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Web労政時報 第12回:これからの人・組織づくりの八つのポイント(全12回)

本コラムではこれまで、昨今注目されている企業の取り組み等を紹介させていただきながら、人・組織づくりのあり方を探究してきました。今回は、これまで各コラムで取り扱ってきたテーマや内容を総括し、人事・人材開発、組織開発に携わる人々が、これから人・組織づくりを推進する上で考えていきたい八つのポイントとして提示してみたいと思います。

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ポイント1:個人の主体性・創造性・情熱を最大限に高めるチーム・組織づくりを行う

“VUCAワールド”と呼ばれるような変化が激しく不確実性が高い環境では、新しい価値を生み出す核となるのは、個人の主体性・創造性・情熱であり、組織づくりではそれらをいかに解放するかが重要となってきています。

しかし、現状では、「人は誰かから評価されたり、管理されないと動かない」という世界観や哲学に基づいた旧来型のマネジメントがイノベーションを阻害している傾向も見受けられます。

第3回のコラムで紹介したゴア社では、その対極にある「人は主体性、情熱を持った存在であり、それを解き放つことで最高の価値を生み出せる」という哲学が大切にされたマネジメントが実践されている様を学びました。そうした哲学を具現化し、必要のない管理構造を手放し、新たなマネジメントの仕組みを生み出していくことが今求められています。

ポイント2:すべての従業員のタレントを大切にし、持続的に成長できる組織を創る

昨今「タレント・マネジメント」や「タレント・ディベロップメント」に代表されるように、人材を「タレント」と表す傾向が高まっているようにも感じています。ここで、使われている「タレント」が何を(誰を)指すのかについては、さまざまな考え方があると思います。優秀な人材を抜擢し、ハイ・ポテンシャルのタレントとして定義していくことも戦略的に重要な取り組みでしょう。

しかし、その一方で、その傾向が行きすぎると、組織内で優秀な人とそうでない人というような区分けや二極化が進み、職場が荒(すさ)んでしまったり、過当な競争で連携が進まないなど、組織として健全な状況につながりません。

第2回のコラムで紹介したスウェド銀行の例では、すべての従業員が素晴らしいタレントを持つ人材であるという姿勢を持ち、それが発揮されるような環境や場づくり、そして全員がお互いの成長に貢献し合えるような文化を築いていくことが大切にされていました。こうした姿勢、取り組みは、長期的・持続的に成長できる組織を築く上で参考になるように思います。

ポイント3:ラーニングのあり方を革新する

環境の変化は、人・組織づくりに密接に関わる私たちのラーニングのあり方にも大きな影響を及ぼしています。第11回のコラムでは、元ゼロックス・パロアルト研究所所長のジョン・シーリー・ブラウン氏の考えやキンバリー・クラーク社の事例を基に、その変化のありようについて紹介しました。

企業側が必要なスキルやコンピテンシーの基準レベルを設定し、社員に対して知識教育やスキルトレーニングを提供したり、カフェテリア形式で講座を並べるような「プッシュ型」の取り組みを行うだけでは、変化のスピードに対応し、新たな価値を創造するには限界があります。
組織側が学習を一方的に押し付けるのではなく、学習者を能動的な存在とみなし、学習者の想いや情熱、好奇心や創造性を高め、自ら関心を持つテーマや領域を発見し、主体的に学びを生み出していく「プル型」の学習が推進されることが重要です。

そこでの人材開発の役割は、適切な学習コンテンツを学んでもらう支援を行うことではなく、社員一人ひとりが自分の周りにあるすべての機会に意味を見いだし、そこから学ぶことができる思考様式を育めるような機会や場を創り出すことにあります。

ポイント4:組織のマインドセットを変える

組織の変革を実現する上で、いくら表面的に制度や仕組みを変えても、人々のマインドセットが変わらなければ、望ましい成果を生み出していくことはできません。第10回のコラムでは、スタンフォード大のキャロル・ドゥエック教授が提唱する考えを基に、マインドセットを変えることの重要性について紹介しました。

仕事を成果やKPIで見ることに慣らされ続けてしまうと、失敗したくないという意識が強まり、他人からの評価ばかりが気になってしまうフィックスト・マインドセット(Fixed Mindset)が強固になって、新しいことにチャレンジしなくなってしまいます。
これからは組織の中に、失敗を恐れず、学びを楽しみ、他人の評価よりも自身の向上に関心を向けるグロース・マインドセット(Growth Mindset)を育むことが大切です。

そのためには、職場の中で投げかける問いを「どんな成果が出たのか」「これでうまくいくのか」といったものから、「そこから何を学べたのか」「これから何を学んでいきたいのか」といったものへとシフトさせ、学ぶことの喜びを醸成していくことがキーとなるでしょう。

ポイント5:対話型の組織開発を推進する

昨今、「組織開発」というがブームになっています。

ただし、同じ組織開発でも、背景にある哲学の違いによってそのアプローチや生み出される価値は大きく異なります。
専門家が組織の現状を分析・診断し、あるべき状態・ゴールを実現するための問題を特定し、その解決に向けた効果的な介入手段や計画を立てるといった「診断型」のアプローチでは、組織のメンバーの受け身的な姿勢を生み出してしまったり、施策が現場の状況と不適合を起こすなど、期待する成果につながりません。

変革をやらせる側・やらされる側という垣根を取り払い、人々が対話を通してお互いの背景や想い、物語を理解し合い、みなでありたい姿を共有し、自分たちが始められる主体的な取り組みを生み出していく「対話型」のアプローチの重要性が高まっています。
第9回のコラムでは、私どもで支援した企業の取り組み例を紹介させていただきながら、その違いがどんな変化を生み出すのかについて探求しました。

ポイント6:経営陣と共に未来を創造する

人事・人材開発の役割として、トップ・マネジメントの考えやニーズを理解し、それに応えていくことはもちろん重要です。 しかし、第7回のコラムで紹介した、IMDのトーマス・マルナイト教授は、短期的な成果を生み出すことへのプレッシャーがかつてないほど高まっている今、人事・人材開発が、経営陣からのオーダーを受け身的に聞いているだけでは、組織の持続的な成長・価値創造にはつながらないとの警鐘を鳴らします。

これからの人事・人材開発の役割として、経営陣と信頼のおけるパートナーとなり、経営陣と一緒になって学び、チャレンジングな質問を投げかけ、未来を共創していく触媒やファシリテーター的な存在となることが求められています。第8回のコラムでは、その実践のあり方についても紹介しました。

ポイント7:組織の境界線を超えて、顧客や地域社会と共に成長する

ここで紹介している人・組織づくりの視点は、一つの企業、一つの組織の取り組みにとどまるものではありません。複雑性や相互関連性が増している現在においては、「自分たちの組織だけが良くなればいい」という考え方では持続的な成長は望めないからです。

第1回のコラムでは、ザッポス社が、組織の境界線を越えて、顧客や地域社会など、多様なステークホルダーと一体となり、ともに価値を創出しようとしている取り組みを紹介しました。この例から学べるように、私たちが組織というものを捉える枠組みを広げていくことが求められているように思います。

ポイント8:変革は一人から始められる

第6回のコラムでは、10歳の社会起業家ビビアン・ハーさんのストーリーを紹介させていただき、変革を生み出す上で、最も重要な原則の一つについて考えました。それは、「変革は一人から始められる」というものです。

変革の取り組みの多くは、組織的なオーダーからではなく、たった一人の想いと行動からスタートしています。
「職場をもう少し明るくできないだろうか」「お客さまに喜んでもらいたい」「チームメンバー全員の力が発揮できたら、もっと素晴らしい価値を生み出せるのではないか」といった、小さな想いを基に、自分が勇気を持って一歩踏み出してみると、そこに同じような想いを持った仲間が集い、予想もしていなかった未来が生まれてきます。そうした想いを持つ人をサポートするとともに、自分自身が変革の第一歩を踏み出すことが大切です。

以上、これからの人・組織づくりで考えていきたい八つのポイントを紹介させていただきました。この中で一つでも響くものがありましたら、そのポイントを軸として自職場での取り組みを推進いただき、自分たちらしい人・組織づくりの実現にお役立ていただければ幸いです。

第12回:これからの人・組織づくりの八つのポイント(2015年3月27日)

Web労政時報HRウォッチャー2015年3月27日掲載

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