりがWave Riderのように、変化の波に乗り、時には荒波にもまれたり、また、時にはビッグウェーブに乗って感動するような体験を重ねることが大切であり、その実践と学習の場がOSTなのではないかという仮説も併せて投げかけられました。
そうした仮説も踏まえながら、「OSTの体験や学びを踏まえて、自律分散型の組織を実現したり、自己組織化的な変化を生み出し続けていくために、私たちに何が必要だろうか?」という問いをグループで探求し、自律分散型の組織に必要だと考えられる要素が数多く共有されました。
例えば、「マネジャーの待つ姿勢」「一見、後ろ向きな人たちの想いも大切にする姿勢」「対話により、人との差異を受け入れる文化」などが挙げられました。
また、「場をコントロールしないことと、関与することの違いや線引きはどこにあるのか?」「起きたことは本当に全てOKなのか。家庭菜園の野菜につく、駆除すべき害虫に相当するようなものはないのか?」といった、一人ひとりの場への関わり方を見直すような、興味深い問いも生まれていました。
ここまでを通して、皆で共有した気づきを下記に共有してみたいと思います。
今回の対話会を通じ、OSTは互いの存在を信じてコントロールを手放し、いま、場で起きていることを皆で受け止める体験であることがあらためて浮かんできました。こうした状態を職場でも実現していくことの重要性は、変化が激しく一人ひとりの主体性の解放が求められる昨今、ますます高まっています。今回の対話会は、OSTの学びや体験を、参加している一人ひとりが向き合っている現実を通して見つめ直し、その意義を深めた時間だったように思いました。
終わりに:全体を通しての感想・インサイト
最後に、チェックアウトとして、本日の感想や気づきをチャットで共有し、今回の対話会は終了となりました。全体的に、OSTや対話の実践の場を増やしたいという感想が多かったように思いました。以下、チェックアウトのコメントの一部を抜粋して共有しますので、全体の雰囲気を感じていただければと思います。
- ともあれ一回OSTで対話を催してみたいという気になりました! 繰り返し行いたいです!
- OST的な人になりたいなって思いました。
- 組織開発は、自社だけではなく、こうして他社で取り組んでいる方との対話によって育まれるものだと感じられました。
- OSTの場を持つこと、そのこと自体が組織をよりフラットに導くものだと感じました。今後もそうした機会を増やしたいと感じました。OSTの学びが深まりました。
- まずは目の前の場の願いやそこで起きる小さな変化に目を向けて、取り組んでいきたいと思いました。
- OSTを通して、自分たちが自分たちらしく取り組めること(自己組織化)の原点を再確認できました。
- 心理的安全性と揺らぐことが大切だと思いました。
- 共鳴する人を増やしていきたい。
- OSTの思想や哲学には共感するところが多く、可能性を感じます。一方、組織に導入するには、経営層の理解や周囲のマインド醸成も同時に不可欠と感じました。
- これまでの経験から培われた固定観念や思考の枠組みを直視することの重要性を、皆さんとの対話からあらためて感じる時間にOST的であることの1つにある「参加者を如何に信じるか」の難しさと大切さ
- まず、リーダー自らがコントロールを手放す必要性を感じました。
- 分業化した組織において、OSTは組織や会社の壁(ボーダー)を越えて共に問題解決を考える、共創の1つのやり方だと改めて感じました。OSTという名称ではなく、「新結合を生み出す組織横断的課題解決」として、推進していきたいと改めて感じました!
- 未来はフォーキャストでは描きにくいとしたら、OSTのような互いの想いを聞き合う場は大切なのではないかとより思いました。
- メンバーの方の「自己組織化自体は目的になり得るのか?」という視点に深く共感し、大切な問いだなと感じていました。同時に、こういった手法やたくさんの考え方、指標といったものを、マネジメント層やHRのものではなく、メンバー自身のものとして民主化していくこともしていきたいと強く感じました。それがマネジャー罰ゲームから抜け出す1つの道かもしれない…とも思っています。皆でシステムを描き、ボトルネックと重心/レバレッジを探求していきたいです。
- 自律分散型の組織を目指す重要な要素は、管理職がコントロールを手放すこと。良い気づきでした。手放すのではなく、参加がよさそうですね。
- 起こることを信じて待つためにも準備や共有がとても大切だと思いました。
以上、組織開発を再考する対話会第4回の様子をレポートしました。ヒューマンバリューでは、今後も対話を通して探求する場を継続して開催していきます。
また、組織開発の具体的な方法論について、より学びや探求を深め、実践につなげる機会として、今年度も下記のプラクティショナー養成コースの開催を予定しています。ご興味のある方はご覧ください。
『プラクティショナー養成コース』の概要はこちら
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これからも多様な組織開発の実践家の皆さまと共に、組織開発やカルチャーの変革、価値創造のあり方について、探求できればと思います。