インサイトレポート

【Rethink -組織開発を再考する対話会 実施レポート】第3回:人間性を回復し、ソーシャル・キャピタルを育むワールド・カフェの可能性

【Rethink:組織開発を再考する対話会】の第3回目を、2024年1月18日(木)にオンラインで実施しました。今回のテーマは、「人間性を回復し、ソーシャル・キャピタルを育むワールド・カフェの可能性」でした。本レポートでは、対話会当日の様子や参加者の皆さま同士の対話から生まれた気づきをご紹介できればと思います。

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ビジネスの環境の変化や働く人々の多様化に伴い、ヒューマンバリューでは、これまでの実践を振り返りながら、現在の変化に適応したこれからの組織開発のあり方を問い直していきたいと考えています。


その一環として、多様な組織開発の実践家の皆さまと対話を通して探求を深める「組織開発を再考する対話会」を開催しています。第3回となる今回は、「人間性を回復し、ソーシャル・キャピタルを育むワールド・カフェの可能性」をテーマに対話を行いました
(第1回は「エンプロイー・エクスペリエンスの視点から考える組織開発」、第2回は「不確実性の時代にアプリシエイティブ・インクワイアリーが開く可能性」をテーマに開催しています)。


当日は32名の方が参加され、それぞれの方の背景や経験、アイデアを持ち寄りながら探求を行いました。

対話会の流れと生まれたインサイト

本対話会では、ヒューマンバリューのホームページで事前に公開したレポート「人間性を回復し、ソーシャル・キャピタルを育むワールド・カフェの可能性」を素材として、ヒューマンバリューから探求のテーマと問いを投げかけ、それらについて小グループに分かれての3ラウンドの対話と全体共有を行いました。
以下では、探求のテーマと各ラウンドの問い、その中で行われた対話や生まれた気づきを紹介しながら、あらためて、ワールド・カフェの本質や価値、可能性について考えてみたいと思います。

【1つ目の探求テーマ】ワールド・カフェの本質を考える−ワールド・カフェや対話の場が本来もつ可能性とは?−

-ラウンド①ワールド・カフェでの印象的な体験やその時のちょっとした感想は?

対話会では、まずワールド・カフェの概要として、開発された時期、開発者、話し合いの進め方が紹介されました。また、ワールド・カフェの本質を考える上でキーとなる、ワールド・カフェが生まれた際のストーリーについても共有されました。ワールド・カフェは、話し合いに参加する人たちにとって大切な会話が自然に育まれるようにとの願いと、それを実現するためのホスピタリティから生まれたという誕生ストーリーは、その後の、対話の場がもつ本質や価値、可能性の探求へとつながっていきました。

ワールド・カフェとは

概要と誕生ストーリーの共有の後、3〜4人のグループに分かれ、ラウンド①の問い「ワールド・カフェでの印象的な体験やその時のちょっとした感想は?」について対話を行いました。
グループの中では、ワールド・カフェの体験から感じた率直な心境が共有されました。具体的には、「初めて行った際は、カジュアルな形式や場でも話し合いが成立することに新鮮な驚きを感じた」「文字や絵を落書きのように描いて終わるだけで、話し合いの目的が不明瞭に思え、戸惑いを感じた」などが挙げられます。また、ワールド・カフェを体験したことのない参加者からは、「普段、先輩や後輩と集まってお茶をしながら語り合っている時間は、ワールド・カフェ的と言えるのかもしれない」といった、ワールド・カフェのこれからの可能性が感じられるような話も出ていました。

-ラウンド②ワールド・カフェや対話の場が本来もつ可能性とは? その可能性を解き放った時、どんな世界を見ることができるだろうか? 可能性を阻害しているものがあるとしたらそれは何か?

続いて、レポートにもある、2010年に開催されたミュージアム・サミットの体験があらためて共有されました。ミュージアム・サミットは、現代の市民社会における美術館の役割を議論するために、館長、研究者、学芸員、インターン生、市民など多様な人たちが集まり、垣根を越えて会話を行い、創発を生み出すことが意図された場でした。


事務局として関わった人々が信念を持ち、場づくりやホスピタリティを大切にして取り組みを重ねたストーリーや、多様な参加者の皆さんが笑顔で対話する当日の様子の写真などが共有され、今回の対話会のテーマにある「人間性の回復」に思いを巡らせるきっかけとなりました。

そうしたストーリーによる情報共有の後、再び3〜4人のグループに分かれ、ラウンド②の問い「ワールド・カフェや対話の場が本来もつ可能性とは? その可能性を解き放った時、どんな世界を見ることができるだろうか? 可能性を阻害しているものがあるとしたらそれは何か?」について対話を行いました。

グループの対話では、その人らしさを解放する上で場づくりが大きな力をもっているという気づきが生まれました。具体的には、「カフェのような空間であることによって、ジャッジされたり、馬鹿にされる恐れから解き放たれるのではないか」「フラットな円卓も、肩書や知識の勾配を越える上で大事な要素かもしれない」などが挙げられます。また、立てる問いの重要性についても話が及び、「知識や経験があったとしても、すぐには答えづらいような問い」「小さな声やつぶやきが出るような問い」であることが、人々の間にある見えない勾配を越えていく上で、大事なポイントの1つなのではないかという話が出ていました。

その後は全員で、グループでの対話による気づきをオンライン・ホワイトボードに記入し、共有しました。そこにはたくさんの気づきや発見が書き出されており、各グループで豊かな対話が行われていたことが感じられました。

特に多く見受けられたコメントとしては、ファシリテーターや事務局のあり方が大事であるという気づきに関するものがあります。具体的には、「事務局の覚悟や、やりたい気持ちが必要」「問いを立てるのは技術ではなく思想かもしれない」「ファシリテーターも参加者の一員」などが挙げられます。

また、ワールド・カフェの場がもつ、人間性を回復する可能性について寄せたコメントも見受けられました。たとえば、「立場を超えた安心安全な対話の創出」「権威勾配のない、“本来の” “自然な”関係性の世界」「そこに生まれてこようとしている可能性をホールドできる場」といったものが挙げられます。

また、「無礼講」「飲み会」「井戸端会議」「合コン」といったワードも散見され、人々が集まって話すこれらの場とワールド・カフェとの違いや共通点などについても、自由に発想を広げながら対話が行われ、人々が集う意味について探求されました。

【2つ目の探求テーマ】実践の核となるものを探求する

-ラウンド③ワールド・カフェの本質や原理をもとに、分断を超えて創発を生み出していくために大切なことは何か?

後半は、ワールド・カフェの実践の核を探求する時間となりました。まずは情報共有として、マーガレット・ウィトリー氏の言葉の引用や、これまで体験したワールド・カフェでの学びから、ワールド・カフェの本質は、「私たちが忘れていた世界を思い出させてくれる学びの場」であることや、「『私たちは元来、創造的な存在である』ということを思い起こす機会」にあるのではないかという投げかけが行われました。

ワールド・カフェは、私たちがとうの昔に忘れてしまった世界、つまり人々が、一緒にいたいがために、自然に集まってくる世界のことをもう一度思い出させてくれます。


その世界では、長い歴史をもった会話そのものを楽しみ、私たちにとって最も大切なことについて何も恐れずに話すことができます。それはまた、私たちが孤独ではなく、分類されることも、型にはめられることもない世界でもあります。その世界では、テクノロジーや人工的なものを排した単純なあいさつが行われ、私たち一人ひとりの中ではなく、全員の中に存在する英知が常に私たちを驚かせ続けるのです。


そして、私たちが問題を解決するために必要な知恵は、共に話し合うことによって得られるのだということを、この世界では学ぶことができるのです。

出典:アニータ ブラウン / デイビッド アイザックス / ワールド・カフェ・コミュニティ (2007) 『ワールド・カフェ~カフェ的会話が未来を創る~』ヒューマンバリュー

ヒューマンバリューからの情報共有の後は、新たな5〜6人のグループに分かれ、ラウンド③の問い「ワールド・カフェの本質や原理をもとに、分断を超えて創発を生み出していくために大切なことは何か?」について対話を行いました。

グループの対話では、「分断」や「創発」とは具体的にどういう状態なのかについて、各々のイメージが持ち寄られました。そして対話では次第に、分断を超え、創発が生み出されるために必要な要素について探求されるようになりました。

そこで得られた気づきの1つとしては、ワールド・カフェに参加する人々が、それぞれの存在や違いを「あってよい」ものとして受け止め合うような姿勢でいることが、創発を生み出すために大切であるということが挙げられます。具体的には、「考えてみたくなる問いがあり、他の人の発言を受け止めて聴いているうちに、発言したいという思いが立ち上がってきた」「メンバーの意見の不一致は、解消しようとするのではなく、整える意識でいることが大事」といった話が出ていました。

また、さまざまな分断を超えるためには、「組織や社会の日常に、緩やかで気軽なつながりが存在していること、たとえば、街角のオープンカフェで人々が会話をしているような風景があることも大事なのではないか」といった話も出ており、ワールド・カフェの場のみならず、日常的な人々のつながりを育む場の大切さについても話が及びました。

グループでの対話の後は、全員で、それぞれの気づきをオンライン・ホワイトボードに記入し、共有しました。

ラウンド③の全体共有では、多様な観点からの気づきが共有されましたが、ワールド・カフェを、人々が集って語り合うことの価値や可能性を実現できる場として捉え、その価値や可能性を具体的に示したコメントが多く見受けられました。具体的には、「自分を解放する、つながる喜びを味わう場」「立場を超えて『つながる』ことができる場」「分断から創発が生まれるまでの旅」「ワールド・カフェでの体験(うれしさ、自由さ、生成的な学びの実感)を大事にする」などが挙げられます。

また、そうした価値や可能性を実現するために大切な、人々のあり方に対する気づきも見受けられ、「無言の時間も大切にする」「分かりやすい成果にとらわれないことも大事」「弱さをもって話す」などのコメントがありました。

さらに、こうした場を実現する上では、事前のプロセスも大切であるという気づきもあり、「異なる立場や価値観をもつ人々、また利害関係者に、ワールド・カフェの場に訪れてもらうためのレディネスが大事」「カフェに誘うやり方。誰からどのように誘うのか」といったコメントもありました。

今回の対話会では、ラウンドを追うにつれて次第に、「ワールド・カフェの本質や価値とは何か。また、そうした価値ある場を実現するために大事なことは何か」ということについて探求されていったように思います。

ワールド・カフェは、人と人が集い、考えや知見、経験を結びつけ、探求し、新たなアイデアが生み出される可能性をもった場です。それを実現するために大切な観点として、願いや意図のある場づくり、運営する人や参加する人たちのあり方、誰もが対等に話し合えるような問い等が挙げられるということが、今回の対話会を通じて見えてきました。

そして、これらの要素が互いに影響し合い、重なり合うことで、次第に、マーガレット・ウィトリー氏の言葉にあるように、私たちがとうの昔に忘れてしまった「人々が、一緒にいたいがために、自然に集まってくる世界」が思い起こされ、人々が楽しみや喜びを伴ってつながり合い、お互いがクリエイティブな存在となり、創発が生み出されていくように思います。そのプロセスや場こそが、まさにワールド・カフェの本質であり、人々が集って対話することの価値や可能性なのではないでしょうか。

終わりに:全体を通しての感想・インサイト

以上、組織開発を再考する対話会第2回の様子をレポートしました。ヒューマンバリューでは、今後も対話を通して探求する場を継続して実施していきたいと思います。詳細は検討中ですが、以下のようなテーマについて、レポートの発信と対話会を予定しております。

最後に、チェックアウトとして、本日の感想や気づきをチャットで共有し、今回の対話会は終了となりました。全体的に、ワールド・カフェへの関心がさらに高まったという感想が多かったように思いました。以下で、チェックアウトのコメントの一部を抜粋して共有します。今後も、集って対話することの価値や可能性について、引き続き探求していきたいと思います。

(コメント抜粋)


●日本企業の中でも対話型組織開発が普及してきていることがよく理解できました。ありがとうございました。


●未来の観光を考える場づくりに挑戦します!


●来た人がどう楽しむか。そのためには「誘い方」はかなり重要。それは「誰が誘ったか」であるかもしれない。後は、そこに来た人が楽しむ気持ちをもって、安心できる場であればなんとかなりそう。


●自分の中で答えをもたずに対話・会話することについて、深掘りしてみたいと思いました。


●ワールド・カフェの可能性が広がった時間でした。創発を体験したくてやってみたくなった。


●ワールド・カフェという場でなくても、ワールド・カフェがもつ要素を活用できるとよいと思いました。飲み会でも。


●真に対話の場づくりを社内で推進するためには、いろいろなマインドセットや緻密さが必要かと感じました。本日もありがとうございました。


●カタルシス的な場であってもよいのでは?


●みんなで包まれる感じのワールド・カフェが起きるときの要素について、問いが深まってWOW!が重なること。個々のSTORYの輪の重なりが生まれることだなーと感じました! Miroのグラデーションが美しくて、とても素敵でした!


●組織の中では、企業間・経営層と若手の価値観の違いなど分断があるが、1つの組織として対等に心理的安全性を確保できるのがワールド・カフェの場。やることに意味がありますね。勉強になりました。ありがとうございました。


●組織の中では「明解な目的と目標をもった対話の場」がほとんど。しかし、明解な意図のない対話の場が、新たな気づき、創発につながる可能性があると改めて。



以上、組織開発を再考する対話会第3回の様子をレポートしました。ヒューマンバリューでは、今後も対話を通して探求する場を継続して開催していきます。詳細は検討中ですが、以下のようなテーマでレポートの発行と対話会を予定しております。

▷心理的安全性の側面から見るOST(オープン・スペース・テクノロジー)
▷統合思考とシステム思考

▷…etc.

また、組織開発の具体的な方法論について、より学びや探求を深め、実践につなげる機会として、今年度も下記のプラクティショナー養成コースを開催予定です。ご興味のある方はご覧ください。

『プラクティショナー養成コース』の概要はこちら
https://www.humanvalue.co.jp/wwd/practitoner/

『プラクティショナー養成コース』の開催日程一覧はこちら
https://www.humanvalue.co.jp/news/2023/12/2024/

これからも多様な組織開発の実践家の皆さまとともに、組織開発やカルチャーの変革、価値創造のあり方について、探求できればと思います。

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