動向

いまこそ「未来を編み出す」

関連するキーワード

社会・経済システムの変革期として “いま” を捉える

「好況よし、不況さらによし」

これは、故松下幸之助氏がおっしゃった言葉です。PHP総合研究所の「松下幸之助のものの見方、考え方」では、「好景気のときは、駆け足をしているようなものだ。一方、不景気はゆるゆる歩いているようなものだ。駆け足のときは他に目が移らないから、欠陥があっても目につかないが、ゆるゆる歩いているときは前後左右に目が移るから欠陥が目につき、修復訂正ができる」と氏の解説を紹介しています。
さらに、故松下幸之助氏の『不況克服の心得十カ条』に「不況は贅肉を取るための注射である。今より健康になるための薬であるからいたずらに怯えてはならない」とあります。

いっぽう、最近耳にする言葉が、「100年に一度の危機」。
これは、グリーンスパン元連邦準備制度理事会(FRB)議長が昨年10月23日に米下院の監視・政府改革委員会の公聴会で述べた「100年に1度の信用の津波に襲われている。100年に一度あるかないかの深刻なもの」という言葉が、いつの間にか「100年に一度の危機」という循環的な意味で使われてしまっているようです。

もし、いまの経済危機が100年に一度というような循環型の危機でないとしたら、長く続いてきた資本主義経済、それが肥大した新自由主義経済、金融資本主義経済といったシステムから、次なる社会システム・経済システムへ移行しようとするタイミングにあると捉えられるかも知れません。もし、そう考えると、故松下幸之助氏が「好況よし、不況さらによし」とおっしゃった意味合いよりも、もっと大きな変革・シフトが企業の価値創造において求められるのかも知れません。

贅肉を取り、未来を編み出す

このように考えると、いま企業経営・事業経営において重要な事柄はなんでしょうか? 1つは事業の継続性・サステナビリティを維持するために踏ん張ること。そのために、ムリ・ムダ・ムラをなくし、効率性を高める、まさに故松下幸之助氏が言うところの「贅肉を取る」ことでしょう。

そしてもう1つは、この危機の先に来るであろう社会システム・経済システムにおいて高い価値提供ができるようなビジネスモデル・ビジネスプロセスのイノベーションを進めること、もしかしたら価値軸も含めたイノベーションを進めることでしょう。

「贅肉を取ってじっと春まで我慢したら、これまでの春と全然違う世界がやってきて淘汰されてしまった」ということにならないよう、贅肉を取ると同時に未来への投資=未来を編み出すことが、いままでになく重要なタイミングにあると感じます。

ソーシャルキャピタル(社会関係資本)を高める

「未来を編み出す」といっても、いつまで危機が続くのか、またどのような社会・経済システムにシフトするのか、もっとミクロに捉えたとしていまの事業領域がどうなっていくのかということも、きわめて不透明です。

グローバルな危機という規模の大きさ、問題の複雑さを考えると、未来に対する完全な判断・予測をすることは私たちには不可能です。これは、私たちだけでなく、専門家でさえも同じ状況にあります。
では、どうやって未来を編み出していけばよいのでしょうか。
マネジメントグルの一人であった故ピーター・ドラッカーは「イノベーションとはパフォーマンスの新たなディメンション(軸)の創造」と言いました。

これまでの結びつきを変え、成果・業績に対する新しい軸を創造する行為がイノベーションであるとすると、私たちはいままでの枠組みや世界観を変えていかなければ、新しいものは見えません。
そこで、未来を編み出すには、企業や組織のソーシャルキャピタル(社会関係資本)を高めていくことが基盤になると考えます。

だれもわからない未来だからこそ、組織内はもとより組織外の関係者とも、信頼を高め、互恵的な関係を強め、お互いが情報をオープンに共有し、対話を通して新たな未来への感受性を高めていく。そして、共に仮説検証を回しながら新しい挑戦をしていくことが重要になると思われます。
このようなソーシャルキャピタル(社会関係資本)を高めていくことで、「だれもまだ知らない未来」を編み出していけるようになることと考えます。

関連するメンバー

私たちは人・組織・社会によりそいながらより良い社会を実現するための研究活動、人や企業文化の変革支援を行っています。

関連するレポート

次世代リーダーシップ創造に向けたシステム思考学習の可能性〜東京都立日比谷高等学校における実践から考える〜

2024.11.05インサイトレポート

株式会社ヒューマンバリュー 主任研究員 川口 大輔 システム思考は、複雑な問題の本質を理解し、長期的な視野から変革やイノベーションを生み出していく考え方であり、社会課題にあふれた現代に生きる私たちに必須の思考法です。 ヒューマンバリューでは、これまで長年にわたりビジネスパーソンに対してシステム思考を広げる取り組みを行い続けてきましたが、今回、東京都立日比谷高等学校の生徒19名に対して、システム

【Rethink -組織開発を再考する対話会 実施レポート】第4回:OSTの体験から、自律分散・自己組織化型の変革を考える

2024.08.28インサイトレポート

【Rethink:組織開発を再考する対話会】の第4回目を、2024年7月9日(火)にオンラインで実施しました。今回のテーマは、「OSTの体験から、自律分散・自己組織化型の変革を考える」でした。本レポートでは、対話会当日の様子や参加者の皆さま同士の対話から生まれた気づきをご紹介できればと思います。

【Rethink -組織開発を再考する対話会 実施レポート】第3回:人間性を回復し、ソーシャル・キャピタルを育むワールド・カフェの可能性

2024.02.08インサイトレポート

【Rethink:組織開発を再考する対話会】の第3回目を、2024年1月18日(木)にオンラインで実施しました。今回のテーマは、「人間性を回復し、ソーシャル・キャピタルを育むワールド・カフェの可能性」でした。本レポートでは、対話会当日の様子や参加者の皆さま同士の対話から生まれた気づきをご紹介できればと思います。

コラム:ピープル・センタードの人事・経営に向き合う5つの「問い」

2022.10.28インサイトレポート

株式会社ヒューマンバリュー 取締役主任研究員 川口 大輔 「人」を中心に置いた経営へのシフトが加速しています。パーパス経営、人的資本経営、人的情報開示、ESG経営、エンゲージメント、ウェルビーイング、D&I、リスキリングなど様々なキーワードが飛び交う中、こうした動きを一過性のブームやトレンドではなく、本質的な取り組みや価値の創出につなげていくために、私たちは何を大切にしていく必要がある

自律分散型組織で求められる個人のマインドセット変容

2022.10.19インサイトレポート

株式会社ヒューマンバリュー 会長高間邦男 今日、企業がイノベーションを行っていくには、メンバーの自律性と創造性の発揮が必要だと言われています。それを実現するために、先進的な取り組みを行う企業の中には、組織の構造を従来の管理統制型のピラミッド組織から自律分散型組織に変えていこうという試みをしているところがあります。それを実現する方法としては、組織の文化や思想を変革していくことが求められます

組織にアジャイルを獲得する〜今、求められるエージェンシー〜

2022.01.20インサイトレポート

プロセス・ガーデナー 高橋尚子 激変する外部環境の中で、SDGsへの対応、イノベーション、生産性の向上などの山積するテーマを推進していくには、組織のメンバーの自律的取り組みが欠かせません。そういった背景から、メンバーの主体性を高めるにはどうしたら良いのかといった声がよく聞かれます。この課題に対し、最近、社会学や哲学、教育の分野で取り上げられている「エージェンシー」という概念が、取り組みを検討

【Co-creation Career】共創によるキャリア開発

2021.11.26インサイトレポート

【Co-creation Career】共創によるキャリア開発 〜 変化の時代の中で、キャリア開発のあり方を問い直す 〜 人生100年時代と言われる今日、キャリア開発は変化の局面を迎えています。働く一人ひとりの価値観や仕事観は多様化し、組織の人材マネジメントも変化が求めれています。社会的な変化の機運は高まる一方で、職場でのキャリア開発の現実に目を向ければ、閉塞感を感じる場面も少なくありません。本

アジャイル組織開発とは何か

2021.10.25インサイトレポート

株式会社ヒューマンバリュー 会長 高間邦男 ソフトウエア開発の手法として実績をあげてきたアジャイルの考え方は、一般の企業組織にも適応可能で高い成果を期待できるところから、最近では企業内の様々なプロジェクトにアジャイルを取り入れる試みが見られるようになってきました。また、いくつかの企業では企業全体をアジャイル組織に変革させるという取り組みが始まっています。本稿ではこういったアジャイルな振る舞いを

<HCIバーチャル・カンファレンス2021:Create a Culture of Feedback and Performance参加報告> 〜「フィードバック」を軸としたパフォーマンス向上の取り組み〜

2021.10.01インサイトレポート

2021年 6月 30日に、HCIバーチャル・カンファレンス「Create a Culture of Feedback and Performance(フィードバックとパフォーマンスのカルチャーを築く)」が開催されました。

コラム:『会話からはじまるキャリア開発』あとがき

2021.08.27インサイトレポート

ヒューマンバリューでは、2020年8月に『会話からはじまるキャリア開発』を発刊しました。本コラムは、訳者として制作に関わった私(佐野)が、発刊後の様々な方との対話や探求、そして読書会の実施を通して気づいたこと、感じたことなどを言語化し、本書の「あとがき」として、共有してみたいと思います。

もっと見る