しんくみ連載

しんくみ連載コラム 第5回:リッチピクチャーを描き、豊かな関係性を育む

近年ビッグデータがビジネスの世界で話題になることが多いが、組織活性化の領域でもその可能性が模索され始めている。たとえば日立製作所が開発したウエアラブル・センサーを、コールセンターに勤務するオペレーターに装着してもらい、業務の生産性を左右する要因を調べたところ、休憩中の従業員同士の雑談が活発な日は、全体の幸福度が高く、受注率も高かったそうだ。また、休憩中に雑談が弾む要因は監督者の声かけにあることも判明し、監督者の声かけを支援するアプリケーションを提供したところ、受注率が継続的に20%以上向上したという結果が紹介されている(*1)
監督者と業務中に適切なコミュニケーションを取ることが、休憩中に雑談が弾む職場づくりに寄与し、それが従業員の幸福度を高め、受注率を高めるという構図が、大量の人間行動データの分析から可視化されたといえる。

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ヒューマンバリューが今年1月にビジネスパーソン1000人に対して行った調査(*2)においても、働く人々のやる気に大きな影響を及ぼす要因として、「ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)」の高さが挙げられた。たとえば、「互いのアイデアや意見の良い面や可能性に目を向ける」「職場で個々人を超えるアイデアを皆で生み出す」といった項目とやる気との相関が高く、成果とのつながりがあることが見えてきた。

関係性や活性化というと、これまでどちらかというと職場の潤滑油的に捉えられてきたところもあるかもしれない。しかし、こうしたデータや昨今のトレンドを見ていくと、職場に豊かな関係性を築いていくことが、高い成果や価値を生み出していくうえで、優先順位を高めて本気で取り組むべきテーマであることがわかる。

関係性を可視化し、育む

関係性は目に見えづらいものであるため、意図的に高めていくためには、それを可視化することが重要となる。上述したようなビッグデータの活用も将来的には進んでいくだろうが、もう少し手軽にアナログで取り組めるアプローチに「リッチピクチャー」がある。リッチピクチャーとは、文字通り「豊かな絵」であり、職場の関係性を一枚の絵にしていくことで、これまで自分が築いてきた関係性を振り返るとともに、今後どのように新たな関係性を育んでいくかを俯瞰的に考えるツールとしてよく活用される。

描き方にもいろいろあるが、シンプルなやり方としては、図に示すように、自分を中心に置き、周囲に仕事で関わる人を置いていく。そしてそれぞれのメンバーの特徴や強みを記すとともに、お互いがどういう影響関係(支援していること、働きかけていること、提供している価値、与えている影響など)にあるかを矢印で線を結びながら描いていく。

多様な気づきを生かす

リッチピクチャーを描いてみることで、多様な気づきが得られる。たとえば、仕事で関わる人々やチームメンバー一人ひとりの特徴をあらためて言語化できるとともに、逆に強みや思いを自分が書けないメンバーがいることを実感できたりする。「いつも一緒に仕事をしているけど、意外とメンバーのこと知らなかったな……」といった感想とともに、メンバーがどんな思いで仕事に取り組んでいるのかに関心を高めるきっかけになることも多い。

影響関係の矢印からも発見がある。俯瞰的に線を描いてみることで、関係性ができているところと、できていないところの違いが認識できる。たとえば、上司と個々のメンバーとのつながりはあるのだが、上司以外のメンバーの横同士のつながりがほとんどないような絵になることもある。

これは形が自転車のタイヤのホイールに似ているので、ホイール型の組織と呼ばれる。ホイール型組織は一見コミュニケーションが良さそうなのだが、上司がすべての情報のやり取りのハブになってしまって、横同士で相互に学び合ったり、自律的に連携したりすることがないので、チームとしての活力は実は低かったりする。自分のコミュニケーションの取り方や仕事の与え方、進め方が、ホイール型の関係性を助長していたのではないかと、マネジャーにとって自省する機会になることもある。

そのほかにも、矢印の中味、つまり影響関係の質について考える機会にもなる。自分が書いた線の中味が、たとえば「報告をする」「指示を与える」といった業務上の作業的なものばかりだとすると、そこには豊かなつながりが築けているとは言えないかもしれない。

ただ報告をしてもらうだけではなくて、自組織の方針に影響を与えられるような有益な情報を主体的に共有してもらえるようにするにはどうしたらいいか、あるいは指示を与えるだけではなく、メンバーの成長やキャリアにつながるような会話をどのように行えばいいか、というように、一歩踏み込んで豊かな関係性を築くことを探求することにもつながる。

また、リッチピクチャーは個人で考えることもできるが、チームメンバーと一緒になって、対話しながら描くことで、その価値が大きく高まる。人によって関係性の捉え方や見ている視点が違うので、実は見えないところでチームや職場を支えてくれている人の存在に気づけたり、お互いにどんな支援が望ましいのかをオープンに話し合うことができる。組織によっては、職場内だけではなく、お客さまとの関係性をリッチピクチャーで描き、互いに共有することで、チームとして顧客との接点の頻度や質をどう高めていくのかを検討する機会にしているところもある。

こうしたプロセスを通じて、一部の人だけではなく、チーム全体で豊かな関係性を築いていく意識を生み出すことが、より良いチーム、組織づくりを行っていくうえで重要といえるだろう。関係性の描き方には、正解があるわけではないので、ぜひ気軽にチャレンジしてみてほしい。

*1:『Works2015.06-07』野中幾次郎の「成功の本質」リクルートワークス研究所

*2:全国信用組合中央協会機関紙「しんくみ」連載コラム-今日から始める「いきいき職場」づくり~職場活性化の実践~ 2016年8月掲載

第5回:リッチピクチャーを描き、豊かな関係性を育む(2016年8月)

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