システムシンキングの今日的意義 ~イノベーション人材育成にいかに役立つのか~
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今なぜシステムシンキングが再び注目されているのかの今日的背景
今再び欧州や日本で、システムシンキングがブームになってきています。
社会経済環境の変化が加速し、技術や製品の開発競争が激化する中で、企業はスピーディーにイノベーションを起こし続けないと死滅せざるを得ないという状況になってきました。
そのために、企業に欠かせないのがイノベーション人材です。過去の成功体験に縛られ、経験と今までの枠組みに囚われて、変化に対して反応的な自動思考しかできないレベルのメンバーでは、イノベーションは期待できません。また、要素還元的に因果関係を捉える分析的思考のレベルでは、改善はできてもイノベーションは期待できません。それは、複雑性を受け止め、全体を捉えることができないからです。イノベーションを行うには、時間軸や空間軸を広げて、複雑な問題の関係性を捉える思考力が必要なのです。
そこで、イノベーション人材を育成するために、システムシンキングが求められているのです。
システムシンキングとは何か
システムシンキングを技法として捉えたら、出来事の要因を明らかにし、そのパターンをシステム図という構造に描き出すツールです。複雑な影響関係を系として捉えることで、問題解決のレバレッジを見つけることができる問題解決手法ともいえます。
また、システムシンキングを、状況や問題をどのように認知しているのかといったメンタルモデルをお互いが理解し合うための言語、言い換えればコミュニケーション・ツールとして捉えることもできるでしょう。
ドラッガーが言うように、「イノベーションは新たな次元(変数)の創造」だとしたら、それぞれの変数がどのような影響を与え合い、どの変数をいま変えるべきなのかといった仮説を見える化し、検証を可能にする具体的な方法が、システムシンキングになります。
また、「イノベーションは現在のA地点から望ましいB地点に移すことだ」と定義するならば、B地点は、新たな価値を提供しているビジネスモデルの実現といったものになりますが、A地点からB地点にどのようにしてもっていくのかのシナリオを動態的にモデル化できるのが、システムシンキングによるシステムモデルといえるでしょう。
従来の分析的思考で描くモデルが静態的モデルであるのに対して、システムシンキングの描くモデルはどのように変化していくかを表す動態的モデルなのです。
システムシンキングを学ぶ効果は
システムシンキングを活用して、正確なモデルを描くようになるには1日2日の研修では難しいでしょう。しかし、システムシンキングを1日学習しただけで、今まで慣れ親しんできた思考とは異なる思考の世界が存在することに気づくことができます。自分では良かれと思っていたアクションが、全体としては良くないことを起こしていることに気づきます。また、問題に対して評論家的傍観者的な認知をしていたのが、まさに自分が問題を起こしている当事者であり、そのシステムの中に自分がいるのだということに気づくようにもなります。
今の自分の思考にしがみついていては、先に進まないことに気づいたら、自分が反応的衝動的に行っていた思考を客観的にみるスペースが生まれます。自分が認知している世界だけで語ってはいけない、もうちょっと思考を高めたい、望ましい世界に向かって、自分は何ができるのだろうかという意識に変わっていくでしょう。
システムシンキングを学ぶのに2日あれば、システムシンキングを高めるためには何を大切にしていくのかを考える時間が取れます。これから自分がどうしていくのかについて、明日から踏み出すシナリオのプランニングをすることができます。今までの自分の思考に距離を置いて、周囲の人々とダイアログによる相互作用をしていくと、その中でメンタルモデルが変わって、イノベーションにつながっていくのではないでしょうか。
システムシンキング研修の意味を高める押さえどころ
システムシンキングの研修を行う場合には、そのコースの目的が技法を習得するために行うのか、思考のパターンの認知を変えるという領域で捉えるのかで、コースの意義が大きく異なってきます。コースの中で、システムシンキングの価値を実感できたり、自分がシステムを回していることを体感できないと、分析的思考の枠組みの中に、新たにシステムシンキングという思考ツールを加えるという発想に陥りがちです。
理屈として理解するのではなく、実際に体験し振り返ることを繰り返すと、システムシンキングが単なる問題解決ツールではなく、自分事なのだということが腹落ちしてくるでしょう。システムシンキングの醍醐味は、自分が変わることが大きなところに影響を与えるのだ、それがイノベーションにつながることなのだという気づきが入ることです。そうすると、未来を見据えて、今ここでの自分の行動が変化を起こしていく予期を得ることができるのです。
また、システムとして捉えることで、容易にシナリオプランニングをすることができます。そこで大事なのは、シナリオ通りにやることではなく、試行錯誤を行い、仮説検証を取り入れていくことです。今を歩んで振り返るときに、システムシンキングを活用してリプランし続けます。答えはわからないし、複雑で見えないので、レバレッジを押しながら、また変化を見て、またレバレッジを押していくのです。そこからイノベーションを生み出せるのだと思います。
変化を生み出すための枠組みを変える働きかけという意味で、いまシステムシンキングが取り上げられているのです。