しんくみ連載コラム 第6回:対話から始める職場の活性化
私自身、職場の活性化に向けて様々なやり方で支援を行ってきたが、いずれの取り組みもその原点には必ず人々の間の対話があり、そこから変化が生まれていったように思う。では変化を生む対話とはどんなものか。通常のコミュニケーションと何が違うのだろうか。本コラムの最終回では、活性化の基軸となる対話への理解を深め、職場で実践していくための姿勢やスタンスについて考えてみたい。
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本コラムでは、これまで職場活性化の様々な方法を紹介してきたが、これらは専門的には”対話型”組織開発のアプローチと呼ばれる。外部の専門家が問題を分析して処方箋を出す”診断型”アプローチとは異なり、対話型の組織開発では、人々が「対話」を通してお互いの背景や物語を理解し合い、みなでありたい姿を共有し、意志をもって始められる小さな取り組みを生み出すことで、主体的・持続的な変化につなげていくことを重視している。
ありがちな話し合いの状態
対話への理解を深めるうえで、「手ごわい問題は、対話で解決する(ヒューマンバリュー出版)」の著者であるアダム・カヘン氏は、組織で行われる話し合いのあり方を図1に示す4つのフェーズで紹介している。
一般的に話し合いは儀礼的会話からスタートすることが多い。このフェーズでは、人々は儀礼的に振る舞い、当たり障りのない発言が繰り返され、本音が語られることは少ない。一見スムーズに進んでいるようだが、特定の人だけが話したり、あらかじめ落としどころが決まっているなど、予定調和的で新たな価値は生まれない。
儀礼的会話から、少しずつ本音が吐露され始めると、次のフェーズである論争へと移る。ここでは、自分が思っていることが率直に話され、意見がぶつかり合う。一見話が活性化しているようだが、評論家のような分析的な思考から「あるべき論」が主張され、相手の考えに耳を閉ざして実質的には話を聞いていないことも多い。その結果、意見の対立を解消できずに、妥協や服従に陥りがちとなる。
職場で行われている会議やミーティングを振り返ってみた時、この2つのフェーズが繰り返されていることもよく見受けられるのではないだろうか。こうした状態では、参加者の相互作用は低く、話し合いは行われているが、そこに「対話」はなく、活性化にもつながらない。
儀礼的会話や論争を超えて
本来の対話は、このフェーズを超えたところにある。あるべき論を主張するだけではなく、想いや体験を分かち合い、相手の考えの背景にていねいに耳を傾け内省することで、これまでとは違った考えや気づき、発見が自分たちの中に生まれてくる。
そして探求の問いかけを自分たちに投げかけることで、思考の枠組みが広がり、皆が本当に大切にしていきたいことが自然と生成されていくような話し合いである。
職場で行われる話し合いを、こうした内省的・生成的な対話へとシフトすることができると、職場の一体感やエネルギーが高まり、変化への柔軟性や新しい価値を生み出していく力が育まれる。
対話の実践に向けて
では職場で対話を行っていくためにはどんなことが重要になるだろうか。ヒューマンバリューでは、職場で行われる話し合いの中で、下記の4つのルールを守っていくことを推奨している。
・対等で自由な立場で参加する
恐れや不安を感じたり、一部の人の意見が重視されるような場では、自由でオープンな発言が阻まれ、自分たちの枠組みを超えた考えは生まれてこない。対話の場では、肩書や権威を持ち出さずに、お互いが尊重され、対等の立場で参加することを前提とし、安全な器を創ることが重要となる。
・自分の考えにこだわらない
対話では、話し合いを通じて、自分の考えに変化が生まれることが大切となる。そこで「判断を保留する」という姿勢が必要となる。断定的な口調で話したり、相手の発言を受け入れずに否定的に捉えられると、それ以上探求が進まない。自分の支持する仮説にしがみつくことなく、保留して探求することを意識したい。
・自分の考えや背景をオープンにする
あるべき論や抽象的な議論からは相互理解が生まれづらい。自分の考えや背景にどんな体験や想いがあるのかをオープンに共有することができると、より深いレベルでの共感につながりやすい。
・人の意見の背景を理解しようとする
相手の話の良し悪しをジャッジ(判断)する姿勢からは、生成的な話し合いは育まれない。相手の意見の背景には何があるのかをその人の立場になって探求することが皆で共通の意味を創り出すことにつながる。
もちろん、ルールを提示したからといって最初からこのとおりに対話が行われるわけではないが、少しずつ対話への意識を高めたり、自分自身がこうしたスタンスを大切にしていくようにすると、変化が生まれてくる。
たとえば、ある企業では、重要な話し合いに臨む際には、4つのルールを確認することに加えて、一人ひとりがこの話し合いで大切にしたい姿勢やあり方を付箋紙に記入して、全員で共有することにしていった。
「すぐに否定せず、いったん受け止めたい」「断定的に話さない」「積極的に質問を投げかけることを意識する」など、毎回様々なスタンスが自分の言葉で共有されると自然と意識が高まってくる。
そしてリーダー自身が率先してルールを守ることを続けていると、最初は一部の声の大きい人が話す傾向が強かったのが、次第に安全な場が形成され、話し合いの質も向上していった。そして、話し合いの場が変わることが職場の関係性や意識、行動の変容につながり、自分たちでそうした変化を生み出せた自信が、さらなる活力を組織に与えるという好循環につながっていった。
職場活性化には正解も近道もないが、ていねいに対話を根付かせていくことで、確実にチームや組織のあり方は変容していく。上述したルールやスタンスを大切にしながら、ぜひ実践につなげてもらいたい。
全国信用組合中央協会機関紙「しんくみ」連載コラム-今日から始める「いきいき職場」づくり~職場活性化の実践~ 2016年9月掲載
第6回(最終回):対話から始める職場の活性化(2016年9月)