web労政時報

Web労政時報 第7回:経営陣と共に未来を創造する~これからの人事・人材開発の役割として大切なこと~(全12回)

関連するキーワード

昨年10月末に台北で開催されたASTD Asia Pacific Conferenceでは、アジアにおけるHRDの最新動向について、さまざまな学びがありましたが、その中でも、最後にキーノート・スピーチを行った、トーマス・マルナイト(Thomas Malnight)教授の講演は、今後の人事や人材開発の役割や在り方を考える上で特に印象に残りました。

マルナイト教授は、キャリアを日本の三菱商事でスタートし、その後アカデミックの世界に移られ、現在はIMDにて、企業の経営陣と長期的なビジネスを創造していく取り組みを推進しています。(※IMDはスイスのローザンヌに拠点を置くビジネススクールであり、経営幹部の教育が有名です。フォーブス等のMBAランキングでトップクラスに入ります)

私自身が、講演の中で特に共感したのは「CEOが考えたことを実行するのがHRではない。CEOにチャレンジできるのがHRである」というメッセージでした。

ASTDのような、グローバル企業のHRの人々が集まる場においては、「HRがCEOの考えを理解して、経営陣やビジネスの期待に応えていこう」というメッセージを耳にすることがこれまで多かったように思います。実際に、このカンファレンスでも、IBMが実施したGlobal CEO Studyの結果などが引用され、CEOのニーズに私たちがどう貢献できるかといったことがよく話し合われていました。

もちろん、企業の戦略を推進していく上で、HRがトップの視点に合わせて自分たちのゴールや取り組みを導き出していくことは重要です。しかし、マルナイト教授は、HRの役割がそこだけにとどまることに警鐘を鳴らします。

結果を出すことへの強いプレッシャーがかつてないほど高まっている中、経営陣の視野は短期的になりがちであり、また『自分が正しい』という思い込みから学ぶことをやめてしまいがちです。


リーダーが学ぶことをやめてしまうと、組織は長期的な未来に向かう準備ができません。HRは、経営陣と信頼のおけるパートナーとなり、経営陣と一緒になって学び、未来を創造していく責任と機会があります。

――というメッセージを、具体的な実践例と共に紹介していました。

私どもの会社においても、昨今は企業の経営陣と未来を共創していく取り組みが増えてきていることもあり、マルナイト教授のお話は説得力を持って伝わってきました。講演の最後に、私からも「HRが経営陣と未来を共創していくために、学ぶべきことにはどんなことがあるでしょうか?」と質問をしてみました。

マルナイト教授は、次のように答えました。

変化をいかに起こしていけるかを学ぶことが重要です。直接トップに働きかけることが難しければ、変革に向き合っているリーダーを特定し、自分たちができるところから始めるのです。


また、あなた自身が世界の変化についての理解を深めないとパートナーにはなれません。そして、質問を投げかけなさい。私たちができる最も重要な役割は、リーダーにチャレンジングな質問を投げかけることです。

与えられたゴールや要件を満たす人材を育成するという枠組みを超えて、企業の未来を高い視座から捉え、より高い価値創造を目指して共創的な取り組みをリーダーと共に行う触媒やファシリテーター的な存在となることが、今後の人事や人材開発に携わる人々にとって重要であり、チャレンジングなテーマとなるように思います。

Web労政時報HRウォッチャー2015年1月16日掲載

第7回:経営陣と共に未来を創造する~これからの人事・人材開発の役割として大切なこと~(2015年1月16日)

関連するメンバー

私たちは人・組織・社会によりそいながらより良い社会を実現するための研究活動、人や企業文化の変革支援を行っています。

関連するレポート

次世代リーダーシップ創造に向けたシステム思考学習の可能性〜東京都立日比谷高等学校における実践から考える〜

2024.11.05インサイトレポート

株式会社ヒューマンバリュー 主任研究員 川口 大輔 システム思考は、複雑な問題の本質を理解し、長期的な視野から変革やイノベーションを生み出していく考え方であり、社会課題にあふれた現代に生きる私たちに必須の思考法です。 ヒューマンバリューでは、これまで長年にわたりビジネスパーソンに対してシステム思考を広げる取り組みを行い続けてきましたが、今回、東京都立日比谷高等学校の生徒19名に対して、システム

編集後記:ビジネスパラダイムの革新に向けて、私たちにできること

2024.07.10インサイトレポート

ここまで5編にわたり、『GROW THE PIE』をお読みいただいた山口周氏のインタビューを掲載しました。ビジネスのあり方を考察し続けてきた山口さんとの対話は、日本企業の現在地をクリティカルに見つめ直す機会になり、GROW THE PIEの実践に向けて様々な気づきがありました。 最後に、編集後記として、インタビューの感想を交えながら、ビジネスパラダイムの革新に向けて私たちにできることは何か、現在

パイの拡大を導く、リーダーの思考様式と在り方とは(ビジネスパラダイムの再考 vol.5)

2024.07.10インサイトレポート

アレックス・エドマンズ氏の『GROW THE PIE』を読まれた独立研究家の山口周氏に、書籍の感想とともに、これからのビジネスパラダイムについてインタビューを行しました。(山口周氏 Interview Series) 本記事は、そのVol. 5となります。 今回は、パイの拡大や持続可能な社会の実現に向けて、企業リーダーにとって大切となる思考様式や在り方について語っていただきます。 Index

日本企業のパーパス経営を問い直す(ビジネスパラダイムの再考 vol.4)

2024.07.10インサイトレポート

アレックス・エドマンズ氏の『GROW THE PIE』を読まれた山口周氏に、書籍の感想とともに、これからのビジネスパラダイムを探究するインタビューを行いました。(山口周氏 Interview Series) 本記事は、そのVol. 4となります。 前回は、ビジネスにおけるヒューマニティの重要性を語っていただきました。 今回は「パーパス経営」を切り口にして、企業経営のあり方を考えていきます。

ビジネスにヒューマニティを取り戻す(ビジネスパラダイムの再考 vol.3)

2024.05.08インサイトレポート

アレックス・エドマンズ氏の『GROW THE PIE』を読まれた山口周氏に、書籍の感想とともに、これからのビジネスパラダイムを探究するインタビューを行いました。(山口周氏 Interview Series) 本記事は、そのVol. 3となります。 前回語られた、日本社会や日本企業の課題。 それらを乗り越えるために、ビジネスはどんなアプローチを取るべきか、どのように取り組むべきかについて、語っ

日本社会の課題に向き合う(ビジネスパラダイムの再考 vol.2)

2024.05.08インサイトレポート

アレックス・エドマンズ氏の『GROW THE PIE』を読まれた山口周氏に、書籍の感想とともに、これからのビジネスパラダイムを探究するインタビューを行いました。(山口周氏 Interview Series) 本記事は、そのVol. 2となります。 前記事で語られた、これからの経済・企業のあり方。 それらを踏まえ、今日の日本社会や日本企業に起きている課題について、語っていただきます。  In

人材開発の潮流を踏まえ、人材開発部門の役割を革新する〜未来に価値を生み出すラーニング・カルチャーの醸成に向けて〜

2022.03.17インサイトレポート

「企業と人材」(産労総合研究所)2021年12月号(No. 1106)掲載 株式会社ヒューマンバリュー 取締役主任研究員 川口 大輔

誰の組織?-公共哲学における集合的意思決定

2021.12.17インサイトレポート

アジャイルな組織づくりとITインフラ課題

2021.10.11インサイトレポート

自律分散型組織のさまざまなモデル

2021.09.24インサイトレポート

プロセスガーデナー 清成勇一 次世代の組織運営として、自律分散型・自己組織化・アジャイルなどのエッセンスを取り入れた組織形態・運営が、全世界で今なお進化し続けています。 筆者は、学生時代に「学習する組織」という理論に出会い、そこに管理・コントロールを主体とした組織運営ではなく、一人ひとりの主体性と情熱が発揮される組織運営の可能性を感じ、学習する組織づくりを実践しているヒューマンバリュー社に入社

もっと見る