パフォーマンス・マネジメント革新の5つのポイント
ヒューマンバリューでは、2015年9月から2016年3月にかけて、パフォーマンス・マネジメントの革新に強く関心をもたれた方々と15会合に渡る研究会を重ねてきました。
そして、すでにパフォーマンス・マネジメントの革新に取り組まれている企業にコンタクトを取り、多くの情報を共有いただきました。
その情報を研究会で共有しながら、パフォーマンス・マネジメントの革新におけるポイントを研究会メンバーと探求しました。
これから、それらについて共有いたしますが、その前に実践企業とのコンタクトを通して感じたことを整理すると、以下のようになります。
人事制度というと、その企業固有の事象で、どちらかというとクローズにされている印象がありました。しかし、実際に接してみると、非常にオープンに話をいただくことが多く、メールでのやり取りでも、こちらの聞きたいことを積極的に聞き出して、それに対応しようとする企業もありました。
実践企業の皆さんに共通しているのは、精緻な制度をつくることに焦点を当てるのではなく、実現したい状態に向けて仕組みをいかに機能させるのか、また一度決めたやり方に固執せずに、実践を通じてより良いものにしていこうとする想いを強く感じました。
また、現場に対して、正しいやり方を浸透させる、コントロールするというよりも、現場の主体性を尊重する、その発揮をさらに促すという姿勢を感じました。これは、私たちの研究会のあり方自体にも影響を与えるものでした。
パフォーマンス・マネジメント革新のポイントは、全部で5つあります。
1つ目は、フィロソフィー(実現したい状態)の重要性です。ノーレイティングなど、新しい制度の導入がねらいではなく、フィロソフィーの実現やカルチャーの変革をねらいとしているというところです。
具体的には、そういう会社が大事にしているフィロソフィーは、コラボレーション、グロース・マインドセット、現場の主体性、カスタマー・フォーカスやアジャイルです。こうしたフィロソフィーを組織で体現することを目的においてパフォーマンス・マネジメントの革新に着手しています。
そこでたとえば、グロース・マインドセットを醸成しながら、ビジネスでコラボレーションを促進し、アジャイルに変化に対応していくような仕事の仕方、カルチャーを実現する。そしてその先には、ビジネスのゴールもあります。
そこに向けて、たとえば現在のパフォーマンス・マネジメントの方法が、レイティングをすることで、フィックスト・マインドセットを助長していたり、あらかじめ定められたカーブ、分布率に当てはめることで、カスタマーではなく、他者や他部署との競争に意識が向いてしまい、コラボレーションも促進できないという現状があり、それら阻害要因を取り除くために、レイティングをや、分布率に当てはめるといったことをやめているわけです。
そういった意味では、今回の取り組みは、単なる評価の仕方の変更というよりも、経営のあり方のシフトを図るものであったり、働き方、人事という側面では育成の仕方、採用の仕方までに関わるものです。
もちろん、カルチャーの変革という意味では、マネジャー、メンバーに求めるバリューも変わり、現場のマネジメントスタイルにも影響を及ぼすものといえます。
パフォーマンス・マネジメントの革新に取り組んでいる企業は、そういうことを目指さしているのです。
フィロソフィーの変革という意味では、リ・ブランディングをしている会社が非常に多く、今まで使っていた言葉を捨て、新しい言葉を使っています。
「チェックイン」や「GPS」「VIP」「コンパス」など新しいラベルをつけて、新たなブランディングを浸透させ、意識の変革に取り組もうとして会社が多くあります。
2つ目のポイントは、「生成的な変革プロセスによる推進」です。
パフォーマンス・マネジメントの変革に取り組んでいる企業のプロセスをまとめると、調査・コンセプト検討を経て、仕組みの検討、デザインを行い、リリース後もデータを集めたり、現場の変化を捉え、運用を通じて改良を加えています。
いろいろコンタクトを取らせていただいた実践企業は、この三段階で変革を進めています。最初は、調査・コンセプト検討のプロセスです。ここでは実現したい状態をしっかりと確認して、他の実践企業に出向いていろいろと教えてもらったりしますが、「実際に自社はどうなんだ。どういうことを実現したいんだ」という検討に、かなり時間をかけています。
デザインフェーズでは、制度や仕組みを検討するだけではなくて、リ・ブランディングしたり、パイロットグループをつくって、まずは実験的な取り組みをしようというような営みも多く出てきています。
さらに運用段階でも、「できたらそれで終わり」ということではなくて、運用しながらアジャイルに進化させていくということが起きています。
変革プロセスでの特徴は、調査・コンセプトの検討に長い時間をかけているということです。 具体的には、数カ月から1年、2年という時間をかけて、実態調査や実現したい状態についての検討を丁寧に行っています。
人事の思いつきやアイデア、「多くの企業が導入しているから」といったアプローチではなく、自社の実態をきちんと調査して、レバレッジを検討しています。 変革プロセスの特徴の2つ目は、精緻な制度づくりに焦点を当てるのではなく、運用を通じて進化させています。
最後は、ステークホルダーとの共創を丁寧に行っていることです。
とりわけ、ステークホルダーとの共創は、調査・コンセプトの検討だけでなく、デザインや運用・改良という場面でも行われます。中でも、「ダイアログ」がたびたび出てくるのですが、「本当に自分たちはどうしたいのか」とか「現場がこうなっているから、こういうことを実現したい」といったようなことを、現場の方々と一緒にダイアログを繰り返しながら検討していく、そういう取り組みをされているところも特徴です。
まとめてみると、パフォーマンス・マネジメントの変革は、「ルールが明確でプロセスも明確だから、この通りやっていけば変革がうまく進む」というような計画的な変革アプローチではなく、「やりながら変化に合わせてより良いものを創っていこう」という動的なプロセスであり、生成的な変革アプローチであることも大きな特徴的です。
これをグラフにすると、こういったイメージかもしれません。
変化のカーブは直線的というよりも、この青カーブが描いているような、そんなイメージで取り組まれているところが多いように思います。 世の中の変化も、自然界の変化も、個人や組織の変化も、直線的変化で進むというよりは、拡張循環的な変化を描くことが多いようです。
3つ目のポイントが、カンバーセーションを重視しているということです。年1回の面談や数値的な評価による管理ではなく、マネジャーとメンバーとの間に頻繁で、質の高いカンバーセーションが行われることを重視しています。
この絵の通り、年に2回の形式的な面談と評価では、チームや組織の業績、一人ひとりの成長、エンゲージメント、処遇への納得度といった要素が上がるということが、なかなかなくなってきました。
そこで頻繁で質の高いカンバーセーションによって、この4つを高めていこうということです。
もちろん、カンバーセーション自体はこれまでも行われてきたことでしょう。ただし、1、2回の断片的なイベントではなく、決められた時期に限らず、頻繁なカンバーセーションを実施します。それは、メンバーの課題を指摘する場ではなく、コーチングを実施し、メンバーのグロース・マインドセットを育むための機会です。
パフォーマンス・マネジメントの革新に取り組まれている企業の特徴として、カンバーセーションの実施をたとえば「毎月必ず実施すること」というように強制的に行うのではなく、目安は示したとしても現場の主体的実施に委ねるというのが、これまでと異なる点といえます。そしてこうした取り組みをすることは、組織の中にフィードバックのカルチャー、コミュニケーションを通じて成長を促進させていくカルチャーへの変化をじっくりと育てようとしているとも捉えられます。
これは、パフォーマンス・マネジメントの革新に取り組まれている各社で使われている質問の例をまとめたものです。振り返りと今後、未来に向けた質問の2つに分けていますが、
振り返りでも、未来でも、自分の学びや今後の価値の創出に向けた質問が盛り込まれていて、まさにグロース・マインドセットが育まれるものとなっています。
報酬に対する捉え方は、この4つです。
「Pay for Performance」、これについてはやはり変わりはないということです。ノーレイティングだから評価しないということではもちろんなく、やはりそこはしっかりと見ていきます。頻繁なカンバーセーションを通じてパフォーマンスをよりしっかりと把握していくということです。そして成果を出した人に対しては、ちゃんと報いていこうという原則は変わりません。
また、今回の取り組みでは、定められたカーブ、レイティングに当てはめてそれによって機械的に報酬を振り分けようということではなく、マネジャーに権限委譲して、決まった予算の中でマネジャーの裁量を高めていこうという企業も非常に増えてきています。さらに、報酬の通知と成長や成果の向上に向けたカンバーセーションを分離させています。
そして、人事は、マネジャーの判断を助ける情報を提供しています。その際、ITの仕組みを入れて、成果の把握、成長へのカンバーセーションを補足する企業も増えています。
報酬の通知と成果の向上に向けたカンバーセーションとの分離は、パフォーマンス・マネジメントの革新に取り組んでいる企業に多く見られました。要は、報酬の通知に多く時間をかけるというよりも、本人の成長のためのカンバーセーションに対しての時間をかけるという営みも出てきていました。
これまで重視されてきたのは、どちらかというとの人との比較における透明性、つまり周囲の人との違いを明確にして納得してもらうという側面がありました。新しいパフォーマンス・マネジメントで重視されているのは、本人の中での透明性です。自分自身の成長やさらなる成果の向上にフォーカスを当てています。「自分は何が成長できたのか」「どういう成果を上げられたのか」というところにフォーカスをかけます。頻繁なカンバーセーションによって、本人の中での透明性を高めていくこと自体が、報酬に対する納得度を高めるということにつながっているというような話も出てきています。
このようにパフォーマンス・マネジメントの革新は、人事の役割と制度のあり方そのもののシフトを生んでいます。
従来の人事制度は正しさや緻密さ、正しく評価することが重視され、仕組みとしての完成度が求められる側面がありました。人事の役割としても、現場に正しいやり方を浸透させること、正しい運用をするということでした。
新しいパフォーマンス・マネジメントでは、現場の主体的取り組みを促進させながら、制度としての機能を高める続けることが、人事の役割となっています。
これは、人事のマインドセットが「間違えてはいけない、やれなければならない」というフィックスト・マインドセットから、「よく良くしていく、より良くできる」というグロース・マインドセットへの変化といえるのかもしれません。
以上、5つのポイントを紹介させていただきました。
この記事は、2016/03/18『パフォーマンス・マネジメント革新フォーラム』における(株)ヒューマンバリュー 代表取締役副社長 阿諏訪博一の講演部分から、パフォーマンス・マネジメント革新の5つのポイントについて整理した内容になります。