しんくみ連載コラム 第1回:職場に「成功の循環」を育む
「みんながもっといきいきと働ける職場をつくりたいんです...」そんな声を聞くことが、近年これまで以上に増えている。この連載では、チームや組織づくりに悩みを抱えたり、課題意識のある人に向けて、職場を活性化するためのよりどころとなる考え方や例、ツールなどを紹介しながら、職場づくりへのヒントを得ることに貢献していきたい。
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活気がある職場とそうでない職場では何が違うのだろう?
職場の活性化について考えるスタートして、活気のある職場とは、具体的にどのような状態を指すのかを考えてみたい。基本となる考え方としては、MIT組織学習センター共同創始者のダニエル・キム氏が提唱する「成功の循環」(図1)が参考となる。
周囲との関わり方やコミュニケーションといった「関係の質」が高くなると、自然と考え方も前向きになり、目的意識が高まって「思考の質」が上がる。それが人々の積極性や主体性といった「行動の質」を高め、成果が生まれて「結果の質」につながる。すると、ますます関係の質が高くなる、といった循環を指している。これまでの経験を振り返っても活気のある職場には必ずと言っていいほど、こうした好循環が回っているように思う。
一方で、活気のない職場では、悪循環が回っていることが多い。関係がぎすぎすしていて、不信感があると、考え方も後ろ向きで、他責的になってくる。そうすると、だんだん言われたことしかやらなくなり、受身的になってきて、思うような成果が上がらないので、ますます関係が悪化して、閉塞感が漂う職場になっていく。
自分の職場をこうしたフレームを活用して捉えてみると、職場の現状やありたい姿を整理して理解することができる。そして、今後より良い循環を生み出していくためにどこを高めるべきか、またそのための具体的な方法は何かを検討する観点を得ることが可能となる。その際、循環なので、どこから高めてもいいのだが、結果や行動はすぐには変わらないので、そこに影響を及ぼす関係や思考の質を少しずつ高めていくことから良い循環が回り出すことが多い。
関係の質の5段階
では「関係の質」を高めるとは具体的に何が必要なのだろうか。そのイメージを得るために、関係の質をもう少しブレークダウンして詳細に見ていきたい。
私が所属するヒューマンバリューでは、組織の変革支援に携わる過程で起きた変化に関する約3万件のデータをもとに解析を行ったのだが、関係の質にもいくつかのレベルがあることがわかった。図2にあるように、一番浅いレベルの挨拶や声掛けから始まって、一体感や信頼といった深いレベルまでの5段階で表される。
できるところから、少しずつ
こうした指標をもとに職場の関係の質を見える化できると、どこに働きかけていくかが考えやすくなってくる。実際の例を少し紹介すると、お手伝いしている、ある電鉄会社の現場のリーダーは、より良い職場づくりに取り組むうえで、こうした指標も参考にしながら、まず自分たちの職場の現状がどうか、またどんな職場にしていきたいのかをメンバーに率直に尋ねてみるところから始めていった。
そうすると、メンバーから「今何だか雰囲気悪いですよね。挨拶しても誰も顔を上げて返してくれないし……ちょっと残念です」といった声が多く聞こえてきた。リーダーはこうした声に少なからずショックを受けたようだったが、その事実を真摯に受け止め、他のリーダーともその結果を共有して、何ができるか話し合いを行った。そして、まずは自分たちリーダーが、レベル1にある「目を見て挨拶」するところから取り組むことにした。
「たかが挨拶で何が変わるのか……」といった疑念もあったが、みんなで決めたことでもあり、誰一人欠けることなく、それだけは真剣に続けていった。すると、リーダー陣の姿勢や変化に影響を受けたのか、徐々にではあるが、周りの人の挨拶も増え、職場内でのちょっとした「会話」も増えてきた。
そうした会話の中で、リーダー自身が、周りのメンバーがいかに頑張って仕事をしているのかといった、これまで見えていなかったことが改めて実感でき、自然と「感謝」の気持ちがわいてきたという。挨拶の輪も職場全体に広がりはじめ、そんななかから、「横断」的な勉強会が自主的に開かれるなど雰囲気がオープンになってきた。
そしてしだいに職場の信頼感も高まって連携がうまくいくようになったので、業務上のミスも減りはじめるなど、好循環が回り始めたのだ。リーダーたちも少しずつ自信を持ち始めたのが印象的だった。
職場を活性化するというと、何か大掛かりな取り組みを行って、大きな変化を起こさなければと思われることも多いと思う。しかし、この例にあるように、実際には、関係の質のレベルのどこかひとつを真剣に高めると、そのほかのレベルの高まりにつながっていく。また、関係の質が高まると、思考や行動の質にも自然に影響が及んでいく。私たちのリサーチでは、思考や行動の質も、同じように5つのレベルがあることがわかった(関心のある人は、https://ocapi.jp/ のページに、すべての指標やアンケートツールを紹介しているので参照にしてほしい)。
職場の活性化を進めるうえでは、自分たちの職場の循環を見える化し、まず始められるところから一歩を踏み出し、少しずつ変化を育てていくようなアプローチを取っていきたい。
全国信用組合中央協会機関紙「しんくみ」連載コラム-今日から始める「いきいき職場」づくり~職場活性化の実践~ 2016年4月掲載
第1回:職場に「成功の循環」を育む(2016年4月)