Web労政時報 第2回:すべての従業員のタレントを大切にし、持続的に成長できる組織を創る~スウェド銀行から学ぶこと~(全12回)
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これからの人・組織づくりを考える上で、私どもの会社では、ここ数年、北欧の企業や行政体の取り組みに着目してきました。企業の求めるものが成長だけでなくサステイナブルな社会を生み出すことに貢献する方向へと変化する中で、日本型や米国型とまったく異なる人材開発と、米国型でも英仏独型でもないリーダーシップに基づく組織展開が行われている北欧にヒントがあるのではないかと考えたからです。
国内における研究会や、実際に現地に出向いての視察ツアーなどのさまざまな研究活動を通して多くの発見を得られましたが、その中でHRの観点からはスウェド銀行(Swedbank)の取り組みが印象に残りました。スウェド銀行は、スウェーデン、エストニア、ラトビアおよびリトアニアにおいて、800万以上の個人顧客、50万以上の法人顧客を持つ大手北欧?バルトの銀行グループです。
同社について、特に私が面白いと感じたのは、「A thousand stars ? we believe that everyone has talent(数多くのスターたち -我々は、すべての人がタレントをもっていると信じている)」という人事哲学を大切にし、その姿勢を一貫して持つことで、持続的に成長できる組織づくりを推進しようとしていた点でした。
その具体的なストーリーは、リーマン・ショックの頃にさかのぼります。すべての金融機関に影響を及ぼしたこの経済危機によって、スウェド銀行も痛手を受けていました。そのような中、2009年に新しいCEOにマイケル・ウルフ氏が着任しました。
多くの銀行が経済危機への対応に追われる中、ウルフ氏は、まず現場を見て回り、実際に従業員と直接話を行い、一人ひとりの想いに耳を傾けることからスタートしたそうです。そして、従業員との対話の中から、「私たちは設立当初の理念に立ち戻るべきだ。すなわち、金融機関のリーダーになるのではなく、顧客のための銀行になるべきだ」という信念を銀行に持ち込みました。
その信念の下、まず2010年に、ストックオプションの制度はあるものの、個別のボーナスを廃止しました。なぜなら、しばしば高額になる金融機関のボーナスが、短期的な志向性を生み出し、それが顧客や社会の信頼を失う一つの大きな理由になっていたからです。
一部のハイパフォーマーに莫大な報酬で報いるというシステムが常識となっている欧米の金融業界の中では、チャレンジングな制度変更に思えますが、このために退職した人はいなかったそうです。こうした制度変更が、一方的に行われたわけではなく、多くの従業員との丁寧な対話を通して、理念に立ち返るという方向性が皆とともに創りだされ、浸透してきたことも、変革が促された背景にあるように推察されます。
そして、そうした理念をすべての従業員が体現することを目指して、制度・仕組み・環境づくりを進めていきました。タレント・マネジメントや人材開発の制度も、1割の優秀な社員を発掘して伸ばすという発想ではなく、「全員がこれまでより1%ずつ価値を高められたら、社員の数だけ、つまり16000%の価値が上がる」という考え方の下で、すべての社員が成功するようにHRがサポートを行っていました。
具体的には、明確なバリューに基づいたリーダーシップのプログラム等の学習機会の提供、アクション・ラーニングによる実践を通じた成長の促進、キャリア・コーチやメンターによる支援、キャリアにおける共通のフレームワークの構築、パフォーマンス向上に向けたダイアログ(対話)の場の創出など、数多くの取り組みを推進していきました。
採用においても、同じ北欧企業のIKEAをロールモデルとして、自社が重視するSimple(シンプル)、Open(オープン)、Caring(思いやり、優しさ)というバリューを大切にする人材を採用するプロセスを確立し、自社の望ましいカルチャーを持続できるようにしました。また、新社屋に移転するに当たっては、従業員が実際にどのように働いているのかを分析し、その働き方とオフィス環境のミスマッチを解消できるようなオフィスのデザインを行うことで、皆が働きやすい職場づくりを環境面からも後押ししていきました。
スウェド銀行の取り組みからは、人事として人や組織と向き合う上での姿勢・スタンスを学べるように思います。ここで紹介した施策の一つひとつは、もしかしたら目新しいものではないかもしれませんが、その背景に、すべての従業員にタレントがあることを信じ、人事の役割はそれを伸ばし、発揮できる機会・場を創ることにあるという哲学が一貫して大事にされており、そのことがスウェド銀行の存在を際立たせているように感じられました(これは、スウェド銀行に限らず、北欧全体で大切にされている哲学のようにも思います)。
タレント・マネジメントを行う上で、戦略的に優秀な人材を抜てきしたり、パフォーマンスで人を評価付けすることも必要と思います。しかし一方で、その傾向が行きすぎたり、評価やラベル付けが目的化してしまうと、組織内で優秀な人とそうでない人というような区分けや二極化が進み、職場が荒(すさ)んでしまったり、過当な競争で連携が進まないなど、組織として健全な状況につながりません。
すべての従業員が素晴らしいタレントを持つ人材であるという姿勢を大切にし、それが発揮されるような環境や場づくり、そして全員がお互いの成長に貢献し合えるような文化を築いていくことが、持続的に成長できる組織を築く上で重要になるのではないでしょうか。
Web労政時報HRウォッチャー2014年10月31日掲載
第2回:すべての従業員のタレントを大切にし、持続的に成長できる組織を創る~スウェド銀行から学ぶこと~(2014年10月31日)